経営者に必須の知識やスキルを学ぶ中小企業大学校東京校の「経営後継者研修」。自社分析を中心に財務やマーケティング、リスクマネジメントなど、充実したカリキュラムに定評がある。昨年10月に入校した21名の後継者は自らの業務を離れ、立派な経営者になることを目指して研鑽に努めた。後継者たちは研修を通して何を育み、何を身に付けたのか。学びの過程を追う。

次世代経営者の育て方

 事業承継に関して興味深いデータがある。東京商工リサーチが実施した「中小企業が直面する経営課題に関するアンケート調査」によると、「後継者の選定理由」としてもっとも多かった回答が「経営者としての自覚・当事者意識を備えたため」だった。次に「自社や他社で十分な実務経験を積んだため」「経営者として必要な知識・スキルを習得したため」と続くことから、中小企業経営者の多くが、後継者が経営者にふさわしい資質、知識やスキル、経験を備えたタイミングで会社を引き継ぎたいと考えているようだ。

 とはいえ、経営者としての自覚や当事者意識、会社経営に欠かせない知識・スキルは、そう簡単には定着しない。後継者の心の持ち方や経営に関するセンスが問われるからだ。最近は経営者と血縁関係にあっても事業承継に後ろ向きな後継者が少なくない。後継者が主体的に“会社を受け継ぐ覚悟”を決めるために、経営者はどう働きかければよいのだろうか──。

自社をとことん深掘りする

 そんな後継ぎ問題に悩む中小企業経営者に高い支持を得ているのが、中小企業大学校東京校の「経営後継者研修」である。

 経営後継者研修は国が行う後継者育成プログラムで、次世代を担う後継者たちが10カ月間、自社の業務を離れて、会社経営に必要なスキルやマインドを育む。2023年度(23年10月~24年7月)で第44期を迎え、これまでに研修を受講したOB・OGは800人超。そのほとんどが経営者・経営幹部として会社経営の第一線で活躍しているという。

 研修で学んだ内容はすべて自社に当てはめて考えるため、経営の現場で役立つ実践的な知識として習得できること。今まで気がつかなかった自社の魅力や社会に提供している価値を再発見し、経営者としての“自覚”や“覚悟”を呼び起こすこと──。経営後継者研修の勘どころはこの2つに集約されている。

 カリキュラムはP23の図表(『戦略経営者』2023年9月号)のとおりで、研修の軸となるのが前述した「自社分析」だ。講義・実習で学んだ知識やスキルを生かし、自社の強みや弱みを多角的に分析。その結果あらわになった現状と課題、そしてその課題を解決するためのアクションプランをゼミナール論文としてまとめる。 

 そんな、学びの集大成とも言えるゼミナール論文発表会が7月13~14日の2日間にわたって、中小企業大学校東京校の講堂で開催。当日は昨年10月に入校した第43期生21名が発表に臨んだ。年齢は25歳未満~40代と幅広く、会社の所在地も全国津々浦々。業種も多岐にわたるなど、顔ぶれはバラエティーに富む。

 発表会ではすべての後継者が自社を成長に導くためのアクションプランを、研修に送り出した派遣元企業の社長や社員、ゼミナール講師に向けて披露。それぞれが個性あふれるプレゼンを行い、なかには派遣元企業、同期生、講師、研修の運営事務局など、お世話になった人への謝辞で言葉に詰まり、涙ぐむ発表者もいた。研修での学びが充実していた何よりの証拠だろう。後継者は研修で学んだ知識やスキルを発揮し、次世代経営者として自社をさらなる飛躍へと導くことが期待される。

 特集では研修を受講した後継者、研修に送り出した経営者、研修講師へのインタビューを実施。経営者としての自覚や当事者意識が芽生えるプロセスを追った。

(構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2023年9月号