対談・講演

経営者に最も身近な税理士が金融機関との橋渡し役を

坂本孝司 TKC全国会会長 × 遠藤俊英 金融庁長官

「金融検査マニュアル」の廃止や、中小企業の円滑な事業承継にも不可欠な「経営者保証ガイドライン」の促進、「地域金融生産性向上支援室」の新設など、金融庁は以前に増して地域金融機関に「金融仲介機能の十分な発揮」を促している。その金融行政改革の先頭に立つ遠藤俊英金融庁長官に、公務ご多忙のなか、対談に応じていただいた。

司会:会報「TKC」副編集長 内薗寛仁
とき:令和元年5月30日(木) ところ:金融庁

巻頭対談

「現場主義」の徹底と成果

坂本 このたびは公務ご多忙のなか、対談のお時間をつくっていただきありがとうございます。また7月に開催されるTKC全国役員大会の基調講演でもお話しいただけますことに感謝申しあげます。本日はよろしくお願いいたします。

遠藤俊英氏

遠藤俊英氏

遠藤 こちらこそよろしくお願いいたします。

──遠藤長官は昨年7月に金融庁長官に就任されて1年を迎えられようとしていますが、その間で特に印象に残っているのはどのようなことでしょうか。

遠藤 いろいろと印象に残っていますが、昨年坂本会長からお招きを受け、長官に就任するというまさにそのスタートのタイミングでTKC全国会の大会に出させていただきました(第45回TKC全国役員大会「基調講演」/平成30年7月13日)。

坂本 長官にご就任される直前でしたね。金沢までお越しいただき貴重なご講演をありがとうございました。

遠藤 そうしたタイミングで大会に出させていただいたことは印象深く、地域金融行政はこれまでもそうでしたが今後さらに進めていかなければならない重要課題であるとあらためて認識しました。
 そうした思いからこの1年は私をはじめとして金融庁の幹部や財務局の幹部と議論し、特に地域金融機関のトップとお会いしその地域の企業、地元の経済のためにどういった対応をしようとしているかについて真正面から対話することを重視してきました。
 それと同様の趣旨で、地域企業の実情や地域の課題把握の取り組みの一つとして、地域における関係者のネットワークを作り、──「地域経済エコシステム」という言い方をしていますが──、主役である地域企業をその関係者がしっかり支えるためにどうすべきかについて対話することも中心課題の一つに据えて取り組んできました。
 現時点でめざましい成果が得られたかというとまだ道半ばではありますが、金融機関トップの意識はかなり変わってきたのではないかと思います。
 同時に、地域金融機関と対話をする我々自身が変わることも必要です。地域金融のモニタリングを担当する検査官だけではなく、金融庁全体の組織、職員が変わるということです。具体的には職員1人ひとりがオーナーシップを発揮し、自らの仕事をより「自分ごと」として考えていく。そのために職員には良いと思ったことにはどんどん挑戦しなさいと伝え、そうした行動を奨励しています。
 実際に地域の現場に出向き、地域の行政官などと連携して地域活性化に向けて熱心に取り組む職員が増えてきています。みんなもともと熱い思いを持っているわけで、それが発揮できる組織風土、カルチャーになりつつあります。

坂本 遠藤長官には地域中小企業のために良い方向に旗を振っていただいており、本当に心強く感じています。

「金融検査マニュアル」廃止後、地域金融機関には独自性発揮を期待

──昨年6月に金融庁が公表された「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」において、本年4月1日以降を目処に「金融検査マニュアル」を廃止することが示されました。

遠藤 検査マニュアルを廃止することが象徴的に語られていますが、その目的は今後地域金融機関は地域の実情に合わせて自身で経営戦略を考え、独自性を発揮していただきたいということです。
 検査マニュアルを形式的・外形的なチェックリストとして使ってしまうことで、本来金融機関がそれぞれの地域の実情に合わせて考えるべき経営戦略や独自性が阻害されてしまう面がありました。ですからチェックリスト廃止は、経営戦略などと一貫した内部管理態勢を自らで構築し、顧客ニーズに応えるための創意工夫に取り組むことを後押しするものです。顧客本位で地域の実情に基づく戦略の展開、実際の行動を金融庁は尊重します。検査マニュアルの廃止はその一環です。

