中小企業大学校東京校の「経営後継者研修」は国が行っている唯一の後継者育成プログラムである。昨年10月開講の42期では全国から23名が参加。立派な経営者として会社を率いるための学びを進めた。後継者たちは10カ月にわたる研修で何を習得したのか──。成長のプロセスを追う。

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「後継者不足」に頭を悩ませる中小企業経営者は相変わらず多いようだ。帝国データバンクが昨年、全国の中小企業26万6,000社を対象に実施した調査によると、後継者が「いない」あるいは「未定」と答えた企業は16万社にのぼり、およそ6割が「後継者不足」に直面していることが明らかになった(※1)。さらに、同じく帝国データバンクが実施した「後継者難倒産」に関する調査によると、昨年1年間、後継者の不在等を理由に倒産した企業は466件で調査を始めた2013年以降で最多を更新。特に19年以降3年連続で450件を上回るなど高い水準で推移している(※2)。

 このように、後継者の確保・育成は中小企業にとって喫緊の課題と言っても過言ではない。特に近年は事業承継に後ろ向きな2世、3世も多く、バトンタッチが円滑に進まない例も少なくないという。

 そんな状況のなか、後継者としての自覚を促し、経営者になる覚悟を喚起する場として注目を集めているのが中小企業大学校東京校(東京都東大和市)の「経営後継者研修」だ。将来の社長や幹部候補生が10カ月もの間、自社の業務を離れ、会社経営に必要なスキルやマインドを育む。カリキュラムの全体像はP25(『戦略経営者』2022年9月号)の図表のとおりで、講義(経営理念、財務、人的資源管理等)、実習(業務プロセス分析実習、経営総合実習)などで学んだ内容を総動員して自社の経営分析に取り組む。そしてその結果をもとに、自社の将来構想やアクションプランをゼミナール論文に展開。その内容を研修のフィナーレを飾る「ゼミナール論文発表会」で披露する。

 さまざまな観点から自社を徹底的に分析し、今まで気づかなかった魅力や課題を再発見することで“経営者になる覚悟”を呼び起こす──このプロセスこそが経営後継者研修の肝と言えよう。実績も折り紙付きで、すでに経営者・経営幹部として第一線で活躍している卒業生を800名以上輩出。OB・OGとの強固なつながりが得られることもこの研修の魅力の一つだ。

※1…帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」
※2…帝国データバンクプレスリリース「「社長の後継ぎが見つからない…」後継者がおらず倒産した企業、2021年は過去最多を更新」2022年1月19日

力強い決意表明が続々

 7月14、15日の2日間にわたって開催されたゼミナール論文発表会では、全国から集まった第42期研修生23名が発表に臨んだ。「社員の主体性を伸ばすために自ら率先して動き、物事の起点になる存在を目指す」と卒業後の抱負を語る研修生もいれば、別の研修生は「家業からの脱却」をテーマに掲げ、「経営理念をつくる必要がある」と自社の課題を鋭く指摘するなど内容はまさに十人十色。

 ただ、すべての発表者に共通していたのは全員が後継者として自社の将来を真剣に考え、会社の成長を促すための具体的な行動計画を披露したこと。そして、研修に送り出してくれた派遣元企業はもとより、ゼミナール講師、研修の運営事務局、そして10カ月間苦楽を共にした同期生への謝辞を口にしたことだ。なかには感情がこみ上げ、壇上で涙ぐむ発表者も……。これだけでも、東京校で過ごした10カ月がすこぶる充実していた様子が伝わってくる。長期にわたる学びを終えた42期研修生たちは、今後自らが考えた将来構想を実践し、自社の発展に貢献していくことだろう。

 本特集では先日東京校を巣立ったばかりの後継者、社長として経営の最前線で活躍中の卒業生にインタビューを実施。彼・彼女らの“肉声”を通して、「経営者の覚悟が芽生える過程」を追う。

掲載:『戦略経営者』2022年9月号