寄稿

TKC全国会創設50周年に向けて──中小企業の黒字決算支援のために事務所の総合力を高めよう

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 平成26年の新春を迎え、TKC会員の皆様に謹んでお慶びを申し上げます。

 本年は甲午(きのえうま)で、干支の年回りで一番最初の年にあたりますが、「TKC全国会創設50周年に向けての政策課題と戦略目標」を目指す活動がスタートする年でもあります。今後の活動の詳細は、来る1月17日開催のTKC全国会政策発表会の場で発表させていただきますが、年頭に際して、改めてなぜ何のために戦略目標を目指すのかを整理しておきたいと思います。

黒字事業者140万社を掲げる「日本再興戦略」

 企業の廃業率が開業率を上回る状況がすでに20年を超え、さらに赤字決算企業が70%を超える時代が十数年も続いている日本経済のもとで、多くの中小企業が疲弊しています。このような状況を打開するために、政府は昨年6月14日、日本経済再生に向けた三本の矢の一つである成長戦略として「日本再興戦略(Japan is Back)」のアクションプランを閣議決定しました。その中で中小企業・小規模事業者の成長戦略の成果目標として、開業・廃業率、黒字事業者数、海外展開支援の3項目について、次の目標値を掲げています。

 ①開業率・廃業率を欧米並の10%台(現状4.5%)にする。
 ②2020年までに黒字事業者を140万社へ倍増する。
 ③今後5年間で新たに1万社の海外展開を実現する。

 どれも重要な課題ですが、この中で、TKC会員が最も支援できる領域は、②の中小企業の黒字決算支援です。

KFS一体推進が事務所の総合力を示す

 日本企業の黒字決算割合は、国税庁の資料によれば、長い間20%台であえいでいる状態ですが、TKC会員の支援によるKFS実践企業の黒字決算割合は、『TKC経営指標』(平成24年度版)によれば、54.1%と2倍以上の成果を生んでいます。

 経営計画策定支援、経営改善・企業再生等の支援(K)、タイムリーな業績管理体制(PDCA)構築の支援(F)、決算書の信頼性確保(適正申告の実現)(S)を通じて、黒字決算企業を多く輩出し、中小企業を元気にして、日本経済の再生に貢献することが、まさにTKC会計人の使命です。

 会員事務所のKFSへの取り組みの現状を見ると、KFSをセットで支援している企業の絶対数が少ないことが現下の課題であると思われます。ここをしっかりと推進していくことが戦略目標の大きな狙いであり、今年の最大テーマの一つです。今後の事務所経営は、巡回監査と電子申告を標準業務とし、関与先企業ごとにこの3点セットをどれだけ支援していけるのか、すなわちKFS一体推進の取り組みが、事務所の総合力を示す指標であり、この総合力を存分に発揮して黒字決算を支援していくことが重要です。

自立型経営者の育成こそ会計人の役割

 日本経済再生のカギは、何といっても中小企業の経営基盤の強化がなされることです。そのため「中小企業経営力強化支援法」の趣旨を踏まえて、会計の専門家という立場から中小企業の経営者の財務経営力を高める支援は欠かせません。中小企業に、会計がもつ機能を充分に活用してもらうには、中小企業の身の丈に合った「中小会計要領」の普及に努め、自分の言葉で自社の経営内容を金融機関に説明できる、資金調達能力の高い自立型経営者を多く育成する必要があります。

 同時に、経営革新等支援機関制度を活用した国の中小企業支援政策である「経営改善計画策定支援事業」や補助金制度の活用促進など、中小企業の一番身近な立場にある税理士が果たすべき役割は、ますます増大してきています。職業会計人だからできるこれらの役割を、存分に果たしていこうではありませんか。

会員関与先だけが利用できる新ローンは最大の強み

 昨年、三菱東京UFJ銀行殿から「極め」というTKC会員関与先向け専用の超低利ローンの提供を受けました。担保不要、個人保証不要という、KFS実践企業の決算書の信頼性を主眼とした、まさに世の中の「価値観の変化」を促す画期的なローンといえます。これに続いて政府系金融機関である商工中金殿からも、同じ趣旨のローンの提供が開始されています。この動きは、さらに他の金融機関に波及していくものと予想されます。

