これまで女性が働きやすい職場づくりに努めてきましたが、さらに理解を深めたいと考えています。最近話題のジェンダーについて、基本的な考え方や具体的な実践法について教えてください。(小売業)

「ジェンダー」とは「女性ならではの細やかな視点」、「男だから泣くな」、「女性は事務職、男性は営業職」といったように、社会や文化によって作られた性差のことをいいます。「ジェンダー」は、「生物学的性差」を意味する「セックス」と対になる考え方として、言葉自体は昔からあるものでした。経済や経営において「ジェンダー平等」が注目されるようになったのは、2008年のリーマン・ショックによる世界的な金融危機がきっかけと言われています。この時から「持続可能な経済」が最重要課題と見なされ、その解決手段としてジェンダー平等が不可欠だという議論が起きました。

 さらに、15年に国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」においてもジェンダー平等が重視され、17のゴールのうちの1つとして広く知られるようになりました。では企業経営においてもジェンダー平等の取り組みが必要なのはなぜでしょうか。

 1つ目は、従業員の人権を守り働きやすい職場を実現するためです。ジェンダー平等に配慮している職場で働くことは、従業員にとって安全で自分らしくいられると感じます。逆に前近代的なジェンダー感覚の企業はブラック企業とされ優秀な人材が離れていくことでしょう。子育てや介護との両立支援、ハラスメントの予防啓発や相談窓口の設置、長時間労働の抑制などは、どれも企業が最低限講じなければならない制度や環境づくりと見なされています。

 取り組みが必要なもう1つの理由は、イノベーションを起こし企業の利益や価値を最大化するためです。大量生産・消費時代は、同質性が高く、長時間働ける社員を管理することが有効でしたが、変化の速い時代においては、新しいアイデアや顧客のインサイトに応じた商品やサービスをタイムリーに世に出すことが求められます。そのためには、男性だけではなく多様な経験や視点を持った従業員の自由な発想が必要です。さらには、機関投資家の過半数が、女性役員や女性管理職の割合を考慮して投資を行なっているという調査結果もあります。女性が意思決定に参画しているかどうかが企業ガバナンスへの信用につながる時代がやってきているのです。

 ジェンダー平等の姿勢を積極的に打ち出し、成果を上げている企業があります。札幌でクラウドシステム開発を行うキットアライブは、SDGsを経営戦略の軸に据え、①長時間労働の是正、②女性の採用拡大、③女性の指導的立場への登用等を進め、企業の価値を高める戦略を成功させています。

 IT業界は長時間労働というイメージがいまだ強く、女性の担い手も少ないのが現状です。そのような中、月間残業目標を10時間に設定しているほか、社内SNSのオープンな場で残業申請をするなど、コミュニケーションを通じて残業時間の抑制を行う工夫をしています。また、女性エンジニアの採用、育成に力を入れており、今年1月には女性社員を取締役に登用しました。「女性に優しい企業」ということではなく、「永続的な発展を目指す企業」として、ジェンダー平等をその手段として実践しているのです。

 会社や地域が、皆さんの子どもや孫の時代まで豊かであり続けるために、女性が働きやすい職場づくりの次のステップとして、ぜひジェンダー平等の取り組みを進めてください。

掲載:『戦略経営者』2021年6月号