対談・講演

地域に根ざした信用金庫と税理士が連携して中小企業支援を進めよう

坂本孝司 TKC全国会会長 × 御室健一郎 全国信用金庫協会会長 浜松いわた信用金庫理事長

金融機関の中でも中小企業・地域のための協同組織による非営利法人という特徴をもつ信用金庫。その利益代表機関である全国信用金庫協会(全信協)会長の御室健一郎浜松いわた信用金庫理事長と坂本孝司全国会会長との対談では、共に地域に根ざし、認定支援機関である信用金庫と税理士が連携を深めて中小企業の経営改善支援を行うことが今後の地域活性化に不可欠であることが確認された。

司会 TKC会報副編集長 内薗寛仁
とき:令和2年11月4日(水) ところ:浜松いわた信用金庫本部

巻頭対談

地域中小企業を本気で支えていきたい──信用金庫と税理士の志は同じ

 ──御室理事長は今年6月に全国254金庫(2020年10月末時点)で組織する全国信用金庫協会の会長に就任されました。あらためておめでとうございます。

御室健一郎氏

全国信用金庫協会会長
浜松いわた信用金庫理事長
御室健一郎氏

 御室 ありがとうございます。

 坂本 御室会長は浜松いわた信用金庫の理事長でいらっしゃいますが、私も同じ浜松で開業していますから全国信用金庫協会の会長がこの地のご出身であることを誇らしく感じているんです。

 御室 坂本会長と初めてお会いしたのはもう何十年も前になりますか。中小企業のために熱意をもって活動されてきた姿を知っていますから、数年前にTKC全国会の会長に就任されたとお聞きしたときは私も同じ気持ちでした。

 坂本 税理士のお客様と信用金庫のお客様の層は基本的に重なっていますので、両者が連携を深めて支援することでその成長により貢献できます。しかもどちらも中小企業の経営支援の役割を担う認定経営革新等支援機関(認定支援機関)です。そういう思いがありましたからこれまでも全国信用金庫協会会長との対談を試みましたがご縁がなく実現に至りませんでした。今回、満を持して御室会長との対談が実現し、心からうれしく思います。

 御室 それは光栄です。税理士の皆様と私たち信用金庫は共に地域に根ざして中小企業を本気で支えていくという志を同じくする関係だと思っています。共同歩調で支援して中小企業、ひいては地域社会を元気にしていきたい。今日はよろしくお願いします。

顧客の経営実態を理解してライフステージに応じた資金供給を積極的に行う

 ──御室会長は全国信用金庫協会会長として、「中小企業のライフステージに応じた資金供給や経営支援を積極的に行っていく(協会ホームページ全信協会長挨拶より)」と述べられています。具体的にどのように取り組んでいらっしゃるのかお聞かせいただけますか。

 御室 まず、私たち信用金庫の最大の目的は、中小企業を始めとするお客様の成長・発展を支え、それを通じて地域の成長を支援することです。そのために最も重要なのは、私たちがお客様のことをよく理解してお客様に寄り添い、一体となってサポートしていくことです。
 その観点から、中小企業のライフステージ(創業、成長期、安定期、再生期、事業承継、廃業等)についても各ステージに応じてさまざまな取り組みを行っています。例えば、創業に関しては創業向けの融資商品だけでなく、行政や政府系金融機関と連携し、創業の相談段階から創業計画の策定、開業後のフォローアップまで一体で支援しています。また信用金庫が所有している不動産を活用してインキュベーション施設(起業・創業のために活動する入居者を支援する施設)を設置したサポートも行っています。
 成長期・安定期では、多くの信用金庫が販路開拓支援に取り組んでいます。信用金庫業界は金庫同士の結びつきが強いので、合同でビジネスフェアや商談会、ビジネスマッチングを開催しています。また中小企業で大きな課題となっている人材確保については、人材紹介会社と連携して支援する信用金庫も増えてきていますし、自ら人材紹介業に参入する信用金庫も出てきています。
 そしていま最も重要なのが事業承継の局面です。事業承継には十分な時間と準備が必要になるため、経営者の方々に早い段階からの検討を促すとともに、その検討にあたっては経営者の意向を十分に踏まえて事業承継計画の策定をサポートするなど積極的に関与しています。M&A等が必要な場合には相手先の情報が重要になりますので、業界の中央団体である信金中央金庫や専門機関とも連携して支援を行っているところです。
 そもそも私ども信用金庫について少しお話しさせていただくと、1951年の信用金庫法公布・施行により「中小企業と地域住民のための協同組織による金融機関」として誕生しています。
 金融サービスは同じでも経営理念の違いで組織のあり方は異なります。例えば銀行は株式会社であり株主の利益が優先され、大企業との取引が可能である一方、いま申し上げたように信用金庫は地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織金融機関ですから主な取引先は地域の中小企業や地域住民となります。

