寄稿

TKC全国会創設50周年の政策課題と戦略目標達成に向けて(1)

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 TKC全国会が創設されて今年で42年、「失われた20年」と言われる日本経済にあって、TKC全国会50周年の2021年が「失われた30年」にならないために、今こそ職業会計人として中小企業の経営に対して、最大限の支援をしなければなりません。

TKC会員は認定支援機関としての役割を担おう

 中小企業庁の発表(7月10日)によれば、経営革新等支援機関は、全国で13,459(7号認定まで)が認定され、うち職業会計人は、10,819で80.4%を占め、更にTKC会員に絞ると5,435になっており、全体の40.4%を占めています。

 認定数でいえば他の組織や団体を遙かに凌ぐものですが、問題は、これからどれだけの中小企業を支援し得たのかが問われるということでもあります。

 国は、中小企業金融円滑化法終了に伴う新たな総合的な対策の一環として、経営革新等支援機関が支援する経営改善計画策定支援やモニタリングに係る費用の一部を補助する制度を開始し、企業数にして2万社を対象とする405億円の予算を組まれました。国が税理士など認定支援機関の支援業務にこのような費用を拠出するのは画期的なことです。

 我々TKC会員は、平成11年の「第1次成功の鍵(Key Factors for Success)作戦」以来、これまで一貫してKFS運動を展開してきました。

 特に「第2次成功の鍵作戦」では、当時の平沼赳夫経済産業大臣の要請を受け、経営革新支援法(現在は新事業活動促進法)による経営革新計画承認企業数の増加を図り実績を上げてまいりました。

 さらに近年は、中小企業金融円滑化法に対処するために金融機関との覚書締結による経営改善計画策定支援やモニタリング支援も手がけてきました。ほぼ15年間のKFS活動によって培った経営改善やモニタリング支援の知識と経験を生かして、認定支援機関として、国の予算を活用しながら更に大きな役割を果たせる機会が与えられたわけです。

 当支援事業においては地域金融機関との連携が欠かせません。以前から地域金融機関との間で経営改善やモニタリング支援の覚書を締結し、支援活動に入っているところですが、現在のところ覚書を締結した金融機関は全国で174行にのぼっています。

 しかしその具体的な支援実績となると、まだ一部の金融機関にすぎません。今後とも本制度の主旨を深く理解し、金融機関と更なる交流を深めていただき、実質的な支援活動に入っていかねばなりません。各地域会において、組織的な活動体制をとっていただくことを強く望むところです。認定支援機関となった会員各位の活躍に期待してやみません。

全国会諸規定などの見直しに着手

 「TKC全国会創設50周年に向けた政策課題と戦略目標」の実行には様々な克服すべき課題があります。その実行に向けて年内にロードマップを作るべく準備をしていますが、一方で現行の組織全般について見直しをしておく必要があります。

 どんな組織でも新しく作った時が最高値、つまり最も機能する状態でありますが、時の経過とともに、どんな素晴らしい組織も少しずつ時代対応の遅れが目立ち始め、やがて衰退していく傾向があります。だからこそ組織のあり方は、常に時代の節目に応じてリフレッシュしていかねばなりません。

 今般、その手始めにTKC全国会の諸規定の見直しを図り、まず会則及び会務執行規則を総務委員会を中心に改定作業を進めていただき、さる6月20日のTKC全国会理事会にて改定内容の承認をいただきました。これにあわせて地域会の諸規定の見直しを各地域会にお願いしているところです。

 特に地域会の規定では、支部長の役割についても整備していただいていますが、この機会に、支部長がリーダーとしての役割を果たすことに対して全国会として支援体制が不十分であったことを反省し、従前あった年1回の支部長研修を「全国支部長会議」として模様替えをしました。ここで常に全国会からの情報をタイムリーに掴んでいただくと同時に、リーダーとしての資質を磨くための充実した会議とするように努めていきたいと考えています。第1回の会議は既に7月19日に実施済みですが、年3回程度の会議を実施してまいりたいと考えています。

 また、TKC会員の実務面の規定である「行動基準書」の見直し作業も進めています。特にその中の実践規定は、法環境の変化やTKCシステムの進化とあいまって、会員事務所の業務のIT化、ペーパーレス化が進む中で、見直しを図らねばならない箇所が随所にあります。改定にはかなりの時間を要すると思われますが、来年1月のTKC全国会政策発表会には間に合わせたいと考えています。

 このほか、地域会における「ブランド構築」という視点でも、広報戦略等の見直しを図っておきたいと考えます。

 ブランド形成について、マーケティング戦略論で著名なアル・ライズは『ブランドは、消費者の頭の中に自分の言葉を所有する努力をすべきである』と指摘し、さらに、『ブランドの最も重要な側面は、一つのものを追い求めるひたむきさである』と、その著書『ブランディング22の法則』(東急エージェンシー出版部)で述べています。

 我々でいえば中小企業経営者に対する「KFS支援」であります。多くの中小企業経営者の頭に、ひたむきにこの言葉を染みこませていく努力をしていかねばなりません。

 昨今各地域会の広報活動の現状を見ると、TKC会員の強みであるKFS支援をアピールする施策が、今一つ乏しいように見受けられます。例えば、地域会のホームページですが、ブランド構築という視点から見て、どうかと思える点が散見されます。いずれ各地域会会長にもご相談させていただきますが、(株)TKC、アイ・モバイル社などの協力をいただきながら、リニューアルする方向で検討させていただきたいと思います。

TKC会員は真のリーダーを目指せ

 TKC全国会飯塚毅初代会長は、様々な機会に「会計人よ、指導者たれ」の標題で、会計人は指導者であるとし、そのために具備しなければならない要件を話されていました。その要旨をあらためて紹介します。

  1. 時代の流れの方向とその速度についての明確な洞察力をもっていること。
  2. 我利我利の自己中心的発想から抜け出ていること。
  3. 関与先及び自分の職員に対して今後のあるべき実践の方向を、誤りなく指示できること。
  4. グズグズしていないでイエスかノーかをきっぱりと言い切れること。

 これは、職業会計人がまさに社会の指導者であるならば、自ら備えていなければならない条件だと思われる。

 もし職業会計人が、

  1. 時代の流れの方向とその速度について明確な判断をもたずに、ただ考えてばかりいて迷っている。
  2. 自分の財布の中ばかりを気にしていて、関与先の経営発展や職員の生活安定などは真剣に考えていない。
  3. 関与先と自分の職員に対しては、今後あるべき実践の方向を明確に指示せず、ただ従来の慣習的な事務処理方法を漫然と続けさせ、関与先もそれに満足するものだと勝手に仮定してその日暮ししている。
  4. コンピュータ時代に対処するのか、対処しないで自然の自滅没落を待つのか、はっきりしない態度を続けている。

 というあり方をしている場合を考えてみよう。この場合でも、職業会計人は、社会の指導者だぞと言えるだろうか。それでは経理と税務の職人ではあっても、指導者とは言えないのではなかろうか。経理と税務が専門的にできますというだけなら、それは専門の職人であるに止まり、指導者とは言えない。

(「職業会計人の行動指針」から)

 以上は、どんな時代にあっても職業会計人の持つべき心構えとして、しっかりと受け止めておくべき原理原則です。(次号に続く)

(会報『TKC』平成25年8月号より転載)