未曽有の事態に中小企業の資金繰りを懸命にサポートしてきた地域金融機関だが、あわせて、来るべきニューノーマルの時代を見据え、より中小企業に密着伴走する姿勢が求められている。地域金融機関大手、埼玉りそな銀行の福岡聡社長にTKC会計人の石岡正行税理士が聞いた。

プロフィール
ふくおか・さとし●1965年、埼玉県北埼玉郡騎西町(現・加須市)生まれ。89年早稲田大学政治経済学部を卒業し、埼玉銀行入行。2004年、企画部次長。05年、経営管理部グループリーダー。08年、鶴ヶ島支店長。10年、経営管理部グループリーダー。13年、営業サポート統括部長。15年りそなホールディングス取締役兼代表執行役財務部長。20年4月から現職。
福岡 聡 氏

福岡 聡 氏

石岡 2020年4月に埼玉りそな銀行の社長に就任されたわけですが、まずは金融マンとしての信条を教えてください。

福岡 私は北埼玉郡(現在の行田市、羽生市、加須市など)の生まれで高校も地元の不動岡高校。大学だけは東京でしたが、まぎれもなく埼玉の人間であり、「地元のお役に立ちたい」というのが当社に就職した第一の理由でした。目指す銀行像は、2003年のりそなショックの際に打ち出された「埼玉県の皆さまに信頼され、地元埼玉とともに発展する銀行」で、これは今も変わりません。

石岡 コロナ禍のまっただなかでの社長業はいかがですか。

福岡 就任直後の第1四半期(4~6月)は、一日でも早く中小企業の方々に安心していただけるよう「資金繰り支援」に全力投球しました。2020年の3~10月実績で8,580件、6,080億円のファイナンスを実施し、そのうちプロパー融資が全体の3分の2(信用保証付きは3分の1)を占めています。また、6167件、1,339億円(11月27日時点)が無利子融資としてご利用いただいています。これらは、やはり当社に体力があってこそできたこと。りそなショックでご迷惑をかけて以来、経営改善につとめ、今では地銀トップクラスの自己資本水準を維持するなど、それ相応の体力がついてきた証明だといえます。

顧客の「こまりごと」を解決

石岡 昨年は、従来では考えられないことの連続だったと思います。かじ取りが難しかったのでは?

福岡 金融機関は社会のインフラなので、金融システムの安定と国民生活の維持のために、社員の健康や不安感を気にしつつも休日返上で対応しました。社員も「地元のため」との思いを胸に、資金繰り支援から経営改善のアドバイスまで、熱心に取り組んでくれています。りそなグループの原点は、お客さまと社会の「こまりごと」の解決です。さらに言うと、「今」と「将来」のこまりごとを見据えた「両利きの提案」が重要になってくる。そのためには、お客さまとの「つながり方」を広く、深く、長くとらえる必要があります。要するに、「お客さまと伴走して、ともに価値を創出していく」姿勢ですね。第2四半期以降は、ここに重点を置きながら、経営改善や成長戦略の後押しをするステージに入っています。

石岡 自粛や休業が中小企業に深刻な影響を及ぼし、政府系金融の特別融資から実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」という流れのなか、金融機関に中小企業が殺到しました。さぞ大変だったでしょう。

福岡 お客さまの心理的不安を早く解消するにはどうしたらいいのか。これが大きなテーマでした。そのため、当社では32名の「経営安心応援チーム」を結成し、現場に投入しながらオペレーションを丁寧かつ迅速に行うことを徹底。相談受付から融資実行までのスパンは他行に比べても短かったと思います。ここまでが第一段階。さらに、その先の「攻め」の経営に転じるために、たとえば、バランスシートの改善が必要な先に対して、劣後ローンの商品性を改定して利用しやすくした「埼玉りそなハイブリッドローン」による支援を行っています。これは、現在までに6先にご利用(11.5億円)いただき、約20先から相談を受けています。このほかプロパー資金による「新型コロナウイルス対応支援ファンド」(74件、80億円)の取り扱いや、コミットメントラインの設定による融資も行い、多様な資金需要に対応しています。

