地域の魅力ある商品やサービスの販路を新たに開拓し、域外から収益を呼び込むことで、地域創生を実現することが期待される「地域商社」。地方銀行が次々とこの地域商社事業に参入するなか、2021年7月、信用金庫の中央金融機関である信金中央金庫は100%子会社として、しんきん地域創生ネットワークを設立した。同社の髙田眞社長に、設立の狙いと将来展望を聞いた。

──地域商社とは?

髙田 生産者に代わって地域資源のブランディングやマーケティンを行う商社のことです(『戦略経営者』2022年10月号P67 図表1)。銀行が出資した地域商社は、すでに29社(2022年3月現在)設立されています。一方、当社は、信用金庫の中央金融機関である信金中央金庫の100%子会社として昨年7月に設立されました。

「点」と「面」で事業展開

──地方銀行による地域商社と何が違うのでしょう。

髙田眞 氏

髙田眞 氏

髙田 ①地域商社と②地域創生コンサルティングの2つを事業の柱としているところが大きく違います。多くの地方銀行による地域商社は、親会社である銀行の取引先の商品の販路拡大や経営コンサル等が主業務となっているようですが、われわれは信用金庫取引先の販路拡大と並行して地方自治体向けのコンサルティングを手がけています。取引先の販路拡大を「点」とすると自治体へのコンサルティングは「面」。点と面で事業を展開していくスタイルです。さらにいえば、対象にしているのが北海道から沖縄まで全国254の信用金庫の取引先なので、圧倒的に広いエリアから情報を得ることができます。その優位点を武器にしながら、より専門的な対応を実践していくために、当社は設立されました。

──信金中金のネットワークは魅力ですね。

髙田 そもそも、全国の信用金庫は総預金量158兆円、7,129店舗、役職員は10万超。顧客との接点となる店舗や役職員の数はいずれも単体のメガバンクをはるかに上回る数字です。また、これまで信金中金や各信用金庫が地道に作り上げてきた販路拡大のためのネットワークはさらに広がりつつあります。ちなみに、昨年7月のスタート時点での連携バイヤーは全国に約100社。当社は「地域商社」とされていますが、実質は「全国版地域商社」といえるのかもしれません。

──地域商社事業について教えてください。

髙田 実はこれまで、金融機関などが行ってきた販路拡大の取り組みのほとんどはビジネスマッチングや商談会といった「場の提供」に限られていました。従来は、それでも効果が期待できたのですが、昨今、地域の人口が減少していくなかで、域外への販売を模索したり、ターゲットを変更したりといった工夫が必要になります。しかし、ものづくりが得意な中小企業経営者も、そのような環境ではマーケティングやプロモーションを考えていくことが求められ、なかなか場の提供だけでは効果が上がりにくくなっています。われわれは、そうした現状を改善するために、ソリューションのスキーム(『戦略経営者』2022年10月号P68 図表2)を提供しています。

──商品をブラッシュアップして販売へとつなげるのですね。

髙田 そうです。たとえば、人口の少ない地方であればあるほど車で購入する割合が増えますから商品サイズは大きくなります。販売地域を変える場合、この傾向を織り込んで商品開発やパッケージを考える必要があります。また、女性にターゲットを広げる場合にはやはりサイズや形状、パッケージデザインを変更しなければ売れないでしょう。さらに、若い人に訴求するには、SNSでの情報発信も必要です。
 これらの改善ができていないとフェアや商談会といった「場」をいくら提供しても売り上げには結びつかないというわけです。われわれは、この部分に具体的なサービスを提供します。

入口は無料相談

──入口は「無料相談」(『戦略経営者』2022年10月号P69 図表3)となっていますが……。

髙田 改善への取り組みを行うには、それなりの基盤が必要です。中小企業の中には、数多くの問題点を抱えている企業があります。つまり、「ある程度いけるな」という段階にないと、営業代行などのわれわれの有料のメニューへと進めても効果は期待できません。
 無料相談では、当社コンサルタントが、無料で何度でもウェブ相談に応じます。また、外部の専門家の知見も活用します。ここでプロダクトアウトからマーケットインへと考え方を変えていただく。誰にどういう風に売っていきたいのか、そのためにできることは何か……など、戦略も整理した上で、当社のソリューションを受けていただきます。このように丁寧なサービスの実践を心掛けています。

──「営業代行」というサービス(『戦略経営者』2022年10月号P69 図表4)メニューが気になるのですが。

髙田 一般的な営業代行サービスは、着手金数十万円、アポイント1件数万、あとは売り上げから何割かのフィーといった感じなのでしょうが、われわれの料金は5万円(契約期間3カ月)のみで、首都圏のバイヤー最大3社に商品を持ち込み、成約につなげています。

──なぜでしょう。

髙田 既述の通り、事前コンサルティングで問題点を潰してから具体的なサービスを提供する仕組みだからです。

「営業代行」で具体的成果が

──成約事例は?

