新型コロナの影響が長期化し、厳しい経営環境が続いていますが、今年末も賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(食品小売業)

 最初に全体的な動きを確認しておくと、今年末の1人あたり賞与支給額は、民間企業の平均で前年比(以下同)▲2.6%と、年末賞与としては、2年連続のマイナスとなる見通しです。背景としては、2020年度上期の企業収益の減少が挙げられます。財務省「法人企業統計調査」によると、全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、4~6月期に▲46.6%と急減しました。

 製造業では、新型コロナの感染拡大前から、世界的な設備投資の抑制や自動車の販売低迷を受けて、業績が弱含んでいました。そこに世界的な新型コロナの感染拡大に伴う輸出の減少、生産効率の低下が加わり、業況が悪化しました。

 また非製造業では、インバウンド需要の急減や外出自粛に伴う国内消費の冷え込みにより、厳しい業況悪化に見舞われ、経常利益がリーマン・ショック後以来の低水準にまで落ち込みました。

 今夏の賞与は、民間企業の平均で0.5%とプラスを確保しましたが、大手では、6~7割の企業で新型コロナの拡大前に夏季賞与の交渉が妥結していたため、マイナス幅は夏季よりも年末の方が拡大するとみられます。需要の「蒸発」に直面した観光関連などの企業では、支給を見送る例が増え、業種、企業によるバラツキが大きくなることが予想されます。

小幅のマイナスか

 中小企業では、支給時期直前の収益状況を反映しやすい傾向があり、すでに夏季賞与にも影響が大きく出ています。大手以上に二極化が鮮明となっており、支給を見送る企業が増える一方で、事業所規模5~29人の企業における平均支給額は、5.1%のプラスとなりました。24時間フル稼働を続ける衛生関連品製造業や、通販関連など好調な中小企業も散見されます。

 もっとも、前年比の数字を押し上げた主因は、もともと支給水準の低い企業が支給を見送り、平均額の算出対象から外れたためであり、実態は前年比の数字以上に厳しいといえます。さらに、新型コロナの影響が長引くなか、年末賞与では支給企業の平均も小幅のマイナスとなる可能性が高くなっています。

 ここで注意が必要なのは、大幅なボーナスカットを余儀なくされるケースです。雇用所得環境の悪化は、リーマン後の2009年にかけての景気後退期以来となるため、実に10年以上ぶりの事態です。12年の「超円高不況」の際には失業率が上昇せず、賃金カットも限定的なものにとどまりました。

 今回は20代の人々にとって、社会人生活で賃金カットを初めて経験するケースも想定されます。その上の世代も含め、比較的長く安定した雇用所得環境が続いたことから、住宅ローンや教育費の支払いにボーナスを充てる計画にしている人も増えています。このため、緊急貸付制度を設けるなど、激変緩和措置が求められます。

 賞与カットに追い込まれる企業では、内部留保もとぼしいとみられ、設備投資の先送りや、賞与ファンドの一部を使って緊急貸付用の原資を確保するなどの工夫が求められます。これにより、ローン返済が滞り、自宅売却も検討せざるを得ない人を一時的に皆で支えあう格好となります。新型コロナ終息後の成長を支える「人材のモチベーション維持」のためにも、検討すべき課題といえるでしょう。

掲載:『戦略経営者』2020年12月号