注目の判例

刑法

2022.09.27
詐欺被告事件
LEX/DB25592804/神戸地方裁判所 令和 4年 5月11日 判決 (第一審)/令和3年(わ)第866号
新型コロナウイルス感染症の拡大により大きな影響を受けた個人事業者等に対する支援を目的として実施された国の持続化給付金制度を利用して、被告人が同給付金名目で金銭をだまし取ったとして詐欺罪で懲役3年を求刑された事案で、被告人に対しては社会内更生の機会を与えるのが相当であるので、被告人に対し、懲役1年6月に処し、執行猶予3年間を言い渡した。なお、本件公訴事実第1及び第2については、被告人が詐欺の故意を有していたとは認められず、犯罪の証明がないから、刑事訴訟法336条により無罪を言い渡した事例。
2022.08.23
準強制わいせつ被告事件
LEX/DB25593012/福岡高等裁判所 令和 4年 7月21日 判決 (控訴審)/令和3年(う)第316号
診療放射線技師である被告人が、学校敷地内に停めた胸部検診車内において、正当な胸部レントゲン検査を受けるものと誤信して抗拒不能の状態にあるA(当時15歳)に対し、その背後に立って脇の下から両手を回し、着衣の上からAの両胸をもみ、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたとしたて起訴され、原審は、被告人が公訴事実記載の犯行を行ったことの証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡したため、検察官が控訴した事案で、原裁判所の訴訟手続には、本件各証拠の特信性について必要な審理を尽くさないまま刑事訴訟法321条1項2号後段該当性を否定して証拠調べ請求を却下し、A証言の信用性を否定して無罪判決をした点に審理不尽の違法があり、この訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかであると判断し、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すこととした事例。
2022.08.02
準強制わいせつ被告事件
LEX/DB25592514/津地方裁判所 令和 4年 5月11日 判決 (第二次第一審)/令和3年(わ)第147号
被告人が、当時の被告人方において、実子であるA(当時14歳)が就寝中のため抗拒不能の状態であることに乗じ、そのパンティーの中に手を入れて同人の膣内に手指を挿入し、もって同人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたというもので、差戻し前第一審判決は、A証言は十分な信用性があり、弁護人の主張や指摘を踏まえても合理的な疑いはないとして、ほぼ本件公訴事実どおりの事実を認定し、被告人を懲役3年6月に処したため、弁護人が控訴し、控訴審判決は、差戻し前の第一審においては、Aの公判証言の信用性を吟味するために必要な審理が尽くされていなかったと結論付け、差戻しを命じ、差戻し後の第一審の事案で、控訴審判決の指摘に基づいて証拠調べを行ったものの、控訴審が指摘していた、Aの公判証言の信用性に疑いがあることにつながる事情や見方は解消されないままであり、公訴事実記載の行為に関するAの被害供述について、その信用性に看過し得ない疑問が残るといわざるを得ないとし、差戻し前の第一審及び当審において取り調べた証拠を総合しても、被告人によるAに対する公訴事実記載の行為を立証する直接証拠であるAの被害供述の信用性には疑問が残り、他に被告人がAに対して公訴事実記載の行為に及んだことを認めるに足りる証拠はないことから、被告人が公訴事実記載の犯行を行ったと断定するには、なお合理的な疑いが残るというべきであるとして、本件公訴事実について犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをした事例。
2022.06.21
業務上横領被告事件
LEX/DB25572177/最高裁判所第一小法廷 令和 4年 6月 9日 判決 (上告審)/令和3年(あ)第821号
