2度目の緊急事態宣言も解除され、感染症と共生しながら「前を向く」経営が求められるフェーズに入ってきた。補助金や支援策を目いっぱい活用しながら、まずは経営力のアップを実現したい。

 最近、国の「事業再構築補助金」との言葉をさかんに聞きます。どのような制度なのでしょうか。

Q&A

 一定の要件を満たした中小企業が、「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」「事業再編」(詳しくは「事業再構築指針の手引き」を参照のこと)などに取り組む場合に受けることができる補助金で、「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関(※))等の支援を受けて事業計画を策定することが必要となります。新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が難しいなか、思い切った事業再構築に意欲を持つ中小企業の挑戦を支援する制度です。申請はすべて電子申請となり、その際には「GビズID」が必要となりますが、これについては後述します。

※認定経営革新等支援機関(認定支援機関)
中小企業・小規模事業者が安心して経営相談ができる対象として、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者を国が認定した税理士などの支援機関。

 一定の要件とは?

 中小企業(通常枠)では①申請前の直近6カ月のうち、任意の3カ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年1月~2020年3月)の任意の3カ月の合計売上高に比べて10%以上減少していること②事業計画を認定支援機関や金融機関と協力して策定し、一体となって事業再構築に取り組むこと③補助事業終了後3~5年で付加価値額(営業利益、人件費、減価償却費の合計)の年率平均3%以上の増加、または従業員一人当たり付加価値額の年率平均3%以上の増加を達成すること……の3要件です。

 補助金額は?

 中小企業(通常枠)は100万円以上6,000万円以下(補助率3分の2)となります。このほか中堅企業への成長を目指す事業者向けの特別枠や中堅企業向けの枠もありますので、該当する方は確認しておいてください。

 緊急事態宣言によって深刻な影響を受けた企業への「特別枠」も設けられたとか。

 前記の「要件」に加え、緊急事態宣言にともなう飲食店の時短営業や不要不急の外出・移動の自粛などで影響を受け、2021年1~3月のいずれかの月の売上高が対前年または対前々年の同月比で30%以上減少している事業者が対象の制度です。地域や業種は問いません。

 対象となる「事業再構築」とは具体的にどのような事柄を指すのでしょうか。

 たとえば、居酒屋がオンライン専用の注文サービスを開始する場合は、そのオンラインシステム構築費用が補助金の対象になります。また、アパレル小売店が、店舗を縮小してネット販売やサブスクリプションサービスに転換する場合、店舗改修費用やオンラインシステムの構築費用が補助の対象となります。あるいは百貨店での販売が不振に陥っている伝統工芸品のメーカーがECでの販売を開始する場合も、ECサイトの構築費用が対象です。
 製造業の例を挙げてみましょう。 自動車部品製造工場が、EVや蓄電池に必要な特殊部品の製造に着手する場合、そのための製造設備導入費用が補助金の対象です。航空機部品の製造業者が当該事業の圧縮・設備の廃棄を行い、新たな機器を導入してロボット関連部品や医療機器部品の製造を手掛ける場合、設備撤去・導入の費用、新規事業に従事する従業員の研修費用などが補助の対象となります。
 このほか、建設業者が自社所有の土地を利用してオートキャンプ場を運営するための整備費用、食品製造業者が自社技術を利用して化粧品の製造販売に乗り出す場合の開発費用など、新たな分野にチャレンジする際のコストも対象となります。ただ、条件として「売上高10%要件」などもあるので、詳細は「事業再構築指針の手引き」のサイトを参照してください。

 補助金を受ける際に注意する点はありますか。

 ありがちなことですが、補助金を受けることを目的としてはいけません。新たな取り組みを検討するには、そのビジネスモデルが成り立つのかを綿密にシミュレーションすることが何より必要です。そのためには「要件」のなかに示されている「付加価値額」のほかに「限界利益」を検証することをお勧めします。限界利益は売り上げ規模に比例して生じる変動費を売上高から除いた利益なので、収益性が高い事業かどうかの判断の助けになります。

 「要件」にある「事業計画策定」の際の留意点は?

