対談・講演

リレバン金融機関と税理士が「総力戦」で中小企業支援に取り組む!

坂本孝司 TKC全国会会長 × 多胡秀人 地域の魅力研究所代表理事 金融庁参与

長年にわたって地域金融に携わり、自ら立ち上げた一般社団法人地域の魅力研究所代表理事および金融庁参与として金融行政への提言活動等を続けている多胡秀人氏と、坂本孝司TKC全国会会長がWeb対談を行った。リレーションシップバンキングの現状や粉飾決算の問題、またコロナ後の中小企業支援に向けた金融機関と税理士の連携等について、忌憚のない意見交換をした。

司会 TKC会報副編集長 内薗寛仁
とき:令和2年6月10日(水) ところ:多胡事務所、税理士法人坂本&パートナー、TKC東京本社

国際金融から国内金融への転身 地域金融の変革への取り組み

 ──多胡様が金融業界を目指されたきっかけ、その後の多種多様な職歴と地域金融に辿り着いた経緯をお聞かせいただけますか。

多胡秀人氏

地域の魅力研究所代表理事
金融庁参与 多胡秀人氏

 多胡 きっかけは一橋大学在学中の1971年のニクソン・ショックと、それに端を発した変動相場制の開始です。
 国際金融が新しい局面に入り、規制(ルール)でがんじがらめの国内金融に比べてダイナミックな変化に魅力を感じたので、当時国際金融の日本のリーディングバンクだった東京銀行(現三菱UFJ銀行)に就職したのです。それ以来、長く国際金融に携わることとなりました。
 そして79年から85年までロンドン勤務になったのですが、ルールだらけの日本の銀行業界とは異なり、イギリスはプリンシプル(原理原則)の国。つまりイギリス人は人真似を嫌い、一定の原理原則のもとあとは自分で自由に考える気質です。金利スワップや通貨オプションのようなデリバティブ取引など新しい金融の形が生まれる、非常にエキサイティングなマーケットに身を置くことができました。
 ではなぜそういう人間が今は国内金融に携わっているのか。一言で言えば、日本、特に地方が大好きだからです(笑)。父の仕事の関係で小中学校の5年間島根県で暮らし、学生時代はもちろん、仕事を始めてからも暇を見つけては日本中を旅行しました。
 ところが、イギリスから日本に帰ってくると何かが違う。70年代から町の個性が徐々になくなっているように感じました。地方の駅前は全国チェーンの居酒屋やビジネスホテルばかりになって、老舗の飲食店や旅館などが姿を消していたのです。ロンドンにいた時も欧州各国の都市を見て回りましたが、どの都市にも歴史と個性がありましたから余計にそう感じたのかもしれません。2011年に「一般社団法人地域の魅力研究所」を立ち上げたのも、地方創生の支援が目的です。
 いずれにしても、こうした画一化の流れに歯止めをかけて地方創生を目指すためには、地域経済を支える地域金融機関がプリンシプルベースでものを考え、しがらみと合理性のバランスを調整し、創意工夫やイノベーションを促していかなければならない。そう考えて地域金融機関のコンサルティングを始め、窮地に陥ったいくつかの地方銀行の支援をしてきました。

 坂本 私は多胡さんの地域金融に対する知見はもちろん、そのパーソナリティにもとても興味がありまして(笑)、ご活躍の場が国内金融に至った経緯も大変興味深く拝聴しました。
 欧州では1985年に会社法が統一され、中小会社にも外部監査が強制されるようになりました。当時、TKC全国会初代会長の飯塚毅博士が欧州の監査制度を研究されていたので、それを教えていただきながら、ダイナミックに変容する欧州の動きに興味津々だったことを覚えています。
 会計の分野でも同じように国際化が起き、証券市場では国際会計基準が大きな話題となりました。当時、多胡さんも金融業界の中心におられて、そうした変化を肌で感じておられたのではないでしょうか。

