寄稿

TKC全国会創設50周年記念事業 『飯塚毅全集』発刊の意義

約300篇の会報巻頭言を収録

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 TKC全国会は、本年8月をもって創設50周年を迎えます。その記念事業として、『飯塚毅全集』全3巻が本年7月に刊行されます。『全集』は、TKC全国会飯塚毅初代会長(法学博士・税理士・公認会計士)が昭和47年から平成9年までの26年間、この『TKC会報』に毎月執筆されてきた300篇近い巻頭論文を文庫版に収めたものです(タイトル一覧)。

 飯塚博士は、TKC全国会創設以来26年の会長在任期間において、毎月欠かすことなく『TKC会報』の巻頭言を執筆されました。その事実は精神的な圧力だけを慮ってもまさに驚異的なことです。これらの原稿は株式会社TKCの経営、税法学等の研究活動、法制改革への提言活動など身を挺しての実践家としての濃密な激務のさなかに書かれたものであり、まさに「走りながら執筆された」ものなのです。TKC全国会は結成以来、まさに運動体として活動してきました。その指導者として飯塚博士が執筆された巻頭言には、若干の語彙の不統一や不備、事実認識の齟齬などがあるかもしれません。長い時間軸の中で筆者の見解が深められ異なる認識に変化した点などもあるでしょう。また、特に若い読者には、今日とは大きく異なる時代背景を知らないと理解しにくい箇所もあるはずです。記述の一部分のみを取り上げるのではなく、執筆された時点における時代環境やその時々のTKC全国会の状況などを正確に把握し、論理の外延と内包を判別してその本質を理解していただければ幸いです。

 周知のように、「概念」は外延と内包から成り立っています。ある概念について、「それに含まれるすべて」を列挙したようなものを「外延」、「列挙されたものすべてが共通して持っている属性」を「内包」と言います。内包は、超歴史的・普遍的・理念的なものであって状況の変化があってもその内容は変わりません。他方、外延は、それぞれの「場の条件」に応じて内容が変わります。これは、いつまでも変わらない本質的な「不易」の中に、絶えず新味を求めて流動する「流行」を取り入れていくことが「不易」の本質だ、という「不易流行」の考え方に似ています。「変わらないもの」を守るための唯一の方法は変わり続けることである、という考え方でもあります。TKC全国会運動は、まさに基本理念を変えることなく、これを体現してきたと言えるのではないでしょうか。

『飯塚毅全集』から何を学ぶか

 ところで飯塚博士とは、どんな人物だったのでしょうか。それは、①わが国でも一流の税理士事務所(飯塚毅会計事務所)を構築された会計人であり、②株式会社TKCを創業し大発展させた企業経営者であり(TKCは後に東証一部へ上場)、③優れた比較税法学の研究家であり、④優れた会計学の研究者(日本会計研究学会「太田賞」受賞)であり、さらに⑤哲学者・教育者(雲巌寺植木義雄老師から見性を許された・租税資料館や飯塚毅育英会を設立)でもありました。どの分野においても超一流の業績を残されています。黒澤清博士(企業会計審議会会長、日本会計研究学会会長等歴任)は、飯塚博士を「驚くべき能力を持っておられる」と評されています。その飯塚博士が平成16年に亡くなってから20年近くが経過しています。全国会会員の中で、その講演を直に聴いた会員はおそらく全体の2割程度ではないでしょうか。

 私にとって忘れがたい飯塚博士の記憶は、1990年7月の第7回TKC全国役員懇話会での講演でした。そのとき飯塚博士は満員の聴衆を前にして、「こんなに大勢はいらない。50人が団結しさえすれば、理想とする職業法規は必ず実現する」と仰いました。この言葉に奮い立ち、「よし絶対にその一人になる」と決心して以来、政経研活動に参画しつつ、微力ながら飯塚博士の学恩に感謝して『正規の簿記の諸原則』(森山書店)に関する論考を引き継ぐことを自らの使命と考え、今日に至っています。

『全集』、特に第1巻に収録されたTKC全国会結成直後の初期の巻頭言は、後の税務当局をはじめ行政庁や政治家等への提言を包摂した内容と異なり、TKC会員のみを対象にしているものが多くあります。そこには、飯塚博士がTKC全国会の創設間もない時期にTKC会員に向けて最も伝えたかったことが肉声のような気迫でもって語られています。多くは事務所経営の根幹に関わるもので、会計人の指針とすべき内容が多く含まれています。

『TKC会報』の編集長を長く務められた寺田昭男先生によれば、巻頭言は掲載当時から「レベルが高すぎる」「英語やドイツ語を入れないでほしい」などの苦情が一部会員からあったようです。これに対して飯塚博士は、ガンとして受け入れなかったそうです。『全集』にも後の博士論文『正規の簿記の諸原則』につながる論考が見られますが、これらの論文は、研究のための研究では決してなく、わが国の会計制度や租税法についての問題指摘であり、改革提言であることは言うまでもありません。実務家として、また研究者として、その中心軸には「職業会計人の職域防衛と運命打開」があり、その本質追究に向けての首尾一貫性には改めて驚嘆するほかありません。

「TKC全国会創設の理念」を未来につなぐ

 我々TKC会員は、「TKC全国会創設の理念」を将来につないでいかなければなりません。ここで「TKC全国会創設の理念」とは、全国会会則前文に掲げられた「職業会計人の職域防衛と運命打開」をはじめ、「自利利他の聖行の実践」「租税正義の実現」「会計人の社会的権威の画期的向上」「会計人の全国的一大集団の形成/古今未曾有の一大勢力の構築」「会計人の孤立化の排除」「高度の職業倫理の堅持」「事務所体質の改善と業務品質の管理」「事務所経営の合理化と業務水準の向上、収益性の拡大」を意味します。「TKC全国会創設の理念」を守り抜くためにも、絶えず自己変革を追求してまいりましょう。前述した「不易流行」の言葉の通り、まさに変わらない唯一の方法は変わり続けることなのです。

 創設から50年、現在のTKC全国会は、「会計事務所の職域防衛と運命打開」を事業目的に掲げる(株)TKCの全面的なご支援、先達会員先生方のご努力によって大躍進を遂げることができ、当初飯塚博士が描かれた理想に着実に近づいています。近時、税理士に対する社会の評価も格段に高まってきました。

『全集』の飯塚博士の言葉と、その背後にある純粋な魂にダイレクトに触れてください。会計人としてどう生きるべきか、その答えは本書を何度も読み返すことによって得られるのではないでしょうか。50周年を記念した『飯塚毅全集』が、皆さまにとって生涯にわたる「座右の書」となることを心から念願しています。

『飯塚毅全集』(全3巻)タイトル一覧

(会報『TKC』令和3年5月号より転載)