 これもまた補助金の採択を受けるためのものであってはいけません。企業の進むべき方向性を明確にし、事業の存続と発展に焦点を合わせた「実効性の高い」事業計画を策定しましょう。

 実効性の高い事業計画を策定するには?

 まず、自社の現状把握を行ってください。財務状況を可能な限り詳細(部門別、商品別、取引先別など)に分析することからはじめ、ビジネスモデル俯瞰図やローカルベンチマークを活用して商流などを整理し、SWOT分析に基づく計画を策定してください。

 事業計画は認定支援機関と策定することが義務付けられていますが、なぜでしょう。

 認定支援機関とは中小企業支援のスペシャリストとして国の認定を受けた支援機関です。事業再構築補助金に限らず、補助金は「受ける」ことが目的ではなく、企業業績向上に向けた取り組みを応援するものです。また、中小企業庁は、提供するサービスと乖離した高額な成功報酬を請求する悪質な業者に注意するよう呼び掛けています。国のお墨付きのある認定支援機関ならば、誠実な支援を期待することができます。
 ちなみに、認定支援機関の約8割は税理士であり、とくに、月次巡回監査を行っているTKC会員税理士は「伴走型支援」に最適の存在です。まずは信頼のおける顧問税理士に相談してみてください。

生産性革命推進事業に新特別枠

 ほかに、新型コロナ感染症を乗り切るために有効な補助金はありますか。

 2019年度から中小企業生産性革命推進事業として実施されてきた「ものづくり補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」の3つは、もともと「前を向く」中小企業にとって使い勝手のよい補助金ですが、このたびの補正予算で「低感染リスク型ビジネス枠」として新たな特別枠が設けられました。

 まず「ものづくり補助金」について教えてください。

 ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援する補助金です。事業類型によって5種類のメニューがありますが、ここでは活用例の多い「一般型」について説明します。規定の事業計画を策定・実施する中小企業等なら応募が可能で、図表2(『戦略経営者』2021年4月号P10)の通り、投資額の2分の1(小規模事業者は3分の2、上限1,000万円)の補助が受けられますが、今回、通常枠とは別に、コロナ禍を乗り越えるために前向きな投資を行う事業者に対して営業経費を補助対象とした「低感染リスク型ビジネス枠」という新特別枠(上限1,000万円)が設けられました。同枠では、「中小企業」の補助率が3分の2に引き上げられ、補助対象経費に広告宣伝費と販売促進費が加えられています。
 補助を受けるには「対人接触を減らすための製品・サービスの開発」「対人接触を減らす製品・システムを導入した生産プロセス・サービス提供方法の改善」「ポスト・ウィズコロナに対応したビジネスモデルへの転換にかかわる設備・システム投資」という要件を満たすものでなければなりません。たとえば、AIやIoT技術を活用した遠隔操作や自動制御などの機能を持つ製品の開発。ロボットシステムの導入によるプロセス改善、複数店舗・施設に遠隔でサービスを提供するオペレーションセンターの構築などが、それに当たります。
 ただし、キャッシュレス端末や自動精算機、空調設備、検温機器など、ビジネスモデルの転換に大きく寄与するとは考えにくい機器の購入は、原則として対象にはなりません。
 ものづくり補助金の第6次応募はすでに開始されており、5月13日が応募の締め切りとなります。そのほか、もろもろの要件や応募要領は「ものづくり補助金総合サイト」(下記)を参照ください。

