後列左端は吉田会計の永野啓監査担当

後列左端は吉田会計の永野啓監査担当

福島県伊達市でガソリンスタンド、LPガスの販売等を手がける熊田商店。100年以上の業歴を持つ同社は社会の流れに合わせて主力事業を変化させてきた。会社を率いる熊田竜児社長、経理担当の齋藤久男氏、吉田寛司顧問税理士、東邦銀行保原支店・梁川支店の渡邉雅之氏に経営戦略とTKCシステムの活用方法について聞いた。

社会の流れを敏感に察知し経営戦略に落とし込む

──事業内容を教えてください。

熊田竜児社長

熊田竜児社長

熊田 ガソリンスタントの運営、灯油・LPガス、給湯機器やキッチン用品等の販売を主に手掛けています。ガソリンスタンドは伊達市内に2つ店舗を構えており、給油のほかタイヤ交換やキーパーコーティングも行っています。灯油・LPガスは一般家庭、飲食店、タクシー事業者が主要顧客で、なかでも伊達市や近隣地域にお住まいの方が多いです。

──住宅設備事業ではどのような機器を取り扱っていますか。

熊田 さまざまですが、代表的なものではリンナイのガスコンロや給湯器などがあります。販売だけでなく設置工事も自社で行っているのが強みで、「注文から納品、据え付けまでスピーディーに対応してくれて助かった」などとお客さまから評価されています。

──もともとは銭湯を営んでいたと聞きました。

熊田 地域の方が多く集まる憩(いこ)いの場所だったそうです。ただ、私が入社したころにはすでに閉店していたので、詳しいことは知らないのですが……。

──業歴は100年を超えています。

熊田 われわれは「地元に密着し、地域の発展に貢献する」ことを旗印に日々の業務にまい進してきました。法人化したのは1957年ですが、100年以上もの間事業を続けてこられたのも、地域住民と積極的にコミュニケーションを交わしつつ、サービスの品質向上に真摯(しんし)に取り組んできたからだと自負しています。

渡邉雅之氏

渡邉雅之氏

渡邉 熊田商店さんの地域に密着する姿勢は他の中小企業のロールモデルになると当支店でも評判です。特に社長は地元の経営者を引っ張るリーダー的存在で、当行主催の勉強会でも積極的に発言したり議論を盛り上げるなど、持ち前のリーダーシップを発揮しておられます。

──銭湯を皮切りにガソリンや灯油・LPガス、住宅設備の販売と社会のニーズに合わせて主力事業を変化させてこられました。

熊田 ガソリン事業を立ち上げたのは先々代(熊田善七氏)です。当時はまだ戦前でしたが都市部を中心に自動車が普及していたそうで、車が街中を縦横無尽に駆けめぐる姿を目にした先々代は「これからは自動車の時代が来る」と一念発起し、ガソリンの販売を手がけるようになりました。
 一般家庭、事業者向けに灯油やLPガスを販売するようになったのは50年代後半のことで、立ち上げたのはこのとき専務だった先代(熊田圭三氏)です。「ガスの取り扱いには危険がともなうので安易に手を出さない方がいい」などと慎重な意見も飛び交ったそうですが、当時ガス機器が目まぐるしいスピードで普及していたことから、先代は一般向けのガスの販売に大きなビジネスチャンスを見いだしていました。意見の対立を乗り越えて始めた事業ですが、今では当社の屋台骨を支えるまでに成長しています。ちなみに、住宅設備事業は既存事業の付加価値を高めるためにスタートしました。

社屋

社屋

──いずれも軌道に乗っていますね。

熊田 とはいえ、業種転換を繰り返すなかで廃止した事業もあります。なかでも当社のルーツである銭湯はお風呂や給湯設備が一般家庭に普及したことで、次第に客足が伸び悩むようになりました。結果、ガソリンスタンドを始めた時期に閉店し、現在はガソリンスタンドとLPガス、住宅設備の販売に専念しています。

──コロナ禍の影響は?