坂本 画一的なチェックはやめるということですね。

遠藤 ええ。ですから検査マニュアルの内容を今後も取り入れるという金融機関があればそれはそれで自由です。そういう意味で検査マニュアルの廃止は金融機関にとって独自性を発揮できるチャンスだと思っています。
 検査マニュアルの廃止にあたって金融庁が金融機関とどのような考えに基づいて対話を進めていくかについて、その材料となる文書を順次公表しています。「ディスカッション・ペーパー」と呼んでいますが、今後、「融資に関する検査・監督実務」についてのディスカッション・ペーパーを公表する予定です。そういう状況を作ってから検査マニュアルは廃止となりますので、具体的な時期についてはあらためてお示ししたいと考えています。

事業性評価において財務情報と非財務情報は相互補完すべき要素

──昨年9月に公表された「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」において、「地域金融機関との深度ある『対話』の構築・実践(見える化と探究型対話)における外部専門家の活用」を挙げられていますが、この点についてお聞かせください。

遠藤 金融庁では、地域の実態を把握するために、企業だけでなく税理士の方々や商工会議所、商工会等の地域企業の支援関係者との対話を行っています。
 また企業の本音や悩み、金融機関に対する期待や要望、さらにはその理由や背景など実態をよりきめ細かく把握するために、今事務年度から「地域金融生産性向上支援室(日下智晴室長)」を新たに設けました。支援室のメンバーは霞が関にいるのではなく、地域に長期間出向き、現場に飛び込んで地域企業の支援関係者等と対話しているところです。
 地域における生産性向上に資する「人的ネットワーク」の構築においては、キーパーソンとなるような人物を見つけ出し、結びつけることが大切です。実際に中小企業金融がうまく進んでいる地域では税理士などがその役割を担っています。もしそのネットワークの中に金融機関が入っていなければ我々がブリッジして金融機関に入ってもらう。そのようなことで先ほどお話しした「地域経済エコシステム」がうまく機能していくと思います。
 地域の現場に行く最大の利点は実態がつかめることです。地域の財務局と協力して地域企業やその支援関係者を直接訪ね、対話を重ねることで現場の声が得られます。今年東北地区に行った際にも、企業経営者等から「自社の経営状態や新たな取り組みなどについて、税理士に早めにいろいろと緊密な情報共有をする」、「企業の相談相手は実態としては税理士が活躍している」といった生の声を聞き、税理士の方々が中小企業に寄り添っていただいていることが分かりました。
 その一方で地域にもよるでしょうが、金融機関は企業にとって相談相手ではなく交渉相手となっているようです。顧客本位の持続可能なビジネスモデルを実現していくためには、待ちの姿勢ではなく日頃から地域企業とのつながりを深め、信頼される存在にならないといけません。そうなって初めて対話や事業性評価ができる状況になります。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

坂本 我々は、誠実な中小企業が金融機関から正当に評価されることを目指し、会計帳簿をベースに税務・会計・保証・経営助言の四つの業務を日頃から実施していますので、そのような経営者の声は励みになります。
 その意味で事業性評価が語られる際に、財務情報ではなく目に見えない非財務情報の評価が中小企業金融において大切だと耳にすることがありますが、その目に見えないものや実際の取引行為を正確に数値化するために存在しているのが財務情報(会計)です。財務情報・非財務情報どちらも中小企業金融には不可欠で相互補完すべき要素なのに、財務情報が主に過去データという理由で金融機関の現場では重要視されない傾向にあるように思います。

遠藤 金融庁の調査でも企業が金融機関に期待することは「事業への理解」であり、金融機関が事業に対する理解を深めていくことは好ましいことと考えておりますが、一方で財務情報も非常に重要であると思います。金融機関には、財務情報と非財務情報をバランスよく活用した上で、事業性評価を行っていただくことを期待しています。

「決算書の信頼性は識別可能である」ことを認知してもらいたい

坂本 地域金融機関もいま、働き方改革への対応が求められ、残業時間等にも制限がある中で多くの取引先の件数を抱えているわけですから、全ての融資先経営者に寄り添って事業性評価をするのはなかなか難しいと思います。とすればぜひ我々税理士をうまく活用いただきたいのです。
 TKC全国会においても、金融機関との連携面で過去を振り返ると、TKC会員事務所の業務品質に基づく決算書等の信頼性をもとにした無担保・無個人保証の融資商品が金融機関から開発・提供されるなど非常に盛り上がった時期もあります。ただそうした歴史がありながらも、いま金融機関から我々に、関与先である融資先企業の決算書等の中身について積極的な確認や協力を求める声が寄せられているかといえばそうとも言いがたいわけです。その意味で残念ながら金融機関との実質的な連携にはまだ至っていない状況にあり、それがとても歯がゆいのです。
 その要因の一つに、これまで粉飾された決算書を見てきた経験から、中小企業の決算書には全幅の信頼を置けないという金融機関の方がいることが挙げられます。過去の経験からそういう見方になるのは仕方がない面がありますが、一律に中小企業の決算書が信頼できないというのは違いますよとお伝えしています。

