2度目の緊急事態宣言の発令・延長によって、ひとまず感染は抑えられつつあるやに見える。とはいえ、いまだ不透明なワクチンの接種方法や効果、出口の見えない飲食・観光業、日常生活における気の緩みなど、不安要素は少なくない。中小企業経営者にとっての「ウィズコロナ時代の身の処し方」を探ってみた。

プロフィール
わだ・こうじ●産業医科大学医学部卒業後、臨床研修医、企業での専属産業医を経て マギル大学大学院産業保健学修士課程修了。ポストドクトラルフェローの後、北里大学大学院労働衛生学博士課程修了。北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、准教授、WHOとILOのコンサルタント、厚生労働省新型インフルエンザ専門家会議委員を経験。国立国際医療研究センター国際医療協力局医師として活動の後、2018年から現職。ダイヤモンド・プリンセス号では船内の検疫活動にあたり、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、同感染症対策アドバイザリーボードにも参画。

ダイヤモンド・プリンセス号の検疫チームに参加後、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、厚生労働省の同感染症対策アドバイザリーボードのメンバーとして活動してきた国際医療福祉大学大学院の和田耕治教授に、感染症の現状と今後、パンデミックへの向き合い方を聞いた。

ウィズコロナを生き抜く

──年初からの緊急事態宣言の発令、延長をどう見ておられますか。

和田 感染が本格化してから初めての冬を迎えるということで相応の準備はしていたはずですが、想定以上に感染者が増えたことで医療のひっ迫が起こり、ご承知の通り緊急事態宣言発令という事態になりました。4週間で感染を抑えるのは難しいので、延長はやむを得ない処置だったと思います。

──宣言が遅かったのでしょうか。

和田 もう少し早く発令した方がよかったとも思いますが、経済との兼ね合いもあるので政治的な判断が難しかったのだと思います。早めに感染を抑える方が経済的なダメージも少ないのですが、そのような考え方が共有されなかったことが残念です。一方で、これからワクチンが出てくるので、今後もずっと同じ状況になるとは考えていません。しかし、現状、ワクチンを打ちたくないという人も相当数おられるようですし、長期的な効果はどうなのか、そもそも「接種」をどう行うのかなど不透明な部分もあるので、1年から2年の単位での流行の継続はあり得ると覚悟して、今後もさまざまな場所での感染対策をしっかり行う必要があると考えています。

感染リスクは昼夜を問わない

──(2月10日現在)感染者はピークアウトしたようにも思えますが、収束に向かうのでしょうか。

和田 われわれの今後の行動によります。いまのところ多くの方々の協力のおかげで、感染は収まりつつあります。ちゃんと対策をすれば感染は減るという経験は大きいと思いますが、変異株の存在もあり、もちろん油断はできません。いずれにせよ今後とも、やるべきことを周知徹底することが大事です。ただ一方で、感染対策としてはあまり効果がなさそうなことが行われている事例もあります。環境の消毒は手間の割に効果が限定的であるのに過度になされていたり、効果のあやしいグッズなどが散見されます。

――飲食店の営業時間の短縮についてはどう思われますか?

和田 会話がなく滞在時間が短い牛丼店と居酒屋では感染リスクに大きな差があります。こうしたリスクに応じた対応が今後は求められるでしょう。特に会話の多い飲食店の今後のサービスのあり方については業界や消費者を交えた対話が必要だと感じています。
 また、20時までの営業制限を行うことについて「20時以降にウイルスが活性化するのか」と揶揄される方もおられますが、もちろんそうではありません。こうした制限によって逆に「昼飲み」が増えているという現象もあるようです。が、これは本末転倒で、集まって騒げば、昼も夜も関係なく感染リスクが高まるということを周知する必要があります。
 ところで、飲食店は時短要請の間に、対策の強化がなされたでしょうか。私の目から見ると何も変わっていないように思えます。宣言が解除されたとしても、また数カ月後には、会食を止めてくださいとの要請が行われることが十分にありえるでしょう。
 飲食店といっても感染リスクはさまざまです。会話の少ないラーメン店などでは比較的リスクは小さく、一方で、フードコートやファストフードでは意外に会話が多く、会話中にマスクをしない人も散見されることからリスクは大きくなりますが、あまり積極的に対策がなされていません。
 「黙食」を推奨する動きや個室化など、店舗側、消費者側ともにもっと会食のあり方を考えないといけません。「時間を短くする」「人数を少なくする」「普段会う人とだけ」「こまめな換気」など、もう一度具体的対策を実践するよう呼びかけることが必要だと思います。
 どうしたら店内の混雑を避けられるのかという観点からすると、今後、営業時間を徐々に延ばしていくより「定員を半分にする」「一つのグループは4人までとする」などの施策を検討すべきでしょう。

