「アップサイクル」とは不用品やそのままでは廃棄処分になってしまうモノを活用し、以前よりも付加価値の高い商品を作り出すこと。SDGsの目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献する手法として注目されている。中小企業の取り組み事例などを取材した。

プロフィール
かやま・としや●東京大学農学部国際開発農学専修卒業。東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修了。専門は廃棄物、3R政策(リデュース・リユース・リサイクル)、バイオマス政策、環境技術など。
キーワードは“アップサイクル”

 近年環境負荷の低減に貢献する経済活動の一つとして「アップサイクル」という言葉をよく聞くようになった。すでにおなじみとなっているリサイクルやリユースと何が違うのだろうか。

 リユース市場は、年々すそ野が広がりつつある。ブックオフやハードオフ、セカンドストリートなどリユースショップの流通経路が堅調に拡大しているのに加え、ヤフオクなどのオークションサイト、メルカリなどのフリマアプリなどCtoCの流通経路の多様化が進み、市場が拡大している。中でも、フリマアプリは近年利用者が急速に拡大し、特に20、30代といった若い世代でリユース製品の利用に抵抗感が少ない。

 一方、リサイクル市場は、廃棄物処理に関する法規制法への対処として進められてきた側面がある。事業者は環境負荷の低減についての責務を負っており、リサイクルによって製品・素材として再利用することがその手段の一つになるからだ。従ってリサイクルは、本来価値のない、費用を払って引き取ってもらうものである廃棄物に手を加え、元の製品・素材または別の製品に変える行為のことを指す。生ごみなどを加工して豚など家畜の餌にする例がそうだ。

 リユース製品、リサイクル製品ともに製品・素材の寿命を延ばすことにつながるが、最終的には捨てられてしまうものには変わりがない。廃棄物は公衆衛生や周辺環境に影響を及ぼさないよう焼却や破砕、埋め立てなどの手段によって処理される。

 そもそもリサイクルは、元の製品に比べ品質が低下するのが一般的である。プラスチックのリサイクルを考えてみよう。バージンの素材で作った新製品に比べ、リサイクルしたプラスチックは不純物がどうしても混じってしまい、品質や機能性の低下は避けられない。紙はリサイクル製品の代表的なものだが、上質紙はより品質の低いトイレットペーパーなどになる。最大限目指せても、ペットボトルのボトルtoボトルのリサイクルやガラス瓶の再生などのように元の製品と同等のものを再生産する「水平リサイクル」である。

ストーリーで心をつかむ

 ではアップサイクル製品の特長とは何か。「デザイン性が高い」「斬新なアイデア」等をあげる人もいるが、個人的には、生産工程等で生まれる廃棄物などを用いて新たな価値を創造する点が最大の特徴だと考えている。新たな価値の中身が重要なので、品質や機能の高低にだけ注目していては本質を見誤ってしまう可能性がある。

 新しく価値が創造されるということは、製品が生み出されるに至ったストーリーが必ずある。

 例えば「SEAL」ブランドで廃タイヤを原料にバッグを製造販売しているモンドデザイン。これまで使い終わったタイヤは、水平リサイクルすることができず、基本的には熱回収という形で燃料として使われてきた。しかし同社は廃タイヤを素材にバッグを作るという誰も手がけなかったことを行った。このストーリーがあるからこそ、少々高価格でもユーザーからの支持が得られるのである。仮にゴムメーカーからバージンのゴムを材料として購入して同じデザインで製品を作っても、今と同じように売れる保証はないだろう。廃タイヤを職人の手でおしゃれなバッグに変貌させるというようなストーリーがブランディングに不可欠だったのである。

 ストーリーに地域連携や障がい者雇用などのテーマを盛り込んだのが、カエルデザインだ。同社は浜辺に打ち寄せられる漂着ごみの中から色とりどりのプラスチックを集め、それらを組み合わせるなど加工してイヤリングなどのアクセサリーを作っている。ごみ拾いから加工、販売に至るまでの工程で、地域の福祉施設に所属している障がい者の方が担い手となっているのだ。そうした現状を消費者に伝えることで、ただのアクセサリーに社会的な意義や価値が加わる。これもアクセサリーメーカーが原料会社からプラスチック樹脂を買って同じ形と色の製品をつくっても共感は得られないだろう。

