海洋機器等の部品加工を手がける神康工業所は70年以上の業歴を持つ老舗企業。大手航海機器メーカーを取引先に創業以来堅実に収益を伸ばしている。そんな同社の経営・財務戦略について、山内基彰会長、永澤京子財務部長、瀨川鐵雄顧問税理士、浅郷元方支店長(神戸信用金庫西神戸支店)に聞いた。

大手海洋機器メーカーを顧客に品質の高い金属部品を製造

──業容を教えてください。

山内基彰代表取締役会長

山内基彰代表取締役会長

山内 漁船用のレーダー、船舶の自動停泊装置のセンサー、魚群探知機などの航海機器に用いる金属部品の加工を主に手がけています。

──今年で創業71年目を迎えると聞きました。長期にわたって事業を続けてこられた秘けつは何でしょう。

山内 細かい注文にもしっかりと応える技術力でしょうか。当社が扱う金属は大きさが1ミリのものから1メートル超のものまで幅広く、用途も多岐にわたるので作業には精緻かつハイレベルな技術力が要求されます。当社では従業員のスキルアップはもちろん、最新鋭の設備を導入し稼働させることで、一つひとつのオーダーに真摯(しんし)に対応してきました。取引先の要望をつぶさにくみ取り、しっかりと形にして納品する……。この積み重ねが信頼関係の醸成につながり、70年に及ぶ長期経営に結びついていると自負しています。

──取引先は?

山内 売り上げの半分は全国に拠点を置く大手航海機器メーカーの古野電気さまとの取引が占めています。そのほか大手工業メーカーや鉄鋼メーカーとも取引があり、これらの企業の下請けとして船舶や大型機械装置の部品も製造しています。

──新型コロナの影響はどのように表れていますか。

本社社屋(上)、豊富な人材と機械設備が強み(下)

本社社屋(上)、豊富な人材と機械設備が強み(下)

山内 例年に比べて受注量が2~3割ほど落ちています。当社は売り上げのほぼすべてが大手メーカーとの取引ですから、受注量の減少は生産量の減少に直結します。この影響は業績にも表れており、前期の決算(2021年6月期)では創業以来初めて赤字を計上しました。当初は「影響が出てもほんのわずかだろう」と見込んでいたのですが、見通しの甘さを痛感しましたね。

瀨川税理士 神康工業所さんでは毎期黒字経営を実践しておられたので、コロナ禍の影響が想像以上に波及していると感じています。ただ、TKCモニタリング情報サービス(MIS)をはじめ、戦略財務情報システム『FX2』による自計化(会計システムを導入して自社で経理を行うこと)や巡回監査、月次決算、書面添付、『継続MAS』による予算策定、さらには戦略給与情報システム『PX2』による給与計算など、TKC方式の会計をフル活用しておられるので、危機的状況に追い込まれても速やかに対策を検討し、実行する体制を確立できています。

──具体的にどのような対策を実践されましたか。

山内 コロナ後により良いスタートが切れるよう製造品質のさらなる向上に取り組むため、今年の7月にワイヤー放電加工機を新たに導入しました。設備資金を神戸信用金庫さんから借り入れたのですが、毎月の試算表をデータで提供していたこともあり、以前よりもスムーズに決裁いただけたように感じています。

自動停泊装置のセンサー部品(左)、底引き網漁船のセンサーの一部(中)

自動停泊装置のセンサー部品(左)、底引き網漁船のセンサーの一部(中)

MISの徹底活用で円滑な借り入れを実現

──MISの利用を始めたきっかけは?

永澤京子取締役財務部長

永澤京子取締役財務部長

永澤 瀨川先生の勧めです。「金融機関との連携強化のために使わない手はない」とおっしゃっていたので。

瀨川 当初は決算データだけを提供していましたが、金融機関との関係をより強化する必要があると思い、昨年から毎月の試算表データも提供するようになりました。月次の財務状況を積極的に開示することで、必要なときに必要な金融支援が受けやすくなりますからね。会長がお話しされたとおり、神康工業所さんでは毎期1,000万円以上の予算をかけて最新鋭の設備を導入しておられますが、MISを活用することでスムーズな資金調達ができています。