被告人は、株式会社Bの取締役兼総務経理部長として同社の経理業務を統括していたCと共謀の上、同社名義の銀行口座の預金をCにおいて同社のために業務上預かり保管中、東京都内の同社事務所において、自己の用途に費消する目的で、Cにおいて、情を知らない同社職員に指示して、上記口座から、Cらが管理する銀行口座に、現金2415万2933円を振込入金させ、もってこれを横領したとして、第1審判決は、被告人の行為は、刑法65条1項により、同法60条、253条(業務上横領罪)に該当するが、被告人には業務上の占有者の身分がないので、同法65条2項により同法252条1項(横領罪)の刑を科することとなり、その上で、公訴時効の成否について、公訴時効の期間は、科される刑を基準として定めるべきであるとし、横領罪の法定刑(5年以下の懲役)を基準として刑事訴訟法250条を適用し、公訴時効の期間は5年(同条2項5号)であるから、本件の犯罪行為が終了した平成24年7月5日から起算して、本件の公訴提起がされた令和元年5月22日には公訴時効が完成していたとして、被告人に対し、同法337条4号により免訴を言い渡したことに対し、検察官が控訴し、被告人に対する公訴時効の期間は業務上横領罪の法定刑を基準とすべきであるのに横領罪の法定刑を基準として公訴時効の完成を認めた第1審判決には法令適用の誤りがあると主張したところ、原判決は、第1審判決の認定した犯罪事実及び本擬律を前提に、公訴時効の期間は、成立する犯罪の刑を基準として定めるべきであるとし、業務上横領罪の法定刑(10年以下の懲役)を基準として刑事訴訟法250条を適用すると、公訴時効の期間は7年(同条2項4号)であるから、本件の公訴提起時に公訴時効は完成していないとして、第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、第1審判決と同旨の犯罪事実を認定して、被告人を懲役2年に処したため、被告人が上告した事案で、公訴時効制度の趣旨は、処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにあり、刑事訴訟法250条が刑の軽重に応じて公訴時効の期間を定めているのもそれを示すものと解され、処罰の必要性(行為の可罰的評価)は、犯人に対して科される刑に反映されるものということができるとし、本件において、業務上占有者としての身分のない非占有者である被告人には刑法65条2項により同法252条1項の横領罪の刑を科することとなるとした第1審判決及び原判決の判断は正当であるところ、公訴時効制度の趣旨等に照らすと、被告人に対する公訴時効の期間は、同罪の法定刑である5年以下の懲役について定められた5年(刑事訴訟法250条2項5号)であると解するのが相当であり、本件の公訴提起時に、被告人に対する公訴時効は完成していたことになるとして、原判決を破棄し、本件控訴を棄却した事例(補足意見がある)。
2022.06.14
過失運転致死、道路交通法違反被告事件
LEX/DB25592166/大阪地方裁判所 令和 4年 3月25日 判決 (第一審)/令和2年(わ)第1120号
被告人は、平成31年2月19日午後7時21分頃、大阪府四條畷市内の道路において、普通乗用自動車を運転中、自車前方に転倒しうつ伏せに横臥していた被害者(当時86歳)を自車車底部で轢過し、同人に心臓破裂等の傷害を負わせる交通事故を起こした際、自損事故を起こしたことを認識したにもかかわらず、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったとして、懲役1年6月を求刑された事案で、本件事故につき被告人に過失があったと認定することはできず、過失運転致死については、犯罪の証明がないというべきであるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対して無罪の言渡しをしたが、救護等義務違反の点については犯罪の証明がないが、この点は前掲関係各証拠によって優に認定できる報告義務違反の罪と観念的競合の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、道路交通法違反の罪で、被告人に対し罰金5万円に処した事例。
2022.05.31
不正競争防止法違反幇助被告事件
LEX/DB25572151/最高裁判所第二小法廷 令和 4年 5月20日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第1135号
被告人は、火力発電システム等に係る施設又は設備を構成するボイラ、ガスタービン等の機器及び装置の研究、開発、設計、調達、製造等に関する業務等を目的とする本件会社の取締役常務執行役員兼エンジニアリング本部長として同社の火力発電所建設プロジェクト等を統括していたものであるが、同社がタイ王国ナコンシータマラート県カノム郡において遂行していた火力発電所建設工事に関して、同建設工事現場付近に建設した仮桟橋に、火力発電所建設関連部品を積載した総トン数500tを超えるはしけ3隻を接岸させて貨物を陸揚げするに当たり、本件仮桟橋は、総トン数500t以下の船舶の接岸港として建設許可されたものであったため、同郡に管轄を有する同国運輸省港湾局第4地方港湾局ナコンシータマラート支局長として、同郡において、水上輸送に関する検査、船舶検査、船舶登録、タイ領海内船舶航行法に基づく桟橋使用禁止等の権限を有していた外国公務員等であったBから許可条件違反となる旨指摘され、貨物を陸揚げできなかったことから、同社の執行役員兼調