 多胡 そうですね。証券業務は典型なのですが、欧州では時価会計の萌芽が見えていました。債券や株式はおろか貸付債権も時価を把握すべきという意見もありました。それは当時の日本では考えられないことでした。また80年代前半にはいわゆるオフバランス取引も活発になり、金融市場におけるプレイヤーの創意工夫によってさまざまな金融商品が登場した、まさに金融変革の黎明期といえる時代でした。

リレバンに「組織的かつ継続的」に取り組んでいるか否かが鍵

 ──現在、金融庁参与でもあるお立場から、地域金融の現状をどう見ておられますか。

 多胡 まずお話ししておきたいことは、現在の地域金融に関する誤った認識の一つとして「日本はオーバーバンキングである」というものです。一部のメディアや有識者がよく発言していますが、これはまったくの見当違いです。
 単純な人口当たりの金融機関数の比較を見ても、例えばアメリカの人口約3億3000万人に対し金融機関は1万強、ドイツの人口約8300万人に対して金融機関は1500余と、いずれも日本の人口(約1億2600万人)当たりの金融機関数(500余/地域金融機関)を上回っています。
 ではなぜオーバーバンキングといわれるかというと、各地域にはそれぞれの歴史や文化・社会、産業があるにもかかわらず、地域金融機関のビジネスモデルが画一的で、同じようなことしかしていない。それだったら地域社会や事業者からすれば「そんなに数はいらないだろう」となるわけです。本来は地域の特徴に合わせた多種多様なサービスをして差別化を図るべきであり、つまりはオーバーバンキングとの誤解の原因は経営にあるのです。
 むしろ、地域によっては金融機関の数は足りていません。例えば、信用金庫や信用組合は地域の小規模事業者への毛細血管のような資金供給を担うコミュニティバンクなのですが、全国を見渡すとこれらが消滅した空白地区がかなりあります。こうした現状があるにもかかわらず「日本はオーバーバンキング」というのはナンセンスです。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 確かに、諸外国の数字と比べて日本の金融機関数は少ないですね。

 多胡 二つ目が、リレーションシップバンキング(以下、リレバン)の問題です。近年、さまざまなメディア等で銀行不要論が語られていますが、それはある意味で正しいといえます。というのは、個人の住宅ローンのような業務であれば難しくないので異業種やネット系銀行がどんどん参入し価格破壊が起こっていますし、法人向けであっても、優良先への融資となると各金融機関が殺到し、金利の叩き合いとなり、金融機関のコスト体系では採算割れになります。
 そのため、多くの金融機関が預金者等に投資信託や保険を売る、いわゆる「預かり資産業務」に力を入れたのですが、金融庁が掲げた「フィデューシャリーデューティー(顧客本位の業務運営)」の浸透で、これももはや収益の柱にはなり得ないことが明白になりました。金融機関がこうした業務だけをしているなら、儲からないのは事実です。
 しかし、金融機関にはもっと大事な仕事があります。それがリレバンです。これは労働集約型の業務なので異業種にとって参入しづらいですし、時間軸を持ってきちんと取り組めば収益も見込める。地域金融機関には優秀な地域の人材や情報ネットワークが集中しているわけですから、それらを駆使した顧客の本業支援、つまりどうすれば売り上げが増加するか、事業承継を円滑に進められるかなどを一緒に考え、企業価値を上げることを支援するのです。こうしたリレバンができている金融機関が非常に少なく、二極化していることが、地域金融の最大の問題です。

 ──リレバンに取り組んでいる金融機関はどのくらいあるのでしょうか。

 多胡 私の感覚では、全体の1割あるかどうかです。ポイントは「組織的かつ継続的」に取り組んでいるかということ。金融庁も「組織的かつ継続的」に取り組んでいるか否かを、金融機関を監督する一つの主眼としています。
 ところが、地域金融機関のトップに話を聞くと、全員が「うちはリレバンに取り組んでいます」と答えます。よく話を聞いてみると「〇〇支店の××がやっています」と、あくまでも個別の話で、要するに属人的な単発取引なのです。メディアが「リレバンの好取組事例」としてある銀行を採り上げると皆さん称賛しますが、他の行員は相変わらず短期利益を目指し、住宅ローン、アパートローン、預かり資産業務等で時間を費やしているのが実態です。
 リレバンはいわば地域金融機関の中核業務なのですが、なぜかいくらリレバンに取り組んでも業績評価に反映されない仕組みになっています。それが組織的には取り組んでいない理由ですね。

