2023年7月号Vol.131

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】福祉相談をデジタルで支援する

株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦

 自治体窓口業務のデジタル化というと、一般には「オンライン申請」や「書かない窓口」が注目されます。これらは、基本的に〈住民が職員に相談せずに申請・届出できる手続き〉を対象としています。一方で、福祉関連の手続きでは相談が必須です。本稿では福祉関連の相談をデジタルで支援し、業務を効率化するとともに住民サービスを向上する方策を確認します。

福祉では相談が必須

 オンライン申請や書かない窓口は、引っ越しや出生など一般の人が遭遇するライフイベントに関わる届出や申請を扱います。これらの届出・申請は制度の内容や要件がシンプルで、申請書の作成に支援が必要な場合はありますが、内容について職員との相談は不要です。
 一方で、生活困窮者や障害者、高齢者など、生活における困り事を抱えている住民に対しては相談が必須です。まず、関連する制度が多岐にわたること、また適用要件も複雑であることから、手続きを申請するために相談と支援が必要です。さらに、こうした困り事を抱えた住民には、福祉サービスを提供するだけでなく、個別の事情やニーズに応じたアドバイスやサポートを続けることも重要です。
 福祉分野では複雑なケースが増加しています。例えば、高齢の親と引きこもりの子が同居している世帯(いわゆる「8050問題」)、介護と育児に同時に直面する世帯(いわゆる「ダブルケア」)、障害のある子の親が高齢化し介護を要する世帯、ひとり親、社会的孤立、家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども(ヤングケアラー)等々、複雑なケースは枚挙にいとまがありません。
 このような状況において、国は相談支援業務の強化を打ち出しています。「社会福祉法」改正(2018年施行)において、市区町村の包括的な相談支援体制づくりを努力義務として規定しました。また、「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(18年7月策定)により、市区町村における相談支援体制・専門性の強化に加え、ICTを活用して効率化を促進することが進められています。
 さらに、「社会福祉法」改正(21年施行)により、複合的な課題を抱えた住民・世帯に対する包括的な相談支援体制の構築を一層推進するため、重層的支援体制整備事業が創設されました。加えて、「出産・子育て応援交付金事業」(22年創設)で、伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施が進められています。市町村における福祉相談業務は、伴走型支援として今後ますます重要になっていきます。

相談業務上の課題

 福祉関連の制度には生活保護、障害者福祉、高齢者福祉、児童福祉などがあり、それぞれに専門の部門や関係する支援機関があります。各部門や支援機関が連携しなければ、複雑な課題で困っている住民を適切に支援することが困難です。
 福祉関連の相談は、通常、以下のプロセスで進行します。まず、相談を開始する際に、住民の現状を把握するため、システムが保持している各制度の資格や過去の相談記録を確認します。次に、相談の上、福祉サービスを選択してその申請を支援します。さらに、相談支援の経過を記録します。
 しかしながら現状では、まず各制度の資格等の状況を確認するのが困難であることが課題です。システムが保持している情報であっても、自部門以外の場合は他部門に聞き取らなければ取得することはできません。
 また、職員の業務スキルにも課題があります。制度横断的にサービスを案内したり、住民の求めに応じるには、幅広い知識や経験が求められます。
 さらに、支援の経過記録を組織間で共有することが困難という点も課題です。住民との相談や支援の記録は各課が紙文書で管理しているケースが多く、関係各課からの問い合わせや過去の経過確認などのたびに紙文書を探して取り出しています。
 これらの課題を解決するために、福祉相談を支援するデジタル化にはどんなことが求められるのでしょうか。

支援システムに求められる機能

 福祉相談を支援する情報システムの実現方針は、制度や部門を超えた情報共有基盤を構築することです。備えるべき機能は、大きくは〈福祉サービスの手続きにかかる機能〉と〈伴走型相談支援にかかる機能〉に分かれます。

1.福祉サービスの手続きにかかる機能

 福祉サービスの手続きにかかる機能は、相談に訪れた住民との応対と手続き申請を支援します。
 制度に関わるシステムを横断した照会機能を提供し、資格状況やサービスの受給状況を確認します。こうした情報によって、住民が利用できるサービスを提示すれば、応対する職員のスキルを補完することもできるでしょう。また、申請書の作成を支援する〈書かない窓口〉機能は、高齢者や障害がある方が来訪する福祉の窓口でこそ高い効果が期待できます。

2.伴走型相談支援にかかる機能

 伴走型相談支援にかかる機能は、複数かつ複雑な課題を抱えた住民からの相談応対や支援内容を一元管理し、支援計画の策定と実施、その後のモニタリングを支援します。もちろん、記録内容は各部門で共有できるようにする必要があります。
 その一方で、福祉相談で扱う情報は極めて機微な情報であるため、厳格な管理が求められます。情報の共有範囲を設定する機能も必須でしょう。
 また、相談内容を記録する職員の負担軽減も欠かせません。これを支援するために、例えば相談内容を入力するテンプレートの提供などが考えられます。さらに、記録に基づいて会議資料の作成を支援する機能があれば、住民への対応方針を検討する会議の準備作業が効率化できます。
 さらには昨今、福祉分野では住民が相談に来るのを待つだけではなく、支援が必要な住民を見つけ出す〈アウトリーチ〉が注目されています。システムには、これを支援する機能が求められていくと想定されます。

◇   ◇   ◇

 社会課題の複雑化に伴い、自治体の役割はますます重要になります。デジタル時代にあっても、自治体のコア業務が、支援を必要としている人と相対して必要なサービスを提供することであることは変わりません。
 少子高齢化に伴って職員の絶対数が減少する中では、デジタルを活用して業務を効率化するとともに、専門性を強化して人でなければできない業務を深化させることが切実に求められるのです。

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