遠藤 一律によくないというのは思考停止しているのと同様ですからね。

坂本 ええ。我々はその誤解を解いて、「決算書の信頼性は識別可能である」ことを積極的に発信し、理解を深めてもらうことに取り組んでいます。具体的には次のような事項で信頼性は担保されていくと考えています。
①どの税理士が関与しているのか(TKC会員)
②月次巡回監査を実施しているのか
③電子申告した内容と同じ決算書等であるのか(一気通貫)
④中小会計要領への準拠(中小会計要領チェックリスト等)
⑤税理士法第33条の2に基づく添付書面

 我々は特にいま「決算書の信頼性は識別可能である」ことを金融機関に正しく知っていただくために、TKCモニタリング情報サービスという仕組みで電子申告した内容と同じ決算書を金融機関に提供しています。現在、全国で約10万件の利用がありますが、これをさらに進めることにより中小企業と金融機関との信頼関係が築かれて中小企業の資金調達力が強化されるとともに、金融機関と税理士との実質的な連携関係が構築されることを期待しています。

遠藤 なるほどそれは現場を重視した新しい取り組みですね。金融機関はそのような仕組みを取り入れるなどして地域企業のためにいろいろ挑戦していくことが大切です。ぜひ地域の声をよく聞き、税理士の方々など外部専門家の協力も得つつ、把握した地域の実態をもとにして地域企業と深度ある対話を実行していくことを期待したいですね。それがさらなる「金融仲介の機能」を十分に発揮してもらうことにつながると思います。
 地域金融機関の目的は顧客である中小企業を良くすることであり、そのための外部専門家との連携などをいかに戦略的に考えられるか。トップがそういう方向性を示し、その方向性に沿って具体的に活動する職員の方がきちんと評価されることも重要です。

巻頭対談

添付書面に「経営者保証ガイドライン」適用につながる「法人・個人の分離」の記載を

──金融庁では担保・保証に過度に依存しない融資を促進する観点から、「経営者保証に関するガイドライン(以下、経営者保証ガイドライン)」が融資慣行として浸透・定着されるように、金融機関にその活用を要請されています。

遠藤 「経営者保証ガイドライン」のさらなる活用に向けた課題を抽出し、効果的な対応策を検討する観点からその活用状況に関する実態調査を行い、金融機関と対話を行ってきました。
 また「経営者保証ガイドライン」の位置づけ等について地域金融機関全行にアンケート調査を行いましたが、その結果からは、「経営者保証ガイドライン」の活用促進は「顧客との信頼関係の強化につながった」「職員の目利き力の向上につながった」等のメリットがあることや「円滑な事業承継につながった」という声が得られています(今年4月に公表)。
 そうした結果も踏まえて「経営者保証ガイドライン」の経営戦略上の位置づけ等について、経営トップも含めて金融機関と引き続き対話し、さらなる活用を促してまいります。件数は右肩上がりで推移していますが、その実質的なレベルを高めることが必要と考えています。

坂本 金融機関の中には経営者のモラルが低下することを理由に小さな会社には活用できないという認識の方もおられるようです。

遠藤 そもそも経営者保証は何のためにあるかというと、債権の保全という意味合いではなく、経営者のモラルを維持するためといわれています。金融機関は、経営者保証を付けなければ、モラルや経営者規律を保てないほど顧客企業と日頃疎遠な関係なのですかと申しあげたいですね。
 金融機関が企業と距離を縮め、常に対話をしていれば、経営者規律は保たれることになります。そういうことをせずに、安易に経営者保証のみを経営者規律を保つための手段として用いているとしたら本末転倒です。
 大切なのは金融機関の中小企業に対する関わり合いの中で、良い経営をしてもらうように働きかけていくことです。経営者規律も保たれますし、「情報の非対称性」の解消につながりビジネスも上向きになる。そのようなことを本来目指していくべきではないかと考えています。

坂本 お話にあったように中小企業金融における課題は「情報の非対称性」です。日本と同じく税理士制度を有するドイツではその解消のために、法律(信用制度法第18条)によって一定以上の無担保・無保証融資に関して「税理士または経済監査士等による決算書作成証明書(ベシャイニグング)」等の添付が義務付けられています。中小企業金融の規律の健全さの根底はそこにあるわけです。
 ドイツのような制度的な仕組みが存在しないわが国の中小企業金融においては、書面添付やTKCモニタリング情報サービスが「情報の非対称性」の解消、「経営者保証ガイドライン」の定着に有効と考えています。

