対談・講演

2022年の回顧と2023年への展望

飯塚真玄 TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問  × 坂本孝司 TKC全国会会長

2023年の年頭にあたり、TKC全国会坂本孝司会長とTKC飯塚真玄名誉会長が、2022年からのTKC全国会運動方針の成果と課題や、金融行政を踏まえた金融機関との中小企業支援の方向性、税理士業界の展望を中心に語り合った。

司会 本誌編集長 石岡正行
とき:令和4年12月6日(火) ところ:リーガロイヤルホテル東京

巻頭対談

TKCシステムの威力が発揮されコロナ禍の3年を乗り越えられた

 ──本日は、坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真玄TKC名誉会長(全国会最高顧問)に年頭の対談をお願いしました。お二方の対談は2018年1月号以来、5年ぶりです。2023年も一層厳しさを増す経済環境が予想される状況にあって、大所高所から中小企業支援や税理士業界の展望を率直に語り合っていただきます。

 坂本・飯塚 よろしくお願いします。

 ──はじめに坂本会長は、2022年1月の全国会政策発表会で、新しい運動方針として「未来に挑戦するTKC会計人──巡回監査を断行し、企業の黒字決算と適正申告を支援しよう!」を示し、3つの具体策「優良な電子帳簿を圧倒的に拡大する・租税正義の守護者となる・黒字化を支援し、優良企業を育成する」を掲げられました。この1年を振り返って、率直な感想をうかがえますか。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 コロナ禍が約3年前にはじまって、日本はもとより世界中が前代未聞の状況に陥りました。TKC全国会としては、TKC会員事務所にとって基本業務となる巡回監査の根幹が揺さぶられた3年間でもありました。事実、TKC全国会の翌月巡回監査率(移動平均)はこの3年間で3.9%低下しており、今後、巻き返していく必要があります。しかしながら、自計化や書面添付の件数は着実に増加しています。これは、会員や職員の皆さまが柔軟な対応で困難を乗り越えてきた結果だろうと思います。その根本的な部分には、TKC全国会が確固たる理念を持つ組織であるということや、TKCが開発するTKCシステムの威力が遺憾なく発揮されたということがあり、われわれと関与先の業務を守ってくれたからにほかなりません。
 そのような状況を踏まえて、2022年1月から2024年12月末までの運動方針を策定しました。1年経ってみて、個別目標への推進実績が順調に推移しているので、これからも自信をもって運動を展開できると手応えを感じています。

 ──運動方針では、「TKC方式の自計化」、「TKC方式の書面添付」、「『巡回監査』と『経営助言』」の推進に取り組むことも明確に示されており、会員にとって、とてもわかりやすい目標になっています。

 坂本 そこにはTKC全国会とTKCが表裏一体となって目標達成をめざそうという意味が込められています。TKCは「会計事務所の職域防衛と運命打開」のために経営されている企業であり、われわれTKC全国会はそれを前面に立って体現する組織ですから、両者の目標も一致させる必要があります。現に、TKCは、われわれの自計化や書面添付の推進を惜しみなく支援し、優良企業の育成や黒字化の支援についても取り組みやすい環境を整えてくれています。依然として黒字決算割合が低迷している中にあって、中小企業の支援を通じて日本経済の発展に貢献するという観点からも、運動方針に掲げている具体策は、正しい選択だったと考えています。

「変動損益計算書」を活用して限界利益を増やす支援をしてほしい

 ──飯塚名誉会長はこの運動方針を踏まえ、2022年7月のTKC全国役員大会(神戸開催)での基調講演「TKC方式による『優良企業』の育て方」において、新しいBAST(TKC経営指標)の優良企業の定義変更を示されました。その狙いをあらためて教えてください。

TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問 飯塚真玄

TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問
飯塚真玄

 飯塚 TKC全国会の事業目的の1番目は「租税正義の実現」であり、2番目は「税理士業務の完璧な履行」です。この極めて高い志を軸にして、私たちは50年以上にわたって、TKCシステムを設計し、そのための社員教育を行ってきました。その中で、自計化システムの在り方について、いろいろな気づきがあったわけですが、特に、BASTの優良企業をどう定義づけするのが全国会にとって一番よいのかということをずっと模索してきました。
 従前は、総資本経常利益率をはじめとする、いわゆる財務分析を中心とした優良企業の定義でした。しかし財務分析というのは、企業の経営者あるいは経営幹部が自社の業績を分析するために編み出されたものではありません。例えば、金融機関や投資家などが、外部から決算書をベースとして業績の良し悪しを年に1度、定点観測するときに使う手法です。それを優良企業の定義にしていることに居心地の悪さをずっと感じていたのです。これに対して、経営者あるいは経営幹部が日々に、または月次に、そして年間を通して最新の業績を常に意識しながら実際の行動に移すことができるような経営指標を選ぶとしたら何がよいのだろうかと考えて、その結果として会員先生方に定義変更の内容をお示ししたわけです。