達総括部長として同社の物品調達、輸送業務を統括していたC、同社の調達総括部ロジスティクス部長として同社の輸送業務を統括していたDほか数名と共謀の上、平成27年2月17日頃、同郡内において、Bに対し、新たに接岸する船舶の種別の変更申請を行う等の正規の手続によらずに上記許可条件違反を黙認して本件はしけの本件仮桟橋への接岸及び貨物の陸揚げを禁じないなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に、同国内の業者を介し、現金1100万タイバーツ(当時の円換算3993万円相当)を供与し、もって外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせないことを目的として、金銭を供与したとして起訴され、第1審判決は、公訴事実と同旨の犯罪事実を認定し、被告人を懲役1年6月、3年間執行猶予に処したため、被告人は、第1審判決に対して控訴し、原判決は、被告人に不正競争防止法18条1項違反罪の共同正犯の成立を認めた第1審判決は事実誤認があるとして、第1審判決を破棄し、被告人には同罪の幇助犯が成立するとして、被告人を罰金250万円に処したことで、検察官、被告人の双方が上告した事案で、本件供与に関する共謀の成立を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決は、第1審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができず、第1審判決に事実誤認があるとした原判断には刑事訴訟法382条の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄し、不正競争防止法18条1項違反罪の共同正犯の成立を認めた第1審判決の判断は正当として是認することができ、また、記録に基づいて検討すると、被告人のその余の控訴趣意もいずれも理由がなく、第1審判決はこれを維持するのが相当であるとし、被告人の控訴を棄却した事例。
2022.05.24
窃盗(原審認定罪名・占有離脱物横領)被告事件
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LEX/DB25592203/大阪高等裁判所 令和 3年12月10日 判決 (控訴審)
被告人は、令和2年12月2日午後1時33分頃、大阪市内のパチンコ店の男子トイレにおいて、被害者保有の現金27円及び小銭入れ等33点在中のクラッチバッグ1個(時価合計約5万5977円相当)を発見し、これを占有を離れた他人の物との認識の下に、自己の用に供する目的で同所から持ち去り、占有を離れた他人の者を横領したとして窃盗により起訴されたが、原審公判で、被告人・原審弁護人は、公訴事実記載の外形的事実、すなわち被告人が前記日時場所で置き忘れられていた本件クラッチバッグを持ち去ったことは認めつつ、被告人は本件クラッチバッグを置き忘れた被害者がいまだ現実に管理支配していた状況の認識を欠いていたもので、占有離脱物横領罪の範囲でしか故意は認められないとして、窃盗罪の故意を争い、原判決は、主観的には占有離脱物横領の故意で客観的には窃盗の罪を犯したものと認め、両罪が実質的に符合する限度で軽い罪である占有離脱物横領罪が成立する旨判断し、懲役8月に処したたため、被告人が控訴した事案で、原判決は、理由不備、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り及び量刑不当の誤りはないとし、本件控訴を棄却した事例。
2022.05.17
覚醒剤取締法違反被告事件
LEX/DB25572121/最高裁判所第一小法廷 令和 4年 4月28日 判決 (上告審)/令和3年(あ)第711号
第1審判決が、被告人の尿に関する捜索差押調書、鑑定嘱託書謄本及び鑑定書の証拠能力を認め、覚醒剤自己使用の事実について被告人を有罪としたところ、被告人が控訴し、原判決は、強制採尿令状執行としての強制採尿手続も違法であるとして、第1審判決を破棄し、被告人に対して無罪を言い渡したため、検察官が上告した事案で、本件強制採尿手続の違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえず、本件鑑定書等を証拠として許容することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められないから、本件鑑定書等の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当であり、本件鑑定書等の証拠能力を否定した原判決は、法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるとし、原判決を破棄し、本件鑑定書等の証拠能力を肯定した第1審判決の判断は、その結論において是認することができ、また、訴訟記録に基づいて検討すると、第1審判決は、被告人を懲役3年2月に処した量刑判断を含め、これを維持するのが相当であるとした事例。