熊田 不要不急の外出自粛や飲食店の時短営業の影響で業績が落ち込みましたが、昨年の秋以降は感染状況がいったん落ち着いたこともあり、売り上げ自体は持ち直しつつあります。ただ、最近は原油価格の高騰によって粗利益が縮小傾向にあります。

吉田寛司顧問税理士

吉田寛司顧問税理士

──それは大変ですね。

熊田 ただ、当社では吉田会計さんや東邦銀行さんの力を借りつつ、事業再構築補助金の活用計画や早期経営改善計画の策定に取り組んできたので、アフターコロナで反転攻勢をかける準備はできています。

吉田 熊田社長には日頃から「財務や税務にかかわらず経営に関することは何でも相談にのる」と伝えています。専門外の領域でも何か役に立てるかもしれませんからね。今回のコロナ禍もそうですが、かつて東日本大震災が発生したときには従業員の雇用計画の作成を支援したり、活用できる助成金の情報をお伝えするなど、経営全般のフォローに努めました。

《変動損益計算書》を注視し日々のガソリン価格を決定

──『FX2』を導入した理由を教えてください。

ガソリンスタンドは伊達市内に2拠点構える(上)、住宅設備の販売も(下)

ガソリンスタンドは伊達市内に2拠点構える(上)
住宅設備の販売も(下)

熊田 事務負担の軽減と最新業績にもとづいた意志決定を実践したかったからです。当社の経理業務は基本的に齋藤が1人で行っており、システムを導入するまでは紙の帳簿に記帳していました。ただ、事業規模が大きくなるにつれて取引量が多くなり、記帳にかかる負担も重くなっていたので何とかできないかと。加えて、経営上の判断をスピーディーに行いたいという思いもあったので……。このことを吉田先生に相談したところ、勧められたのが『FX2』でした。

──帳表はどのように活用しておられますか。

熊田《変動損益計算書》の数値や指標はくまなく確認するようにしています。特に、私は「スマート業績確認機能」を利用しているので、頻繁にスマホからチェックします。場所を選ばず自社の最新業績をみられるところがとても便利ですね。

──注視している科目や指標は?

熊田 限界利益率はガソリンの販売価格を決めるうえで参考になる指標なので日々チェックしています。先ほどもお話ししたように、最近は原油価格が高騰ぎみですから値決めを慎重に行う必要があります。ある程度の利益を確保しつつ、家計の負担にならないように値付けするのはとても難しいのですが、最新の利益率やこれまでの推移等を参考にすることである程度バランスの取れた価格を設定できています。

吉田 ほかにも、熊田社長は「TKC経営指標」(BAST)を用いて同業他社との比較も行っておられます。指標ごとに自社の立ち位置を細かくチェックするなど、会計をうまく生かされていますね。

──入力面はいかがでしょう。

齋藤久男氏

齋藤久男氏

齋藤『FX2』は「仕訳辞書」や『PX2』(戦略給与情報システム)との仕訳連携機能など、取引の入力をサポートする機能が充実しているので日々の業務が効率化したことを肌で感じています。特に当社は預金取引が多いので、「銀行信販データ受信機能」を活用することで仕訳の入力をほぼ自動化できました。操作で分からないことがあっても吉田先生や永野さん(監査担当者)に聞けばすぐに教えてくれるので、安心して利用できます。ありがたいですね。

──「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)による効果をどう実感していますか。

熊田 MISを利用して、決算書を東邦銀行さんなど5行にオンライン送信しているのですが、紙で提供していたころよりも金融機関とスムーズに意思疎通できるようになり、当社の現状に合致した提案を受ける機会が増えました。信頼関係が強化されたと実感しています。

渡邉 こちらから催促することなくデータが送られてくるので、より実効性の高い提案を迅速に行えるようになりました。現在は決算書だけをデータで提供していただいていますが、もう一歩踏み込んだ支援を行うためにもゆくゆくは月次試算表も送っていただきたいと思っています。

熊田 分かりました(笑)

──今後の目標を聞かせてください。

熊田 脱炭素の流れに対応したビジネスモデルを実行していきたいと考えています。具体的には一般家庭向けのガス事業をより手厚くしたいと考えていて、当社以外から買った機器でも修理に応じるなど、地域のガスまわりをオールインワンで請け負う事業を構想しています。先々代、先代ともに社会の変化やニーズをつぶさに察知し、ビジネスに落とし込んできました。当社がこの先200年、300年と継続できるよう私も社会の変化を見定めながら、次の一手を素早く打っていきたいですね。

(本誌・中井修平)

会社概要
名称 有限会社熊田商店
設立 1957年12月
所在地 福島県伊達市保原町9-3
売上高 約3億円
社員数 17人(役員・アルバイト含む)
顧問税理士 吉田税理士事務所
税理士 吉田寛司
福島県福島市矢剣町1-3
URL: https://yoshidataxaccountant.tkcnf.com

掲載:『戦略経営者』2022年2月号