対談・講演

歴史的転換期において中小企業に認定支援機関が果たす役割

中小企業庁との懇談

コロナ下の経済社会の変化に対応するために設けられた「緊急事態宣言の影響緩和に係る一時支援金」や、令和2年度第3次補正予算で措置された「事業再構築補助金」を必要とする中小企業への支援者として、経営革新等支援機関(認定支援機関)の役割への期待が高まっている。中小企業庁の飯田健太事業環境部長、村上敬亮経営支援部長と坂本孝司TKC全国会会長による懇談では、2012年に「中小企業経営力強化支援法」(現「中小企業等経営強化法」)が施行され、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行うための制度として認定支援機関制度が創設された趣旨を踏まえ、現在、税務・金融・企業財務の専門家として位置づけられている認定支援機関への役割等について意見が交わされた。

進行:TKC全国政経研究会事務局長 内薗寛仁
とき:令和3年3月10日(水) ところ:中小企業庁事業環境部長室

巻頭対談

歴史的転換期にある中小企業にこれまで以上に寄り添ってほしい

 坂本 本日は国会会期中のご多忙の中ありがとうございます。
 この有事において、足下の問題としてはコロナ経済対策としての「緊急事態宣言の影響緩和に係る一時支援金」や「事業再構築補助金」において認定支援機関の役割がクローズアップされています。
 本日は、そうした直近の問題への対応とともに、中小企業の経営支援全般を目的として2012年に創設された認定支援機関制度の趣旨をあらためて見つめ、その本来的な役割を再確認することで、足下のコロナ下で苦境に立つ中小企業の支援に加えて、中長期的な視野に立った中小企業の経営支援への取り組みにつなげてまいりたいと考えています。認定支援機関制度の役割拡充や、同制度と併せて中小企業の経営力強化に欠かせない「中小会計要領」の普及に尽力いただいた飯田健太事業環境部長と、現在制度運用面の責任者である村上敬亮経営支援部長のお二人と意見交換できるのを楽しみにしておりました。

 ──早速ですが飯田部長は平成25~27年の財務課長時代に「中小会計要領」の普及に尽力され、WG等で大変お世話になりました。その後、経営支援課長として認定支援機関のさらなる機能発揮のために「見える化」等に取り組まれました。「見える化」によって取り組み実績等を公開したことが認定支援機関制度の分水嶺だったと思います。
 まず、現在の中小企業をめぐる情勢をどのようにとらえているかお話しいただけますか。

飯田健太氏

飯田健太中小企業庁
事業環境部長

 飯田 私は今、中小企業は歴史的な大転換期にあると思います。コロナで非常に厳しい状況にあることは確かですが、デジタル技術の進展がビジネスのやり方を大きく変えてきており、加えて米中対立などによる安全保障の関係にともなうサプライチェーンの再構築など、地政学的な流れも大きく変わってきています。
 したがって中小企業は、地域において雇用や経済を支えていただくことや海外に勝負に出て稼いでもらうという両面からその役割への期待が高まっています。
 例えば、デジタル技術の可能性は無限で、想像できない世界が待っている可能性があります。また、事業承継が進み経営者が若返った中小企業では、デジタル技術の進展とも相まって、従来の仕事のやり方を見直そうとしている方が増えていると思います。
 人口減少が進み地域の需要がなくなってしまう中で、中小企業にとっていろいろな課題があります。地域ごとの事情を税理士の皆さんにもいろいろ教えていただきたいと思います。我々としてもチャレンジする中小企業の皆さんをいかに応援していくかが政策立案の重要なポイントになります。