──政策の意図をいかに伝えるかも大事ですね。

和田 恐怖に頼って行動をかえてもらうのではなく、今後は、「なぜしなければならないのか」ということを分かりやすく伝え、共感してもらうことが必要だと思います。

「マイクロ飛沫感染」に注意

──感染防止のための留意点は?

和田 「しゃべるところ」「食べるところ」「集うところ」のリスクが高いことは早くから分かっていましたが、そのことをわれわれがどれだけ共有できたかには課題が残ります。より多くの人が注意すべきなのは「マイクロ飛沫感染」です。ふわふわと空気中に漂うウイルスをすっと吸い込んで感染するわけですが、図表1(『戦略経営者』2021年3月号P11)のように、「密閉空間であり換気が悪い」「近距離での会話や発声がある」「手の届く距離に多くの人がいる」という三つの条件の重なった時にもっとも感染リスクが高くなります。

──どのような場所で?

和田 さまざまですが、図表2(『戦略経営者』2021年3月号P12)は、昨年の4月、ある企業の職場会議での感染状況を示したものです。発症する前の50代の女性が会議に参加し、参加者6名が感染。会議に参加していない2名も感染しました。さらに図表3(『戦略経営者』2021年3月号P12)を見てください。やはり発症前の方が居酒屋の飲み会に参加したケースです。この方の真上にエアコンがあり、空気の流れに沿ってウイルスが広がったことが良く分かります。3時間くらいの間で厨房内も含めて17名もの人に感染しました。

──やはり飲食店のリスクは高いようですね。

和田 図表4(『戦略経営者』2021年3月号P13)をご覧ください。右下に当たる高齢者施設や医療機関でのクラスターを、われわれは「デッドエンド」と呼んでいます。「行き止まり」となっていて、そこから地域へと感染がさらに広がる可能性は低いからです。ウイルスは人の間でパスをされないと生き残れません。パスをする可能性の高い場所はどこかというと、この図でいうと「会食」の部分です。「20~50代が大人数で会食する場所」がその部分に当たることが多いと考えています。

──どのような飲食店のリスクが高いのでしょうか。

和田 店員やお客がしゃべっている店です。その意味でも「黙食」は大変意味があると思います。もちろん、黙食ができないところもありますので、個室化などが今後の議論になってくるでしょう。

蛇口やドアノブの危険度は?

──電車などは?

和田 電車がとくにリスクが高いとはいえません。スーパーなども、感染対策が施してあれば大丈夫です。基本的にしゃべる場所ではありませんから。

──蛇口やドアノブからの感染はどうでしょう。

和田 今年に入って地下鉄大江戸線の職員にクラスターが発生し、手で回すタイプの蛇口が感染源との報道がありましたが、基本的にそうしたところでの感染があるとは考えていません。ドアノブなどもよく言及されていますが、ゼロとは言いませんが、ドアノブが感染源になり得るのなら、もっと感染者は増えていると思います。

──家庭内感染が急増しているといわれていますが。

和田 家庭内感染は、特定しやすいことと身近な場面として目につくので、多いように見えるのです。たとえば10軒の家庭があって、それぞれひとりずつ感染者がいるとします。そのうち他の家族への感染があるのは約2軒です。確かに、家が狭かったり親密度の高い家庭では感染が起きているので家庭内でも対策を諦めないことは大事でしょう。感染者がさみしくなって外にでたり、対策が徐々に甘くなることにも気を付けてください。家庭も職場も同じですが、感染者だと診断されていなくても、何らかの症状のある人がその他の人に近づかないことが大事です。

──ビジネスシーンでは、どのような行動を気を付ければよいでしょう。

和田 「産業医が選ぶ7つの場面」として「体調が悪くても出勤する」「向かい合ってミーティングをする」「モノを職場で共用する」「休憩室で飲食や会話をする」「社員同士で旅行をする」「歌を歌う」「対面でランチや会食をする」が挙げられています。やはり「しゃべる」場所はできるだけ避けた方がいいということです。また、オフィスでの電話の共用は止めた方がいいと思います。

──テレワークは感染予防に効果はありますか。

和田 接触機会を減らすという意味では一定の効果はあるとは思いますが、私はどちらかといえば働き方改革や社員の健康管理という別のバリューで実施すべきものだと考えています。

──新型コロナ感染症と季節性インフルエンザとの違いは?