 坂本 協同組織としてお客様と心を通わせながらサポートして、最終的に地域社会を守っていく。信用金庫の重要なミッションですね。

 御室 利益第一主義ではなく、優先されるのは地域社会の利益です。営業地域も一定の地域に限定されているため、お預かりした資金はその地域の発展に活かされているという特徴もあります。

税理士等と連携して中小企業の経営改善・事業継続を徹底的に支えたい

 ──信用金庫業界としてコロナ状況下の中小企業支援にどう取り組まれますか。

 御室 これまでは主にコロナの影響を受けている事業者の資金繰り支援に奔走し、地域企業の存続と雇用の維持のため地域への円滑な資金供給をまず第一に考え、融資を実行してきました。
 資金供給が一段落した後は、お客様の本業支援に徹底して取り組み、事業の継続を支える局面を迎えることになります。また、売上減の長期化やさらなる借入増加で過剰債務に陥る中小企業が増えることも予想できます。それらをどう支援していくか、むしろこれからが正念場といえます。地域を支える金融機関としていまこそ信用金庫が本領を発揮すべき時であるとの強い思いでいます。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 企業の本業支援、特に経営改善支援が今後重要なテーマになってくることがひしひしと伝わるお言葉ですね。
 経営改善支援という点では、信用金庫の皆様も我々税理士もその多くは同じ認定支援機関です。TKC会員は以前から認定支援関として、「会計で会社を強くする」をモットーに中小企業の財務経営力と資金調達力の強化に取り組んできました。また、その認定支援機関としての役割を最大限に発揮して、平成25年に始まった経営改善計画策定支援(405)事業は約6,500件を、平成29年から始まった早期経営改善計画策定支援(プレ405)事業は約8,000件の実績を挙げています。
 ウィズコロナでは、企業の経営改善や経営革新支援を信用金庫など地域金融機関と我々税理士が共に行っていくことが欠かせないと考えています。国もそのことを期待しており、コロナ緊急経済対策の一環である令和2年度補正予算において認定支援機関による経営改善計画策定支援事業に80億円の予算が措置されました。
 また今年8月末に金融庁から公表された『令和2事務年度 金融行政方針』の中の「経営改善・事業再生支援等」には、地域の関係者(金融機関、税理士等)が連携して円滑に事業者支援を進めて経営改善に取り組むべきとの文言が記載されました。このことを我々は認定支援機関として重く受け止め全力を尽くしていくつもりです。

 御室 税理士の皆様と信用金庫が連携し、認定支援機関として一歩踏み込んだ支援をするのは企業にとって非常に有効だと思います。
 ウィズコロナにおける中小企業の課題やニーズはさまざまであり、金融機関単独では当然解決できないこともあります。税理士の皆様を始めとする外部の専門家や大学の研究者などと連携して、中小企業に最適なソリューションを提供できる態勢をより一層強化し、中小企業の経営改善、事業継続を徹底的に支えていきたいと考えています。
 その意味で信用金庫は、いわば地域での触媒機能、コーディネーターの機能を発揮していくことが求められています。自分達だけでは出来ないこともいわばその道のプロを必要に応じてお連れし経営改善や生産性向上の支援などに取り組む。そういう地域の中小企業にしっかり役に立つ取り組みを目指しています。信用金庫としての役割を理解し、「地域戦略」としてそれをしっかり行動に移したいと思います。

