対談・講演

いままさに、職業会計人の真価を発揮する時!

資金繰り対策を要する関与先に正確かつ迅速な情報発信を

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 いまや新型コロナウイルス感染症による影響が世界的に拡大しており、日本経済、とりわけ中小企業経営は苦境に見舞われています。政府は、雇用の維持や事業の継続、生活の下支えを最優先とする緊急対応策を矢継ぎ早に打ち出しており、4月7日には、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発出(4月16日には全国に対象区域を拡大)するとともに、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を公表。前例にとらわれない、財政・金融・税制などあらゆる政策手段を総動員するとしています。

 しかしその一方で、感染拡大に伴う不安が社会に蔓延しています。従来の経済危機とは異なり、いつ収束するか見通しの立たない状況の中で経済活動は縮小し、規模や業種を問わず多くの企業が影響を受けており、急激な売り上げ減少に伴う資金繰り悪化を余儀なくされている中小企業が急増しています。

 このような感染拡大期の危機的状況にあって、われわれTKC会員が職業会計人としてなすべきことは明白です。それは、中小企業に寄り添って「親身の相談相手」として経営者の不安を解消し、勇気を与え、当面の危機を乗り越えるための支援に全力を注ぐことです。

 現在、TKC全国会、株式会社TKC並びにグループ関連会社では、オールTKCとして組織を横断して総力を挙げ、日本全国のTKC会員関与先企業である中小企業を支援していくための情報収集と発信に努めています。

 ProFIT(TKC全国会ネットワーク)OMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)には、「新型コロナウイルス緊急資金繰り対策コーナー」を設けており、日々更新される国・都道府県・市区町村・覚書締結金融機関による最新の支援策を網羅的かつ体系的に閲覧できるようにしています。そこでは、関与先企業が当面の危機を乗り越えるための会員事務所による個別支援に役立つツールやコンテンツ等も併せて提供しています。

 さらに、4月15日にレベルアップされたOMSクラウドには、関与先企業ごとに適用できる政府の緊急融資などの支援策を自動判定する機能も搭載されています。このような充実したTKCグループのサービスを、関与先企業の支援に全面的に活用する必要があります(TKCグループによる各種支援策の詳細は『TKC会報』令和2年5月号 20~31頁を参照)。

感染拡大期収束後の反転攻勢のための支援も重要

 TKC全国政経研究会では、新型コロナウイルス感染症の影響が全国的に拡大する以前の2月半ば過ぎから、「民間金融の有事対応では、既往債務の借換や条件変更に加え、最低2年程の元本返済猶予と保証料や金利は国が負担するなどの条件による緊急融資を実施すべきである」などの提言を政府、与野党をはじめ関係省庁に集中的に行ってきました。

 具体的な活動内容は次の通りです。

令和2年2月から3月にかけての主な政策提言活動

2月26日
自由民主党金融調査会「地域金融経営力強化PT合同会議」への参加
同日
塩崎恭久衆議院議員・元厚労大臣・自民党TKC議連会長との意見交換
3月 4日
前田泰宏中小企業庁長官との意見交換
3月16日
片山さつき参議院議員・前地方創生担当大臣との意見交換
同日
伊藤達也衆議院議員・元金融担当大臣との意見交換
3月17日
古川元久衆議院議員・超党派TKC議連会長、玉木雄一郎衆議院議員・国民民主党代表との意見交換
同日
富田茂之衆議院議員・公明党TKC議員懇話会会長との意見交換
3月19日
西村康稔経済再生担当大臣との意見交換
同日
公明党「新型コロナ感染症対策本部」「中小企業政策研究議員懇話会」合同ヒアリング
3月23日
遠藤俊英金融庁長官他幹部との意見交換

 また、それと同時に感染拡大防止の観点から、①令和元年分の所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告、②法人の申告、③社会福祉法人をはじめ非営利法人の決算作業等──に関して、「期限延長と柔軟な対応と一定期間の納税猶予」をTKC議連幹部や関係省庁に対し、強く訴え続けました。現時点ではその多くが実行に移されています。

