静岡県磐田市を拠点に高周波誘導加熱装置の設計・製作を手がけるミヤデン。鈴木英司社長は「当社の強みは顧客の要望をつぶさにくみ取る営業力と、それを形にする技術力。当社の加熱装置は金属加工にとどまらない多彩な用途で活用されている」と語る。

プロフィール
すずき・えいじ●1969年生まれ。2008年に代表取締役社長に就任。「あらゆる分野で活躍し、新たな価値と新たな可能性の扉を開く」を経営基本方針に掲げ、高周波誘導加熱装置の設計製作に全力を注ぐ。座右の銘は「実るほど頭が下がる稲穂かな」。
鈴木英司社長

鈴木英司社長

 当社は高周波誘導加熱装置の設計・製造を全品オーダーメードで手がけている会社です。高周波誘導加熱装置とは、その名のとおり高周波の電流を流すことで金属等の素材を加熱処理する装置で、金属製品のろう付け、自動車部品・電子部品のはんだ付けや焼き入れ、金属パイプ等の焼鈍(加熱後に徐々に冷却して金属を軟化させる処理)やプレス加工品の絞り・曲げ加工の前処理モーターなどの絶縁樹脂コーティングやパイプの酸化防止膜コーティングなど、幅広い用途で活用されています。

「鍛冶屋の仕事を機械化したもの」と説明すればイメージしやすいでしょうか。従来はガスバーナーなどを使って素材を加熱することが多いのですが、高周波誘導加熱装置では電気を用いて加熱するのでCO2の排出を抑えることができ、さらに高周波でしか実現できない局所加熱による精密加工もボタン操作で簡単に行えることから、加熱処理の省力化や品質向上が期待できます。

 部品の小型化にともない、最近は小型軽量タイプの装置も多く販売しています。

一貫生産体制で多彩な分野へ

ここがポイント▼
  1. ①高周波誘導加熱装置は主に金属素材の熱処理のために用いられる装置
  2. ②食品メーカー、医療機関など幅広い業種の導入実績が多数
  3. ③導入前のヒアリングから設計、製造、販売、アフターフォローまで自社で行う「一貫生産体制」で顧客の安心と信頼を獲得

 高周波誘導加熱装置は、主に自動車部品や精密部品といった金属素材を加工するために用いられることが多く、工場で働かない限り目にすることはないでしょう。装置の認知度も決して高いとは言えません。それゆえに、当社はニッチ商品を手がけていると認識されることが多いのですが、実は消費者のごく身近な分野で当社の装置が活用されているのです。

 例えば、ある総合病院では使用済み注射針の滅菌処理用として当社の装置を活用いただいています。金属は60度以上で加熱すると滅菌状態になるため、安全を配慮したうえで注射針を破棄するべく、針の先端を溶かす用途として利用されています。

 最近は飲食業界からの引き合いも相次いでおり、加工食品の調理や焼肉用の金網に付着した炭を落とす工程でも活用されています。このように、当社の装置は金属素材のみならず、加熱処理が求められる分野で幅広く活躍しているのです。

 当社の装置が多岐にわたる業種で活用されている要因、それはお客さまの要望に合致した装置を1台1台手づくりで仕上げる「オーダーメード方式」を採用していること。そして導入前のヒアリングから設計・製造・販売・納品・設置・アフターフォローまですべて自前で行う「一貫生産体制」を敷いているところにあります。

 当社では装置の用途やお客さまが求める性能、サイズ感などをもとに仕様を固め、お客さま立ち会いのもとで加工テストを実施したのち、導入を判断いただいています。すなわち、「加熱装置を使って何を実現したいのか」をつぶさにくみ取り、それをしっかりと形にできなければ、お客さまの納得感を引き出すことができないのです。営業スタッフが顧客の要望を丹念に聞き取り、それをもとに技術スタッフが創業以来培ってきた高周波技術のノウハウをもって形にしています。

迅速なアフターフォローも売り

 アフターフォローの手厚さも当社の売りです。装置の操作指導やメンテナンス、トラブル対応などでお客さまから問い合わせが入れば、遅くとも翌日には現場に駆けつけます。

 当社がこれほどまでにアフターフォローに力を注いでいる理由は、創業当初のメイン事業が装置の補修・メンテナンスだったから。ひとたび装置が故障してしまうと製品の供給が滞り、納期が遅れ、ひいては売り上げの減少を招いてしまいます。私自身も、かつて装置のトラブル対応で多くの工場を訪問しましたが、生産ラインがストップしたときの工場スタッフの絶望した表情は今でも脳裏に焼き付いています。これらの経験から、お客さまに安心して装置を使っていただくためにも、導入後のフォローも充実させておく必要があると痛感したのです。