食品分野で取り組みが先行

 アップサイクル製品に関心が高いのはどのような消費者層だろうか。アップサイクル製品についての意識調査はさまざまな機関が行っており、結果にはかなりばらつきがあるが、おおむね1~3割程度の認知度だとみている。年齢層でいえば比較的若い層の関心が高く、アップサイクル製品にはファッションや食品などの事例が多いことから、男女別ではより女性の認知度が高いと推察される。

 アップサイクル製品としてアピールしやすい業種はあるだろうか。現在最も進んでいるのが食品加工の分野だろう。食品はプラスチックや繊維などの材料とは異なり、一度商品となったものの食べ残しや廃棄物を水平リサイクルするのは極めて難しい。腐敗というタイムリミットがあるのも制約になる。

 したがってこれまでは主に家畜の飼料や堆肥、土壌改良剤などへのリサイクルとして活用するほかはなかった。ところが最近では、まったく新しい価値を持ったアップサイクル商品を手掛ける例が目立つようになってきた。例えばオイシックスは野菜のヘタなどをフライにした新商品を開発、販売している。このほか成分だけを抽出してサプリメントの原料にしたり、自然由来の染色原料など食品以外の用途に使う試みもあるようだ。

 アップサイクル商品の第三者認証機関として米国で2019年に設立されたアップサイクル食品協会(Upcycled Food Association)が次の5つの基準を定めている。

  1. 1.そのままであれば廃棄されてしまう原材料から作られる。
  2. 2.付加価値のある製品である。
  3. 3.人間が消費するものである。
  4. 4.監査可能なサプライチェーンを有する。
  5. 5.どの原材料がアップサイクルされたものかを表示している。

問われるSDGsへの姿勢

 一度使用したものを再び使えるものにする、つまり元の製品をできるだけ再現するのがリサイクルの究極的な目的だとはじめに述べた。しかもリサイクルは基本的に質が低下する一方、手間暇がかかるので価格は高い。一方で新しい価値を内包したアップサイクル製品は、そもそも比較する製品がない。つまり市場に投入する際に自由な値付けが可能なのである。ビール会社が工場で発生した大量の発酵酵母を有効利用した例などはあるが、現時点では大量生産ではない職人芸的に開発された製品の方が注目されている。先述した廃タイヤ製バッグやプラスチックごみを原料としたアクセサリーも価格帯は高めだが、リピーターを獲得することで着実に業績を伸ばしている。ストーリー性や唯一無二性に消費者が価値を見いだしているのである。

 経営戦略の観点からいうと、アップサイクル製品への取り組みは、捨てられていた原料を有効活用するという側面だけではない。SDGsに対しどのような姿勢でのぞむのかという観点が根底にある。地域経済への貢献、文化の継承、障がい者雇用……企業の社会的課題への向き合い方の一つとして位置づけられるのである。その取り組みが消費者に認知されればされるほど企業価値は高まる。

採用面でプラス効果も

 企業に対する好印象、高評価が企業にもたらすメリットは大きい。例えば採用面では確実にアドバンテージになる。埼玉県などで事業を展開する産業廃棄物処理会社のナカダイは、新卒採用の倍率が極めて高いことで有名だ。「循環を前提とした社会の構築」というビジョンを掲げ、アップサイクル関連の事業開発を積極的に行う「モノ:ファクトリー」事業などに約10年前から取り組んでいる。産業廃棄物処理会社は以前は典型的な「3K」業界として不人気の職種だったが、SDGsに関心の高い若者世代のあこがれの企業になっているのである。こうした取り組みを継続すれば、優秀な人材が集まり、定着率も向上し、社員が誇りをもって働ける持続性のある職場環境が実現するだろう。

 BtoCや人事面でのプラス効果にとどまらない。BtoB、特に大手企業との取引においてメリットが出てくるかもしれない。アップルが再生可能エネルギーの100%利用を達成している企業との取引を進めているのはよく知られた話だが、SDGsへの取り組み姿勢・体制整備が企業間取引の土俵に立つための条件の一つになりつつある。そうした場合、アップサイクル製品に対する取り組み実績があれば、評価においてプラスに働くことは間違いないだろう。

(本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2022年12月号