2021年10月号Vol.124

【特集】「TASKクラウドフェア2021オンライン」自治体DX先進事例 講演要旨大阪市行政手続きオンライン化推進事業

「TASKクラウドフェア2021オンライン」(7月26日~8月31日)の特別講演で
大阪市ICT戦略室の小西来呼氏にご登壇いただいた。
担当者の視点で語られる推進の意義や全職員を巻き込む工夫などが反響を呼び
公開終了後も問い合わせが多数寄せられている。そこで、ここに講演要旨を紹介する。

【講師】
大阪市ICT戦略室企画担当(デジタル化推進グループ)
担当係長 小西来呼氏

小西来呼(こにし・よりこ)

小西来呼(こにし・よりこ)
2002(平成14)年、大阪市役所入庁。市会事務局、総務局(人材育成/総務部門)を経て、17年にICT戦略室へ配属。20年より現職

 本日は大阪市の行政手続きオンライン化推進事業について、これまでの取り組みや担当者として感じていること、今後の展望などをご紹介します。

 大阪市では、2005年からオンライン上で簡易な手続きができる電子申請サービスを提供してきました。大きな転換点となったのが、橋下徹市長の就任(11年12月)です。新市長の指示で全庁的なICT活用を検討することとなり、15年には基本方針『大阪市ICT戦略(第1版)』を策定しました。
 また、業務の効率化など従来から取り組んできた“守り”のICT活用と、市民サービスや業務の改革につなげる“攻め”のICT活用をバランスよく進めるため、16年に市長直轄の「ICT戦略室」を発足するとともに、市長をトップとした「ICT戦略本部」を設置。18年5月には、『大阪市行政手続きオンライン化推進計画』を策定し、現在につながる行政手続きオンライン化推進事業がスタートしました。
 最初に取り組んだのは行政手続きをオンライン化するのに必要なシステムの機能要件整理と、推進に向けた阻害要因の洗い出しでした。ここで全ての手続きを棚卸ししました。また、全庁的な意識共有を図るため市長から方針や優先基準を示していただくとともに、ICT戦略室から制度所管に具体的な実現イメージを提案するなど、トップダウンとボトムアップの両面からオンライン化を推進してきました。

現在の取り組み状況

出典:『大阪市行政手続きオンライン化推進計画(別冊)』(2020年8月)を参考にTKC作成

 そして、20年8月に従来の電子申請・オンラインアンケートシステムを刷新し、新たに「大阪市行政オンラインシステム」を稼働しました。現在、これを活用して、さまざまなオンライン申請サービスを提供しています。
 その一つが、「感染拡大防止に向けた営業時間短縮協力金」で、最大のミッションは申請から協力金の支払いまでいかに短時間で実現できるかでした。そこでオンライン申請を原則として、申請から審査フローまでの仕組みを確立しました。その結果、20年度には約4万7,000件のオンライン申請を受け付けました。この緊急事態へ迅速に対応できたことで、利用者(市民や事業者)に大阪市行政オンラインシステムを知っていただけたのに加え、職員がオンライン化の必要性を意識する機会となりました。
 もう一つが「保育所等の利用申し込み」です。大阪市では保育所等の利用希望者に対して受付・面接を実施しています。昨年度、12区でオンライン予約を受け付けたところ、オンライン申請が申し込み全体の約8割を占めました。また、利用者の平均待ち時間も前年比約7割減の19分にまで短縮され、コロナ感染拡大防止の点でも有効だったと考えています。
 このように、子育て世帯はオンライン申請のハードルが低いといえます。
 また、驚くのはオンラインを利用する高齢者が意外と多いということです。ある手続きでハガキやFAXなどに加えてオンラインも利用できるようにしたところ、高齢者からオンライン申請に関する問い合わせが多数寄せられました。手続きが先着順だった影響もあるとは思いますが、これは利用者側の意識変化が分かる出来事でした。
 さらに、オンライン申請が比較的進みやすいのが事業者向けの手続きです。必ずオンラインで申請しなければいけないため、スタート当初こそ多くの問い合わせがありましたが、今では週に数件程度と落ち着き、着実に浸透している様子が伺えます。
 ところで、大阪市の取り組みについて多くの問い合わせをいただきますが、常々感じるのが行政手続きのオンライン化に対する誤解や理解不足です。
 行政手続きオンライン化とは、単に紙による申請をオンライン上でもできるようにすることではありません。この点、大阪市では〈行政サービスの提供のかたちを変える〉ことと捉えています。そのため申請や一部の手続きだけではなく、全ての行政手続きを対象に〈オンライン上で申請・手続きが完結できる〉ことを目指しています。
 取り組みの効果は、「市民の利便性向上」と「業務の効率化」です。申請が紙からデータになることで職員の業務も変わる──というだけでは、単なる業務改善です。重要なのは、行政サービスの提供のかたちを変えることで実現可能となる“新たな付加価値の創造”と考えます。それには従来からのBPRに加え、「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)が欠かせません。そこで大阪市では昨年度、オンライン化にかかる業務改革担当部門もICT戦略室へ集約。今年度からは所属ごとに担当を決め、個々の運営方針等に沿ったICT活用を提案するなど支援体制を強化しています。

