株式会社杉山工業

ウレタンフォームやゴムスポンジなどの発泡品を使用した緩衝材、吸音材製造を手がける杉山工業だが、ものづくりで培った経験を生かし、マスクの開発に挑戦。ソフトなフィット感と高い機能性が話題をよんでいる。一般消費者向け製品の開発がもたらした効果と、TKCシステム活用による経理、請求書発行業務における変化について、杉山裕紀社長に聞いた。

ウレタンマスクでBtoC領域を開拓

──オリジナルのマスクが評判を呼んでいます。

杉山裕紀社長

杉山裕紀社長

杉山 おかげさまで4月上旬の発売以来、大きな反響をいただいています。BtoC商品を扱うのは初めてだったため、会社の前に看板を出したり、注文受付専用のツイッターアカウントを開設したり、手探り状態でした。ほどなくして全国紙の地域面で取り上げられ、人気に火が付きました。

──素材にウレタンを使用しているそうですね。

杉山 従来のウレタンマスクと比べて、厚みのあるポリウレタンを使用しています。特徴はフィルターの目が細かく、花粉や細菌をカットする性能に優れているところ。水や中性洗剤で洗えば5~10回、繰り返し使用できます。

──製造を開始した時期は?

杉山 着手したのは3月下旬です。2月から構想を練りはじめ、企画書を仕上げていきました。当社はもともと、自動車や住宅向けのウレタン製緩衝材、防音材の製造を主力にしています。たとえば自動車では車体とナンバープレートの間や、フロントガラスとダッシュボードの間などに使用されています。
 消費税率引き上げ以降、業績は徐々に下降線をたどっていました。新型ウイルスの感染拡大でさらに打撃を受け、3月の売上高は前年同月比30%以上落ち込んでいました。そこで、社会貢献につながる製品の販売で少しでも売り上げをカバーできればと、ウレタンを使用したマスクの開発を思いついたんです。

服部美賢顧問税理士

服部美賢顧問税理士

服部税理士 3月の巡回監査時、売上高の減少に対する打ち手として、杉山社長からマスク開発のアイデアをうかがいました。ウレタンをマスクに活用するという発想には驚きましたね。

──設備投資や従業員の採用も必要だったのでは……。

杉山 既存の製造ラインを使用しているため、設備は特に増設していません。ただ、ラインは連日フル稼働状態。飲食店などで働いていたものの、コロナ禍で失職された方々を積極的に雇用しています。マスク購入のため当社に来られた方が紹介してくれたり、新聞で報道された際にはうちで働きたいと問い合わせがきたりしました。

──受注方法を教えてください。

「高性能ウレタンマスクU」

4月に発売した「高性能ウレタンマスクU」。
メガネが曇りづらいのも利点

杉山 一時期は電話が鳴りやまない状態で、購入希望のメールが殺到。非常に多くの方々から問い合わせがありました。そこで、服部先生が会社に立ち寄ってくれたときに受注方法について相談したところ、顧問先企業のシステム開発会社を紹介していただきました。簡易な注文受付フォームをネット上にすぐに立ち上げてもらえ、スムーズな受注を行うことができています。マスク販売専用のサイト開設に向け打ち合わせを重ね、先日開設しました。

──従業員の健康管理に気をつかっておられるとか。

杉山 衛生用品を扱っているため、各従業員の健康状態には気を配っています。毎朝体温を測定し37度以上あったり、体調を崩している家族がいたりする社員には、出社を見合わせてもらっています。マスク不足のなか、お礼の手紙を送ってくれるお客さまもいて、やりがいにつながっているのも確か。顧客からダイレクトな反応をうかがう機会はこれまでなかったので、社内の士気が上がっているのを感じます。