2022.05.10
傷害、暴行被告事件
LEX/DB25572105/最高裁判所第一小法廷 令和 4年 4月21日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第1751号
被告人は、交際相手Cの双子の男児A及びB(当時7歳)に対する傷害等(Aに対する暴行及び傷害、Bに対する傷害)の各事実で起訴され、第1審判決は、Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実を認定した上、Aに対する傷害について、急性硬膜下血腫等及び重度の認知機能障害等の後遺症を伴う脳実質損傷の傷害を負わせた旨の犯罪事実を認定し、被告人を懲役3年に処したため、被告人は、第1審判決に対して控訴し、原判決は、Aに対する傷害について本件暴行を認定することはできないとして第1審判決を事実誤認を理由に破棄し、被告人に対し、Aに対する暴行及びBに対する傷害の各事実につき懲役1年6月、4年間執行猶予を言い渡し、Aに対する傷害の事実につき無罪を言い渡したため、検察官および被告人の双方が上告した事案で、本件暴行を認定した第1審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとした原判決は、事実誤認の審査に当たり必要な検討を尽くして第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものと評価することはできず(最高裁平成23年(あ)第757号同24年2月13日第一小法廷判決・刑集66巻4号482頁参照)、刑事訴訟法382条の解釈適用を誤ったものというべきであり、この違法は判決に影響を及ぼすものであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。なお、Aに対する傷害の事実は、原判決が有罪としたAに対する暴行及びBに対する傷害の各事実と併合罪の関係にあるとして起訴されたものであるから、上記違法は、原判決の全部に影響を及ぼすものである。よって、刑事訴訟法411条1号により原判決を破棄し、同法413条本文に従い、本件を高等裁判所に差し戻すこととした事例。
2022.05.06
横領被告事件
LEX/DB25572096/最高裁判所第二小法廷 令和 4年 4月18日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第131号
被告人は、Aが取締役を務める有限会社BがC所有の茨城県の本件土地を購入するに当たり、本件土地の農地転用許可を得るために本件土地の登記簿上の名義人を一旦被告人とし、農地転用等の手続及び資材置場として使用するための造成工事終了後にBに本件土地の所有権移転登記手続をする旨Aの兄であるDと約束し、被告人が代表理事を務めるE組合に前記Cが本件土地を売却する旨の合意書を作成し、その際、Dに土地代金500万円を支払わせ、同組合を登記簿上の名義人として本件土地をBのために預かり保管中、D及びBに無断で本件土地を売却しようと企て、株式会社Fに、本件土地を代金800万円で売却譲渡した上、本件土地について同社への所有権移転登記手続を完了させ、横領したとして起訴され、第1審判決は、本件土地の買主はBであるとして被告人の主張を排斥し、訴因変更後の公訴事実どおりの犯罪事実を認定して被告人を懲役1年6月に処したため、被告人が控訴し、事実誤認を主張したところ、原判決は、職権で、農地を転用する目的で所有権を移転するためには、農地法所定の許可が必要である以上、この許可を受けていないBに本件土地の所有権が移転することはないから、本件土地に関してBを被害者とする横領罪は成立し得ず、第1審判決には、横領罪の解釈、適用を誤った点について判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるので、第1審判決を破棄して被告人を無罪としたことに対し、検察官が上告した事案で、農地の所有者たる譲渡人と譲受人との間で農地の売買契約が締結されたが、譲受人の委託に基づき、第三者の名義を用いて農地法所定の許可が取得され、当該第三者に所有権移転登記が経由された場合において、当該第三者が当該土地を不法に領得したときは、当該第三者に刑法252条1項の横領罪が成立するものと解されるとして、原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻した事例。
2022.03.15
金融商品取引法違反被告事件