 ──認定支援機関の多くを占める税理士のこれまでの取り組みをどうご覧になっていますか。

 飯田 ご承知のとおり、経営者というのは孤独です。そういう中で、しっかり経営者に寄り添って、経営の課題を一緒に考えて、共に悩み共に成長してくれる方々の存在が非常に大切です。TKC全国会の皆さんをはじめ中小企業を支援する諸機関からのご提唱もあって認定支援機関制度は生まれました。日頃中小企業にとって最も身近な地域金融機関と税理士に、政策メニューとも連動する形で、中小企業の経営に寄り添って支援いただくことをお願いしたいというのがその趣旨だと思います。
 坂本会長をはじめTKC会員の皆さんにはこの認定支援機関制度の趣旨をしっかりとご理解いただき、多くの方が認定支援機関として中小企業を支えられていることに感謝します。ぜひ認定支援機関の方々には歴史的な転換期にある中小企業にこれまで以上に寄り添い、我々ともコミュニケーションを一層密にしていただきたい。認定支援機関である税理士の皆さまが果たす役割はこれまで以上に高まっています。

 坂本 歴史の証人と言える飯田部長のお言葉にはとても説得力があり、その期待に応えていきたいと思います。TKC全国会では、中小企業の経営助言業務に認定支援機関として取り組んできました。TKC全国会は会員が約1万2,000名で、スタッフを含めると総勢7万名超の組織です。使命感に燃えている会員が現在も405事業やプレ405事業、事業承継税制等に精力的に取り組んでいます。プレ405事業において日本全体の約6割を会員が実践しています。

制度創設の趣旨を踏まえ「公共心あふれる仕事」に徹する時

 ──坂本会長は認定支援機関制度発足時の検討メンバーの一人でしたが、そのお立場からあらためてその主旨や狙いを説明していただけますか。

坂本孝司会長

坂本孝司
TKC全国会会長

 坂本 東日本大震災が起きてからちょうど10年となりますが、私は2011年6月から経済産業省の「中小企業政策審議会企業力強化部会」(資料2)の委員を務めました。震災によって日本のサプライチェーンが切れ、赤字企業が続出しそうという中で、企業力を高めるための審議をするというミッションのもと、年末までの間に6回の会議が行われました。
 その席で、中小零細企業に中小企業政策を行き届かせるためにその9割に関与している全国の税理士を使ってほしいと申し上げました。また雨の日も風の日も中小企業を訪れているのは現場の信用金庫の職員さんです。要するに地方の中小零細企業の経営者と一番身近に接している税理士と信用金庫を上手く活用すべきとお伝えしました。
 またその頃私は、中小企業庁と金融庁が共同事務局で運営されていた「中小企業の会計に関する検討会」(資料6)の委員も務めていました。そこでは「会計で会社を強くする」という発想で、国際会計基準の影響を受けず、中小企業の経営に役に立ち、身の丈にあった会計基準を別に作るべきという立場で意見を申していました。そうした考えを中小企業政策審議会でも述べると、中小企業庁の皆さんはその意図を全て理解され、2011年12月9日の第6回審議会において、部会の中間とりまとめ案として図(資料3)が示されました。
 この図が認定支援機関制度の全体を表現していると言ってもよいと思います。要は日本の中小企業を認定支援機関が支援する。それから地域金融機関は「血液」である資金を供給する。そして両者をつなぎ連携する接点が「会計」であると。ここで新たな会計ルールの整備・活用として示されているのが「中小会計要領」(資料7)です。そういった意味でもこの図が認定支援機関制度の本来的な役割を全て表しています。
 そうして、法律には経営革新等支援業務の内容に関する事項として、「中小企業の経営革新のための事業又は中小企業者等の経営力向上に係る事業を支援するため、経営革新等支援業務を実施するに当たっては、税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識や中小企業等に対する支援に関し」と記載され、「税務」「金融」「企業の財務」に関する専門家と位置づけられるようになり、今日に至っています(資料5)。
 TKC全国会では今年の運動の柱の一つに「認定支援機関としての経営助言業務の強化」を掲げ、この制度創設の趣旨をしっかり踏まえて中小企業の経営支援に徹していくつもりです。
 その意味で、今回の「一時支援金」や「事業再構築補助金」等の申請支援に認定支援機関として全力を注ぎますが、もともと日本の中小企業の存続と発展のための経営支援というミッションのもとに作ってくださった制度の本質を踏まえると、給付金や補助金の申請とは別に取り組むことは我々の使命です。TKC会計人にとって認定支援機関業務は「税理士の4大業務(税務、会計、保証、経営助言)」の中の経営助言と位置付けていますが、今一度原点に立ち返り、微力かもしれませんが日本の中小企業の支援に覚悟を持って取り組んでまいります。