 ともかくいまは、目の前の問題に全力で取り組むこと、そして、緊急事態宣言などの状況がある程度続く長期戦になるということを視野に入れた対応が重要になります。そして、次の局面を想定し、感染拡大期が収束した後、いわゆる反転攻勢期の支援として、次のような内容を提案しました。

①緊急事態を乗り越えた後の経営改善などに金融機関、顧問税理士が連携して本業をサポートし、再度成長軌道に乗せていくことが重要である。

②その際、金融円滑化法の反省を踏まえ、「税務署に提出したものと同じ決算書」と「中小会計要領(中小指針)チェックリスト」の提出、融資額に応じた頻度での経営計画のモニタリングを要件として、それらの支援には経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)を積極的に活用すべきである。

 ここで強調したことは、認定支援機関制度を有効活用すべきであるという点です。あえて税理士に限定せず、国が財務・税務・金融の専門家として認定した会計士、弁護士、中小企業診断士、商工会議所等すべての認定支援機関の役割とすることで、より社会の納得も得られるためです。したがって、各方面への提言時には、必ず「中小企業等の経営強化に関する基本方針(平成十七年五月二日)(総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省告示第二号)」に基づく認定支援機関の業務内容を丁寧に説明しました。

 このような経過を経て、あらためて認定支援機関に対する与野党、関係省庁の理解が深まったこともあって、4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」にも認定支援機関制度の活用が謳われました。具体的には、税制措置の面で、固定資産税・償却資産税の減免措置を市町村に申請する際は認定支援機関の認定を要件とすることや、令和2年度補正予算案の中に事業再生・経営改善(認定支援機関による405事業およびプレ405事業)支援80億円が計上されました。

 これらのことは、認定支援機関が果たしてきたこれまでの実績に対する高い評価と期待の表れといえます。

金融機関との連携がより実質的なものに進展してきた

 来年(2021年)は、TKC全国会結成から節目の50年を迎えます。われわれはこれまで月次巡回監査の完全実施とTKCシステムをフル活用して租税正義の綿密な実現を図るとともに、「信頼性の高い決算書」を作成し提供することによって、金融機関との信頼関係を強化してきました(下記資料参照)。

 そして昨今では、TKC各地域会会長による地元金融機関トップとの対談や書面添付シンポジウムに現場の行職員の方々に多数参加いただき、TKC会員事務所の業務内容についての理解を深めていただくなど金融機関との信頼関係は一層強固なものとなり、その連携はより実質的なものへと進展しています。

 このような運動の成果を背景にして、今般の政府による緊急の政策金融においては、TKCモニタリング情報サービス(MIS)によるスピーディーな決算書の提供は、資金繰りに困窮する中小企業はもとより、その貸し手である政府系金融機関などからもこの比類のない利便性などが高く評価されはじめています。

【資料】日本の中小企業金融政策ならびにTKC全国会・地域会と金融機関との連携の変遷

①1993年:

BIS規制(バーゼルⅠ)の適用が日本でも本格化し金融機関が自己資本比率の向上に努める必要が生じる。

②1998年4月:

日本が「早期是正措置」を導入し、これによって各金融機関が行う自己査定において、融資先企業の「決算書やそれに基づく財務データ」が大きな位置を占めるようになる(この間、2010年に閣議決定された「中小企業憲章」では「中小企業の実態に即した会計制度の整備」が謳われ、2012年に「中小企業の会計に関する基本要領」が制定される)。

③2000年10月:

東京三菱銀行(当時)はTKC会員事務所の業務品質(KFS等)に基づく決算書等の信頼性をもとに、無担保・無保証の長期融資を行うという画期的な融資商品「TKC戦略経営者ローン」を開発提供した。その後、各金融機関がこぞって各地域会との交流会を開催し、たくさんの融資商品が開発・提供される。

