対談・講演

企業の黒字決算と適正申告支援を後押しする法環境整備に取り組む

城内 実 衆議院議員 衆議院外務委員会委員長 × 坂本孝司 TKC全国会会長

衆議院外務委員長で自由民主党TKC議員連盟(TKC議連)事務局長を務める城内実衆議院議員と坂本孝司TKC全国会会長が、TKC議連活動の成果と展望や日独税理士制度の類似点、ウクライナ情勢が中小企業に与える影響等について幅広く対談した。

司会 TKC全国政経研究会事務局長 内薗寛仁
とき:令和4年4月14日(木) ところ:衆議院外務委員長室

巻頭対談

公共的使命を持ち中小企業を支えるTKC会員には特別な思いがある

 ──本日は、公務ご多忙の中、外務副大臣や環境副大臣等の要職を経て、現在、衆議院外務委員長として活躍されている城内実先生に、坂本会長との対談の時間をつくっていただきました。ありがとうございます。

城内 実氏

衆議院議員
衆議院外務委員会委員長
城内 実氏

 城内 坂本会長とお話しするのは、いつも楽しみにしています。こちらこそよろしくお願いします。

 坂本 城内先生とは地元が同じ浜松ということもあり、日ごろからお世話になっています。城内先生は、本年1月14日に誕生した新生「自由民主党TKC議員連盟」の事務局長に就任されました。これまでTKC議連の会長は、尾身幸次先生、安倍晋三先生、塩崎恭久先生が引き継がれ、塩崎先生が衆議院議員を勇退されるにあたり、再び安倍先生に会長を務めていただくことになりました。これも城内先生のご尽力と伺っています。

 城内 先の自民党総裁選で私は、安倍先生が推された高市早苗先生の選挙対策本部事務総長を務めました。その後、昨年12月に自民党本部に発足した「財政政策検討本部」では、最高顧問に安倍先生、顧問に高市先生、本部長に西田昌司先生が就任され、私は幹事長を仰せつかっています。そういう関係から、安倍先生とは昨年からいろいろとご一緒する機会が多く、塩崎先生にも相談してTKC議連の会長就任をご依頼したところ、快く引き受けてくださいました。

 坂本 総理経験者が議連の最高顧問ではなく会長に就任することは非常に稀なことだと伺っています。城内先生がいらっしゃらなかったら実現しなかったのでしょうね。
 安倍先生も会長就任時のご挨拶の中で、「会長職などは原則お断りさせていただいているのですが、TKC議連には特別な思いがあり、今回、お引き受けしました」と述べられていました。大変ありがたかったです。

 城内 TKC会員の皆様に特別な思いがあるのは私も一緒です。TKCならびにTKC全国会、TKC全国政経研究会(TKC政経研)創設者の飯塚毅博士は自利利他の理念のもと、租税正義の実現に向けて、不撓不屈の精神で中小企業と税理士の存続と発展に尽力されました。その並々ならぬ信念や行動力に私も感銘を受けています。そうした飯塚イズムの精神を引き継ぐTKC会員の皆様は、いまや坂本会長のもとで「巡回監査を断行し、企業の黒字決算と適正申告を支援しよう!」といったTKC全国会運動方針に沿って、経営に必要な「会計で会社を強くする」ことや「帳簿の証拠力」を高めていくことを通じて、全国の中小企業の存続と発展のために全力を注がれています。皆様の公共的使命に基づいた日々の取り組みに応えるためにも、安倍先生が会長の役割を率先して担われるのは、そういった法環境整備を図っていくうえでとても重要です。

 ──2回目のTKC議連総会が本年2月10日に開催され、50人近くの国会議員の先生方が出席されました。このときは、TKC政経研から「経営革新等支援機関(認定支援機関)制度」のさらなる有効活用に関して要望させていただきました。
 本年3月3日の会見で岸田文雄総理は、中小企業の事業継続やポストコロナに向けた事業復活を支援するための「中小企業活性化パッケージ」を発表されましたが、その中で「金融機関や税理士など、全国3万以上の認定支援機関の総力を結集することで、中小企業の収益力改善のための伴走支援を徹底いたします」と述べられました。併せて、本年4月から「ポストコロナ持続的発展計画事業」の制度見直しも行われており、これもこの間、TKC議連で議論いただいた内容が大きく影響しているものと捉えています。

 城内 TKC政経研の要望に対する認識が我々自民党、さらに与党政府内に広まって議論が深まり、それが施策として実現していくのは、日本にとって非常によいことです。

ドイツの法制度を学んでいれば改ざん可能な電子帳簿の容認はない

 ──城内先生は、幼少のころや大使館勤務などで長くドイツに在住されています。1997年には天皇陛下や首相のドイツ語通訳官も務められ、2018年には「ドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字章」も受章されています。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 まさに、政界きってのドイツ通ですね。

 城内 私にとってドイツは第二の故郷ともいえる国です。小学1年から4年まで西ドイツの現地の小学校に通いました。また、1989年に外務省入省後、2年間の大学での研修と3年間の大使館勤務を合わせると、5年ほど外務省員として滞在し、だいたい10年弱ドイツにいたことになります。

