楽器を中心とした運輸事業を手がけている川合運輸は「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用し、すべての取引金融機関に最新の業績データを提供している。川合修社長は「適時適切に自社の業績を開示したことで融資を受けるまでのスピードが格段に上がった」と話す。

きめの細かい顧客対応で多くのリピーターを獲得

──1935(昭和10)年創業と長い業歴をお持ちですね。

川合修社長

川合修社長

川合修社長(以下社長) 創業者である祖父が川越市で運輸業を興して以来、農機具や化学製品、電子部品などさまざまな製品の輸送を手がけてきました。戦争の影響で営業を中断していた時期もありましたが、約90年もの間事業を継続することができたのは時代の変化にあわせて輸送品目を変えてきたから。いわゆる“トランスフォーメーション”ですね。現在は楽器の運輸事業を主に展開しており、埼玉や東京、神奈川、千葉など関東地方にある学校の吹奏楽部、音大、音楽サークル、オーケストラが主なお客さまです。

──楽器の輸送にシフトしたのはなぜでしょうか。

社長 リーマンショックの影響で運輸需要が落ち込み、業績が急激に悪化したからです。会社の立て直しを図るためにいろいろなアイデアを吟味するなかで、まず既存事業の底上げを図るという方針を定めました。経営危機のさなかで新事業を始める余力などありませんから……。
 楽器に注目したのは知識と興味があったからです。学生時代、吹奏楽部に所属していたので楽器の取り扱いには慣れていましたし、実際に楽器の輸送を引き受けたことがあったので要領もつかんでいる。何より、「自分の興味のある分野をとことん追求したい」という思いをずっと持っていたので、2010年ごろから本格的に楽器の運搬を手がけるようになりました。楽器に特化して以降、おかげさまで埼玉県内の学校を中心に輸送の依頼が相次ぎ、業績も徐々に上り調子になりました。

──要因は何でしょう。

社長 手前味噌ですが、「顧客への対応が行き届いている」と評価いただくことが多いです。演奏者にとって楽器は自分の体と同じくらい、もしくはそれ以上に大切なものですから運搬へのこだわりが強いお客さまも少なくありません。例えばコントラバスという大型の弦楽器を運ぶにあたり、「立てかけてほしい」という声もあれば、「寝かせてほしい」という声もあるように、お客さまごとに「この楽器はこう運んでほしい」という要望がまったく異なるのです。こういった意見をくみ取り、一つ一つの楽器を希望どおりに運搬することでお客さまの信頼を得てきました。実際にお客さまの多くが、演奏会が行われるたびに当社の運搬サービスを利用されています。

──業務品質の高さが支持を集めているのですね。

川合惠子専務(以下専務) ドライバーには毎月、「自己評価シート」と「ヒヤリハットアンケート」の記入を義務づけており、日々の業務のなかで気づいたことや仕事上のリスクと感じることを書いて提出させています。ここで上がった意見は半年単位で集計し、全社員が参加する全体会議で発表し対策を議論しています。このほか、お客さまから寄せられた要望も会議のなかでこと細かに共有しているので、担当者が変わってもお客さまが望むような形で運搬することができています。

社長 演奏会やコンクールは出演時間やリハーサルなどスケジュールがきっちり決められているので、ドライバーにはスピーディーな輸送、搬入、搬出が求められます。1分1秒たりとも無駄にはできないので、顧客の要望はもとより、積み込み場所から会場へのルート、搬入スペースの広さなどを事前に確認するよう徹底しています。こうした地道な取り組みの積み重ねが顧客満足度の向上につながっているのだと思います。

坂戸市にある自社倉庫

坂戸市にある自社倉庫

MISの活用でスムーズかつスピーディーな借り入れを実現

髙柳尚弘顧問税理士

髙柳尚弘顧問税理士

──髙柳尚弘先生との関係は?

