有限会社ボールパークドットコム

プロ野球球団のキャンプ地として知られる宮崎県で、野球用品店を営むボールパークドットコム。同社の山内康信社長が立ち上げた自社ブランド「JB(ジャパン・ボールパーク)」が脚光を浴びている。また、経営の変革期に差しかかり、顧問税理士を変更。久野浩史顧問税理士によるアドバイスのもと、タイムリーに業績把握できる体制を構築し、盤石の計数管理を実践している。

有数の職人が仕上げる“和牛グラブ”を拡販

──独自製品「和牛JBグラブ」の特徴を教えてください。

山内康信社長

山内康信社長

社長 グラブの素材に日本一の食用牛として名高い、宮崎県産黒毛和牛の革を用いています。プロ野球選手をはじめ皆さんから高く評価されているのは、軽量かつしなやかで、型崩れしにくいところ。2018年2月の発売以来、おかげさまで数多くのスポーツ用品販売店さまから問い合わせをいただいています。

──もともと贈答目的で開発されたと聞いています。

社長 17年に宮崎市で開催された東京六大学野球オールスターゲームの幹事を務めた際、宮崎ならではの品物を関係者に贈りたいと考え、製造したのがきっかけです。私自身も学生時代は明治大学野球部に所属し、内野手をしていました。

──製造過程で和牛ならではのむずかしさもあるのでは?

社長 俗に霜降りといわれるように黒毛和牛には脂分が多いため、なめしの工程で脂分を適度に残すのがむずかしく、タンナー(なめし工)が匠(たくみ)の技を用いて調整しています。その後、プロ野球選手のグラブを長年製造してきた職人がひとつずつ手作業で仕上げています。

山内恵美専務

山内恵美専務

──メード・イン・ジャパンの製品だと。

専務 グラブがわずか50グラム軽いだけでも、プレーヤーの使い勝手はまったく変わるそうです。年間2000個の生産を目標にしていますが、その数をまかなえるほどの和牛が県内にはおり、原料を安定して仕入れられる環境にあります。大手スポーツ用品メーカーが製造しているグラブは、一般的に国外の牛革を使用していて、特定産地の原料をうたっている例はありません。和牛の革のほとんどは、中国などに輸出されているのが実情です。

──日ごろ、営業活動は行っていますか。

社長 グラブの良さを確かめてもらうには、やはり手に取ってもらうのが一番ですから、販売代理店をいかに増やすかが目下の課題です。そのため、営業担当者による取扱店の開拓に力を入れていて、宮城県から沖縄県までおよそ60店舗で当社製品を取り扱ってもらっています。
 近年、思いのほか宣伝効果を感じているのがソーシャルメディアによる情報の拡散ですね。販売店がツイッターやインスタグラムなどで「JB」ブランド商品の利点を日々発信してくれるので、ありがたいと感じています。

──創業前は一般企業に勤務されていたそうですね。

本社外観

本社外観

社長 大学卒業後15年間、損害保険会社でおもに保険のルートセールスを担当していました。いつかスポーツに関わる仕事がしたいという思いがあり、地元・宮崎への転勤が決また際に一念発起し、2002年にボールパークドットコムを創業。ゼロからのスタートで、ヒト・モノ・カネあらゆる面で大変でした。
 ただ宮崎県はプロ野球のキャンプ地として有名で、野球と縁の深い土地柄です。そうした地の利を生かし、日中は県内の野球グラウンドの整備をはじめとする施設管理業務を請け負いつつ、夜間にスポーツ用品店を営業するスタイルで運営してきました。その後「JB」ブランドを立ち上げ、まず木製、竹製バッドを販売しはじめたのです。

業績目標値を念頭に置き数字が会話の共通言語に

──久野(くの)浩史税理士と顧問契約を結ばれたいきさつをお聞かせください。

久野浩史顧問税理士

久野浩史顧問税理士

社長 自社ブランド製品の開発など変革期にあって、経営を幅広くサポートしてもらえる税理士の方を新たに探していました。久野会計事務所のウェブサイトで久野先生が私の以前の勤務地だった浜松市のご出身で、立教大学を卒業されていると知り、親近感を覚えたんです。そこでメールで問い合わせたところ、こころよく相談にのってもらえました。

久野 昨年の7月、山内社長と初めて面談したとき、事業にかける並々ならぬ熱意を感じました。経営計画を策定する際は、われわれが主導する場合が多いのですが、山内社長はカラー印刷した立派な経営計画書を携えてこられた。その計画書をベースに、『継続MASシステム』で5カ年の経営計画を策定しています。