 坂本 ドイツは私どもにとっても非常になじみの深い国です。
 TKCが飯塚毅博士によって創設された1966年には、ドイツにおいても税理士など会計人専門の計算センターであるDATEV社がハインツ・セビガー博士(Dr. Heinz Sebiger)によって設立されています。その後お二人は、1972年に運命的な出会いをされ、それ以来、TKCとDATEV社は、長年にわたる活発な交流の中で切磋琢磨して今日を迎えています。そのご縁を通じてTKC会員も育てられました。

 城内 日本と同じくドイツにも税理士制度があり、「Steuerberater(税理士)」が中小企業の経営支援を担っています。それがドイツ経済の強みの一つになっています。そして、ドイツでは税理士の社会的地位がとても高いという印象を持っています。坂本会長が日本で初めて研究された、ドイツ税理士によるベシャイニグング(Bescheinigung)と呼ばれる決算書作成証明業務の法的根拠は、信用制度法(Kreditwesengesetz)第18条にあります。この要求に基づいて、金融機関が一定以上の融資を行う際にベシャイニグングは必須とされる点も影響しているものと感じます。
 他方、日本にも税理士法の中に書面添付制度があります。今や日本の全法人約270万社のうち約30万社が実施、そのうち約半数がTKC会員の皆様によるものだというのは大変ご立派なことです。書面添付制度は、間接的ですが、中小企業の決算書の信頼性を確認する唯一の法的制度であり、さらに本制度の実施件数を増加させていくことが日本の税理士の社会的地位向上に向けて重要な取り組みになるのではないでしょうか。

 坂本 ベシャイニグングはドイツにおける中小企業金融の要になっていると思います。ドイツの決算書作成証明業務の現状を知るため、飯塚真玄TKC名誉会長の計らいで、この分野に詳しいエアランゲン・ニュルンベルク大学教授であるクラウス・ヘンゼルマン博士(Prof. Dr. Klaus Henselmann)を中小企業会計学会が招聘したときにも、城内先生には日独友好議員連盟事務局長としてご協力いただきました。東洋大学で行われたこの講演(ドイツにおける税理士による中小企業会計指導の重要性)には、会計学者をはじめ、金融庁や中小企業庁など行政からも多くの参加があり、歴史的な1日となりました(『TKC会報』2018年10月号に講演内容を収録)。

 城内 ドイツと日本が共通している点として忘れてならないのは、「租税正義(Steuergerechtigkeit)」という理念があるということです。ドイツは、哲学や理念をとても重視する国です。逆に、その場限りの帳尻合わせみたいなことを嫌う。ルールを重んじ、法律や制度をしっかり作って、それを守ろうとするのが、私のドイツに対する印象です。したがって、飯塚毅博士とハインツ・セビガー博士(Dr. Heinz Sebiger)がご縁を深めていかれたのも、決して偶然ではなく必然だったのではないでしょうか。

 坂本 私は、日本がもっとドイツを見習うべきだと思っています。本年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法の問題も、そのことと結び付けて考えているのです。特に、ドイツの中小企業政策や税理士制度など法制度を日本がしっかり学んでいたら、いつでも改ざん可能な「その他の電子帳簿」が容認されるようなことはなかったでしょう。帳簿の証拠力を重視して訂正等履歴(トレーサビリティ)が確保された「優良な電子帳簿」の普及と一般化が常識、「その他の電子帳簿」は非常識となっていたはずです。

 城内 たしかに明治時代の日本は、近代化を進めるうえで、ドイツなどヨーロッパの法体系を積極的に取り入れていた歴史がありますね。それが戦後は、アメリカ一辺倒に偏りすぎてしまったのかもしれません。私がいた外務省もその例外ではなく、アメリカ派が主流で、私のようなヨーロッパ派は、どちらかというと非主流派でした。かといって、アメリカのすべてが悪いというわけでもなく、アメリカのよいところを参考にしながら、ヨーロッパの知恵も借りるようにする。つまり、しっかりと租税正義が守られ、日本経済や中小企業の発展や成長につながるようなルールづくりが大事です。

 坂本 同感です。そのためにも、諸外国の優れた点をバランスよく取り入れて、日本の制度に活かしていくという発想が求められると思います。

企業の付加価値(限界利益)を高めわが国GDP増大の一翼を担う

 ──我々は、TKC全国会運動方針を実現する具体策として、「優良な電子帳簿を圧倒的に拡大する」「租税正義の守護者となる」「黒字化を支援し、優良企業を育成する」という3本柱を掲げています。

 坂本 特にポイントとなるのは、コロナ後やデジタル化を見据えて、高付加価値経営に取り組む経営者をこれからどんどん増やすことだと考えています。ここでいう付加価値(限界利益)とは、人件費・減価償却費・金融費用・経常利益などを加算した、企業が新たに生み出した価値の総和を指します。
 例えば、人件費は役員や従業員の給料に充てられ、減価償却費は設備投資をしないと生まれず、金融費用は銀行などの返済に回ります。利益を出せば、自社の経営基盤が強くなり、従業員や取引先も喜び、社会もよくなる「三方よし」の経営が実現できます。