浜松は「やらまいか精神」が根付く土地 「FUSE」を立ち上げて地元起業家を応援

 ──浜松いわた信金理事長のお立場からコロナ状況下の地域経済、地元企業への影響とそれに対する取り組みについてお話しいただけますか。

 御室 静岡県西部の中小企業の業況判断指数は全産業ベースでマイナス63.7となりました。前回調査の2020年6月はマイナス71.4でしたから7.7ポイント改善しました。製造業を中心としてコロナ禍の影響で4月から6月に生産が落ち込みましたが7月以降に回復の兆しがみられて景況感も急落からやや回復している状態です。
 とはいえコロナ禍の収束は不透明で景況感は予断を許しません。コロナ前は多くの人で賑わっていた中心市街地においても人通りは明らかに少なくなり、街並みは飲食業を始めとする小売業の業態変更や撤退が増加し、地域経済に与えているインパクトの大きさを痛感しています。
 2020年度はコロナ禍の事業者支援の最優先事項として資金繰り支援に重点的に取り組み、10月末現在で1,000億円を超える融資を実行しました。既存融資の条件変更にも真摯な取り組みを実施してきました。

 ──今後どのように地元企業を支援していこうとお考えでしょうか。

 御室 地元の起業支援や、事業承継支援は私どもの使命です。この使命を全うするための取り組みとして、まず、事業を立ち上げようとする全ての方の活動拠点として「FUSE(フューズ)」を本年7月に開設しました。コロナ禍によって当初想定した十分な活動ができていない部分もありますが、起業前の「起業家予備軍」の段階から積極的にサポートしつつ、起業を目指す方とそれを支援する方との結節点となることで創業者の増加、事業スピードの加速を促したい。このような時期だからこそ、優れた起業家を数多く輩出してきたこの地域特有の「やらまいか精神(失敗を恐れずに挑戦することの意)」にあふれた日本一の起業家都市を目指してまいります。
 一方で、後継者難などで事業継続が難しい経営者に対する事業承継やM&Aに関しても、従事する職員の増員、職員の外部出向等による経験・ノウハウの習得を進めるなど体制強化に努めています。事業者のライフステージに応じたきめ細かい支援に力を注いでいます。
 当金庫も企業の資金繰り支援から本業支援へと軸足を移していきますが、本業支援にはより高度な提案力とそれを実践する組織力が不可欠です。
 そのために、経営支援体制をより充実させていくべく、10月から経営支援等の専担者を本部だけでなく各営業店にも配置する取り組みを開始しました。本部、営業店合わせてこれまでの約10倍となる100名程度の支援体制構築を目指しています。経営改善支援ができる職員を徹底的に育てて事業者のお役に立っていく。来年2021年の本格始動を目指し、現在は人材育成のための実践的な研修を実施しています。こうした取り組みを通じて本気で地域を支える覚悟です。

 坂本 浜松いわた信用金庫様は以前から経営改善支援にことのほか熱心でしたが、さらに体制を充実させていくのですね。地元静岡会TKC会員も支店長の方と一緒にバンクミーティングなどを開催しながら地道に取り組んできました。

 御室 中小企業の身近な経営パートナーとしてあらゆる支援を行っていきたいのです。大切なのはただ単にお客様のお役に立つ、良い関係になるのではなくて、真にお客様に貢献できるように成果を出していくことです。その意味であくまで主体は中小企業を始めとした事業者であって金融機関ではありません。したがって金庫内部の取り組みに対する評価はどれだけ貸出金を伸ばしたかではなく、貸出先である中小企業がどれだけ売り上げを伸ばしたか、付加価値を高めたか、地域の雇用がどれだけ伸びたかも指標にしています。そういうところにこだわっていくつもりです。