 「持続化補助金」とはどのようなものですか。

 持続化補助金は小規模事業者等が経営計画を策定して取り組む販路開拓等の取り組みを支援するものですが、ここでも「低感染リスク型ビジネス枠」が新設されました(図表3『戦略経営者』2021年4月号P10)。補助対象は、一般型(上限50万円、補助率3分の2)は店舗の改装、チラシ作成、広告掲載などであるのに対して、低感染リスク型ビジネス枠ではオンライン化のためのツール・システムの導入、ECサイトの構築費などのビジネスモデル転換に資する取り組み、あるいは、消毒液購入や換気設備導入といった「感染防止対策のための投資」が対象となり、補助額は上限100万円、補助率は4分の3(感染防止対策費は補助対象経費の4分の1以内)です。ただし、緊急事態宣言の再発令によって2021年1~3月のいずれかの月の売上高が、対前年または前々年の同月比で30%以上減少している事業者の場合、感染防止対策費の補助金総額に占める上限が2分の1以内(最大50万円)に引き上げられます。

 「IT導入補助金」にも新特別枠が設けられるようですが……。

 IT導入補助金(図表4『戦略経営者』2021年4月号P11)は、バックオフィス業務の効率化やデータを活用した顧客獲得など生産性向上につながるITツールの導入を支援するものです。今回、やはり「低感染リスク型ビジネス枠」が創設されました。同枠は①低感染リスク型ビジネス類型と②テレワーク対応類型に分けられ、補助額上限が違いますが、補助率はいずれも3分の2。①は販売管理や労務など複数のプロセスを非対面化・連携化するITツール、②はテレワーク環境の整備に寄与するクラウド型ITツールの導入を支援するもの。たとえば、非対面化と効率化を実現するための、「遠隔注文」「キャッシュレス決済」「会計管理」の3システムの同時導入、テレワークのためのクラウド型勤怠管理システムとウェブ会議システムの導入などは、対象となります。応募受付の開始は4月上旬が予定されています。

 補助金の手続きには電子申請が便利だと聞きました。詳しく教えてください。

 「Jグランツ」というシステムで、インターネットを利用して24時間365日、いつでもどこでも申請ができます。書面を郵送する必要がないため、コストがかからず手間も削減されます。認証機能によって押印も不要です。経済産業省の補助金で、19年度補正、20年度当初予算により27の補助金が対象となり、今後も随時拡大予定です。前記の事業再構築補助金や中小企業生産性革命推進事業も対象です。詳しくはJグランツのHPで確認ください。
 Jグランツを利用するには、「GビズID」の取得が必要になります。GビズIDとは、一つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証サービスです。ただし、申請から取得まで2~3週間かかるので、早めの準備が必要です。

一時支援金の利用法は

 今年に入って発令された緊急事態宣言の影響を受けた企業への「一時支援金」について、詳細を教えてください。

 1月に発令された緊急事態宣言に伴う飲食店時短営業または外出自粛等の影響によって売り上げが50%以上減少した中小企業・個人事業者が対象になります。売り上げの減少度合いに応じて、中小企業は60万円(個人事業者30万円)を上限に給付を受けることができます。給付額は19年または20年の対象期間(1~3月)の合計売上高-21年の対象月(1~3月のうち任意で選択した月)の売上高×3カ月間となります。

 具体的に、どのような企業が給付対象になりますか。

 「飲食店時短営業の影響」を受けた企業とは、飲食店はもちろん、飲食店と直接・間接の取引がある食品加工・製造事業者、食器、調理器具、割り箸・おしぼり業者など飲食関連の器具・備品の販売事業者、業務用スーパー、卸など流通関係事業者、飲食品の生産者や飲食関連の器具・備品の生産者も含まれます。
 「外出自粛等の影響」を受けた企業とは、タクシー・バスなどの移動サービスを提供する事業者、ホテルや旅行代理店など宿泊サービスを提供する事業者、土産物店、美術館、公園、映画館、美容室、結婚式場、運転代行業など商品・サービスを提供する事業者、さらには、これら事業者に対して商品・サービスを提供する事業者です。
 広い範囲の業種が対象に当てはまりますが、たとえば、宣言地域外で、地域コミュニティ内の顧客のみと取引を行う小売店やサービス業者は給付対象外です。また、都道府県から時短営業の要請に伴う協力金を受給している飲食店も対象外です。

