外出自粛にともない、さらなる市場拡大が続いているEC。個配・宅配の物流量の伸びが止まらないなか、地域の物流拠点から宅配先をつなぐ最後の区間「ラストワンマイル」に熱い視線が注がれている。

プロフィール
たかの・きよし●日産自動車で本社情報システム部門、工場開設準備室、物流開発部門、出向先のバンテックで経営企画や事業開発、営業企画部門などを歴任した後、1999年に有限会社KRS物流システム研究所を設立。日本情報システムコンサルタント協会(JISCA)正会員・理事。著書に『日本のロジスティクス』(共著、日本ロジスティクスシステム協会)、『物流共同化実践マニュアル』(共著、日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)『図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流』(共著、同文館)などがある。

 コロナ禍で物量の需給関係に大きな変動が起きる中、これからの暮らしやビジネス、社会を支えるため、持続可能な個配・宅配の仕組みがどうあるべきかが今、問われています。日本の総人口は、2005年から減少に転じ、生産年齢人口(15~64歳)も1995年を境に減少傾向にあります。都市部や地方を問わず、高齢者の単身世帯の増加が進み、ネット通販、ネットスーパー、ポスティング、宅食などの個配・宅配システムが本格的に利用される社会になってきています。

依然拡大が続くEC市場

ラストワンマイルを狙え

 さて日本のBtoC(消費者向け)EC(電子商取引)の市場規模はどれくらいまで拡大したのでしょうか。2020年7月に経済産業省が公表した電子商取引に関する市場調査によると、日本国内のBtoCの市場規模は19.3兆円(前年比7.65%増)に拡大しています。特に個配・宅配は、買い物弱者の足になることが期待されていることもあり、引き続き需要が伸びています。また、国土交通省が公表している19年度の宅配便取り扱い実績によると、同年度の取り扱い個数は43億2,349万個で、15年前と比較すると約1.5倍に増えました。個配・宅配を活用したネット通販、ネットスーパー、宅食などの急速な普及は今後も続くとみられ、23年には、個配の取り扱い個数が50億個以上になると試算されています。この急増する宅配流通で鍵となるのが、「ラストワンマイル」です。

 ラストワンマイルとは、ストックポイントである物流拠点(営業所)から着荷先(顧客)まで商品を運ぶ配送の最後の区間のことを言います。このラストワンマイル配送はこれまで大手宅配事業者への依存度が高かったのですが、ECの拡大によって宅配サービスの取扱量が急増したことから需要に応えきれない状況が慢性化しています。

 問題の核心は、需要の急拡大に対し、物流業界で働く人々の手が足りていないことにあります。労働力不足は、あらゆる業種の課題となっていますが、特に労働集約産業である物流業界では深刻な影響が出ていて、今後も大きな懸念が寄せられています。

 物流企業はこの厳しい環境のなかでも何とか稼働を維持していますが、それは現代社会に必要不可欠なインフラとして「止められない」事情があるから。とはいってもこのままいつまで我慢できるか分かりません。荷量の伸びはこれからも増え続けると予想されているので、この人手不足を抜本的に解消するには、物流業界全体の効率化に取り組む必要があるでしょう。ビジネス合理性に基づいた徹底した配送コスト削減のための集約化、効率化など、個配業務の変革に向けた新しい一歩を踏み出す必要があります。

慢性化する人手不足への対応

 労働力不足に対する1つの解決策は、自動化の推進です。製造現場では早くから生産工程の自動化(ファクトリーオートメーション)が進められていますが、人に依存している部分が多く、労働集約型の典型的な業界だと言われている物流の現場では、まだまだこれからというのが現状のようです。物流センター内の作業において、現在人手が必要とされる工程の省人化、無人化の推進が今後は欠かせないでしょう。

 実際、一般社団法人日本物流団体連合会(物流連)が2020年12月8日に公表した、物流現場が抱えている課題、人手不足や自動化に対するニーズなどを把握するためのアンケート調査(物流企業における新型コロナウイルス感染症の対応動向調査〈概要速報版〉)では、ウィズコロナ・アフターコロナ下の物流業経営に必要な対応について尋ねた設問で最も多く回答が集まったのが、「自動化」でした。この調査で、大手に限らず中小企業を含めた各社が、労働力不足の打開策として自動化機器やロボットの活用に関する検討を始めている状況が浮き彫りになったのです。

 物流現場の省人化は、まず全体最適を追求しながら部分的に最適化していくことが望ましいですが、導入にあたり壁になるのは、やはり投資資金の問題です。ロボットを使った自動化システムといえども決して万能ではなく、不得手とする業務も沢山あります。まずは得意とする部分に限定して、費用対効果をその都度確認しながら部分的に導入していくことを検討すべきでしょう。

