寄稿

新しいビジネスモデルを確立しよう(4)

決算書の信頼性を裏付ける「S=証明力」を確保する

絶対的に信頼されるレベルの決算書を

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 最近の金融行政は金融機関に対して、中小企業の実態に即したコンサルティング機能の発揮を求め、その際に外部専門家等との連携を奨励しています。

 平成23年5月に改正された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」では、地域金融機関に対して、企業のライフステージを分析し、その現状や経営目標等を的確かつ慎重に見極めた最適ソリューションの提案を求めるとともに、外部専門家である「税理士」と地域金融機関との連携を掲げています。

 また中小企業支援施策においても、同年12月に中小企業政策審議会・企業力強化部会が承認した、中小企業が自らが勝ち残るための企業力を強化する方策、並びに地域経済を活性化する方策の「中間とりまとめ」において、「金融と経営支援の一体的取組み」が提言され、税理士および地域金融機関が「金融と経営支援の担い手」と位置づけられ、さらに「会計の活用を通じた経営力の向上を図ることに加え、決算書の信頼性を確保して、資金調達力の向上を促進させることが重要である」と指摘しています。このような流れの中で、平成24年8月「中小企業経営力強化支援法」が施行され、「財務及び会計等の専門的知識を有する者による支援事業」として経営革新等支援機関制度が生まれたことは、すでにご承知の通りです。

 国の諸施策に表れたこのような税理士の新たな役割について、TKC全国会坂本孝司副会長(静岡会会長)は、著書の『ドイツにおける中小企業金融と税理士の役割』(中央経済社)の中で、「金融機関と税理士による中小企業への金融と経営の一体的取組みという国家的なスキームができあがったことになり、税理士は税理士法第1条の税務の専門家として独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図るという使命条項に加え、中小企業金融に関する専門家という使命をも担うことになった」と記述しています。

 税理士に求められる本来の使命を果たすことが、こうした期待に応えることに繋がります。我々TKC会員が作成する決算書並びに税務申告書は、国や金融機関等から絶対的に信頼されるレベルのものでなくてはならず、そのための具体策として、決算書の「証明力」を高める3つの課題推進に取り組まねばなりません。

(1)「S=証明力」の確保
「税理士法第33条の2による書面添付制度」の普及

 平成13年の税理士法改正において、税務の専門家である税理士の立場をより尊重し、税務行政の一層の円滑化・簡素化を図るため、税理士法第33条の2による書面添付制度が拡充されました。さらに平成20年には、国税庁と日本税理士会連合会による書面添付制度の普及と定着に関し、次の4項目が合意され、さらに国税庁により書面添付に関する事務運営指針が公表されました。

  1. 添付書面の様式の改定
  2. 記載内容が良好な書面に係る意見聴取の調査省略通知
  3. 国税職員及び税理士会会員に対する広報
  4. その他

 この書面添付制度は税理士の作成した申告書についてその責任や関与を証明する行為であることを、第三代TKC全国会会長武田隆二先生は、『中小会社の会計指針』(中央経済社、70頁)で次のように指摘しておられます。

 書面添付制度が、決算書類の「実質的適正性」を保証する制度として有効である。書面添付とは、税理士が作成した申告書について、①税理士がどの程度「内容に立ち入った検討」をしたのか、したがって、②税理士がどの程度の「責任をもって作成」したのか等を明らかにするために作成した書類である。それゆえ、一種の「証明行為」であるから、ある意味では中小会社における「『監査』と同類の性格」のものであるといえる。

 TKC全国会では昭和56年から、記帳内容の実質的適正性を保証する証明として、この書面添付制度の普及に努めてきたわけですが、その絶対数と品質の両面においてまだまだ不充分と言わざるを得ない状況にあります。決算書の信頼性を確保する上で最も有効な本制度に対して、申告納税制度の中で、独立した公正な立場にあるべき税理士が積極的に取り組むことは当然のことであります。

