世界初のベルト式無段変速機をはじめインバータ、カップリング、電磁クラッチ・ブレーキなど伝動・制御機器の分野で世界の産業界の技術革新に貢献してきた三木プーリ。現在、国内外のグループ会社を強力にグリップすべく、システム変革による情報一元化に取り組んでいる。同社財務管理部の笹健一執行役員と西牧久美子課長に話を聞いた。

──社名にあるプーリ(pulley)とは?

笹健一執行役員

笹健一執行役員

 ベルトに動力を伝える円盤状の滑車です。当社は1954年にそのプーリを使用した世界初のベルト式無段変速機を開発して特許を取得し、大きく成長しました。

──伝動・制御機器はどのようなものに使われているのでしょう。

 さまざまな工作機械や建機、自動改札、ATM、多関節ロボット、MRI、フォークリフトなどに当社の製品が使われています。ただ、変速機という意味では現在はインバータの方が主力になっています。ご承知の通り電圧や周波数を調節して回転数を変化させるデバイスですが、このインバータも実は当社が日本で最初に製品化したものであり、今でも当社ブランドの製品を販売しています。

──現在、もっとも売り上げている製品は?

テクニカルセンター外観

日本・アジア市場でシェアトップを誇るカップリング

 カップリング(軸継手)です。カップリングとは、機械の軸と軸を連結(ジョイント)し、モーターなどの動かす側から、動かされる側へ動力を伝えるための部品です。モーターやエンジンなどを動力源として軸を回転させて動く装置には、たいてい使われている機械要素部品で、当社の製品は、日本・アジア市場でトップシェアを維持しています。

──そのほかには?

 電磁クラッチ・電磁ブレーキも当社の看板製品です。これらは、コイルに通電することによって発生する電磁力を利用して動力や回転運動を制御する装置で、この分野でも当社の製品はトップクラスの品質と規模を誇っています。
 インバータ、カップリングなどもそうですが、要するに動力を伝え、コントロールする「伝動・制御」機器の開発・製造・販売が、当社の創業からの変わらぬビジネスフィールドなのです。

会計の流れを崩さず廉価かつ迅速に導入

──海外展開にも早くから取り組んでこられたのだとか。

天津工場外観

天津工場外観

 1960年代から海外への進出を本格化し、提携先は10数社、セールスネットワークは30数カ国、海外グループ会社は17社に上ります。

──マーケットが広がると、その分管理も大変になります。

 海外グループ会社とのコミュニケーションはとれていて関係は良好なのですが、各社が違うフォーマットで月次レポートを作成するなど、情報の一元管理にはほど遠い状況でした。また、システムへの蓄積手段もなく情報・作業の属人化も課題でした。解決策はないかと模索するうちに、ためしにと、TKCさんのOBMに関するセミナーに入社したばかりの西牧を派遣してみたのです。

──西牧さんは、前職では経理だけでなく、システム開発や翻訳の経験もあったのだとか。

西牧久美子課長

西牧久美子課長

西牧 はい。それがこの仕事を託された理由だと思います。

──セミナーでのOBMの最初の印象は?

西牧 使い勝手の良さに感心しました。説明を聞きながら、当社の会計システムやBI(ビジネスインテリジェンス)システムとの連動をはっきりイメージできたほどです。

──どの部分に「魅力」を感じましたか。

西牧 従来の経理処理の流れをそのままに、つまり、これまでの各社のシステムや会計のプロセスを変えることなく、本社にだけOBMを導入すればよいというのが第1のポイントでした。たとえば、ERP(統合基幹業務システム)を1から導入するとなると大変なコストと手間がかかりますからね。
 第2にクラウドサービスであること。中小企業は人的リソースに制限があり、システム管理の仕事に十分な人材を振り向けることができにくいという現状があります。クラウドサービスでは、メンテナンスが不要で、常にアップデートされた状態で使用できます。
 それからもうひとつ、会計システムなどとの連携を考えた場合、OBMに装備されているCSV出力機能の使い勝手の良さがとても魅力的に思えました。