 飯田 さきほどの図は懐かしく、ここに認定支援機関制度の意義目的が集約されています。坂本会長にお話しいただいた通りですが、コロナで苦境に立つ中小企業を支えるため「一時支援金」や「事業再構築補助金」など認定支援機関の方々に支援していただきたい仕事が増えているからこそ、制度創設の経緯や同時期に「中小会計要領」が検討されたこと、認定支援機関制度が中小企業の「財務経営力強化」を支援する施策となった点を確認しておくことは大切です。
 「中小会計要領」の中小企業への普及は全体で見るとまだまだですし、1年に一度会計伝票をまとめて締めてから初めて赤字か黒字かわかるという企業の話も依然として耳にします。
 その意味でもあらためて認定支援機関の方々には基本に立ち返り、中小企業が自社の財務、経営を把握した上で経営計画を立てそれをモニタリングしていく一連の流れをサポートしていただきたいと思います。コロナの後に「コロナ前と同じ経営でよい」と考えている経営者はいないはずですから、そういう経営者をしっかり支えてほしいと思います。

 坂本 コロナ禍のような緊急事態においてこの制度がなかったら中小企業はどうなっていたか。その意味でも認定支援機関制度は画期的な制度です。この制度創設に携わられた中小企業庁の皆さんにあらためて感謝申し上げます。
 私はいま「危機的な状況の今こそ、公共心あふれる仕事をしよう」と盛んに申し上げています。それは会計事務所にとって儲かるか否かという次元ではなく、しっかり中小企業支援に徹しようと。今こそ認定支援機関を活用いただきたいと心底そう思っています。

経営者が自社を言語化することが中小企業のDXのベースとなる

 ──現在制度を所管されているお立場から、認定支援機関に期待すること等について村上部長からお聞かせいただけますか。

村上敬亮氏

村上敬亮中小企業庁
経営支援部長

 村上 これまで中小企業は税理士の皆さんや系列取引会社のサプライチェーン、協同組合制度が機能していたので存続されてこられました。しかし日本が人口減少下になり国内市場が縮小し、加えて今回のコロナで、業種によっては一気に市場が消失しました。その結果、それらの中小企業は、『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし(レオ・レオニ原作 谷川俊太郎訳)』に出てくる、小魚のように、大海原に放り出された状態にあります。そこで小魚たちがあたかも一匹の巨大魚のように群れることで外敵から身を守ったのと同じような知恵と工夫が求められていると思うのです。
 中小企業の特性として、せっかく高品質な製品やサービスを生み出してもそれを言語化して社内外にしっかりアピールし活かしていくことが上手ではないという点があると感じています。つまり自社の強みをきちんととらえて言語化することに慣れていない。しかし今後それでは外敵と闘うことはできません。そこで認定支援機関の方々には企業の強みをしっかり言語化するサポートをしてほしいと思います。
 その点において、よろず支援拠点などの無料サービスと有料サービスの使い分けやつながりにも課題があります。無料と有料の支援策それぞれの特長を生かし、経営者が自社を言語化するための支援者と出会えるように、今後は支援機関ないし専門家に対する支援や制度を手厚くしていく必要があると考えています。
 無料と有料のいわば継ぎ目をうまくデザインすることで、中小企業が自社を言語化できるように寄り添う、いわば言語化パートナーと一緒に、従来の系列にこだわらない取引先、あるいは税務も含めた経営戦略とうまくリンクさせていくことができるのではないかと考えており、おそらくそれが中小企業の世界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のベースになってくると思います。