ミドルリスク層への事業支援が地域金融機関の収益につながる

 ──今回のコロナ禍により、業績が悪化した中小企業への支援がますます重要な局面に入っています。

 多胡 まさにリレバンの真骨頂は、業績が不安定な、いわゆるミドルリスク層の中小企業・小規模事業者への支援です。コロナ禍で業績が悪化した地元企業への事業支援、例えば新たな仕入先や販売先を紹介したり、採用や人材育成のアドバイスをするなど、いかに汗を流して取り組むかが重要になってきます。もちろん簡単にできることではありませんが、これに本気で取り組むことで顧客との信頼関係が盤石になれば、他の金融機関が低金利での借り換えを提案してきてもびくともしませんので、金利競争から脱却し、結果的に金融機関自身の収益アップにつながります。
 また、最近金融機関を志望する学生が減っているという話も聞きますが、若者は地域のためになる仕事、つまりリレバンをやりたがっています。優秀な若い方々にしっかりとキャリアパスを示すことで大学を卒業して地元に戻ってきてもらえば、人材難の問題も解決されます。
 こうした取り組みを「面的」に展開することこそが、まさに地方創生なのではないでしょうか。

 坂本 実は、われわれ税理士業界も同じく二極化しています。一つは、会計が分からないという中小企業に対し「全部やってあげますよ」と、領収書や通帳などの資料を預かり、決算書等を作って税務申告を行う記帳代行型事務所。
 もう一つが、どんなに小さい事業者でも記帳や帳簿の作成方法を指導し、毎月訪問する月次巡回監査を通じてその適時性や正確性、実在性や適法性などを確認し、さらに経営助言を行う、リレバンになぞらえて言うなら「リレーションシップアカウンティング」型事務所です。もちろんTKC全国会では後者を目指しており、これは約50年前にTKC全国会が設立されて以来変わらぬ考え方です。
 そうした税理士事務所とリレバンに取り組む金融機関が実質的に連携すれば、世界でもまれにみる中小企業支援の仕組みが作れるはずです。われわれはこれまで金融機関トップとの対談等を通じてそれを訴え続けており、ご賛同いただける金融機関も徐々に増えてきています。

 多胡 おっしゃる通り、リレーションシップバンキングとリレーションシップアカウンティングはまさに同じ考え方であり、その意味でも金融機関と税理士さんの連携というのは今後ますます重要になると思います。

巻頭対談

緊急時の融資はスピードが最重要 コロナ後の廃業増加が最大のリスク

 ──コロナ禍の影響を受けた地元企業への対応という面で、地域金融機関の動きをどう見ていますか。

 多胡 先程、金融機関の二極化が起こっていると申し上げましたが、2月から始まった新型コロナ戦争の序盤戦を見る限りでは、この二極化が顕著になっていると感じます。
 多くの金融機関は、「危機対応融資は政府系金融機関の役割」と考えているのか、ほとんど動きませんでした。相談窓口を設置したりリスケに応じたりしていた金融機関はありましたが、多くが相談に来た経営者に政策金融の融資制度を案内するに止まり、とても本腰を入れているとは言えませんでした。
 政府系金融機関にはそれほど支店が多くなく、また決済口座がありませんからその事業者について一から調べなければならず、融資判断に時間がかかります。窓口がパンクするのは予想できたことです。
 そもそも事業者が求めているのは金利や保証料がゼロになるかどうか以上に、いつ入金されるのかという「スピード」です。決済口座でお金の流れが分かっており、日頃から経営者とコミュニケーションをとっているはずの地域金融機関が迅速に融資しないで、その役割を果たしていると言えるでしょうか。そのため、つなぎ融資(いわゆるプロパー融資)等をどんどん実行する必要があったと思います。もちろんそこには一定のリスクはありますが、いずれ政府の融資制度を使って返済されることなどを考えれば相対的にリスクは低く、結果的にリレバンにもつながるのに残念な状況でした。
 5月に民間金融による実質無利子・無担保の制度融資が始まるとようやくパンク状態が緩和しましたが、多くの金融機関の意識は、ノーリスク(100%信用保証付)で実質無利子(後日国庫が負担)・無担保の融資(いわゆるゼロゼロ融資)を出せば役割を果たしたとばかり、「一丁上がり」。
 一方、日頃から組織的なリレバンに取り組んでいる金融機関は普段通りの支援をすればいいので、微動だにしていません。2月の段階から「必要なら、とりあえず融資します」とどんどん動いていました。それだけではなく、資金的な危機が落ち着いた8月から9月以降のことを考えて、資金繰りのみならず、ウィズ・ポストコロナの事業展開を事業者とともに考えようとしています。