LEX/DB25571977/最高裁判所第三小法廷 令和 4年 2月25日 決定 (上告審)/令和3年(あ)第96号
証券会社の従業員であった被告人が、知人に利益を得させる目的で、職務に関して知った上場企業の株式の公開買付けに関する情報をその知人に伝達し、インサイダー取引に関与したとして、金融商品取引法違反の罪に問われ、第1審判決は、被告人を懲役2年及び罰金200万円に処し、原判決も、第1審判決を是認したため、被告人が上告した事案で、被告人において本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるとして、本件上告を棄却した事例。
2022.03.08
窃盗,窃盗未遂被告事件
LEX/DB25571957/最高裁判所第三小法廷 令和 4年 2月14日 決定 (上告審)/令和2年(あ)第1087号
被告人が、氏名不詳者らと共謀の上、金融庁職員になりすましてキャッシュカードを窃取しようと考え、警察官になりすました氏名不詳者が、被害者宅に電話をかけ、被害者(当時79歳)に対し、被害者名義の口座から預金が引き出される詐欺被害に遭っており、再度の被害を防止するため、金融庁職員が持参した封筒にキャッシュカードを入れて保管する必要がある旨うそを言い、さらに、金融庁職員になりすました被告人が、被害者をして、キャッシュカードを封筒に入れさせた上、被害者が目を離した隙に、同封筒を別の封筒とすり替えて同キャッシュカードを窃取するため、被害者宅付近路上まで赴いたが、警察官の尾行に気付いて断念し、その目的を遂げなかったとした原判決の是認する第1審判決判示第15の窃盗未遂罪の成否について、上告審が職権により判断した事案で、被告人が被害者に対して印鑑を取りに行かせるなどしてキャッシュカード入りの封筒から注意をそらすための行為をしていないとしても、本件うそが述べられ、被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では、窃盗罪の実行の着手が既にあったとして、被告人について窃盗未遂罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例。
2022.03.01
準強制わいせつ被告事件
「新・判例解説Watch」刑事訴訟法分野 令和4年5月下旬頃解説記事の掲載を予定しております
LEX/DB25571962/最高裁判所第二小法廷 令和 4年 2月18日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第1026号
外科医として勤務する被告人が、自身が執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の患者である女性Aが同手術後の診察を受けるものと誤信して抗拒不能の状態にあることを利用し、わいせつな行為をしようと考え、病室内で、ベッド上に横たわるAに対し、その着衣をめくって左乳房を露出させた上、その左乳首をなめるなどし、Aの抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたと起訴され、第1審判決は、被告人に無罪を言い渡したが、原判決は、第1審判決には事実誤認があるとしてこれを破棄し、準強制わいせつ罪の成立を認めて被告人を懲役2年に処したため、被告人が上告した事案で、Aの証言の信用性判断において重要となるDNAの本件定量検査の結果の信頼性については、これを肯定する方向に働く事情も存在するものの、なお未だ明確でない部分があり、それにもかかわらず、この点について審理を尽くすことなく、Aの証言に本件アミラーゼ鑑定及び本件定量検査の結果等の証拠を総合すれば、被告人がわいせつ行為をしたと認められるとした原判決には、審理不尽の違法があるとして、原判決を破棄し、専門的知見等を踏まえ、本件定量検査に関する疑問点を解明して本件定量検査の結果がどの程度の範囲で信頼し得る数値であるのかを明らかにするなどした上で、本件定量検査の結果を始めとする客観的証拠に照らし、改めてAの証言の信用性を判断させるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととした事例。
2022.02.15
業務上過失傷害、業務上過失往来危険被告事件
LEX/DB25591574/福岡高等裁判所宮崎支部 令和 4年 1月27日 判決 (控訴審)/令和2年(う)第11号
