コロナ禍一色に塗りつぶされた感のある2年間。雌伏を余儀なくされてきた中小企業経営者のフラストレーションはたまりにたまっている。耐えるばかりでは始まらない。そろそろ攻勢に転じる時期である。

プロフィール
すずき・しんじ●1987年、横浜国立大学卒業後、埼玉銀行(現りそな銀行)入行。93年、税理士登録。翌94年、鈴木信二税理士事務所開設。2006年、税理士法人アンビシャス開設。2016年、税理士法人報徳事務所と合併、代表社員・東京本部長に就任。経済産業省ローカルベンチマーク活用戦略会議委員。明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科兼任講師。
鈴木信二 氏

鈴木信二 氏

中小企業経営の専門家である鈴木信二税理士は「コロナ前と後とでは、企業が対応すべき社会課題が大きく変わってしまった」と言う。先行きの見えないコロナ後の世界を、経営者はどう展望し、どう対処すればよいのだろうか。語ってもらった。

 昨年の夏から秋にかけて、日本では新型コロナの感染者が急速に減少し、いくらかは、いつもの風景が戻ってきたように感じる。しかし、われわれの生活がコロナ前に完全に戻ることはもうないだろう。それを前提としつつ2022年にのぞむ必要がある。

 今後、中小企業経営者が留意すべきポイントは3つあると考える。

 ビジネスの基本は「社会課題の解決」にある。つまり、企業の本質は、ノウハウや資源を使って社会の課題を解決することによって利益を上げ、組織を維持しつつ社会に貢献することにある。しかし、コロナ禍によってその課題自体が大きく変化してしまった。したがって経営者に求められるのは、新たな課題をしっかりと見極め、正しい方向に経営のかじを切ること。これが1つ目のポイントだ。

 2つ目は、インフレである。

 ワクチンの普及などにより経済活動の再開が本格化するなか、世界的な食糧需要の高まりに加えて原油価格の高騰で原料費や物流費が値上がり、ここへきて次々と小麦粉など個別の食品へと価格転嫁されている。半導体や電子部品の供給難、価格上昇も深刻だ。いったんコロナが沈静化しても、またいつ再燃するか分からず、その恐怖のためにメーカーはなかなか増産に踏み切れない。モノの価格上昇は、賃金を押し上げる有力な要素となる。国の政策もその方向性をより打ち出してくるだろう。

 そうしたなか、中小企業経営者が値上げを実行することができるかがカギとなる。粗利幅を引き上げなければ賃金を上げることはできない。しかし、当然ながら、従来と同じ商品・サービスを漫然と販売していたのでは値上げは不可能だ。いかに差別化していくか、そして、新しい課題、ニーズを感じ取り、そこに対応していくかが重要になる。

 3つ目は「環境・社会問題」に対する意識の変化である。

 従来から、ESGやSDGsという言葉が世間に氾濫していたが、われわれにとってとくに差し迫った関心ごとではなかった。しかし、コロナを含めたさまざまな自然災害を経験するなかで人類の「環境・社会問題」に関する考え方が変わってきた。恐怖感や危機感が高まってきているように思う。そのため、人々の購買を左右する選択に「環境・社会問題」が大きく関わるようになってきた。たとえば、欧州では、高級車の内装に革張りを使用することは「はずかしいこと」だと認識される。あらゆる分野でのさまざまなエコ製品の隆盛も、そうしたニーズの反映といえよう。日本を含めた世界中の人々の、ものの見方・考え方が大きく変わり、それが購買活動にも影響を及ぼしつつあるということだ。

 中小企業経営者は、こうした変化にアンテナをはり、環境に負荷を与えないような商品・サービスへの転換を準備しなければならない。そうしないと、将来的には市場に受け入れてもらえなくなってしまう可能性がある。

借入金をどう返済するか

 さて、中小企業の現状はどうか。

 国は、最大250万円を支給する「事業復活支援金」制度の施行を閣議決定した。また、政府金融機関による新型コロナ感染症対応融資を2022年3月まで延長することが決定されている。4月以降はコロナの様子を見ながらということになるが、オミクロン株など新たな変異株の状況によっては再延長もありえるだろうし、状況が落ち着けば経営改善に向けての取り組みへのシフトを促す政策を打ち出してくるかもしれない。

 そうした状況のなか、中小企業にとって、より切実な問題は、借りた融資をどうやって返済するのかである。複数の地域金融機関の話によると、新型コロナ感染症対応融資の据置期間が終わり、返済がはじまっている企業もあるが、今のところ手元資金は続いており、すぐに「バンザイ」という状況ではないという。ただし、キャッシュが減り始めているのは確か。今後、返済が本格的にはじまれば、条件変更(リスケジュール)の必要も出てくるだろう。