④2012年5月7日:

金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などに、「顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できるよう助言するにあたっては、当該顧客企業に対し、『中小企業の会計に関する指針』や『中小企業の会計に関する基本要領』の活用を促していくことも有効である。」との文言が追加され、金融検査マニュアルの「中小企業に適した資金供給手法の徹底に係る具体的な手法例」にも「『中小企業の会計に関する基本要領』の普及」が追加される。

⑤2012年6月21日:

中小企業経営力強化支援法(同法は「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」等の一部を改正するもの)は、財務および会計等の専門知識を有する者(既存の中小企業支援者、金融機関、税理士・税理士法人等)を経営革新等支援機関として認定し、これらの認定支援機関による支援事業を通じて課題解決の鍵を握る事業計画の策定等を行い、中小企業の経営力強化を図る目的で制定された。同法は、経済産業省・中小企業庁と金融庁を横断する施策であり、同法に係る各省庁の告示は、資金調達力を強化するために、中小会計要領・中小指針の推奨、計算書類等の信頼性確保、財務経営力の強化を求めている。

会計事務所経営を見直す大きな機会として捉える

 現下の難局は、通常では5年程度かかる環境変化をたった1年で引き起こしてしまいます。したがって、事務所経営の視点においては、これを新時代への対応として捉える必要があります。

 私は、ことあるごとにジョン・L・ケアリー氏(アメリカ公認会計士協会元専務理事)の言葉を借りて、職業会計人が勝ち残るための条件として、①組織化、②社会の納得、③現代の業務への適応・新しい業務の開始──の三つを紹介してきましたが、いまや「現代の業務への適応・新しい業務の開始」が迫られています。

 幸いにもわれわれにはTKCが提供する「最新情報」「システム」「コンサルティングサービス」があります。関与先企業への正確かつタイムリーな情報提供、ICTを活用し月次巡回監査ができない際の事前確認作業、電子申告やMISの実践等々、そして、テレワークにも十分対応できる環境が整っています。いま、日本全国の企業が問われている仕事の仕方の大幅な変革に、われわれも積極的に取り組むべきです。

 また、前述した通り電子申告の定着とTKC各地域会による金融機関への積極的な働きかけにより、MISの普及が進んできたため、経営者の承諾の下、TKC会員事務所が金融機関に関与先企業の決算書や月次試算表を瞬時に提供できるようになっており、民間金融による支援時にも万全な体制が整っています。

「巡回監査」はTKC会員事務所の基本

 所内体制においては、最新のOMSモバイルやWeb会議システム等を利用することにより、職員のテレワークも可能です。また、中央研修所や地域研修所などが主催する集合型の生涯研修や職員研修を中止せざるを得ない状況にある中で、事務所や自宅からいつでも視聴できるオンデマンド研修にサブスクリプション方式が加わり、その内容は充実してきています。

 巡回監査はTKC会員事務所の基本中の基本であり、職業会計人としての職務を遂行する上で必要不可欠な業務ですが、緊急事態宣言が全国へ発出された現状では、関与先企業へ出向くことが不可能な状況や、行くべきではないという所長の判断があるのは当然のことです。

 TKC会員は長らく関与先経営者に対して、自ら数字を把握して「会計で会社を強くする」経営の実践を目指して、TKC方式による自計化を積極的に推進してきました。その結果、現状のように巡回監査を実施できない状況であっても、TISCバックアップサービスやOMSで関与先の業績を確認する関与先カルテに加え、リモートディスプレイサービスやオンラインデポサービスなどを活用することによって、「喫緊の資金繰り支援」や「月次決算に必要な事前確認(事前監査ではありません)」など関与先企業の支援を最優先に取り組むことが可能になっています(各システムの詳細は「ProFIT EXPRESS」を参照)。