髙田 北海道の食品製造業の事例を紹介しましょう。この企業では、コロッケ、メンチカツ、「いももち」といった地元食材を生かしたこだわりの商品づくりをしているのですが、コロナ禍の影響で売り上げが減少。首都圏への営業を強化したいという意向を持っていました。そこで、われわれの無料相談を繰り返し受けながら商品の特徴を整理していきました。そのプロセスのなかで「地元食材を使用した手作り商品」(質の高さ、地域性)「化学調味料や保存料不使用」(健康志向)「電子レンジ調理可、個包装」(簡便、個食)といった訴求ポイントが浮かび上がり、そこに合致したバイヤーを選定し持ち込みを実施。「地元食材を使用したこだわりの商品は魅力的」との評価を得て大手百貨店のカタログ、ECサイトでの「北海道特集」で採用されました。結果、掲載から1週間で1,000個以上受注という成果が上がりました。

──すごい成果ですね。

髙田 もう一つは、美濃焼の洋食器・雑貨販売製造業の事例です。この企業では、海外からの廉価品の流入で売り上げが減少するという構造的な問題を抱えていました。そのため、新素材を開発し付加価値を付けて販売しようと考えたのですが、その新素材の魅力をどう消費者に伝えたらよいか困っていました。無料相談で当社コンサルタントと話し合いながら、最適な販売方法を模索。企業側が、おしゃれやかわいいものを嗜好する女性をターゲットにし、手に取れる実店舗での販売を希望。われわれは、この希望に合致するバイヤーを選別して持ち込みました。すると、日本のものづくりにこだわった雑貨品を扱っている卸売業者から、「ぜひ商談させてほしい」との反応があり、結果、この卸売業者が取引先の小売店に提案すると同時に自社のECサイトでの販売を請け負うという成果につながりました。

──商品のブラッシュアップに関しても、具体的なメニューを用意されています。

髙田 大手デザイン・ブランディング会社のT3デザインと連携して、洗練されたパッケージ・デザイン制作を、特別価格で提供しています。また、クラウドファンディング(CF)最大手のキャンプファイヤーと連携して、同社プラットフォームへの掲載を検討する事業者を支援。さらに、テストマーケティング・プロモーションを実践する場としてシェアショールームの「monova」、体験型店舗「b8ta」へも特別価格で出品することができます。

自治体の展示会・商談会を企画

──サービスを受けられるのは信用金庫の取引先だけですか。

髙田 基本的にはそうです。ただ、最近は意外なところから当社のソリューションを活用したいといった引き合いがきていて、たとえば自治体が主催する商談会や産業フェア、マルシェ等の企画運営をわれわれが地方自治体向けコンサルティングとして請け負うケースがあります。その場合、出展商品のブラッシュアップを行った上で成約率を上げていく努力をするわけですが、そこでは信用金庫の取引先以外も含めてブラッシュアップを行います。自治体から事業を請け負うことで、利益を確保し、その分、個々の事業者の負担を軽くしていくという思惑もあります。

──自治体主催の展示会や商談会の請負もされているとは驚きです。

髙田 これは冒頭に述べた「面」での展開にもつながります。商談会に限らず、自治体の事業者支援に関する事業の受託も行っています。

──とても具体性がありますね。

髙田 今準備しているのが海外向け販路拡大サービスです。従来の金融機関が展開する海外支援は、国内と同様、展示会や商談会への出展という手法がほとんどでした。しかし我々は、海外でも営業代行サービスを展開するつもりです。

──どこでですか。

髙田 アフリカを考えています。通常、金融機関は海外拠点があるところで販売するのが常道ですが、われわれは、そうした拠点のないところで活動していくつもりです。その方が市場にうまみがありますから。ただ、そのためには信頼できるパートナーを見つける必要がある。今回、アフリカ進出を考えているのは、そうしたパートナーを見つけることができたからです。現在、テストマーケティングを準備していますが、アフリカをはじめとして世界で日本の中小企業の製品を展開していく予定です。

──地域商社という名称からは想像できない取り組みですね。

髙田 われわれ独自で企画したサービスの売り込みにも取り組んでいます。最近、国や金融機関を含めた経済界が強く意識するようになっているSDGsの目標のひとつに「質の高い教育をみんなに」がありますが、この目標にかかわるサービスとして、アートに触れる機会の少ない小さな自治体の子供たち向けに音楽会を企画・開催していきます。まずは今秋を予定し、その後も子供向けのイメージキャラクターを看板にしつつ新しいサービスとして改善していきます。これは他社ではやっていない取り組みです。

各信金が伴走支援

──ところで、2つ目の柱である地方自治体向けのコンサル事業のノウハウはどうやって獲得されたのですか。

髙田 20年くらい前に、ある自治体から信金中金に商店街の活性化を支援してくれないかとの依頼があり、その案件を手掛けてから相談が増えてきて、自然とノウハウが積みあがったという感じです。経済調査・産業振興、総合計画・戦略の策定、市街地活性化、駅前再開発、ふるさと納税、道の駅の新設、空き家対策など案件はさまざまで、第3セクターのテコ入れなども請け負いながら、2002年以降で95もの案件を手掛けてきました。地域商社事業と同様、この分野においてもわれわれの事業の特徴は、254の信用金庫の広範なネットワークが活用できるところです。
 また、民間のコンサル会社では成果物をもって事業を終了しますが、われわれのサービスでは各信用金庫に進捗状況もフォローしてもらっています。この点も当社の大きな特徴です。

──地域の活性化と個々の企業の業績は連動しているということですね。

髙田 それこそが、冒頭申し上げた2つを事業の柱にしている理由です。まだまだ当社の認知度は低いですが、この2つの事業を連動させながら他に例のない地域商社として、存在意義を発揮できるよう頑張ります。

(取材協力・温井德子税理士/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 しんきん地域創生ネットワーク株式会社
設立 2021年7月
所在地 東京都中央区日本橋本町4-12-20
社員数 20名
URL https://shinkin-chiiki-net.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2022年10月号