 ──コロナ後の地域金融はどのように変化していくのでしょうか。

 多胡 今回のコロナ禍は、金融機関の新たなリスクを浮き彫りにしました。それが廃業リスクです。大規模な公的支援で事業者の短期的な資金繰りは安定しましたが、今後廃業が増加していくおそれがあります。
 実際に事業者の方と話をすると「やっとリーマンショック時の返済が終わったと思ったら、また借り入れが増えた」と嘆いています。たとえゼロゼロ融資でも、経営者にとって借金は重いのです。さらに、中小企業経営者の高齢化が進んでいることは周知のことで、平均的ゾーンといえる70代の経営者であれば「今借り入れして10年かけて返済するより廃業しよう」と考えるのも不自然ではありません。
 一番問題なのは、そうやって廃業を考えている中小企業は債務超過の企業に限らないということです。黒字や優良企業、つまり金融機関や税理士さんが一番残ってほしい企業であっても、「廃業やむなし」と考える経営者が増えているのです。
 もし金融機関が「とりあえず運転資金を貸し付けておけば良い」と軽く考えて、融資先の事業継続の支援に本気で取り組まなければ、廃業が加速して顧客が激減し、自らの収益基盤が崩壊するリスクに直面することになるでしょう。

 坂本 おっしゃる通り、今回のコロナ禍により、これから5年くらいかけて徐々に変化していくはずだったことがこの半年から1年で一気に進んでおり、廃業も加速することは間違いありません。
 金融機関も税理士も地域から逃げられない、つまり事業者と一蓮托生ですから、われわれはこの危機を真正面から受け止めなければならないと思います。

金融機関は経営者の「相談相手」を目指し金融リテラシー向上の支援を

 ──中小企業の粉飾決算が増加傾向であるという問題と、決算書の信頼性に関する見解をお聞かせください。

 多胡 まずもって、決算書の信頼性確保に関するTKC全国会の皆さんの長年の取り組みについて敬意を表します。
 粉飾決算については、確かにこの1年ほど増加傾向にあるということが金融機関の中で言われていますし、実際に私が接点のある地銀でも粉飾決算がいくつか発覚しています。一方で、金融機関が本当にその顧客と向き合い信頼関係を築けていたのか、困ったことがあったら相談していただける間柄になっていたのかを自問する必要があることも事実です。もしそうした関係性ができていたなら、粉飾決算などせずに経営者は業績が悪くなった理由や背景を正直に金融機関に伝えていたはずです。
 もう一つの問題は、一般的に金融機関には優越的地位があるという点です。つまり顧客はお金を借りられないと困るわけですから、都合の悪いことを隠したくなることもあり得るでしょう。金融庁が数年前に実施した事業者へのアンケートでも、多くの事業者が金融機関を「相談相手」ではなく「交渉相手」とみていることが分かります。だからこそ、金融機関は顧客と対等な目線で寄り添い、少々業績が悪くなっても逃げない姿勢を示していけば粉飾決算は自ずと少なくなると思います。

 坂本 同感です。例えば、経営者、金融機関、税理士の3者が一堂に会してバンクミーティングをする時に、共通言語となるのが決算書など「会計」です。まさに「会計で会社を強くする」ために信頼性の高い決算書などをもとに3者が協力し合うことが重要です。