 リスケを行うには、通常なら経営改善計画を策定し、緻密なモニタリングのもと返済を実行していくことが必要となる。しかし、今回のゼロゼロ融資(コロナで業績が落ちた企業に対する実質無利子無担保融資)は保証協会の100%保証付きということもあり、金融機関は"血眼になって"経営改善に取り組む覚悟がまだできていないという印象が強い。もちろん、マンパワーの不足もその大きな理由のひとつ。ある地域金融機関では、営業マン1人当たり50~60社の担当を持っており、そんな状況ですべての企業に経営改善計画を策定することなど不可能。ましてや、計画が前提の「伴奏支援」にはほど遠い状況である。"人間のさが"ではないが、コロナ融資による手元資金や時短要請の協力金がなくなった後でないと、本気になれないのかもしれない。

 とはいえ、どこかのタイミングで本気の経営改善支援を実施しなければならないことは確かである。その時こそ、われわれ「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」の出番である。岸田内閣が打ち出した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」のなかでも事業者を支援する機関の役割の重要性が強調されている。その38ページには、「新たに開発する研修プログラムを受講した支援者による伴走支援を実施する」と記載されており、また、この研修の内容としては支援機関の「対話」能力の向上を主眼に置いていると伝え聞いている。経営者の話を聞いた上で経営課題を明確にし、経営者に「気づき」を与え、課題解決策を一緒になって考えていく。そんな能力が支援機関に求められるということだ。

 いずれにせよ、中小企業を支援するための機関としては、金融機関や商工会、商工会議所だけではまったく足りない。常日頃から中小企業経営者と寄り添う税理士が、それら支援機関と手を携えながら協働して経営改善にのぞむことが必要だろう。

ぼやぼやしている時間はない

 もちろん中小企業経営者のなかにも、社会の変化に気が付き、「なんとかしなければ」と模索をはじめている人もいる。しかし、「情報不足」はいかんともしがたく、どこから手を付けたらいいのか分からないというのが正直なところではないだろうか。もっと言えば、短期的な対策に没頭し、「コロナの後に待っているものをあえて考えない」傾向があるようにも思える。人は怖いものには目をつぶってしまう傾向があるが、今後、経営改善をするにしても債権放棄してもらうにしても、コロナ後の世界を思い描きながら、将来に対応する経営改善計画を策定することが絶対条件となる。つまり、そこには長い時間をかけて借金を減らしていくスキームが必要で、高齢化社会が極限に達するとされている「2030年問題」を持ち出すまでもなく、まさにぼやぼやしている「時間はない」のである。

 先日、自動車部品関連の会社の経営者と話をする機会があり、業界がCASE(コネクテッド化、自動化、シェアリング、電動化)による100年に一度の大変革期に差し掛かっていることに関して、「今後、どうするのですか」とたずねた。すると、この経営者は、若い社員を中心にしたチームをつくり、新たな市場を開拓するためのプロジェクトを立ち上げたという。こうした経営者がたくさん現れることが、日本経済には必要である。われわれ支援機関は、そのために動かなければならない。「従来型のビジネスの将来はなくなるかもしれない」という危機意識をもちつつ中小企業にあらゆる情報を提供し、突破策を講じていく必要がある。

 借入金返済のスキームも、今後さらに整理していかなければならない。いわゆる「借入金の再構築」である。中小企業の多くは過剰債務に悩んでいる。借金が気になって「本業に集中できない」という声も聞く。この悩みを解消するためにも、借入金を四つに分けて整理し、それぞれ正しい対応をしていくことが必要になってくる。

 まず1つ目は短期の正常運転資金のための借入金。これは在庫や売掛金が担保になっているので問題ない。2つ目が資本性劣後ローン。借入金の一部を資本金のように扱い返済しないで済むような形にするのである。3つ目が5~10年の長期で返済するべき借入金。これは、しっかりと経営改善計画を策定して返していく。最後に残った借入金は、中小企業の場合は債権放棄とはいかないので金融機関と話し合いながら10年の長期返済の後に返済する。

メインバンクを選択する

 このように借入金を4つに分けて整理する手法は、中小企業再生支援協議会などが実践してきた「再生」についての考え方として従来からあるものだが、これを使って金融機関や支援機関がしっかりと再生の絵を描いてあげれば、経営者は余念なく経営に没頭することができるようになるだろう。

 その際に大事なのは、信頼のおける、そして企業規模に応じたメインバンクをあらためて選択することである。中小企業の経営改善に意欲的で「伴走」可能な地域金融機関をパートナーにすれば上記のような借入金の返済スキームの実践も可能となる。私は今後、金融機関のすみ分けがますます進むと考えている。スポット貸しに終始して短期的な採算重視に走る金融機関が増加する一方で、地域独自の文化や産業を理解し尊重する地場の金融機関も存在感を増してくるだろう。橋本卓典氏の『捨てられる銀行』にあるような世界が展開されるのだとすれば、今後、中小企業が選択可能なメインバンクの候補も増えてくるのではないだろうか。

 そして地域金融機関だけでなく、認定支援機関としての税理士にも期待していただきたい。金融機関と税理士、そして行政や商工会などの支援団体。そのすべてが力を合わせ、中小企業を支援する体制づくりが今、求められている。

 いずれにせよ、コロナ禍は、それまで緩慢に進みつつあった構造的な社会・産業構造の変化を劇的に早めた。後戻りはできない。

 もはや「変化はチャンス」と言い切るしかない。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2022年1月号