(2)「S=証明力」の確保
「記帳適時性証明書」の積極的な添付と開示

 TKC全国会創設以来の最重要課題の1つは、我が国の法令に、帳簿の記帳条件を明確にすることでした。平成18年5月施行の改正商法第19条2項では「商人は、その営業のために使用する財産について、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な商業帳簿を作成しなければならない」と定められ、また会社法第432条では「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」と定められました。

 TKCでは、当該法令の施行にあわせ、月次巡回監査による会計帳簿計算処理の過去3年分の事績と電子申告の実行を証明する「記帳適時性証明書」が発行されるようになりました。我々TKC会員が、第三者機関であるTKCのデータセンターからこの「記帳適時性証明書」を受け、決算書へ添付することは、まさに過去仕訳及び科目残高の遡及的な修正、追加、削除等がされていないことの証明そのものです。

 先日、ある大手銀行の幹部の方と話す機会がありました。そこで「TKCの経営指標は、どう利用されていますか」と質問したところ、「粉飾決算を見破るために使用しています」と言われたので驚きました。「企業からの経営計画書や経営改善計画書のベンチマーキング資料として利用していますよ」などの回答を実は期待していたのです。

 改めて金融機関は、融資先の決算書の信頼性についてかなり神経質になっているなと感じた次第です。

 「記帳適時性証明書」を決算書に添付することは、このような金融機関に対する最適の情報開示となります。「記帳適時性証明書」の決算書への添付枚数が増加することこそ、TKC全国会発展のバロメータであると確信します。

(3)「S=証明力」の確保
「中小企業会計要領」の普及

 平成24年2月に公表された「中小会計要領」は、その目的を「中小企業の多様な実態に配慮し、その成長に資するため、中小企業が会社法上の計算書類等を作成する際に、参照するための会計処理や注記等を示すものである」(総論)として、基本的な考えとして、

  1. 中小企業の会計実務の中で慣習として行われている会計処理であること。
  2. 企業の実態に応じて幅のある会計基準であること。
  3. 中小企業の経営者が理解でき、簡潔かつ平易で分かりやすいものであること。
  4. 記帳についても、重要な構成要素として取り入れたものであること。

 を挙げています。
 すなわち中小企業の実態(属性)を踏まえ、中小企業の身の丈にあった会計基準であり、経営者が自社の経営に活用しやすく、金融機関等にも信頼性のある情報を提供できるものであることをコンセプトとしています。

 最近、金融機関は税理士に対して、日本税理士会連合会指定の「『中小企業の会計に関する基本要領』の適用に関するチェックリスト」を決算書に添付することを求めるケースが増えましたが、その15番目のチェック項目は、記帳の重要性を確認するものです。「すべての取引につき正規の簿記の原則に従って記帳が行われ、適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿が作成されているか。」

 このような記帳条件を満たすことは、中小企業の経営者自身が会計を理解し、自社の経営に役立てることの大前提となります。

 前述の中小企業経営力強化支援法において、今や税理士は中小企業経営の支援者として期待されています。

 TKC全国会は、「中小会計要領」に基づく決算書の数を、平成26年末までに12万社とする当面の目標を掲げています。しかしこのレベルに止まるわけではありません。将来的には日本のすべての中小企業を対象とすべきと考えます。

 昨年7月に実施された第39回TKC全国役員大会では、中小企業会計要領の普及と定着に向け、次の大会宣言が採択されました。この大会宣言を単なるアドバルーンで終わらせることなく、確実に成果を上げていかなければなりません。

大 会 宣 言

 我々TKC会計人は、巡回監査と書面添付を断行するとともに「中小会計要領」に準拠した信頼性の高い決算書の作成と経営者の財務経営力の強化を図り、中小企業の健全なる発展に貢献することを宣言する。

平成24年7月12日
TKC全国会

 決算書の証明力を確保するための3つの課題は、いずれもTKC会計人の強みとするテーマではないでしょうか。会員の総力を挙げた取り組みによって、ともに時代を動かしていこうではありませんか。

(会報『TKC』平成25年7月号より転載)