 「影響を受けている」ことを証明することは必要ですか。

 「飲食店時短営業」の影響を受けた事業者の場合、飲食店以外の事業者は直接取引、間接取引いずれにおいても、飲食店または卸売・流通事業者等と反復継続した取引を示す「帳簿書類および通帳」を保存しておく必要があります。「外出自粛等の影響」を受けた事業者の場合もやはり、顧客との継続取引を示す「帳簿書類および通帳」と宣言地域内で事業を営んでいることが分かる書類、あるいは、宣言地域外の旅行事業者の場合、旅行客の5割以上が宣言地域内から来訪している自治体(市町村等)であると分かる統計データなど、多岐にわたる必要な保存書類が示されているので、経済産業省「一時支援金」のHPで確認してください。

 「宣言地域外」というのは宣言地域以外のすべての地域を指すのでしょうか。

 そうです。ただ、宣言地域外は「宣言地域外で、特に外出自粛の影響を受けている地域」と「上記以外の地域」に分けられ、業種によっては保存書類などに若干の違いがありますので注意が必要です。前者は、16年以降(任意の1週間以上)の旅行客の5割以上が宣言地域内から来訪していることが21年1月以前から公開されている統計データにより確認できる自治体(市町村等)のことです。

 統計データはどこで調べればよいですか。

 V-RESASというサイトで確認してください。V-RESASとは、内閣府と内閣官房が、新型コロナ感染症の地域経済に与える影響を「見える化」しているサイトです。都道府県ごとに滞在人口の推定居住地など人の流れが時系列で把握できます。分析の仕方は「一時支援金」のHPに詳しく出ていますので参照してください。

 申請に必要なものは?

 19年1~3月および20年1~3月までの期間が含まれるすべての事業年度の確定申告書が必要です。個人事業者は19年と20年の確定申告書、1月(または2月)決算の中小法人は18年度、19年度、20年度の確定申告書が必要ということになります。合理的な事由で提出できない場合は、税理士の署名がある事業収入を証明する書類でもかまいません。このほか本人確認書類や通帳なども必要になります。「緊急事態宣言の影響を示す書類等」は、保存(7年間)は必要ですが、申請時の提出は不要です。

 申請の前にするべきことは?

 申請希望者が①事業を実施しているか②給付対象等を正しく理解しているかを事前に確認することが求められます。この事前確認を行うのは「登録確認機関」です。登録確認機関とは、認定支援機関、税理士・税理士法人、金融機関等から募集され、承認された機関です。申請予定者が登録確認機関の「事業状況を把握している会員や顧問先」である場合は、上記の①の確認が省略できますので、まずは顧問税理士に相談してみてください。

 申請はどのように行えばよいのですか。

 オンラインで簡単に申請することができますが、困難な方は事務局が設置する「申請サポート会場」を利用してください。申請期間は3月8日~5月31日です。
 一時支援金のHPは下記QRコードから。申請者専用の相談窓口は0120-211-240です。

 ほかにはどのような補助金・助成金がありますか。

 雇用調整助成金は2021年2月末までが期限とされていましたが、緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末までに延長されました。また、経営改善計画策定支援(405事業)や早期経営改善計画策定支援(プレ405事業)なども、今後、前を向いて経営を行うには有効な支援事業だと思います。このほか、業種に特化したものや地方自治体独自の補助金事業など、多くの支援策が存在します。詳しくは「ミラサポplus」や「j-net21」といった国の中小企業支援サイトをご覧ください。また、補助金・助成金とは異なりますが、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資も延長・拡充されているので、確認しておくべきでしょう(『戦略経営者』2021年4月号P22~23参照)。諸々の細かな情報については、後欄でもレポートしているので参考にしてみてください。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2021年4月号