寄稿

いまこそ問われる税理士の社会的使命──第3ステージ運動方針の徹底を願う

新年、明けましておめでとうございます。本年は、TKC全国会創設50周年にあたります。この記念すべき年を迎えて、TKC会員と職員の皆様、関連諸機関の皆様のご健康とご活躍、そしてご多幸を切にお祈り申し上げます。

数十年後を見据え歴史的な難局をともに乗り越えよう

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 令和2年3月頃から現れてきたコロナ禍による経済社会への甚大な影響は、依然として続いています。先の見えない状況の中で、TKC会員と職員の皆様は、会計事務所の業務品質を維持しながら、緊急資金繰り支援を始めとする中小企業の経営支援に尽力されており、あらためて敬意を表します。

 いまから約40年前、私が25歳で会計事務所を開業したとき、税理士の社会的な地位はいまほど高くありませんでした。納税意識の低い関与先経営者に指導力を発揮できず、税理士の仕事を選んだことを悔やみました。しかし私には、TKC全国会と株式会社TKCの存在がありました。そのおかげで、いまでは税理士という職業にとても誇りを持っています。そして、孤立しかねない状況にあっても、同志であるTKC会員の皆様が全国各地で奮闘されていることは、心強い限りです。

 われわれは、この恵まれた環境を基盤として、力を合わせて税理士の社会的使命を果たし、歴史的な難局を乗り越えていかなければなりません。そして数十年後、次世代の税理士が「諸先輩の努力で関与先に喜ばれ、誇り高い税理士業務ができています」と実感できる税理士業界にすることが私の願いなのです。

税理士制度の活用が進むドイツ税理士の方向性を目指そう

 税理士が社会的使命を果たすためには、平時はもとよりコロナ禍にあってはより税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)に基づく発想と取り組みが重要となります。

 この間の緊急経済対策において、持続化給付金や家賃支給給付金等の申請書類として、確定申告書と法人事業概況説明書(税務関係書類)が必要とされました。緊急時には、税理士による税務業務への的確な対応が求められます。とりわけ税理士制度と税務関係書類が活用されるべきでしょう。「公法である租税法の罰則」「税理士法による懲戒処分」「税務調査という二次的な強制力」という三つの強制力が働き、透明性や信頼性が確保されるからです。

 実はドイツでは、このような制度がすでに運用されています。昨年2月にコロナ対策の第一弾として日本の持続化給付金と似た制度が運用されました。しかしすぐに不正が多発し、一旦中止せざるを得ませんでした。そこでドイツ連邦政府は、経済エネルギー省(日本の経済産業省)と財務省が連携して、税理士制度と税務関係書類を活用した給付金申請の手続きを全てデジタル上で実施する「コロナ橋渡し給付金」の仕組みを作り、運用しています。

 この仕組みの背景には、ドイツ税理士の圧倒的な信用力の高さがあります。「職業会計人の職域防衛と運命打開」に繋がるドイツ税理士のこの方向性を、われわれも目指すべきでしょう。そのために必要となるのが、第3ステージ運動方針の徹底なのです。

1.「TKC方式の書面添付」の推進

日本の税理士だけが実践可能な保証業務に取り組もう

 中小企業支援への税理士制度・税務関係書類の活用を促すためには、書面添付の実践が欠かせません。令和2年9月30日に国税庁を訪問して可部哲生長官と面談させていただいたとき、書面添付実践の本質的な意義について、次のようにお伝えしました。

「税務関係書類の持つ強制力と書面添付制度を含む税理士制度を活用し、適正申告を目指すと同時に税務データの信頼性を確保する。まさに書面添付制度は日本が世界に誇る仕組みです」(『TKC会報』令和2年11月号表敬訪問)

 また、金融庁参与で地域の魅力研究所代表理事の多胡秀人氏との対談時には、次の内容をご説明しました。

「日本には、税理士法第1条にいう『独立した公正な立場』に基づき、税理士法第33条の2に規定されている書面添付制度があります。つまり私たちは、AICPA(米国公認会計士協会)ですらなしえなかった税務業務における独立性および公正性を確立し、精緻な法体系を誇るドイツにも存在しない税務関係書類の信頼性を直接的に保証する書面添付制度を有している──ということです。日本の税理士はこの事実を重く受け止め、そして誇りとすべきです」(『TKC会報』令和2年9月号巻頭言)

 これに対してお二人とも、書面添付の実践によって税務関係書類や決算書の信頼性が向上することに対して賛同してくださいました。こうした期待に応えるためにも、税理士だけが実践可能な書面添付による保証業務に取り組むことが重要です。