事業計画をすみやかに実行

石岡 「こまりごと」解決の具体例として「事業計画の策定・見直しに関するサポ―ト」「財務基盤強化に関するサポート」をあげておられます。とくに「事業計画の策定・見直し」についての必要性が、ここのところ増してきているように思いますが……。

福岡 少子高齢化やグローバル化、デジタル化による構造変化は想定内だったのですが、コロナによってその「変化」が急になり、不確実性が大きく増しました。結果として、中長期の未来を描きにくくなった。つまり、計画を短く設定し、すばやく実行する必要があるということです。そこで大事になってくるのは、変化が生じた場合にいかに迅速かつしなやかに対応できるかです。ちなみに当社の資本性の「埼玉りそなハイブリッドローン」は7月に提供を開始しましたし、「経営安心応援チーム」はわずか1日で立ち上げました。また、変化への対応力という意味でわれわれに必要なのは「共感力」だと思います。当社では資金繰りサポートが一巡するタイミングの8月に、経営改善支援のためのチームを21名で立ち上げました。10月まで「こまりごと」のヒアリングを行い、約960社についてはすでに具体的な支援に取り掛かっています。

石岡 中小企業経営者にとっての「計画」の重要性をもう少し詳しく……。

福岡 いち早く経営改善に着手すれば、当然ながら傷は浅く済みます。そして、次の経営に向かって自信を持って挑戦できる。企業は軌道修正のタイミングですみやかに修正をかけて変化に対応していくのがこれからの経営には重要。そのためにはやはり、数字をベースにした計画を立て、それを変化のたびに修正していく細やかさが必要になってくるのです。さらに言えば、ここで、TKCさんの実践されている「会計」が大きな存在感を持ってくるのだと思います。

石岡 TKC会計人は、巡回監査、月次決算、経営計画策定、記帳適時性証明書(『戦略経営者』2021年2月号P60参照)、書面添付(※)、TKCモニタリング情報サービス(MIS)という一連のメニユーを実践しており、「決算書の信頼性は識別可能」と主張しています。要するにトレーサビリティーがしっかりしているわけです。それが社長のおっしゃったTKCの存在感なのでしょうか。

※書面添付制度(税理士法第33条の2)
 申告書作成のプロセスにおいて計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度

福岡 われわれが経営改善をお手伝いする際にも、もちろん財務データは見ます。しかし、いただく決算書は「断片」にすぎないので、その形成過程をチェックしなければなりません。そこで「月次」のデータがあればチェックのスピードが速くなりますよね。そもそも月次の集大成が年次決算ですから。さらにMISによって電子申告データと同じものがオンラインでリアルタイムに当社など金融機関に届けられる。つまり、「銀行用の決算書」などというあからさまな粉飾が未然に防げるわけです。
 また、チェックの時間が大幅に短縮されることで、迅速な提案が可能になり、企業の経営課題などについて税理士先生方と目線合わせができるので支援に厚みが出ます。われわれは、TKCさんの提供される体系的な一気通貫のシステムによって、「信頼性を疑う余地のない財務データ」が担保されるのだと認識しています。

石岡 経営者保証の免除にも、MISの機能を利用されています。

福岡 MIS利用先を対象に、書面添付、中小会計要領チェックリスト、記帳適時性証明書の実施を要件とした「経営者保証免除制度」を提供しています。昨年10月現在、この制度を利用した免除先は8件。信頼性の高い経営データをタイムリーにいただけることに対するわれわれなりの評価です。とくに経営者保証ガイドラインが求める法人と個人の一体性の解消には、TKCさんの推し進めている書面添付制度の履行が有効だと認識しています。

金融機関と税理士の連携

石岡 金融庁の今年度の金融行政方針において、地域における事業者支援の実効性を確保していくため、地域の連携主体に「税理士」が加わりました。この文言によって税理士と金融機関の関係性が新しいステージに入ったと言えるのではないでしょうか。

福岡 おっしゃる通りです。

石岡 これまでの両者は、お互いを補完する意味合いで協力しあってきましたが、今後はより業務をシンクロさせ積極的な意味でコラボレーションする時代に入ってくるのだと思います。税理士の経営資源や展開するサービスをより有効に生かすことで、次のビジネスチャンスをつくっていく、といった具合に。

