複数の事業所で働く高年齢労働者が活用できる雇用保険制度が新たに設けられるそうですが、概要と事業主側が留意すべき点を教えてください。(金物製造業)

 雇用保険制度は複数就業者の場合、主たる事業所で週所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込み等の要件を満たしたときに適用されます。昨今、複数の事業所で働く労働者が増加している状況を受け、複数就業者の雇用保険制度が見直されることになりました。

 2022年1月から、65歳以上の労働者が活用できる制度として「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設されます。この制度では、1つの事業所で雇用保険の適用要件を満たしていなくても、2つの事業所での勤務時間を合計して全ての適用要件を満たす場合に、特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができます。失業時には、一定の要件を満たすと、高年齢求職者給付金(基本手当の30日分または50日分の一時金)を受給できます。

 マルチ高年齢被保険者になるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。

  • 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  • 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

 適用を受けるためには、本人の申し出(申し出日に被保険者資格取得)が必要となります。なお、被保険者となった後、任意脱退はできません。

取得手続きは本人が実施

 雇用保険資格の取得・喪失手続きは通常、事業主が行いますが、マルチジョブホルダー制度では、マルチ高年齢被保険者(3社以上勤務の場合はそのうち2社を選択)の適用を希望する労働者本人が行う必要があります。事業主は、労働者本人からの依頼に基づき、手続きに必要な証明(雇用の事実や所定労働時間等)を行うことになります。その後、労働者本人が2社の必要書類をそろえて住所(居所)管轄のハローワークに申し出ます。要件を満たすと申し出日に資格取得となり、ハローワークから労働者本人と適用される両社に通知がなされます。

 次に、事業主が留意すべき点についてです。まず、雇用保険の適用を受ける際、労働者から手続きに必要な証明を求められた場合は、速やかに対応しなければなりません。対応が不十分の場合、ハローワークから事業主に対して確認がなされます。また前提として、雇用保険の成立手続きが済んでいない場合には、別途手続きが必要です。そして、マルチ高年齢被保険者の申し出を行ったことを理由として、解雇や雇い止め、労働条件の変更など、不利益な扱いを行うことは法律上禁じられています。マルチ高年齢被保険者の資格を取得した日以降、雇用保険料の納付義務が発生するため、給与から控除する必要があります。

 新設されるマルチ高年齢被保険者は、労働者の希望(申し出)に基づいて適用され、当面65歳以上の労働者のみが対象となるため、被保険者となる例は限定的であると思います。ただ、昨今の複数就業者(兼業・副業)の増加状況を鑑みると、今後65歳未満の労働者も対象となる可能性があるので、法改正の動向を注視しましょう。

掲載:『戦略経営者』2022年1月号