被告人は、漁船a丸(総トン数1.5トン)に船長として乗り組み、同船の操船業務に従事していたものであるが、深夜に漁港から出航し、峰ヶ埼灯台から真方位48度,約1370メートル付近海上を、同漁港の沖合に向けて、速力約3.8ノットで航行するに当たり、自船左前方方向の約197メートル先に漁船b丸(総トン数1.1トン)の灯火に気付き、同船が自船方向に接近中であるのを認めたのであるから、自船の灯火を点灯させて航行するはもとより、b丸の動静を十分に注視し、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転ずるなどして同船との衝突を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、針路を左に転ずれば、同船との衝突を回避できるなどと思い込み、自船の灯火を点灯しないまま、b丸の動静を十分に注視せず、針路を左に転じて前記速力で航行した過失により、b丸が接近して衝突の危険を感じ、自船の舵を更に左に切り、スロットルレバーを操作して加速しようとしたが及ばず、峰ヶ埼灯台から真方位47度,約1340メートル付近海上において、自船右舷船尾部にb丸の船首部を衝突させ、同船船底に破口等の損傷を、自船後部甲板右舷側の外板に亀裂及び破口等の損傷をそれぞれ生じさせ、もって船舶の往来の危険を生じさせるとともに、自船の船員c(当時68歳)に加療約111日間を要する右肩関節周囲炎の傷害を負わせたとして、原判決が、罰金30万円を言い渡したため、被告人が控訴した事案で、被告人について、a丸の針路を左に転じて航行した点、無灯火で航行した点のいずれにおいても、過失を認めることはできず、e証言、実況見分調書等により過失を認めた原判決の判断は、論理則・経験則等に反する不合理なものであって、支持できないとして、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した事例。
2022.02.01
不正指令電磁的記録保管被告事件
LEX/DB25571911/最高裁判所第一小法廷 令和 4年 1月20日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第457号
インターネット上のウェブサイト『X』の運営者である被告人が、Xの収入源としてコインハイブによるマイニングの仕組みを導入するために本件プログラムコードをサーバコンピュータに保管した行為について、不正指令電磁的記録保管罪に問われ(主な争点は、本件プログラムコードが、刑法168条の2第1項(本件規定)にいう「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」に当たるか否か)、第1審判決は無罪を言い渡したが、これに不服の検察官が控訴し、控訴審判決は、第1審判決が刑法168条の2第1項の解釈を誤り、事実誤認をしたものであるとして、第1審判決を破棄し、被告人を罰金10万円に処したため、被告人が上告した事案で、本件プログラムコードは、反意図性は認められるが、不正性は認められないため、不正指令電磁的記録とは認められないとし、原判決は、不正指令電磁的記録の解釈を誤り、その該当性を判断する際に考慮すべき事情を適切に考慮しなかったため、重大な事実誤認をしたものというべきであり、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとして、刑事訴訟法411条1号、3号により原判決を破棄することとし、本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を否定して被告人を無罪とした第1審判決は是認することができ、本件規定の解釈適用の誤りや事実誤認を主張する検察官の控訴は理由がないことに帰するから、刑事訴訟法413条ただし書、414条、396条によりこれを棄却した事例。
2021.12.21
脅迫被告事件
LEX/DB25571846/最高裁判所第三小法廷 令和 3年12月10日 決定 (上告審)/令和3年(あ)第964号
管轄移転の請求が、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、刑事訴訟規則6条により訴訟手続を停止することを要しないとし、これと同旨の原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例。
2021.12.14
殺人、殺人未遂、住居侵入、建造物侵入、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
LEX/DB25591126/神戸地方裁判所 令和 3年11月 4日 判決 (第一審)/平成30年(わ)第453号
