日本の物流が今、転換期に差しかかっている。2024年4月以降、トラックドライバーの労働時間に規制が設けられるため、輸送能力が著しく低下し、今までのように円滑にモノが運べなくなる可能性が懸念されているのだ。
 いわゆる「物流の2024年問題」である(『戦略経営者』2023年8月号 P9図表)。

輸送能力が10%減

どうする?2024年問題

 今年の4月には「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引き上げ」が中小企業にも適用され、来年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制(年960時間)、ならびに「改正改善基準告示」が適用される。改善基準告示とはトラックドライバーの拘束時間(労働時間+休憩時間)、休息期間(勤務間インターバル)、運転時間などの基準を定めたもので、24年4月以降は拘束時間や休憩時間などの規制がより厳格になる(『戦略経営者』2023年8月号 P11図表)。

 これらの施策はトラックドライバーの労働環境を改善し、物流業界の働きがいを向上させることが目的であるが、一方で何も対策を講じなければ「荷主や消費者のニーズに応えられなくなり、 今までどおりの輸送ができなくなる」「必要なときに必要なものが届かなくなる」「当日、翌日配達の宅配サービスが受けられなくなる」などの問題が起こると予想されている。

 日本通運子会社のNX総合研究所(東京都)は、前述の規制が適用されることで24年には14.2%(トラックドライバー14万人相当)、30年には34.1%(同34万人相当)の輸送能力が不足してしまうと試算する。物流業界ではドライバー不足が深刻化しており、人員の確保も困難を極めることから、今の物流体制を維持するには早急に対策を立てる必要があるだろう。

物流業界だけの課題ではない

 では2024年問題の解決を目指して、具体的にどんなアクションを起こす必要があるのだろうか。特集では2024年問題が物流事業者、荷主、一般消費者などさまざまな立場に及ぼす影響とその対策について考察する。

 まずPART1では荷主や一般消費者が2024年問題にいかに備えるべきかを、公益社団法人全日本トラック協会の星野治彦役員待遇企画部長が解説する(『戦略経営者』2023年8月号 P10)。

「『送料無料』『お急ぎ便』などのサービスはドライバーの努力や苦労のもとに成り立っている。2024年問題は物流業界だけの課題ではなく、私たちの生活と密接にかかわっている」との星野部長の強い口調から、2024年問題の危機感が広く共有されていないことの“もどかしさ”が伝わってくる。

 続くPART2では物流事業者への影響や企業独自の取り組みなどを取り上げる。日東物流(『戦略経営者』2023年8月号 P18)の菅原拓也社長は、過去の苦い経験から物流業界ではいち早く健康経営やコンプライアンス順守などの取り組みに着手した。時間外労働の上限規制、「改正改善基準告示」の適用が迫るなか、労働環境のさらなる改善を目指す同社の取り組みは、多くのトラック運送事業者の参考となることだろう。

 繰り返しになるが、何らかの手を打たない限り、現下の物流体制を維持することは難しい。2024年問題は物流事業者だけではなく、荷主企業や一般消費者を含めた全員が当事者意識を持って知恵を絞り、解決に向けてアクションを起こさなければならないのである。

(本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2023年8月号