取引先別に残高を管理し詳細な業績分析が可能に

──創業のいきさつをお聞かせください。

杉山工業外観・勤務風景

杉山 前職では同業種の会社に籍を置き、営業を担当していました。勤務先を退職し、杉山工業を設立したのが2015年です。創業当初は業務終了後、他社の工場に足を運んで、機械設備の扱い方を一から教わりました。
 また、3期目まで自社で決算申告も行っていました。当時は売上高や取引先件数が多くありませんでしたから。経理業務を担当している父が以前市役所に勤務していて、経理に明るいという事情もありました。その後、業績の伸びにしたがい自社で決算申告まで行うのは困難になり、メインバンクに相談し、服部先生を紹介してもらいました。

──その場で紹介されたと。

杉山 複数の税理士事務所に見積もりを依頼し、実際に何人かの方と面談しましたが、年齢が近く一番肌感覚もしっくりくると感じたのが服部先生でした。

服部 経営者の方と話してみると、初対面でも会社の将来性をある程度予想できるものです。その点、杉山社長は経営に対するしっかりした考え方をお持ちで非常に有望だと感じました。計数面の気づきを得てもらうべく、TKC方式による自計化を訴え『FX2』の利用をおすすめしました。

──当時の経理体制は?

杉山 取引案件ごとにスプレッドシートで請求書や納品書を作成し、それらを元に経理ソフトに入力していました。週に1度、たまった取引をまとめて入力しているような状態で、売り上げをタイムリーに把握しづらかった。『FX2』へ移行後、仕訳辞書や取引先別管理の活用など服部先生に懇切丁寧にサポートしてもらい、効果を実感しています。

──ふだんどんな指標を注視していますか。

杉山 毎月の監査後に業績の推移について詳細に説明してもらっているほか、社長メニューをときどき開いて《変動損益計算書》を確認しています。なかでも入念にチェックしているのは利益率。取引先ごとの売上高、仕入れ額を把握できるように設定してもらい、頭の中にある金額と実際の発生額に差異が生まれていないか、すり合わせを行うのに役立てています。
 さらに、接待交際費や旅費交通費など、さまざまな勘定科目で取引先別、口座別の残高を確認できるようにしています。

──マスクの売り上げ管理方法は?

杉山 現在はマスクのみの売上高は管理していませんが、服部先生に提案いただき、マスクの売り上げをひとつの部門として設定することを考えています。マスクはネットと当社受付で販売しているほか、地元の障害者施設やNPO法人などにも原価に近い金額で卸しています。今後、マスク部門を新たに設けるか、売上高科目に補助コードを設けて管理するか検討しているところです。

主力製品の緩衝材

主力製品の緩衝材は自動車、住宅設備等に用いられる

──『FX2』に移行し、どんな点が変わりましたか。

杉山 最も変化したのは日常業務が円滑になった点ですね。以前は案件ごとにスプレッドシートで注文書を作成したり、手書きの領収書を発行したりとアナログな経理体制で、決算申告前には業務がオーバーフローをきたしているきらいがありました。
 また昨年末には『SX2』(戦略販売・購買情報システム)も導入し、緩衝材製品の売り上げ管理に活用しています。TKCシステムに移行し、日々の経理、請求書発行にまつわる業務効率が格段に向上しました。

──金融機関への業績報告も定期的に実施しているそうですね。

杉山 「TKCモニタリング情報サービス」を活用し、取引金融機関2行に決算書データを送信しています。なおかつメインバンクには月次データも送信しており、業績情報をタイムリーに共有してもらえてありがたいとの感想をいただいています。

──抱負をお聞かせください。

杉山 ウレタンマスクの発売で予想を上回る反響をいただきました。ただ、現下のマスクブームは一過性の可能性が高く、流通量が増えれば値崩れするでしょう。ウレタンなどの発泡品を使用した自動車部品等の製造という本業の軸足からブレずに、世の中に貢献できる製品を着実に製造していきたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社杉山工業
設立 2015年4月
所在地 埼玉県川越市下広谷959-3
売上高 7,500万円
社員数 20名(パート・アルバイト含む)
URL マスク注文専用サイト
https://maskorder.base.ec/
顧問税理士 服部税理士事務所
税理士 服部美賢
埼玉県東松山市美土里町6-81
URL:https://nin-nin-tax.jp/

掲載:『戦略経営者』2020年6月号