寄稿

第1ステージの3年目を迎えて

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

平成28年の新春を迎え、TKC会員並びに会員事務所職員の皆さま、そして関連・提携機関、読者の皆さまに、謹んで新年のお祝いを申し上げます。

 本年は、TKC全国会創設50周年(2021年)に向けた戦略目標の第1ステージ3年間の最終年となります。「会計で会社を強くする」ために事務所総合力を磨き上げる、まさに集大成の年です。

 中小企業の置かれている情勢は、いまだに欠損法人割合の高止まり、経営者の高齢化、企業数の減少など厳しい状況が続き、会計事務所経営にも大きな影響をもたらしています。

 P・F・ドラッカー博士は、次のように述べています。

「不況のために成長はできない。しかし、量的な成長はできなくても質的な向上はできるはずである。自らの強みは何か、その強みはどこに適用すべきか、自らの強みを知り、その強みに集中することによってのみ飛躍の機会がある」

 我々TKC会計人の強みは昨年の「年度重要テーマ研修」で学んだ通り、KFS活動を通して事務所総合力を高め、中小企業の存続と成長・発展に指導力を発揮することにあります。

 TKC全国会の2021年に向けての統一行動テーマは、「Chance, Change and Challenge」としていますが、これを「発想の転換、姿勢の転換、行動の転換」の3ステップに読みかえて、各ステージにあてはめています。この3段階の行動原理は、個々の会員の日常的な取り組みにおいても必要なことです。

「Chance」(発想を転換する)
事務所総合力を向上させて、チャンスを活かせ

「Chance」とは、既に示しているように、税理士業界をめぐるさまざまな環境変化をピンチと捉えず、チャンスに変える。そのために「事務所総合力」の向上に事務所全体で取り組むという発想の転換をすることです。

 これまでのように、得意分野だけに取り組んでいればよいという固定概念を打破することです。

『進化論』を著したダーウィンは、「強いものが生き残るのではなく、変化に対応できたものが生き残る」と指摘しています。会計事務所経営においても、環境変化に適応する能力を身につけた者が高付加価値経営の勝利者となるのです。

「Change」(姿勢を転換する)
経営者の心に方向性を与える指導者となれ

「Change」は、会計のもつ機能を経営に活かす指導者として関与先企業に対し「会計で会社を強くする」指導能力を発揮していく姿勢への転換です。

 税務と会計のプロとしての職人に止まるのではなく、専門職を身につけた指導者としての自覚をもって行動する姿勢を身につけましょう。

 ドイツが生んだ19世紀の哲学者ニーチェは「偉大とは方向を与えることだ」と言っていますが、「経営者という人間の心に方向を与えること」はこの世で最も偉大な仕事です。

 その良い例が、平成26年春からスタートした「7000プロジェクト」です。中小企業には様々な経営課題があります。それは赤字決算企業ばかりではなく、黒字決算企業も同様です。多くの中小企業は内部留保が薄く、将来における様々なリスクに対応できるとは思えません。

 企業のキャッシュフローはどうなっているのか、「営業活動から得られるキャッシュは借金返済に回ってしまい、将来の成長戦略に回せる資金がない」、「長年借金体質の経営に陥っている」などの経営課題の解決を「7000プロジェクト」は支援する活動であり、まさに経営者の心に方向を与えていく仕事であるといえます。

 これに取り組んでいない会員の声を聞くと、「面倒なことはやりたくない」、「関与先から言われたらやる」、「継続MASシステムが活用できないので取り組めない」などの声があります。環境変化への対応を怠り、自己中心的発想や自己限定に陥っている会員がおられるように見受けられます。

「7000プロジェクト」は、長期不況にあえぐ中小企業経営者に「抜苦与楽」すなわち苦しみを引き抜き、喜びを与える仕事です。ここは「自利トハ利他ヲイフ」を理念とするTKC会計人の本領を発揮していきたいものです。

「Challenge」(行動を転換する)
事務所総合力を高める経営に挑戦せよ

 発想や姿勢を変えても行動が伴わなければなにもなりません。昨年実施した年度重要テーマ研修は4500を超える会員事務所に受講いただき好評を得ましたが、「よかった」で終わらせず、新年にあたって、事務所総合力を高める経営を所長が決断し、実行することが求められています。

 職業会計人として気骨と決意をもって行動することを期待します。TKC全国会は、今年も全力で会員事務所を支援します。(1月の全国会政策発表会で詳細発表)

 TKC会員事務所にとって、本年度が飛躍の年となりますよう心からご祈念申し上げます。

(会報『TKC』平成28年1月号より転載)