2.「TKCモニタリング情報サービス」の推進

平時から金融機関と連携して中小企業の元気を引き出そう

 一方で、コロナ禍の影響により、中小企業金融における金融機関と税理士の連携の重要性が増してきています。特に、昨年末に利用件数目標24万5000件を突破した「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を通じた決算書や月次試算表の金融機関への提供は、関与先に対する迅速な資金繰り支援に有効に働いています。しかし、両者の実質的な連携が十分に進んでいるのかと言えば、一部に留まっているのも事実です。

 この点について、日本金融人材育成協会会長で金融庁参与でもある森俊彦氏は、AICPA機関誌「Journal of Accountancy」のウェブサイトに掲載された、米国職業会計人へのインタビュー「職業会計人が中小企業のパンデミックへの対応を支援する方法(2020年4月30日)」を紹介したうえで、日本と米国を対比して次のように提言されています。

「資金の確保と政府の中小企業支援策の活用は同じだ。相違点は、職業会計人と金融機関が平時からしっかり連携して中小企業を支援していることである。わが国においても、両者が平時からがっちり連携して中小企業の元気を引き出し、明るい未来を創っていくことを強く期待したい」(『TKC会報』令和2年7月号提言)

 これを裏付けるように、令和2年8月に公表された「令和2事務年度・金融行政方針」(コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く)には、金融機関と税理士等が連携して経営改善・事業再生支援等を積極的に行うべきとの記述が盛り込まれています。

 金融行政方針にも示されている中小企業金融における画期的な変化を追い風にして、関与先と金融機関の「情報の非対称性」を解消するMISをさらに普及しましょう。

3.「TKC方式の自計化」の推進

会計で会社を強くして優良な電子帳簿を拡大しよう

 中小企業が金融機関から信頼を得るためには、関与先が「会計で会社を強くする」という姿勢を念頭において、FXシリーズ『41.社長メニュー』を有効活用して戦略経営に取り組めるような自計化推進が大前提となります。

 ご承知の通り、令和3年度与党税制改正大綱の中で電子帳簿保存法に「訂正加除履歴要件」を満たさなくても電子帳簿として認める見直し案が記載されました。とても残念なことですが、同時に大綱の「検討事項7」に、「帳簿のトレーサビリティの確保」について「早期に検討し、結論を得る」ことが追加されました。これは、電子帳簿のあるべき姿について継続して審議することを意味します。この動きを前向きにとらえ、電子帳簿のあるべき姿の実現に向けて、TKC方式の自計化(いわゆる優良な電子帳簿)を圧倒的に拡大しなければなりません。

経営革新等支援機関として公共心ある中小企業支援をしよう

 そして、ウィズコロナ・ポストコロナの局面で最も力を入れるべきなのは、経営革新等支援機関としての経営助言業務でしょう。とはいえ、これまでと違う取り組みをするわけではありません。

 もとより経営革新等支援機関制度は、「税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関等を経営革新等支援機関として認定することにより、中小企業に対して専門性の高い支援を行うための体制を整備するもの」として法制化されたものです。ここで言う税務・金融・企業財務への支援は、それぞれ書面添付・MIS・自計化の推進によって実現できます。つまり、TKC会員にとっての経営助言業務とは、第3ステージ運動方針の実践そのものであり、これまで通りこの運動に専念すればよいということです。コロナ禍においてもその先も、それは何も変わりません。

 この経営革新等支援機関への社会的な期待は一層高まっています。中小企業再生支援協議会による事業再生・経営改善支援に対して、経済産業省により令和2年度補正予算として予算額80億円が措置されたことも、その一例と言えるでしょう。

 そうした背景の中で、TKC全国会では、会計事務所経営の王道(成功のバイブル)である『TKC会計人の行動基準書』(第四版)を改定して、「認定経営革新等支援機関の職務」に関する規定を設けました。「社会の納得」を得るためには、この規定に準じた業務品質を個々の会員が確保しておく必要があります。

 米国ジャーナリスト、マイク・ブルースター氏は、150年にわたる米国公認会計士業界を俯瞰した著書『会計破綻──会計プロフェッションの背信』(税務経理協会)の中で、戦争や金融パニック、大恐慌などの危機を乗り越えて成功を収めた会計事務所は、例外なく「公共の福祉」(Public minded)にコミットしていると述べています。まさに危機の真っただ中にあるいまこそ、公共心にあふれた中小企業支援に全力を注ぐことによって、税理士(経営革新等支援機関)の使命を果たしましょう。そのためにも、第3ステージ運動方針を徹底して、税理士の未来を力強く切り拓いていきましょう。

(会報『TKC』令和3年1月号より転載)