手続き拡大へ、工夫重ねる

出典:TASKクラウドフェア2021オンライン 特別講演 配付資料から抜粋

 大阪市では毎年オンライン化の実施状況を調査していますが、結果を見ると取り組みはまだ道半ばです。そこで対象手続きの拡大に向けて、システム操作研修の実施やオンライン化手引きの作成などに加え、行政オンラインシステムに触ってもらう“場づくり”に取り組んでいます。それが「手続きのテスト作成」と「一部からでもオンライン化」で、押印廃止も追い風となり一定の成果を上げています。
 手続きのテスト作成とは、次年度以降の実施を検討する手続きについて試しに行政オンラインシステムで手続き情報や申請フォームを作成してもらい、その結果を教えてほしいと依頼したものです。これにより、各手続きのオンライン化可能ラインを把握したいと考えていたのですが、実際にシステムに触れてもらったことで職員の意識や行動の変化につながりました。
 一方の一部からでもオンライン化は、できるところから速やかにオンライン化しようというものです(図2)。その結果、申請を受け付ける現場主体で取り組みが広がり、中にはオンライン申請のひな形として全庁に展開されるものまで登場しています。
 また、これまでは部署や担当する業務によってオンライン化に対する意識にも差がありました。この点、全ての部署が関わる手続きとして「オンラインでの請求書受領」の準備に取り組んだことで、全職員がオンライン化を身近な課題として認識する結果となりました。
 他にも、大阪市では手続き別のアクセス件数や検索キーワードのトップ100などの統計情報を毎月、庁内向けに公開しています。これは定期的な情報発信を通じてオンライン化を促進するとともに、統計情報をマーケティングやEBPM(※)等に活用する、あるいはDXの推進機運を高めることを狙い実施しているものです。なお、統計情報を見るといろいろな気付きがあり、これを参考に今後、業務改善につなげていくことも期待されています。

今後の展望

 さて、大阪市では『大阪市行政手続きオンライン化推進計画(別冊)リモートでの行政サービスの実現に向けて』(20年8月)を作成し、行政手続きのオンライン化を加速させる計画です。具体的には①業務システム連携、②優先手続きの選定、③スマート申請の検証・導入──などに取り組みます。
 第一の「業務システム連携」は業務効率化の効果が期待できますが、実現には情報セキュリティーポリシー上の制約など多くの課題があります。加えて、国が推進するシステム標準化も無視できません。これらの動きも見極めながら、各業務システムとの連携について引き続き検討します。
 第二が「優先手続きの選定」です。DX推進計画に掲げられた31手続きはもちろん、その他の手続きについても申請件数の多いものなどから新たに優先手続きを選定し、システム連携の状況なども踏まえながらオンライン化のスケジュールを作成します。
 第三が「スマート申請の検証・導入」で、全ての利用者が〈デジタルファースト〉を実感できることを目指します。その一つが、対面が必要な手続きを想定した「オンライン事前申請」の実現で、現在、複数の区役所と一緒にワーキンググループを立ち上げて検討を進めています。
 加えて新たなデジタル技術が次々と登場する中、それらを柔軟に採り入れていくことも大切です。一例が今年6月から城東区でサービスを開始した「リモート相談窓口」です。これは窓口や電話に加えて、オンライン上でも保育・子育てコンシェルジュへの相談を可能としたものです。現場職員が「お子さんの寝ている時間を活用し、子育て世代の皆さんがコロナ禍でも安心して相談できるようにしたい」と考えたのがきっかけで、来庁しなくてもパソコンやスマートフォーンからWeb会議システムを使って気軽に相談できる窓口の開設につながりました。
 さらに、オンライン化を推進する中で〈上手くいく手続き〉の傾向も見えてきました。ポイントは利用者視点で手続きを分解して考えているかどうかです。
 オンライン化しない理由の一つに、「別途、紙で郵送するものがあれば二度手間になるため、紙でまとめて申請した方が利用者の手間がかからない」というものがあります。しかし、これは本当に正しいのでしょうか。私自身、申請時に最も面倒だと感じるのは書くことです。その点では〈オンライン申請+郵送〉により〝書かない〟ことの方が便利といえ、オンライン化を進める上ではそうした利用者の心理や行動を想像しながら利用できるサービスをパズルのように組み合わせていく。そして、サービスに縛られることのない柔軟性を持った活用を考えていくことで、本当の意味でのデジタル化が進んでいくのではないかと考えています。

◇  ◇  ◇

 以上ご紹介したように、大阪市もいろいろと悩みながら行政サービスのオンライン化・デジタル化を進めています。デジタル変革の大波を全国の自治体とともに乗り越えていくためにも、ぜひ皆さんと意見交換し相互の知見を共有させていただければ幸いです。
 本日はありがとうございました。

※EBPM:エビデンス(根拠や証拠)に基づく政策立案
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