 その際は当然のこととして、日本税理士会連合会から公表されている「税理士の業務とテレワーク(在宅勤務)」を参考にするべきでしょう。重要なことは、緊急事態宣言が解除されて、関与先企業に出向くことが可能となったと判断される状況になった時には、事前確認などによって確認できない、換言すれば、巡回監査によってしか検証し、確認できない部分を関与先企業に出向いてカバーする必要があるということです。

哲人的指導者原理を判断基準にして難局を乗り越えよう

 最後に申し上げたいのは、足下の課題としてこの難局にTKC会員一人ひとりが顧問税理士として、あるいは会計事務所の所長としてどのような姿勢や判断基準で臨むべきなのかということです。多くの情報が溢れている現状、組織の長あるいは地域のリーダーとして物事の本質を見極めることが大切です。

『TKC会計人の行動基準書』の第2章倫理規定(2─8)「健康体の維持」には、「会員は、健康体の維持を行動基準実践上の基礎的条件と自覚し、常にそのための関心配置に努めるとともに、職員の心身の健康にも特別な配慮をしなければならない。」と記されています。当然のことながら足下の危機においては、まずご自身とご家族、職員と関与先企業の感染防止に努めることが最優先です。その上で、政府が定めた柔軟な税務上の取扱いや金融・雇用面での各種支援策を熟知して、正確かつ迅速に関与先企業に導入を勧め、救うことがわれわれに求められる役割です。

 次に、地域のリーダーとしての役割ですが、TKC全国会初代会長の飯塚毅博士は「TKC会計人の基本理念(25項目)」の20項目で次のように記されています。

 TKC会計人は、哲人的指導者原理とは、滅私又は自我忘却の境涯を越えて、自我の非実在を覚知する立場に立った先見能力の発揮を骨格とし、組織内会員全体の社会的信頼と権威の向上とを目指す実践原理である、と解する会計人の集団である。

 皆様は地域のリーダーとして、関与先企業の全面支援のみならず、金融機関など地域を支える方々といっそう強く連携するなど、税理士という仕事を通じて、いかに社会の役に立つか、そこに判断基準をおかなくてはなりません。

 さらに、TKC会務運営の在り方については、基本理念の19項目を参考にすべきです。

 いまTKC会計人は、全国会、各地域会、支部、ブロック、部会等々各層に分かれた会員組織をもっている。その各層に分かれた会員組織の意思決定が、単純多数決方式で決せられるのか、はたまた哲人的指導者原理に基づいて決せられるのか、は重大な問題である。(略)心して頂きたいことは、心底にエゴイズムを隠し持った人物は、組織の長に選ばないことが肝要だということである。

 飯塚毅博士は、「職業会計人は経営者の親身の相談相手たれ」と言われました。

 この「親身の」という発想はどこから来たのか調べてみたところ、会計士の起源についての飯塚毅博士の記述を見つけました。会計士はイギリスのスコットランドで生まれた職業で、もともとは監査や税務ではなく、裁判所のもとで破産の整理を行う業務を担っていたということです。

 19世紀後半に会計士制度がアメリカに渡ってからも当初は破産整理等の業務がメインで、『監査論』で有名なモントゴメリー氏によれば、当時の会計士は、夜か日曜日にしかクライアントを訪問することができなかったそうです。平日の昼間に会計士が訪問しているのを人に見られると、「あの会社は破産状態だ」というレッテルを貼られたからだと。つまり、企業の最後の段階に関わるのが会計士だった──と。だから飯塚毅博士は、その発生史上の原点に立ち返り、「親身の相談相手」という言葉を導き出されたと考えます。

 いま、TKC会員は、中小企業にとっての「親身の相談相手」として、本物かどうかが試されています。これまで培ってきたノウハウや経験のすべてを遺憾なく発揮して、苦境にある日本の中小企業を全力で支援していくことが使命です。

 われわれはこれからもたくさんの難題に直面するでしょうが、眼前の問題を哲人的指導者原理で見極めて、逞しく前に進んでいかなければなりません。いままさに、職業会計人としての真価が問われているのです。

(会報『TKC』令和2年5月号より転載)