遠藤 「経営者保証ガイドライン」の一層の活用促進のために必要不可欠なのが、TKC会員の皆さんをはじめ税理士の方々など外部専門家の協力です。例えばガイドラインの適用要件の一つとして、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」が求められていますが、経営者にその必要性を認識してもらうとともに、「財務の健全性の確保」につながるようなアドバイスや書面添付制度の活用により、税理士の方々に経営者と金融機関との橋渡し役を担っていただくことが重要だと考えています。

マンパワー不足の金融機関は税理士との連携が不可欠

遠藤 経営者保証については、事業承継において旧経営者と新経営者(後継者)から二重でとっているケースがあり、そのことが円滑な事業承継のネックになっているといわれています。
 事業承継は政府としても重要な問題であるがゆえに、平成30年度税制改正において事業承継税制を改正し、課税の繰り延べを大胆に認めました。
 したがって、いま事業承継を阻害しているといわれる大きな要因は、税ではなく経営者保証となっているわけです。その点においても「経営者保証ガイドライン」の活用促進にしっかり取り組み、新旧経営者から二重で経営者保証をとるような状況は見直していかなければならないと考えています。事業承継の分野に関わる経営者保証については中小企業庁とも議論をしながら具体的な策を講じていく必要性を感じています。
 そうした中で、TKC全国会では事業承継支援に積極的に取り組まれ、同業の税理士の方に対して顧問先である中小企業の事業承継支援に取り組むよう促しておられると承知しています。
 税理士の方々が日常的に中小企業経営者と接し、経営者が引退するにあたり相談する先として税理士・公認会計士がトップであることは、税理士が中小企業の経営者の相談相手として信頼を得ていることの表れだと思います。事業承継に際して税理士の方のアドバイスは重要です。特にノウハウやマンパワーが不足している金融機関にあっては十分な事業承継支援を行えないことから、専門知識をもつ税理士の方々との連携は不可欠です。
 税理士の皆さんが経営者保証の問題にとどまらず、さらに踏み込んで後継者問題や今後のビジネスの展開について相談に応じていただいている点が評価されているのだと思います。

坂本 多くのTKC会員事務所では後継者向けの研修(後継者塾)を実施しています。中小企業の場合は経営の経験や知識が豊富ではない後継者が社長になることも多いので、事業を引き継ぐ心構えや会計などについて学んでいただけるように今後も取り組んでまいります。

認定支援機関の税理士に現場で重要な役割を果たしていただきたい

──最後に税理士への期待をお聞かせいただけますか。

遠藤 認定支援機関として税理士の方々が中小企業の現場に入り、金融機関と中小企業との間をうまく結び付けて重要な役割を果たされることを期待します。実際に中小企業経営者に話を聞くとそういう役割を十分に担っていただいているようですが、引き続きよろしくお願いします。
 また繰り返しになりますが、「経営者保証ガイドライン」を活用するには、「法人と個人の分離」ができていないといけません。この点は特に財務的な部分ですから、税理士の皆さんにしっかり見てもらい、書面添付などでそれを証明していただきたいと思います。ぜひ「経営者保証ガイドライン」が今以上に活用される土壌をつくっていただくことを期待します。

坂本 「経営者保証ガイドライン」における「法人と個人の分離」については、顧問税理士の立場からアドバイスをすることが重要だと思います。例えば、書面添付には経営者が公私混同していないかなどについてその見解を述べることができますので、書面添付を有益な情報として金融機関に使っていただきたいと思います。税理士法では書面添付に虚偽の記載があれば罰則規定がありますが、我々はその重みを感じ、覚悟を持って取り組んでいます。
 本日遠藤長官のお話をうかがい、地域企業、地域経済の活性化に取り組む金融庁の本気度があらためて伝わってきました。我々も日本経済に貢献していくために、「決算書の信頼性は識別可能である」ことを発信するなかで中小企業金融における役割を一層強化し、金融機関との連携が形式的ではなくより実質的なものとなるように取り組んでまいります。

(構成/TKC出版 内薗寛仁・清水公一朗)

遠藤俊英(えんどう・としひで)氏

1959年生まれ。山梨県出身。1982年東京大学法学部卒業。金融庁検査局総務課長、総務企画局総務課長、総務企画局参事官(監督局担当)、同局審議官(監督局担当)、同局審議官(企画・市場・官房担当)、検査局長、監督局長等の要職を歴任し、2018年7月金融庁長官に就任。

(会報『TKC』令和元年7月号より転載)