巻頭対談

MISで正しい財務情報が迅速に入手できるからこそ有益な経営改善支援が行える

 ──全国455の金融機関で「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」をご利用いただいていますが、浜松いわた信用金庫様は全国の信用金庫の中でトップの利用実績です。

 坂本 積極的なご利用にお礼申し上げます。

 御室 お礼を申し上げたいのはこちらのほうです(笑)。MISはTKC会員の皆様による信頼性の高い月次試算表・決算書等を電子データで提供いただけるため、融資先企業の正確な経営状況を迅速に把握でき、お客様の現況や資金繰りを含めたソリューション提案等の相談に、スピーディーにお応えすることが可能になっています。提供いただいた財務情報を当庫内で独自に分析し、お客様にさらに役立つための経営戦略にも活かせます。
 本来のリレーションシップ・バンキングを実践していくうえで、顧客との長期的な取引関係を通じた情報蓄積や、地域の税理士の皆様など外部専門家等とのネットワークを活用したコンサルティング機能の発揮の必要性が一層高まっていますが、MISはこうした要請に応えるために必要なインフラとして高く評価しています。
 当金庫で進めている「経営サポート体制強化」「伴走支援」の実践の観点からも、MISを利用される中小企業がもっと増えることを期待しています。
 TKC会員の皆様におかれても、MISで月次試算表を提供いただける割合がより高まるように、その利用促進にご尽力いただければありがたいです。当金庫もMISの利用促進と月次試算表提供のお願いに関する要望書をTKC静岡会に対して提出しています。

 坂本 MISによる月次試算表の提供は今後、経営改善支援が本格化する時に大変有効です。またお客様にとっても月次試算表をMISで提供することで経営リテラシーが高まり、数字をごまかしません。たとえ赤字であっても正直に正しい数字をしっかり出していく。だからこそ経営改善につながるのですね。

 御室 そう。赤字ならそれはそれでいいのです。大切なのはその数字の裏側に何があるのか、その理由を探って改善していくことです。有益な経営改善支援のためにも正確な財務情報が必要なのです。

 ──最後に税理士、TKC会員事務所へのメッセージをお願いします。

 御室 日常的に中小企業と接点を持ちながら、その実情や課題を把握、理解される活動にも努めておられる税理士の皆様には、私たち金融機関同様に身近な相談相手、さらには経営のパートナーとして、事業者の皆様からの期待が一層高まっています。
 お話ししてきたように、信用金庫は、経営サポート体制の一層の強化に向けて、ハンズオンの伴走支援の取り組みをスタートさせていますが、コロナ禍が長期化するなか、支援の最前線にいらっしゃる税理士の皆様を始めとする専門家、認定支援機関の皆様の役割、責任はますます大きくなっていると感じています。
 このコロナ禍において事業者の経営状況、特に資金繰りや収支状況をリアルタイム、かつ正確に把握する重要性が高まっています。その点、TKC会員事務所の皆様は、月次試算表の作成とそれを活用したアドバイスを積極的に実施されていると認識しています。私ども信用金庫は皆様の力をお借りしつつ、対話、連携をさらに深めながらコロナ禍を乗り越えていきたいと思います。
 事業者の皆様の経営力向上、さらには地域全体の持続的な発展、繁栄を確かなものにして、それによってイノベーションを実現するため、共に尽力していきたいと考えています。

(構成/TKC出版 内薗寛仁・清水公一朗)

御室健一郎(みむろ・けんいちろう)氏

一般社団法人全国信用金庫協会会長。浜松いわた信用金庫理事長。1945年生まれ、静岡県出身。1968年浜松信用金庫(当時)入庫。2005年理事長。磐田信用金庫との合併に伴い、2019年1月から浜松いわた信用金庫理事長。2009年一般社団法人全国信用金庫協会副会長、2020年6月から同協会会長。

(会報『TKC』令和2年12月号より転載)