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左から山岸崇裕税理士、石坂恵美経理担当。
右端は高橋秀則監査担当
業績を日々把握できる体制を整え、黒字経営を続けている糸魚川重機工業。岡島義英社長は、外部環境にも気を配りつつ、綿密な経営計画を毎年策定。40年以上取り組んできた経営計画に基づくマネジメントをさらに進化させている。
社員が採用活動を担い新卒者獲得で成果
──昨年、創業60年を迎えたそうですね。

岡島義英社長
岡島社長 当社は、自動車修理会社と建設会社の共同出資により設立されました。ほどなく大手建機メーカーと販売代理店契約を結び、建設機械の販売、修理を主力とするようになり、現在にいたります。足元の売り上げは、修理等のサービス部門が5割、販売部門が4割、レンタル部門が1割という構成になっています。
──サービス部門が「稼ぎ頭」であると。
岡島 建設機械には、1年に1回の特定自主検査と呼ばれる定期点検が義務づけられています。サービス部門で主に手がけているのは、そうした点検および整備業務です。糸魚川地域はヒスイや石灰石をはじめ、豊富な鉱物資源を産出することで知られています。地盤が固いため、建設機械の故障率はおのずと高くなる。セメント工場やスキー場など夜間に稼働している取引先さまもあり、機械の故障時には、修理担当者が24時間体制で迅速に対応しています。
──整備士不足がいわれていますが、採用活動で工夫されている点はありますか。
岡島 以前は、私が採用担当者として、地元の高校や専門学校で開催される企業説明会に赴いていました。ただ、近年は30歳前後の若手社員たちに採用活動を担当してもらっています。先日このような出来事がありました。
就職活動中の学生が見学のため来社し、社員が工場を案内し終えたのに、なかなか戻ってこない。様子をうかがうと、お互いの趣味や近所にある飲食店の話題で盛り上がっていました。その学生は当社に入社したので理由を尋ねたところ、工場見学を担当した社員と一緒に仕事したいと思ったからと言うんです。いまどきの若者は、共に仕事したい社員がいるかどうかに重きを置いて、就職先を選んでいる。ここ5年間で13名の新卒者を獲得できたのは、採用担当の若手社員の活躍によるところが大きいとみています。
──上越市に新たな拠点を建設されたそうですが、ねらいをお聞かせください。

糸魚川市の本社
岡島 本社のある糸魚川市の出生率や進学率の推移から採用活動が一層むずかしくなると見込んでいます。新工場の上越サービスセンター(SC)を開設したのは、事業拡大と人材採用を図る上で、新たな前線基地が必要になると考えたためです。ただ、いかにも修理工場然としたつくりにはしたくなかった。求職中の若者を引きつけるべく、外壁には自動車ディーラーと同じ部材を用い、事務所内のデスクやいすなどにもこだわりました。これらも若手社員が発案したアイデアです。
──営業活動はどのように?
岡島 全社員が営業マンをモットーに、「プラスワン活動」を展開しています。プラスワンとは、ふだん担当している業務に営業活動をプラスしようという意味です。例えば、現場に行って機械をただ修理するだけでなく、消耗品の交換を提案したり、取引先さまと率先してコミュニケーションをとるよう心がけています。
「20日速報会議」で当月末の行動を討議
──山岸博顧問税理士とは40年以上のお付き合いだとか。
岡島 決算申告にとどまらず、設備投資や許認可申請といった経営の節目には、山岸先生に真っ先に相談しています。昨年の上越SC立ち上げ時には、地域未来投資促進税制の申請手続きを支援してもらいました。