浅郷支店長 前期こそコロナ禍の影響で赤字になったものの、神康工業所さんは毎期安定して収益を上げているというのがわれわれの印象です。これまでも金融支援や本業支援を通して円満な関係性を構築していましたが、試算表がタイムリーに届くようになってからはより神康工業所さんの状況に沿った提案が可能になり、お互いの関係がさらに密接になったと感じます。特に、MISで送られてくる財務データは瀨川先生のお墨つきを得ており信頼性も抜群ですから、われわれも安心して融資の提案を実施できています。

──そのほか、MISを利用することのメリットをどのように感じていますか。

永澤 決算書や月次試算表といった書類を印刷せずに済むようになった点が便利ですね。これまでは、コピーしたものを逐一取りまとめて金融機関に持参したり郵送して提出していたので……。この手間が省けただけでもありがたいです。あとは神戸信金さんが当社の最新業績を把握されていることの安心感もありますね。瀨川先生の言うとおり、必要なときに好条件の融資提案を受ける機会が増えました。

浅郷元方支店長

浅郷元方支店長

浅郷 たとえ業績が悪くても自社の財務情報は積極的に開示していただきたいと思っています。最新業績が分かれば、その内容をもとにお客さまに提供するサービスの仮説を立てたり、より会社の実態に合った支援策を提案できますからね。その点、神康工業所さんではMISを利用いただき、われわれが信用度の高い財務データを適時に把握することで、サービスの品質や審査スピードの向上につながっていると考えています。

──『FX2』を10年以上継続して利用しているとお聞きしました。

永澤 こちらも瀨川先生の勧めです。もともとは別の会計事務所に経理をお願いしていたのですが、瀨川先生に税務顧問をお願いしてからは自社で行うようになりました。

──自計化による効果をどのように感じておられますか。

永澤 毎月の最新業績を確認しながら経営できるようになったところでしょうか。例えば、設備投資の意思決定を行ったり、キャッシュフローの状況等をチェックする際には、『FX2』の帳表を参考にしています。

──注視する帳表や勘定科目は?

永澤 月次試算表のほか、《金融機関別預貸率表》や《変動損益計算書》はこまめにチェックしています。特に、瀨川先生が毎月の監査を終えられた後、会長と先生と私の三者で打ち合わせの時間を設けており、金融機関ごとの借り入れ残高や取引先別の売上高、材料費、外注費の推移などについて報告いただいています。数値に関する細かい質問にも丁寧に答えてくださるので、とてもありがたいですね。

瀨川鐵雄税理士

瀨川鐵雄税理士

瀨川 《金融機関別預貸率表》を監査後に提示しているのは、各金融機関からの評価が金利等の面で適正になされているかを確認いただくためです。中小企業が事業を発展させていくにはいかに金融機関と円満な関係を構築するかが大切ですから、山内会長と永澤部長には金融機関別の借り入れ残高や金利に関する情報等はこまめに伝えるようにしています。

──経営計画も作成しておられます。

瀨川 毎期の予算を『継続MASシステム』で策定しています。決算終了後は会長と永澤部長に事務所に来ていただき、継続MASで作った計画をもとに前期の振り返りと今後の方針を固める業績報告会を毎年開催しています。

──直近で話し合われた内容を教えてください。

山内 前期の総括はこれから行う予定ですが、過去の業績報告会では現社長への事業承継や販路拡大に向けた打ち手について話し合いました。

──今後の目標はいかがでしょう。

山内 阪神・淡路大震災、リーマンショック……と、ありとあらゆる危機に直面してきましたが、今回のコロナショックにはこれらを上回るほどの影響を受けています。ただ、すでに起きたことをいつまでも悔やんでいては状況が好転しません。これからも当社の強みである技術力と最新鋭の機械設備を武器に、高品質の金属部品を作り続けることで、コロナショックを乗り越えていきたいと考えています。

(本誌・中井修平)

会社概要
名称 株式会社神康工業所
創業 1950年
所在地 兵庫県神戸市長田区駒ヶ林南町1-77
売上高 3億5,000万円(2021年6月期)
社員数 18名
顧問税理士 税理士瀨川鐵雄事務所
兵庫県神戸市中央区東川崎町7-11-14
URL: https://zeirishisegawa.tkcnf.com

掲載:『戦略経営者』2021年10月号