被告人は、【第1】被告人方で、祖母b(当時83歳)に対し、その頭部等を金属製バットで殴打し、その後頸部及び背部を文化包丁(刃体の長さ約16.3センチメートル)で突き刺すなどし、左総頸動脈及び左椎骨動脈切損、右外頸静脈切断並びに右肺刺創により失血死させて殺害した事案、【第2】同日、被告人方敷地内で、祖父c(当時83歳)に対し、その頭部等を前記金属製バットで殴打し、その頸部等を文化包丁で突き刺すなどし、右総頸動脈及び右内頸静脈切損により失血死させて殺害した事案、【第3】同日、被告人方で、母d(当時52歳)に対し、その頭部等を金属製バット及び合板(重量約2キログラム)等で殴打し、その頸部を両手で絞め付けるなどして殺害しようとしたが、同人が逃走したため、加療約32日間を要する頭部挫創等の傷害を負わせたにとどまり、その目的を遂げなかった事案、【第4】同日、別宅の敷地内に侵入し、e(当時79歳)に対し、その頸部等を文化包丁で突き刺すなどし、左内頸動脈及び左外頸動脈切断並びに左内頸静脈切損により失血死させて殺害した事案、【第5】同日に、fが看守する小屋内に侵入し、g(当時65歳)に対し、その頭部等を文化包丁で突き刺すなどして殺害しようとしたが、抵抗されたため、全治約14日間を要する頭部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、その目的を遂げなかった事案、【第6】同日、路上で文化包丁1本を携帯した事案で、被告人が5人を殺傷した当時、心神耗弱状態にあったことに間違いがないとまでは認められず、心神喪失状態にあったのではないかとの合理的疑いを払拭することができないとして、被告人に無罪を言い渡した事例(裁判員裁判)。
2021.12.07
危険運転致死傷被告事件
LEX/DB25591081/長野地方裁判所 令和 3年 9月 9日 判決 (第一審)/令和1年(わ)第175号
被告人は、昼間、普通乗用自動車(セレナ)を運転し、最高速度が法定により60km毎時と定められている左方に湾曲する下り勾配の道路(本件カーブ)を、少なくとも時速104km以上の速度で自車を走行させて本件カーブに進入し、その進行を制御することが困難な高速度で自車を走行させたことにより、自車を本件カーブの湾曲に応じて進行させることができずに自車線から対向車線に逸走させて進行し、折から同車線を対向進行してきたP2(当時71歳)運転の普通貨物自動車前部に自車前部を衝突させ、自車に同乗していたP3(当時19歳)に加療約6か月間を要する右急性音響性外傷の傷害を、同じく自車に同乗していたP4(当時19歳)に加療約10日間を要する頚椎捻挫及び背部挫傷の傷害を、同じく自車に同乗していたP5(当時21歳)に加療約2週間を要する外傷性気胸、左肋骨不全骨折等の傷害を、同じく自車に同乗していたP6(当時20歳)に加療約4週間を要する右腸骨打撲傷、胸部打撲の傷害を、P2に右血気胸、両下肢開放性骨折の傷害をそれぞれ負わせ、P2を傷害に伴う出血性ショックにより死亡させたとして、危険運転致死傷の罪で懲役7年を求刑された事案で、被告人には、本件カーブの状況や自己の運転操作等の事実を認識していなかったと疑うべき事情はなく、被告人は、セレナが進行を制御することが困難な高速度であったことを基礎づける事実を認識し故意があったと認め、危険運転致死傷罪が成立するとして、懲役6年に処した事例。
2021.10.26
殺人,強盗殺人未遂被告事件(連続青酸不審死事件)
LEX/DB25571762/最高裁判所第三小法廷 令和 3年 6月29日 判決 (上告審)/令和1年(あ)第953号
被告人が、平成19年12月、債務の返済を免れる目的で、知人にシアン化合物を服用させて殺害しようとしたが、シアン中毒に基づく全治不能の高次機能障害等の傷害を負わせたにとどまったという強盗殺人未遂と、平成24年3月から同25年12月までの間、遺産取得等の目的で、いずれも当時の夫や内縁の夫ら3名にシアン化合物を服用させて殺害したという殺人3件につき、第1審判決は死刑に処し、原判決もこれを維持したため、被告人が上告した事案において、前科がないこと、高齢であることなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして、これを是認せざるを得ないとし、本件上告を棄却した事例。
2021.10.19
窃盗被告事件
LEX/DB25590629/佐賀地方裁判所 令和 3年 9月 2日 判決 (第一審)/令和2年(わ)第215号
被告人は、有料老人ホームで、同所従業員が同所北側出入口設置の棚内に保管していた同人所有又は管理の現金約3500円及び財布等17点在中の手提げバッグ1個(時価合計約1万円相当)を窃取したとして、懲役2年を求刑された事案において、本件防犯カメラの映像には、本件棚の扉が開閉されたのに動体検知システムが作動していない場面があるほか、画角内で人の動きがあったのに動体検知システムが作動していない場面が複数見受けられ、動体検知システムが作動して録画が開始されることの事実を認めるには疑問の余地がある上、被告人が犯人であるとすると不合理な行動をとっているから、弁護人が主張するように、被告人とE以外に本件棚の扉を開閉したがその様子が録画されなかった人物が存在する可能性があり、被告人が犯人であることにつき合理的疑いが残るとして、被告人に対し無罪を言い渡した事例。