──運用プロセスのイメージを教えてください。

西牧 まずグループ会社の会計ソフトから送られてきた仕訳データを、本社財務部がOBMに読み込みます。すると、各会計ソフトの勘定科目とレイアウトが日本仕様にマッピング・統一され、財務諸表が自動的に作成されます。あわせてマネジメントレポート設計ツールが、自社のオリジナル定型レポートを自動的に作成。さらに内部監査支援機能によって、海外グループ会社の財務諸表の分析結果が自動的に表示され、日本にいながら監査法人が行うような詳細なモニタリングをすることができるようになります。とくに、コロナ禍の影響で、海外出張が制限されている最近の状況のなか、リモートでモニタリングできる機能が持つ意味は大きいと思っています。

徹底自動化で月700分の作業時間を削減

──業務のスリム化という意味ではいかがですか。

テクニカルセンター外観

テクニカルセンター外観

西牧 従来は、海外グループ会社が、自社会計ソフトから仕訳データを抽出し手作業で報告書を作成し、メールで提出。受け取った本社財務部は、勘定科目を読み替え、不明点があれば海外グループ会社に問い合わせます。返ってきた答えを反映した後、会社用の報告資料へと転記するという業務の流れでした。OBM導入後はこれらのプロセスがほぼなくなります。科目の組み替え作業は自動化され、仕訳までドリルダウンできるので残高の増減理由も把握できます。
 結果、1カ月あたり約700分の作業時間が削減され、当然のことですが、自動化された分、転記作業などで起こるケアレスミスもなくなりました。

──この流れを会計システム、そしてBIツールへとつなげていくわけですね。

西牧 組み替え・翻訳後のデータをOBMのCSV出力機能で会計システムへとデータ転送します。この時点で国内外のグループの会計データがひとつの基盤で管理されている状態になります。もちろん、各社の活動結果や財務諸表を同一の基準で比較することも可能です。そして、それをさらにBIツールに転送する仕組みを構築することで、各社の受注・生産・販売・会計・人事データを一元管理し、会社の活動データと会計データを結びつけてグラフィカルに経営状況を把握できるようにしました。

──今後は?

 いまのところ、OBMでカバーしている海外グループ会社は香港2社、台湾、中国2社、韓国の6社となっていますが、これを近い将来、インド、スイス、ドイツのグループ会社を加えて9社にまで広げたいと考えています。

西牧 他に国内グループ会社1社もOBMでカバーする予定になっています。ここはM&Aでグループ会社となったところで、会計システムや決算月が本社と異なり、ある意味、海外グループ会社と環境が似ていました。OBMはシステムとしてとても柔軟なので、こういう使い方もできるのです。

 いずれにせよ、OBM導入を契機に、当社の管理システムにおける政策は大きく変わりました。今後、情報の一元化をより進めることで、部署はもちろん実務者、経営者の区別なく「このシステムをのぞけばすべてが分かる」という仕組みを構築したいですね。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 三木プーリ株式会社
創業 1939年10月
所在地 神奈川県座間市小松原1-39-7
売上高 176億円(連結)
URL https://www.mikipulley.co.jp/

コンサルタントの眼
コンサルタント 杉山季謙
響き税理士法人
神奈川県横浜市西区北幸1-4-1
URL:https://www.hibiki-firm.com/

杉山季謙

 三木プーリさんには、座間本社、武蔵小杉の本社営業部に数回お邪魔しましたが、いつも社員の方々が丁重にご挨拶をしてくださいます。社内は整然として明るく、とても前向きな会社という印象です。

 響き税理士法人では、香港2社と台湾1社のOBM導入支援を行いました。内容は、統一勘定科目の登録事項のチェック、会社別勘定科目と統一勘定科目の組換えのチェック、マネジメントレポート設計ツールと内部監査支援システムを中心とした操作研修などです。

 担当の笹さんと西牧さんは、とても礼儀正しく、研修にも意欲的に参加していただきました。OBM導入の目的とゴールを明確に捉え、自らのアイディアを持って参加していただいたため、研修も非常にやりやすいと感じました。

 今後は、OBMの導入と整備をさらに進め、会計データを一元管理できるシステムを構築することで、国内外グループ法人のもう一段レベルアップした業績管理体制の構築と業務効率化を図ることができると考えています。

 響き税理士法人としましても、引き続き全力でご支援できればと思います。

掲載:『戦略経営者』2020年10月号