2023年10月号Vol.132

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】「行政手続きデジタル化」再考

株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦

 この連載コラムでは、行政手続きのデジタル化に関わる話題を取り上げてきました。今回は、これまでに取り上げた話題を振り返るともに、課題や将来の展望を考えてみます。

なぜ、デジタル化が必要なのか

 まず、行政手続きのデジタル化が求められる理由を確認します。
 発端は、2017年度に開催された「自治体戦略2040構想研究会」でした。研究会報告書は〈人口縮減時代へのパラダイム転換〉が必要と総括し、自治体が関わる多くの分野の中で〈スマート自治体への転換〉を基本的な考え方の最初に掲げています。
 18年度に開催された「スマート自治体研究会」では、スマート自治体の目指すべき姿として〈人口減少が深刻化しても、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供し続け、住民福祉の水準を維持〉と、〈職員は、職員でなければできない、より価値のある業務に注力〉が掲げられました。スマート自治体の実現に向けた、三つの原則のトップにあるのは〈行政手続を紙から電子へ〉です。これは行政手続きのデジタル化にほかなりません。
 スマート自治体研究会の翌年に自治体システム標準化が開始されました。システム標準化が、元々は行政手続きデジタル化とセットで構想されていたこと、また、その根底に〈人口縮減時代へのパラダイム転換〉という大きな課題が意識されていたことに改めて注目する必要があります。(*1)

どのように実現するのか

 行政手続きのデジタル化を進めるための法令整備が進んでいます。
 「デジタル手続法」が19年5月に公布され、行政手続きはオンライン実施が原則化されました(自治体は努力義務)。書面実施、手書き署名、収入印紙貼付等が手続きの法令で規定されている場合は、主務省令を定めて電子的な手段に置き換えることを可能としています。(*2)21年5月には「デジタル改革関連法」が公布され(*3)、今年には『処分通知等のデジタル化に係る基本的な考え方』が策定されました。
 また、行政手続きのデジタル化では、住民による申請から職員による事務作業に至る手続きのプロセス全体を最適化することが重要です。そのためには、オンライン申請システムと業務システムを一体的に整備する必要があります。
 まず、業務システムが保持する情報を使って住民が実施すべき手続きを案内します。手続きの申請では、氏名や所得等、業務システムが保持する情報の入力を不要とします。そして、業務システムの情報を使って要件確認を可能な限り自動化し、証交付や支給までの事務作業を簡略化します。(*4)

残る課題と、今後の展望

 行政手続きのデジタル化を実現するにあたっては、まだいくつか課題が残されています。
 第一の課題は、民間機関と行政機関との情報連携です。
 まず、行政機関が発行した電子的な証を、民間機関で利用可能としなければなりません。すでに医療保険者証のオンライン資格確認が実現されているほか、運転免許証とマイナンバーカードの一体化も予定されています。医療費助成の受給者証については、「医療費助成・予防接種・母子保健にかかる情報連携の実証事業」が公募されており、マイナンバーカードを利用した情報連携を実現するためのシステムを開発する──としています。
 また、民間機関が発行した情報を、行政機関が利用可能としなければなりません。例えば、出生届では医療機関が発行した出生証明書が必要です。福祉関係では、医療機関が発行した診断書を添付する手続きがあります。すでに確定申告では、保険会社が発行する電子的な保険料控除証明書が利用可能となっています。同様に、自治体の手続きでも民間機関が発行した情報を利用可能とするためにデータの標準化等が求められます。
 第二の課題は、行政手続きのデジタル化とシステム標準化との連携です。
 現在の標準仕様は、基本的には窓口での紙による申請を前提としており、オンライン申請については優先的に推進すべき手続きに関する記載があるだけです。先述のとおり、行政手続きのデジタル化のためにはフロントサービスと業務システムを一体的に整備する必要があることから、将来はフロントサービスや、審査の自動化を含めた標準仕様が定められることが期待されます。こうしたシステムはまだ実現例がないため、当面は標準化の対象外とし、さまざまな実現例が実地で検証されてから標準化の俎上(そじょう)に載せるのが適切でしょう。
 第三の課題は、個々の行政手続きの制度にかかるものです。
 デジタル手続法によってオンライン申請は可能になったものの、個々の行政手続きはデジタル化を前提として定められてはいません。デジタル化は、既存の事務をそのまま電子化するのではなく、事務そのものをデジタル前提に変えて、初めてその効果を十全に発揮します。
 例えば、手続き要件の判定条件を業務システムが保持するデータに限定すれば、申請フォームの入力項目を減らすとともに審査の自動化が図れます。福祉関係の手続きにおける扶養関係など、住基や戸籍のデータだけでは判定できないケースもあります。受け付け件数が多く、かつ判定要件が簡素な手続きを優先的にデジタル化することが現実的な方策でしょう。
 行政手続きに関しては、特に社会保障関連について制度群全体の見直しが必要という意見も聞かれます。
 例えば、ベーシックインカムが実現されれば、制度もその手続きも大幅に簡素化できますが、社会的コンセンサスを得ることは困難でしょう。とはいえ、40年に向けて〈人口縮減時代へのパラダイム転換〉を果たすためには、さまざまな制度が見直される可能性が高いと見込まれます。行政手続きのデジタル化や自治体システム標準化は、こうした制度そのものの見直しがあった場合も、迅速かつ効果的に対処することを可能にするでしょう。

◇   ◇   ◇

 本連載は、今回で終了します。デジタルガバメントや行政手続きのデジタル化は、今後、着実に実現されていくものであり、筆者も引き続き微力ながらその一端に携わってまいります。長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。

*1:本誌2023年1月号「標準化は2040年に向けた自治体戦略の一環」
*2:2019年7月号「デジタル手続法とオンライン化対象外の手続き」
*3:2021年4月号「行政のデジタル化を加速する法改正」
*4:2023年4月号「公共サービスメッシュが手続きのデジタル化を促す」

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