 今日、多くの中小企業経営者が超低利の融資によるキャッシュフローの改善を願っています。TKC会計人による書面添付実践や、月次巡回監査・月次決算の事実を示す「記帳適時性証明書」等によって決算書の信頼性を高める活動は、職業会計人として当然の業務と言えますが、その取り組みが金融機関に評価されて誕生したTKC会員の関与先だけが利用できるストレングス(強み)であるこれらの新ローンを存分に活用して、中小企業の発展に貢献していきたいものです。

 このほか、内部留保が比較的薄く、事業承継者の人材が乏しい中小企業のあらゆる経営リスクに備え、その存続発展をサポートしていくために、「2021年に向けた政策課題」の「3.中小企業の存続・発展の支援」に「トータルリスクマネジメント制度の推進」を加えていますが、この観点からの取り組みも重要です。

発展・没落の原因は、外部環境か自分か

 技術革新のスピードはますます加速化し、職業会計人に対する需要の多様化が際限なく進行するなかで、職業会計人は常時、事務所の経営革新に挑戦し続けなければなりません。

 この激動の時代にあって、会計人業界においても、未来に本気で挑戦しない会計人は、いやおうなしに転廃業を迫られていくのではないでしょうか。本気になって中小企業経営者の財務経営力を高める指導を通じて黒字化支援ができ、決算書の信頼性確保にしっかりと向き合っていける会計事務所だけが、生き残っていくと思います。今後、会計人業界は発展する会計事務所と没落する会計事務所とに大きく二分されていくと考えられます。

 どちらの側へ進むのかは、一人ひとりの会員の心構え一つにあります。

 今後、個々の会員にとっても、また組織活動においてもさまざまな乗り越えるべき課題に直面するだろうと考えます。

 心理学者ロバート・アンソニーの「勝者はどんな問題にも解答を見つけ、敗者はどんな解答にも問題を見つける」という有名な言葉があります。

 TKC全国会創設50周年(2021年)まであと7年。この期間を職業会計人としてどう生きていくべきでしょう。飯塚毅初代会長は次のように書いています。

格差の原因は自己にあり

 40歳までの私は、妙に片ひじに力が入るくせを持っており、人間関係や世情を見ては、悲憤慷慨するというタイプでした。

 それが、どういうわけか、40歳を越した頃から、人間社会というものは見物するに堪えたるものだなあと、思うように変わってしまいました。

 信ずるという精神機能の薄弱な者、中途挫折の惰性をもっている者、物事を正面から素直に見られない者、嫉妬心が強いばかりで自分の足下が見えない者、利己中心の発想法から一歩も出られない者、邪推ばかりをしたがる者、いや実に限りないほどの多様性が、この人間社会にはあるのであって、だから仏典には六十心とか、1,240種の心の段階とかが説かれているのだな、と分かってきたせいかも知れません。精神模様の変化であります。

 絶対に確実なことは、あなたがロビンソン・クルーソーのように絶海の孤島に一人で生きているのではないということ、ですね。先生の事務所の現状は、今まで人間社会に与え続けてきたイメージの集約結果に過ぎないのだ、と喝破したのはアメリカのインゼルバーグ会計士でした。非常に面白い、と思われる現象は、大発展をとげている会計人は、決まって、格差を作る主人公は俺自身なのだ、と考えており、反対に足踏み転落を続けている会計人は、格差の原因は俺以外の環境条件の中にあるのだ、と思い込んでいることです。」(飯塚毅著作集Ⅱ『激流に遡る』199~200頁・TKC出版)

 新たな活動がスタートする年頭にあたって、後悔することのない人生を歩んでほしい!と強く願う次第です。本年が会員の皆様にとってよい年でありますことを、心から祈念いたします。

(会報『TKC』平成26年1月号より転載)