近々、時間外労働の割増賃金率が引き上げられると聞きました。割増賃金の計算方法や改定に備えて取り組むべきことを教えてください。(金属製品塗装業)

 2023年3月現在、中小企業の法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)については月間60時間以下の分も、超えた分も、25%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要がありますが、4月以降、60時間を超える時間外労働については50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになります。

 これにより、深夜労働や休日労働の取り扱いも注意が必要になります。深夜労働の場合、月60時間を超える時間外労働を深夜(22時~翌朝5時)に行わせる場合の割増賃金率は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上で75%以上となります。

 一方、休日労働の場合、法定休日に行った労働時間は時間外労働時間の算定には含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は時間外労働の算定に含まれます。ちなみに、法定休日労働の割増賃金率は35%です。

割増賃金率の算出例

 上記(『戦略経営者』2023年3月号 P42)のカレンダーを参考に割増賃金率の算出例を確認していきましょう。やや極端な例ですが、カレンダー内の数字はその日の時間外労働時間を指します。また、法定休日は日曜です。

 まず白地の部分ですが、ここは60時間以下の時間外労働にあたるので、割増賃金率は25%で計算します。注目すべきは23日です。この日は3時間の時間外労働を行っていますが、これにより時間外労働時間が60時間に達したため、24日以降の割増賃金は50%で計算することになります。この場合、緑色の枠の24~27日、29~31日の時間外労働時間が対象です。

 一方、日曜日は法定休日にあたるため、7日と28日の労働時間は既述の通り、法定休日労働の割増賃金率である35%で計算します。

 これらををまとめると次のようになります。

●時間外労働(60時間以下)…白色部分、割増賃金率は25%。
●時間外労働(60時間超)…緑色部分、同50%。
●法定休日労働…赤色部分、同35%。

休暇に替えることも可能

 1カ月60時間を超える時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の代わりに代替休暇(有給)を付与することができます。この場合、①代替休暇の時間数の具体的な算定方法②代替休暇の単位③代替休暇を与えることができる期間④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日――の4つを定めた労使協定を結ぶ必要があります。

 また、「働き方改革推進支援助成金」「業務改善助成金」といった働き方改革や生産性向上に向けた取り組みを行う事業者を支援する助成金、季節性や繁閑のある業務について時間外労働を削減しながら労働時間を確保できる「変形労働時間制度」など、これらの制度を活用して体制を整備することをおすすめします。

掲載:『戦略経営者』2023年3月号