 ヒアリングから製造、アフターフォローに至るまでスピード感をもって取り組む仕組みを確立しているところに、当社の装置が選ばれる理由があるのです。

災害を想定し工場を移転

 もともと当社は磐田市内を南北に縦断する天竜川沿いに工場を構えていましたが、東日本大震災が発生した際に従業員の命を守ること、事業を継続するための準備に取り組むことの重要性を痛感し、すぐさま工場の移転計画を策定しました。

 今の場所に移転したのは2015年のこと。天竜川の氾濫による洪水・浸水のリスクを最小限に抑えるべく、立地は小高い丘を選びました。実際にハザードマップを見ても旧住所が洪水のリスクが大きい「赤」で表示されているのに対し、現住所は比較的リスクの小さい「白」で表示されています。

地域の発展を後押しする

 これからの中小企業経営は「共存」がキーワードになると考えます。原料高や半導体不足など中小企業はさまざまな課題に直面していますが、これらを自社の努力だけで解決することは難しいでしょう。顧客、従業員、地域住民、地域企業……幅広いステークホルダーの協力が不可欠です。これらの経営リスクに立ち向かっていくためにも、当社では獲得した利益のうち、一定額を地域社会の発展に向けた社会貢献活動に投資しています。

 その一つが、当社がいま積極的に進めている「シェアファクトリー事業」です。これは、工場の1区画をメーカーや技術者の作業スペースとして貸し出す事業で、現在はフリーランスの職人1名と組み立て加工を生業としている地元の中小企業1社が入居しており、今後はさらに入居企業を増やしていきたいと考えています。

 このような取り組みを通して地域の振興を後押しし、ひいては日本経済の発展を実現すること。これが私の夢であり目標なのです。

(取材協力・税理士法人無十/本誌・中井修平)

会社概要
名称 株式会社ミヤデン
業種 高周波誘導加熱装置の製造販売
創業 1973年1月
所在地 静岡県磐田市高見丘461-1
売上高 約5億円
社員数 15名
URL https://www.miyaden.com
顧問税理士 税理士法人無十
代表社員税理士 光石雅人 武藤 剛
東京都大田区蒲田5-44-5蒲田プライム5F
URL: https://muto-kaikei.co.jp/index.html

【視点】
技術の向上と社会貢献に懸ける“情熱”が印象的
税理士法人無十 代表社員税理士 光石雅人 武藤 剛

──鈴木英司社長の印象を聞かせてください。

光石 高周波誘導加熱装置の用途を押し広げてきたパイオニアという印象です。社長に就任してから30年以上経ちますが、今なお積極的に現場に出ては装置の製造販売に全力を注いでおられます。技術力や製品の品質向上に懸ける“情熱”も人一倍強く、顧客から実現の難しい要望を受けてもトライ&エラーを繰り返し、必ず形にする姿勢が素晴らしいと感じています。

武藤 先日、愛用していた眼鏡チェーンのパーツ(リング)が数ミリほど折れ曲がってしまい、駄目元で鈴木社長に相談したところ、「任せてください」と一言。工場にある装置で修理していただきました。精緻な加工を瞬時に実現する、ミヤデンさんの技術力の高さをあらためて実感しましたね。

──武藤先生は鈴木社長の人柄をどうみていますか?

武藤 シェアファクトリー事業など、社会貢献への意識が高い印象です。社長は折に触れて「CSRに関する取り組みをオフィシャルに報告できないものか」と話されています。私もその言葉を聞き、とても素晴らしい心がけだと感じました。例えば、TKCさんの決算書等で中小企業の社会貢献活動を記載できるディスクローズ機能を搭載していただけるとうれしいですね。

──TKCの自計化システム『FX4クラウド』を導入し、月次決算を徹底しているとか。

光石 鈴木社長は会計数値を頼りに意思決定を行っており、月次決算後の打ち合わせでは利益管理表から売上高、変動費、固定費の増減、貸借対照表から借入金残高やキャッシュフローの状態を重点的にチェックされています。コロナ前と比べて業績は若干落ち込んだものの、前年度(2023年8月期)は全体的に回復基調をたどっており、今後は自社技術をさらにブラッシュアップし、さらなる成長を遂げられることを期待しています。(談)

掲載:『戦略経営者』2023年10月号