 城内 コストカットだけを考えていたら、ダイナミックな経営はできないでしょうからね。企業の付加価値が高まれば、納税も増えて国も助かることになります。

 坂本 おっしゃる通りで、国内企業が生み出した付加価値の合計が国内総生産(GDP)となるわけですから、付加価値を高めていく経営者を増やす支援を我々がすることは、わが国のGDP増大の一翼を担うことにもつながります。日本企業がこれまで十分な付加価値を創出できなかったことが、いわゆる「失われた30年」の根底にあると考えています。

 城内 そのような考え方や取り組みはとても心強いです。自民党でも今年2月に、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」を設立しました。私が顧問を務めているこの議連は、自民党の若手議員が中心となり、高橋是清元大蔵大臣や池田勇人元首相が実現してきた不況からの脱出や国民所得倍増の歴史に学び、わが国にとって必要な政策への転換を目指すことを目的としています。こうした大局的な見地からの活動を、TKC会員の皆様とともにしていきたいと思います。

対談風景

ウクライナ情勢は対岸の火事ではない 国際社会の一致団結した制裁が必要

 ──ところで予断を許さないウクライナ情勢について、現在、衆議院外務委員長として対応にあたられているお立場からお話を伺えますか。

 城内 ロシアによるウクライナ侵攻は、国際秩序を根底から覆す暴挙です。国際社会は一致団結して、断固たる制裁を加えるべきです。日本にとっても「対岸の火事」としてはなりません。この衝撃が私には、尖閣諸島周辺を含む東シナ海や台湾海峡、南シナ海で、中国が力を背景とした現状変更の試みを継続していることと重なって見えます。世界中のどこであっても、領土と主権を明確に侵害するあらゆる行動は許さないという、強い姿勢と行動が日本政府に求められています。そのような観点から、岸田総理はかなり踏み込んだ対応をしていると思います。
 先般、G7各国の外務委員長によるオンライン会合が開催され、衆議院外務委員長として出席しました。私からは、わが国の対ロシア制裁措置やウクライナへの支援の取り組みを紹介するとともに、このウクライナ情勢は決して対岸の火事ではなく、日本がロシアに北方領土を不法占拠されていること、そして台湾の事例を挙げ、中国によって力による現状変更の試みが行われていることを各国に共有しました。今後も緊密な連携に向けた意見交換を続けていくことで合意しています。

 坂本 原油価格や資源高騰等による中小企業への影響も心配されます。

 城内 ご指摘の通りです。中小企業庁の調べによると、すでに業種別では、運輸業・小売業・製造業の順に資金繰りの悪化等の相談が多数寄せられています。緊急対策として、政府系金融機関など全国約1,000箇所に及ぶ特別相談窓口の設置、セーフティネット貸付の要件緩和と金利引き下げ、親会社による下請業者への価格転嫁円滑化等を講じているところです。

 坂本 早急な対応はとても心強いです。
 最後に、改正電子帳簿保存法に関してあらためて申し上げたいことがあります。日本の申告制度には、青色申告と白色申告があります。また、消費税法においても課税事業者と免税事業者が存在します。そのような制度上の区別を整然と設けているのにもかかわらず、改正電子帳簿保存法については、電子データで受け取った請求書を紙ではなく電子データで保存することを一律にすべての事業者に求めています。そのアンバランスなロジックが現行の法制度を軽視しているように感じてなりません。
 日本はインフラとして世界でもっとも帳簿が普及している国なのですから、はじめに青色申告を行っている法人や個人を電子帳簿保存の対象にするなど、段階を踏んでから範囲を広げていけば、デジタル化はもっと円滑に進むのではないかと想像しています。このような考え方を含めて、次回のTKC議連の総会では、「優良な電子帳簿」の普及・一般化のための措置について、国会議員の先生方に要望したいと思います。

 城内 ご指摘の通り、「誰一人取り残さないデジタル化」の手段と目的を履き違えないよう、「優良な電子帳簿」の普及・一般化に向けては、今後の法制度の見直し、具体的な普及策等をTKC議連でしっかり議論していきたいと考えています。いずれにしても「優良な電子帳簿」と、いつでも改ざん可能な「その他の電子帳簿」との格差は歴然としています。トレーサビリティが確保された「優良な電子帳簿」が原則となるように、TKC会員の皆様からご意見をよく伺って取り組みます。
 これからも皆様の運動の成果が実って、その結果、日本経済を支える中小企業が元気になることを祈念し、自民党TKC議連が中心となって、立法府として法環境整備に全力を尽くしてまいります。

(構成/TKC出版 内薗寛仁・古市 学)

城内 実(きうち・みのる)氏

1965年生まれ(本籍:浜松市)、89年東京大学教養学部卒、外務省入省。97年天皇陛下、総理等のドイツ語通訳官、2003年衆議院議員初当選(静岡7区・無所属)。その後、外務副大臣、自民党経済産業部会長、環境副大臣等歴任。21年衆議院外務委員長就任。

(会報『TKC』令和4年5月号より転載)