和田 感染力と重症化のリスクが高いことです。インフルエンザよりは確実に手ごわいと思います。肥満の方、あるいは糖尿病やがんの治療中の方などのリスクが高いことが分かっています。やるべきなのは、普段から持病をコントロールすること。それしかありません。子供の感染は少なく、高校3年生くらいまでは感染しても極めて軽症で終わることが多いようですが、20代になると、行動範囲が広がることもあり他の人に感染させるケースが増加するので注意が必要です。

ウイルスの特徴は?

──症状の具体的な特徴は?

和田 図表5(『戦略経営者』2021年3月号P14)をご参照ください。米国における患者の症状の特徴ですが、「発熱、咳、呼吸苦いずれか」がどの年代も6~7割を占めています。咽頭痛や下痢が2割前後。あとは筋肉痛や倦怠感、それと頭痛は結構多いようです。意外に鼻水は少なく一けた台となっています。私は咳、発熱、咽頭痛、もう一個いれるなら下痢、そして嗅覚味覚障害。こういったものがひとつでもあれば自宅で療養し、場合によっては医療機関を受診することをお勧めしています。

──味覚や嗅覚の異常は特徴的ですね。

和田 嗅覚味覚異常は発症してから3~5日後に気づくことが多いようです。また、異常自体に気づかない人も多く、なかには、食物からガソリンのようなにおいがするといった「違ったにおい」になるケースもみられます。

──後遺症が残るという報道も多いようですが。

和田 程度の差はあれ10人中1人弱くらいに倦怠感など何らかの症状が残ることが分かっています。嗅覚や味覚についても、数カ月してやっと戻ってきたという人もいます。要するにこの感染症は「ただの風邪」ではないということです。そのことを肝に銘じてください。

──肥満の方の重症化リスクがあるというのは気になります。

和田 BMI(身長と体重から算出される肥満度を表す体格指数)30以上(肥満1~3度)の方の死亡リスクが高いとの調査結果が複数あります。そもそも肥満の方は呼吸に障害のある方もおられ、うつぶせ治療ができなかったり、重症化しても人工呼吸器がつけられなかったりすることもあるので気を付けてください。

「経営者」は特に要注意

──病院に行くほどではない軽症者に対する会社の対応はどのようにすれば?

和田 症状はあるが軽症のため、検査に行きたくないとか、検査をしてもらえなかったという人の会社への復帰は、悩ましい問題です。この感染症は発症したての頃にウイルスの排出が一番多くなるのですが、軽症の場合は自覚が薄く、発症日があいまいになることが多いので、一般的に言われている「発症して10日間の隔離」という基準が立てにくくなります。
 「症状がなくなって72時間」したら出勤を許可するという基準を私は産業医などにすすめています。72時間は無理という場合には少なくとも48時間くらいは隔離期間をとるべきでしょう。これを24時間にすると痛い目にあう可能性が高いと思います。1日後に症状がぶり返すのはよくあることですから。もちろん咳が長引くこともありますので不当に長く休ませるようなことはしてはいけません。
 また、PCR検査で陰性の証明がないと出勤させないなどのルールは求めないようにしてください。

──読者である中小企業経営者にメッセージを。

和田 経営者には元気な方が多いという印象です。統計的に明確になっているわけではありませんが「会社のなかに最初にウイルスを運び込むのは社長や役員など経営陣の方が多いのでは」とわれわれの間で話題になることがあります。要するに、人と接触する機会が多い方、とくに普段会わない人と会う必要のある方の感染率が高いように思います。経営者はばりばり仕事をしながら「コロナはただの風邪」だと笑い飛ばすような豪快な方が多いのかもしれません。繰り返しますがコロナはただの風邪ではありません。その認識をしっかり持っていただくことと、よしんば社員によってウイルスが持ち込まれたとしても、決して責めたりしないで「報告してくれてありがとう」という態度で接してください。誰が感染してもおかしくないのですから。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2021年3月号