 多胡 その一方で、経営者の金融リテラシーの問題もあります。つまり、業績が悪化した時のことなど考えず、「とにかく金利が少しでも低い方がいい」という考えの経営者も多いのです。
 実は10数年前、九州にある金融機関で、その取引先の酒造メーカーの経営者を集め、リレバンに関するセミナーを開いたことがあります。そして酒造メーカーの経営者に「仕入先をどのような基準で選んでいますか」とお聞きしたところ、すべての経営者が「品質と納期」と答えました。より安価な仕入れができるオファーが来ても、品質と納期が条件に合致しなければ見向きもしないのです。
 そこで「ではなぜ金融機関には金利のことしか言わないのですか。お金だって仕入れですから、言っていることが違うのではないですか」とお聞きしたところ、その経営者は「他に何もないですから」と答えた。つまり金利以外は差別化しようがないということであり、相当まずい状況にあるとショックを受けました。これが私のリレバンの原点なんです。
 経営者に金融リテラシーが足りないのは、金融機関自身がきちんと説明していないということ。自行とライバル行との違いをろくに説明せず、金利が低いことばかりアピールしていれば、経営者も当然金利がすべてだと考えます。

 坂本 私も関与先の経営改善を支援する中で、同じことを感じました。経営者が「〇〇銀行が低金利で貸しますといってきたので、そっちで借りたい」と言うので、私は「社長、〇〇銀行さんは昔、業績が悪化した時に逃げましたよね。また同じことになりますよ」と敢えて社長に説明して、説得したこともあります。「たった0.1%金利が安くなって、年間いくら節約できますか?」という話です。
 逆に、経営者が「坂本さんの事務所は毎日帳簿をつけろとか、経費の公私混同はダメとか厳しいんです」と金融機関に愚痴を言ったら、金融機関にはこう答えていただきたいのです。「そういう税理士事務所ほど立派なんですよ。厳しくするということは、それだけあなたの会社の成長を真剣に考えているからです。例えば、金融庁による『経営者保証に関するガイドライン(以下、経営者保証GL)』では、適時適切な財務情報の開示や公私混同をなくすことでわれわれ金融機関が社長の個人保証を解除することができます。真剣に会社のことを思っているから厳しいことが言えるわけで、われわれ金融機関もそういった税理士事務所であればタッグを組んで社長の会社をしっかり伴走支援することができます」。
 私が金融機関と税理士による連携が重要だと繰り返し主張しているのは、まさにこうやってそれぞれの立場からは言いにくい自らの価値を、第三者を通じて経営者に伝えることが極めて重要だと考えているためです。それを多胡さんが言われるように日本中で「組織的かつ継続的」にできれば、中小企業の存続と発展に大きく貢献できると思うのです。

 多胡 本当にそうですね。「経営者保証GL」についても話し合われた「金融仲介の改善に向けた検討会議(平成27年金融庁が設置)」には私もメンバーとして参画しました。そこでは金融機関における担保・保証依存の融資姿勢からの転換がテーマの一つでしたが、コロナ後は「経営者保証GL」を金融機関が自前ではなく税理士等外部専門家との連携によっていかに取り組んでいくかが本物のリレバンには求められていくことになるでしょう。
 これまで何度も同じことを繰り返してきましたが、今回こそは経営者も「金融機関はお金だけ出していればいい」とは言っている状況ではありませんから、本当に役に立つ金融機関はどこなのかを分かってくれると期待しています。

認定支援機関の取り組みは有効 一丸となれば難局をブレークスルーできる

 ──TKCモニタリング情報サービス(MIS)は、金融機関とその顧客との「情報の非対称性」の軽減につながるサービスで、現在約450の金融機関にご利用いただいています。

 多胡 MISについては、数年前に開催された経済産業省の「ローカルベンチマーク活用戦略会議」でご紹介されたのを鮮明に覚えています。まさに企業の実態把握のためのすばらしい仕組みだと感じました。