──顧問契約締結を機に『FX2』を導入されたそうですが、どんな点が変わりましたか。

JBグラブ

米国のメジャーリーガーや台湾プロ野球選手も愛用する
「JBグラブ」。中心価格帯は4万5000円~5万円

社長 以前は市販の会計ソフトを利用していて、決算時に1年分の仕訳をまとめて監査してもらっていました。もうかっているかどうかの判断は、私の勘だけが頼り。そうした経理状況を改め、しっかりした財務管理を行わないと次のステップに進めないとの認識がありました。『FX2』を利用してまだ1年ほどですが、毎月の巡回監査での指導や金融機関との交渉を通して、会社の数字をコンスタントに確認する習慣が身につきました。

──金融機関に業績を定期的に報告されているとか。

社長 久野先生から「TKCモニタリング情報サービス」(MIS(※1))の利用を提案され、昨年11月の決算時には4行の地元金融機関に決算書データを送信しました。さらに今年2月以降、メインバンクには月次業績データも送信しています。

久野 金融機関に早期経営改善計画書(※2)も提出しており、タイムリーな業績開示が当社の事業内容への高い評価につながっていると感じています。

──特に注目されている勘定科目は?

社長 機械設備の購入費用をはじめとする経費科目の推移をチェックすることが多いですね。今期から『FX2』に予算を登録して予実対比も毎月行っており、月間目標利益を上げるには、いくら売り上げる必要があるか、費用をどの程度抑える必要があるか、逆算して考えるようにしています。目標数値とのかい離を早期に把握し、営業担当者に明確な指示を出せるようになりました。

──仕訳入力等の使い勝手はいかがでしょうか。

専務 従業員の給与や水道光熱費の支払いといった、毎月発生する取引を仕訳辞書に登録し、クリックするだけで呼び出せるのは便利ですね。先日、監査担当の河野(かわの)さんに「銀行信販データ受信機能(※3)」を設定してもらい、金融機関口座の入出金に関わる仕訳入力にかかる時間も短縮でき、画期的な機能だと感じています。営業時間中はお客さま対応や電話応対に追われ、経理業務が後回しになりがちなため、効率的に仕訳入力できるのは助かります。

和牛の革で製造した財布や名刺入れなどの小物類も販売する

和牛の革で製造した財布や名刺入れなどの小物類も
販売する

河野 ボールパークドットコムさまではシステムのデータをTKCデータセンターに自動的に保存する「TISCバックアップ」機能を活用されています。データの保存時間を確認したところ23時になっていた時があり、仕訳入力にかかるご負担を少しでも軽減できればと思い、「銀行信販データ受信機能」のご利用を提案しました。

社長 巡回監査で河野さんが訪問されたときは、ここぞとばかりにいろいろな相談をしています。今日は月次監査後、今期決算の業績見込みに対する打ち手を話し合いました。

──今後の事業の見通しをお聞かせください。

社長 本社隣接の土地に自社工場を新たに建設しています。現在は県外の工場に「JBグラブ」の製造を委託していますが、8月から1年間スタッフを派遣して技術を習得してきてもらい、ゆくゆくは自社工場で生産できる体制を整える予定です。特色ある野球用品メーカーとしてある程度のシェアを取り、年商を10億円まで引き上げ、末永く続く会社にしていきたいと考えています。TKCシステムの活用面では、『FX2』とあわせて『戦略販売・購買情報システム(SX2)』も導入したため、店舗別の売れ筋商品の分析などに役立てていきたいですね。

※1 TKCモニタリング情報サービス(MIS)
TKC会員事務所を通じて金融機関に決算書や月次試算表などの財務データをオンラインでタイムリーに提供できるフィンテックサービス。

※2 早期経営改善計画策定支援
資金繰り管理や採算管理など基本的な経営改善計画を作成し、早期の経営改善に取り組みたい中小企業・小規模事業者を税理士など経営革新等支援機関によって支援する国の事業。

※3 銀行信販データ受信機能
銀行や信販会社からインターネットを経由して取引データを自動受信。その取引データをもとに仕訳ルールの学習機能を利用して仕訳を簡単に計上できるフィンテックサービス。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 有限会社ボールパークドットコム
設立 2002年9月
所在地 宮崎県宮崎市吉村町下藪甲4353-5
売上高 1億5,000万円
社員数 21名
URL http://www.japan-ballpark.com/
顧問税理士 税理士 久野浩史
久野税理士事務所
宮崎県宮崎市大工2-54-3
URL:https://www.tkcnf.com/kunokaikei

掲載:『戦略経営者』2019年8月号