 製造業に比べて遅れているとはいっても、大手物流企業や通販業界では、自動倉庫システムなどの自動化の動きは加速しています。さらに、人手不足を見越した物流分野の自動化、省力化の必要性についての認識も進んでおり、AGV(無人搬送台車)や次世代物流ロボット、パワーアシストスーツ、ドローンといった新しいテクノロジーの導入がスタートしています。これからの物流市場にどのように拡大していくのかが楽しみです。

 さらに、これからの物流現場でのIOT(Internet of Things)やAI(人工知能)もさまざまな活用が進むものと期待しています。しかし製造業と違うのは、物流業(中間流通業)の自動化に取り組むためには、「人間」と「マテハン(マテリアルハンドリング)」が相互補完できる現場が必須であること。倉庫内の荷物の搬送を自動化すればよいというものではなく、物流全体のシステム(仕組みづくり)と省人化機器(マテハン)の双方で人的リスクを減らしていく工夫が必要です。

一括納品拠点による効率化

 とはいっても中小企業においては、なかなか自社単独でこれらの投資を行うのは容易ではありません。スケールメリットを発揮し業容拡大が可能になる条件を整えるためには、協業化・共同化による取り組みへのチャレンジが避けられないでしょう。

 たとえばラストワンマイル物流のための革新的な一括納品(TC)拠点(結節点)づくりが挙げられます。現在のラストワンマイルは、宅配企業それぞれが個別に配達していますが、今後は合理的、効率的に配達できるラストワンマイルエリアを適切に設け、単一企業が配達先の密度を高めて配達することが望ましいでしょう。例えば、多数の納品業者の商品を店舗に一括納品する方式や新聞販売所の専売店が複数の新聞社の新聞を一括配達する方式の応用が考えられます(『戦略経営者』2021年5月号P13図表3参照)。

 共同配送による効率改善、配送生産性の向上を実現することで、はじめてコストの圧縮と使用するトラックの台数削減などへの道筋が見えてくるでしょう。共同化・集約化を見据えたサプライチェーン全体の個配業務の効率化を通じ、無駄な輸送や無駄な作業を排除する効率的な物(配送)の流れをつくり出すことができます。つまり一括共同納品型の個配・宅配用ラストワンマイル拠点の新たなプラットフォームの実現が必要なのです。

 一括共同納品型のラストワンマイル拠点が実現すれば、GTP(Goods To Person)の導入による作業効率の大幅な改善が見込めるでしょう。これはロボット等により商品が作業者に近づいてくるか、もしくは作業者が従来に比べ格段に効率よく商品に近づくことで、作業者が定点・定位置で作業し続けられる方法のことです。メリットとしては、作業者の歩行、動作範囲が狭くなることで作業が効率化する、歩行距離が短くなる、作業者の体力的なハードルを下げる──ことなどが挙げられます。また狭いエリアでの作業性の向上が可能なことから、作業者の歩行動線に必要なスペースが減り、物流センター全体のスペース削減が可能になる利点も生まれます。

 一方デメリットは、ある程度の規模がないとスペース削減、コスト削減につなげにくいことで、この点が協業化や共同化が望ましい理由になります。また導入にあたっては、倉庫レイアウトの変更やオペレーションの見直しも必要になるでしょう。

「自動化プラスα」の視点を

 共同化による新しいプラットフォームでは、単なる自動化を超えた価値を探求することもできます。これから確実に訪れ避けられない人口減少が、日本経済の成長や社会保障制度の維持などと共に企業活動にも大きな影響を与えるのは必至と言われていますが、この厳しい事業環境を考慮すると、大企業、中小企業を問わず、「果たして省力化や自動化、省人化だけで競争力は高まるのか」という疑問が当然出てきます。単に業務を省力化するための自動化設備やロボットを導入しても、同じように自動化した企業同士では、投資金額の多寡で競争力に差が付くだけでしょう。こうした懸念を考慮すると、単なる省人化・自動化を超え、自社に合った「競争力を生む自動化」を将来的に導き出さなければならない時代が到来することは間違いないと思います。

 その「自動化+α」時代の価値の一つが、CS(顧客指向)を徹底する意識です。例えば大阪府東大阪市のあるねじ卸企業は、自社で欠品が生じた際には、当日すぐに同業者から欠品した商品を調達する仕組みを整備しました。オーダーに対しひたむきに応える姿勢を徹底し、即日完納で顧客の信頼を得て大きく成長しました。こうした製造業の取り組みを支援できる物流のあり方をさらに追求していく必要があります。

(インタビュー・構成╱本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2021年5月号