山岸博顧問税理士
山岸博税理士 事務所を開業してまもないころ、当時専務だった方が来所され、会社の業績を早期に把握したいとの相談を受けたのが顧問契約を結んだきっかけです。3枚複写式伝票を利用された後、消費税導入にあわせて『FX2』(戦略財務情報システム)による運用に切り替えられました。岡島社長はプログラミングに精通されており、整備管理システムを独自に開発して原価管理も行われています。
──『継続MAS』を活用した経営計画策定に長年取り組まれていると聞きました。
岡島 毎年、売上高や限界利益率等の目標数値を決めて短期経営計画を策定し、進捗状況を日々確認しています。主力業務である建設機械の点検、修理に要する期間は長くても数日程度で、1週間以上かかるケースは多くありません。そのため、個々の業務案件を日々管理することが何よりも重要です。経営計画の内容は年々精緻になってきていて部門別、拠点別など、さまざまな切り口で分析できるようになっています。
──どのような流れで経営計画を立てていますか。
岡島 計画策定に着手するのは、決算数値が確定する10月下旬です。前年の実績に少し上乗せして、前年比103%の目標にしようといった安易な決め方ではなく、幹部社員と討議を重ね、根拠を明らかにして目標値を定めています。それと、取引先さまの動向のほか、近隣市町村の人口動態といった外部環境にアンテナを張り、計画づくりに生かしています。例えば、閉山を予定している鉱山や生産中止となるセメント工場があれば、受注減を補うための打ち手を検討します。
──経営計画の進捗を確認する場は?
岡島 全部門長出席のもと、「経営会議」と「20日速報会議」を毎月開催しています。20日速報会議では、整備管理システムに日々入力している売り上げと予算を対比させ、残り10日間における、目標達成に向けた行動計画を話し合います。
山岸崇裕税理士 毎月20日時点で月次業績をつかみ、速報会議を開いている例は珍しいです。当月の着地予測をもとに打ち手を話し合えるのは、業績を日々把握されているからこそだと思います。
高橋監査担当 例年9月上旬に実施している決算事前検討会では、《変動損益計算書》の画面をプロジェクターで投影しながら、岡島社長に部門別の予想売上高を発表していただき、納税予測額を試算しています。

(左)建設機械のリース、レンタルも手がける、(右)内外のつくりにこだわった上越サービスセンター
業績をガラス張りにし社員の計数意識を醸成
──業績をオープンにされているわけですね。
岡島 当初は売上高のみを公開していましたが、社員全員に目的意識を持ってもらうよう、利益率や原価などあらゆる業績数値をつまびらかにしています。拠点ごとに実施している朝礼では、前日までの業績を説明し、目標とのかい離があれば、社員と挽回策を打ち合わせています。
──日ごろ気を配られている経営指標というと?
岡島 特に注目しているのは、1人当たり売上高ですね。当社には、売り上げに関与していない社員はいません。事務担当の社員も取引先さま向けに、作業服や自賠責保険等を販売しています。
──経営計画の進捗を検証する機会を設けられ、どのような効果がありましたか。
岡島 点検、整備案件ごとの限界利益に対する意識や、業務への目的意識が社員に浸透しつつあります。また、上越SC立ち上げに際して金融機関に融資を申し込みましたが、好条件で資金を調達できました。これも経営計画に基づき、業績を管理している効果であると感じています。
──目標をお聞かせください。
岡島 いま取り組んでいるのは、私がいつ引退しても揺るがない企業にすること。幸い、経営計画をベースに置いた業績管理が定着し、強固な体制に近づくことができました。取引先さまの修理、点検ニーズに幅広く応えるためには、人材の確保が欠かせません。あわせて社員の生活水準向上を図るべく、原資となる利益を着実に出しつづけていくのが目標です。
(取材協力・税理士法人山岸会計/本誌・小林淳一)
名称 | 糸魚川重機工業株式会社 |
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業種 | 建設機械販売、修理業 |
創業 | 1964年8月 |
所在地 | 新潟県糸魚川市寺島3-1-1 |
売上高 | 10億7,000万円(2024年9月期) |
社員数 | 35名 |
URL | https://www.itoigawa-jyuki.co.jp |
顧問税理士 |
税理士法人山岸会計
顧問税理士 山岸博 (新潟事務所)新潟県糸魚川市寺町2-2-2 URL: https://www.zyamagishi.jp |