 坂本 コロナ禍の発生前から日本公庫には関与先の決算書等をMISで提供していたのですが、そのおかげで非常に早いスピードで融資がおりて、日本公庫からも関与先経営者からも「助かった」とのうれしい声が全国から届いています。もちろん、この状況を予測して利用促進に取り組んでいたわけではないのですが、今回のような危機対応でMISが大きな効果を発揮することが分かりました。

 ──最後に、金融機関と税理士との連携に向けたメッセージをお願いいたします。

 坂本 まずは、目の前で血を流している中小企業に対し緊急資金繰りを支援しなければなりませんが、その上で、資金繰りが落ち着いた後の中長期的な道筋についても考える必要があります。
 一つは共通言語である「会計」を使った現状把握です。そして、事業者は借りたお金を返さなければいけないので、これからどうやって営業キャッシュフローを生み出すのかということを、金融機関、税理士事務所がサポートしながら経営者に考えていただくということです。その時、先ほども申し上げた通り三者の共通言語である「会計」に基づき信頼性の高い決算書を提供することで、金融機関に安心していただくことが重要です。
 二つ目が、2012年に成立した経営革新等支援機関制度(以下、認定支援機関)の活用です。それまでは中小企業の支援機関といえば商工会議所等が担っていたのですが、この制度ができたことによって、全国の金融機関や税理士が中小企業支援の担い手として位置づけられました。その立法趣旨は、中小企業の「財務経営力」と「資金調達力」を高めるということであり、そのためのツールが「会計」なのです。今こそ、この認定支援機関制度を最大限に活用して日本の中小企業を支えたい。そして、中小企業の営業キャッシュフローを増やすお手伝いをする。そのために、金融機関とより実践につながるような連携を実現させたいと願っています。
 私はこうした考えを社会全般の多くの方々に分かりやすく説明し、納得いただくことが重要だと考えています。それを金融機関、税理士の両者が推し進めていけば、自ずとリレーションシップアカウンティングの税理士事務所とリレバンの金融機関の競争優位は持続されるはずです。
 今回、金融業界のオピニオンリーダーである多胡さんとこのような対談の機会をいただけたことも、「社会の納得」を得るための大きな一歩です。特に、全国の金融機関関係者の方々には今回の対談は大きなインパクトがあると思います。本当にありがとうございました。

 多胡 過分なお言葉をありがとうございます。TKC全国会の皆さまの認定支援機関としての取り組みについては詳しく存じ上げなかったのですが、今回の対談に臨むに際して制度や取り組み実績などの詳細を伺いました。非常に有効な制度であり、それを真摯に取り組まれてきたTKC全国会の皆さまは本当に頼もしい限りです。
 今日はリレバンの話が中心になりましたが、これまでの金融機関は小規模な事業者ほど支援の優先順位が低くなっていました。しかしコロナ後はそうした事業者への経営改善等を通じた本業支援が主力のビジネスになりますから、それができない金融機関は存在意義を問われることになります。
 そういった経営改善支援が必要となる中小企業が増えていく中で、支援する側の核となるのは金融機関と税理士事務所です。それは、地元企業と継続的なつながりがあり、その実態を理解していることが支援していく上で必要不可欠なためです。さらにその他の中小企業支援団体ともタッグを組み、正しい「会計」と信頼性の高い決算書等に基づいて、いかに営業キャッシュフローを増やすかを一丸となって考えなければならない。まさに「総力戦」だと思っています。
 リレバンとは結局、本業支援、経営改善、事業再生です。金融機関と、税理士の皆さんが協力し、経営者に両者の役割をご理解いただければ、この難局をブレークスルーできるはずです。

 ──本日は大変貴重なお話を誠にありがとうございました。

(TKC会報副編集長 内薗寛仁/TKC出版 村井剛大)

多胡秀人(たご・ひでと)氏

昭和26年島根県生まれ。同49年東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。外資系銀行を経て、平成9年から地域金融機関へのコンサルティングを開始。同23年地域の魅力研究所を設立し代表理事に就任。金融庁参与。

(会報『TKC』令和2年7月号より転載)