 坂本 本来時間をかけてそうなっていくところがコロナ禍によって加速度的に進んでいます。我々もこれまで以上に経営者が会計や数値をもとに自社について語れるように支援してまいります。

巻頭対談

認定支援機関個々に光をあてて実績を公表(見える化)したい

 ──「緊急事態宣言の影響緩和に係る一時支援金」について、本制度は申請前に「登録確認機関」として、認定支援機関あるいは税理士等が事前確認を行うことになっています。これは、いわば税理士等による証明業務と言えます。このような制度になった経緯や、今後の運用上の留意点があればお聞かせください。

 飯田 持続化給付金の際、不正受給が少なくありませんでした。今回の「一時支援金」の申請では不正防止のために、事業の実態などの事前確認を認定支援機関等が実施するスキームとしました。
 もう一方の「事業再構築補助金」は、事業に行き詰まってしまった企業が大きくジャンプアップしていただくためのものです。認定支援機関の方々には事業計画の策定を支援し、しっかり伴走していただく。同時に、その伴走の結果を公表したい。つまりどの認定支援機関がどれぐらい成果を挙げているか個々に着目し、「見える化」される形にしようと考えています。今回の補助金を使っていずれ日本を代表するような会社が出てきてほしいですし、その会社をどの認定支援機関の方が支援したかが分かるようにしたいのです。

 村上 「事業再構築補助金」を上手に使っていただくことで、6,000万円のプロジェクトが5倍にも10倍にも化けて、系列の殻を破る力になるのではないかと考えています。そのきっかけとして、この補助金をうまく使ってもらえればと思います。先ほど述べた自称「スイミー戦略」です。

 坂本 この補助金により苦境に立った中小企業が新たに前に進んでいくための乗数効果が出るようにしないといけないと思います。

 村上 おっしゃる通りです。そういう意味では、認定支援機関の皆さんには中小企業の言語化パートナーの役割とともに、系列を超えた相互の経営戦略をうまく束ねるようなお仕事もしていただけるとうれしく思います。
 また「事業再構築補助金」は、多くの人たちに経営計画を実際に立案してもらうチャンスです。この機会に実際に経営戦略や計画を考え向き合ってもらうことに非常に意味があります。「持続化補助金」でも、記帳や月次の売り上げの把握を適時に正確に実施することが重要だと多くの方に気付いていただいたことが最大の成果だと思います。
 「事業再構築補助金」の採択予定は約6万7千者です。仮に採択率5割としても約13万者の中小企業が認定支援機関とともに事業を見直し、そのために経営計画を立案することに大きな意義があると考えています。

 坂本 TKC全国会では、Q&A冊子『(速報版)これから使える資金繰り支援と補助金』を制作し、関与先企業への迅速な情報提供に努めています。今後オンデマンド配信の研修等でもその周知をはかってまいります。

 村上 中小企業政策の浸透という面では、国と中小企業の2者だけではなく、中小企業とその支援機関の皆さんと国の3者の連携が必要だと考えます。現在、政府の中小企業政策を実際に活用した企業は1割強程度しかない課題を解決する有効な手段として、今後も認定支援機関制度を支援機関の軸に考えています。政策の中小企業へのリーチ率を高めて的確に中小企業に行き届くという側面でも、認定支援機関である税理士の皆さんに期待しています。

 飯田 平時はもとよりコロナ禍という有事においても、認定支援機関である税理士の皆さんには中小企業の経営支援の担い手として非常に期待しています。引き続きよろしくお願いいたします。

 坂本 TKC全国会では昨年6月に『TKC会計人の行動基準書』を改訂し、「認定経営革新等支援機関の職務」を明記しました。コロナ感染拡大という大変革期にも、認定支援機関としてさまざまな緊急経済対策の執行に引き続き貢献していきたいと考えています。本日はありがとうございました。

参考資料:経営革新等支援機関(認定支援機関)制度制定の経緯と法的根拠

(構成/TKC出版 内薗寛仁・清水公一朗)

(会報『TKC』令和3年4月号より転載)