社長 先代である父と先生のお父さまが知り合いで、父の相続手続きを先生にお願いしたことを機に、当社の税務・会計関係を見ていただくようになりました。

髙柳税理士 私の父と社長のお父さまは前職が教師で同じ学校に勤めたことのある関係でした。1994年に税務顧問に就いたので、かれこれ30年ほどのお付き合いになりますね。

──「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」ですべての取引金融機関に決算書と月次試算表を提供されているそうですが、利用を始めたきっかけを教えてください。

社長 2017年ごろでしょうか、先生から「金融機関に決算書をデータで送る画期的なサービスがある」と説明を受けたことがきっかけです。先生のお勧めするサービスは迷わず取り入れるようにしているので、このときも「利用します」と二つ返事で答えたように記憶しています。

──MISを利用する前と後で大きく変わったことは?

社長 融資のスピードですね。申し込みから審査が下りるまでの速さは格段に上がりました。

──どのようなときにそれを実感されましたか。

社長 借りたお金は主にトラックの購入費用に充てているのですが、昨今の半導体不足の影響で予約から納車まで間が空くようになりました。長いときで半年から1年ほど待たされたこともあります。かと思えば、急に「納車のめどが立った」と販売店から連絡が入り、急きょ購入費用の準備に迫られたこともありました。数千万円もの資金を迅速に確保するのは容易ではありませんが、当社では毎月のように最新業績を開示していたので、追加の提出書類も最小限で済み、迅速な融資の実行につながりました。このサービスを使っていなければ、ここまでスムーズかつスピーディーに資金を借りることはできなかったと思います。

髙柳 川合運輸さんでは借り入れのない金融機関に対してもMISで情報開示しており、そのうちの何件かで新規融資につながっています。
 社長がお話しされたように、会社経営では急にまとまった資金が必要になることがあるので、当事務所では借り入れのないところも含めてすべての金融機関に業績データを送るよう、全顧問先に対して働きかけています。MISによって金融機関との信頼関係が醸成された事例が川合運輸さん以外にも数多くあります。

──ところで社長自身が経理業務を担当されているとか。

社長 もともと経理は自分でやっていたので、その延長で取引の入力は今も私が担当しています。「仕訳辞書」や「銀行信販データ受信機能」など、手入力を省力化できる機能が充実しているところがいいですね。

経営計画を練り直し“反転攻勢”へ

──現在、「ポストコロナ持続的発展計画事業」(早期経営改善計画策定支援事業)を活用して経営計画を作成されているそうですが、当事業を利用された理由は?

専務 コロナ禍で落ち込んだ業績を立て直すことが一つ。もう一つは働き方改革を見据えた社内の体制づくりですね。先生の勧めで過去にこの制度を利用して経営計画を作っており、当初は計画値を上回る勢いで推移していたのですが、新型コロナの影響で再び業績が落ち込むようになりました。挽回を図るために経営計画の見直しを考えていたところ、先生から「新型コロナの影響を受けている事業者であれば2回目の利用ができる」と教えていただいたので、現在、先生と打ち合わせを重ねながら経営課題の把握と計画の見直しを進めています。

──内容を教えてください。

川合惠子専務

川合惠子専務

専務 まずコロナ禍で失われた売り上げを立て直すために顧客ごとの限界利益率を精査しながら、ポストコロナに向けた新しい料金体系を検討しています。あとは運輸業界特有の課題である「2024年問題」への対応策も盛り込んでいます。時間外労働時間の上限設定や同一労働同一賃金への対応、勤務間インターバルなどの施策が来年から適用されるので、社員にとってより働きやすい職場環境をつくりつつ、売り上げを伸ばしていくための取り組みを模索しています。

社長 長かったコロナ禍もようやく落ち着きつつあるので、経営計画の内容を愚直に実行しながら、巻き返しを図っていきたいですね。

(取材協力・髙柳公認会計士事務所/本誌・中井修平)

会社概要
名称 川合運輸株式会社
業種 運輸業
創業 1935年
所在地 埼玉県さいたま市浦和区仲町4-1-12-701(本社)
埼玉県坂戸市紺屋660-2(倉庫)
社員数 7名
URL https://www.kawaiunyu.co.jp/
顧問税理士 髙柳公認会計士事務所
副所長・税理士 髙柳尚弘
埼玉県狭山市中央1-48-16
URL: https://www.tkcnf.com/takayanagikaikei

掲載:『戦略経営者』2023年4月号