福岡 金融行政方針に「税理士」という文言が入ったのは、私は当然だと思っています。経営者が、まず相談するのは身近な顧問税理士ですから。従来、両者は点と点の関係性でした。しかし、今後、われわれはファイナンス面に限らず、情報のハブ的な機能を生かしつつ本業の経営的相談にも乗っていかなければなりません。つまり、より広い領域をカバーする必要があり、いきおい、税理士先生とのコミュニケーションを密にし、その企業に対する知見を深めることが求められます。

石岡 これまでは、われわれ税理士と金融機関、いずれも自前主義だったものが、ようやく「お互いに積極的に利用していこう」という考え方のすり合わせができつつあるという印象です。企業と金融機関の利害をすり合わせることが税理士の役割の一つだとすれば、今後、企業を含めた3者の連携が一層進んでいくことは確実ではないでしょうか。

福岡 いま、日本の中小企業は高齢化や後継者難などによって構造的に廃業が増加しており、雇用機会の喪失やノウハウの逸失を招いています。経済的なロスははかりしれない。これをストップするには、周囲の支援機関などが中小企業の困りごとを地道に解決していくことが必要ですが、これは銀行や行政だけでできることではありません。多様なステークホルダーとコラボし、アライアンスを組んで社会的つながりをつくっていかなければ不可能です。加えて、これからの金融マンは、会計はもちろん社会的課題やあるいは人的な関係性を常に念頭に置きながら、広い領域でコミュニケーションのレベルを上げる必要がある。その際に、企業経営者や周囲の方々から、「いまこんなことが困っている」「これが知りたい」などという声にきちんと対応する覚悟をもたなければなりません。決算や財務などの数字だけでなく、実はこういう定性的かつアナログなことを教えてもらうことが、われわれの行動の原動力になるのです。

銀行としての使命を全うする

石岡 TKC全国会では、税理士業務には税務と会計のほか保証と経営助言があると考えています。その意味では、会計事務所の業務領域は今後大きく広がる可能性がある。そうしたなか、会計事務所が経営資源である財務データを書面添付や経営改善計画へと柔軟かつ機動的に組み換えることで、ある種の革新が起き、それが経営者にとっての事業成果につながってくるという正の回転を導き出すことができるのではと思っています。とくに、不確実性の高い事業領域に挑戦する際には、そういう経営資源の組み換えができる会計事務所と金融機関がタッグを組むことで、イノベーションを呼び起こすことが可能になる。

福岡 従来、金融機関では「信用リスク」をどう取るのかに力点が置かれていました。しかし現在は、特に当社の場合、お客さまの事業継続性と地域社会の発展を支援することに力点が移っています。そのため、ファイナンスに限らず、財務改善や事業承継、人材、不動産関連のアドバイス、あるいは事業の売り買いなどについても積極的にかかわっていく。そして、ポイントはチェック&意思決定サイクルを早くすることです。そのベースには、税理士先生をはじめ、多彩なステークホルダーとの連携が必要不可欠です。

石岡 コロナも第3波が到来しており、先行きの経済はますます不透明になってきています。中小企業経営者にバンカーとして、メッセージをいただけますか。

福岡 これからもボラタイルな経済情勢が続くことは間違いありません。既述したように高齢化、デジタル化、グローバル化は不可逆ですが、より不確実性が高まり、中長期的に将来が見えにくくなる。しかし、当社は変わらず地元の中小企業をサポートし、地域社会に貢献していきます。それが銀行の使命ですから。とはいえ、われわれ単独で手掛けるには時間もノウハウも足らない。多彩な方面で連携しながら、総合力でお客さまを支える時代なので、とくに税理士先生方とは、いろんな領域で手を携えていかなければと考えています。
 いずれにせよ、今後お客さまの困りごとは一層複雑化していくことは確実です。ゆえに、それを支援する地域金融機関の真価がいままさに問われているといえるのではないでしょうか。「将来にわたる身近で頼りがいのあるパートナー」として当社の存在価値を高めていきたいですね。

(構成/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社埼玉りそな銀行
所在地 埼玉県さいたま市浦和区常盤7-4-1
設立 2002年8月
資本金 700億円(2020年3月末)
従業員数 3,114名(2020年3月末)
URL https://www.saitamaresona.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2021年2月号