 ──新しいBAST優良企業の定義は、①書面添付の実践、②「中小会計要領」への準拠、③限界利益額の2期連続増加、④自己資本比率が30%以上、⑤税引き前当期純利益がプラス──の5条件を満たす企業に変わりました。これらは従前のような相対評価ではなく、絶対評価(該当・非該当がわかる)なので、月次での経営助言も可能となります。令和5年版BASTからは、「TKC自計化システム利用企業」であることも条件の一つとして追加されるとうかがっています。

 飯塚 私はその中で、変動損益計算書の限界利益をとても重視しています。限界利益が前年と比べてどうなっているのかなどについて、もっと敏感になることによって、経営の戦略性と安定性という2つの側面を同時に実現できると信じているのです。経営者としての経験的にも、変動損益計算書こそが自計化システムのいわば「華」だと考えていたので、きっと多くの関与先が慣れ親しんで使ってくださっているものと想像していました。ところが、あらためて調べてみたところ、約28万社あるTKC自計化システムのユーザーのうち、約7割もの方々が年に1度も変動損益計算書の画面を見ていないことを知って、あまりのショックに打ちのめされてしまったのです。これは関与先の経営者のみならず、会員先生方にとっても改善すべき極めて重大な問題なので、早く手を打ちたいと考えています。

 ──「黒字化を支援し、優良企業を育成する」という観点から、経営者に対して限界利益の有効性を正しく理解いただけるような支援を、会員が率先して取り組まなくてはいけませんね。

 飯塚 そう願っています。財務的に困難がある、あるいはなかなか苦しい状況から抜け出せないなど、企業にはさまざまな経営上の問題が起こってくるわけですが、それらを解決するには、限界利益を増やすしかありません。逆にいえば、限界利益を増やすことができさえすれば、ほとんどの経営上の問題は解決してしまいます。経営者自らがそこに集中するというのは、とても重要なコンセプトであり、経営者の任務でもあります。その感覚は半年も真剣に勉強すれば必ず身につくものです。そして、限界利益を一般の価値観にしたがって正しく分配していくということができれば、企業は成功するはずなのです。会員先生方には、その気づきを経営者に与える指導でサービスの価値をさらに高めてほしいと思っています。

 坂本 いま飯塚名誉会長からご指摘のあった限界利益額の増大支援は、全国会としても大きなテーマとして受け止めなければなりません。そのときにポイントとなるのは、あくまでも「会計で会社を強くする」主人公は経営者自身であり、税理士の立場は、経営革新等支援機関として金融機関との連携を通じた財務経営力に着目した助言に徹することだと考えています。

金融庁の監督指針改正は中小企業金融における税理士が果たす役割を変える

 ──金融機関との連携強化がますます重要になってくる中で、2022年11月に金融庁が公表した「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」改正案は、経営者保証を不要あるいは解除するという踏み込んだ内容となっています。金融機関が経営者保証を解除できなければその理由を金融庁に報告しなければなりません。これが実行されれば、金融機関側だけでなく事業者による「経営者保証に関するガイドライン(ガイドライン)」の要件への認識が高まることが予想されます。こうした金融施策の転換について、お二方はどう受け止めていますか。

 坂本 2023年4月から監督指針の改正が実行されれば、中小企業金融のコペルニクス的転換が促されると思います。その前提となるガイドラインに関しては、TKC全国政経研究会として、これまで情報収集や政策提言に努めてきました。
 事の発端は民法改正です。経営者以外の個人による保証を制限する流れの中で、経営者保証についても、一定の規律を設けることになりました。その背景として経営者保証には、経営への規律づけや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘がありました。これらの課題の解決策として、全国銀行協会と日本商工会議所がガイドラインを2013年に公表しました。先進国には見られない日本の悪しき習慣でしたから、これは当然の流れだったと思います。
 しかしそれから9年が経つわけですが、ガイドラインには法的拘束力がなかったことから、民間金融機関において実質的な経営者保証の解除は期待通りには進みませんでした。今回の監督指針の改正を巡る動きは、コロナ禍において中小企業の債務超過が大問題となっていることと併せて、こうした状況に金融庁が業を煮やした結果だと捉えています。

 飯塚 ガイドラインをあらためて読んでみますと、第4項が非常に重要な規定になっています。「主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、まずは、以下のような経営状況であることが求められる」として、3つの要件が掲げられています。

 ①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
 ②財務基盤の強化
 ③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

 ガイドラインでは、このうち①に関して、「こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。」と示しています。
 ③に関しても「なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。」と記されています。
 この後には、「対象債権者における対応」に関する記述が続きますが、いずれにしても、これから金融機関は、経営者保証の解除に向けて、真剣に外部の専門家に頼らざるを得なくなるということです。これは税理士の先生方にとって、大きな環境変化をもたらすでしょう。

 坂本 同感です。いまご指摘のあったガイドラインの要件は、金融機関からみて、TKC会員事務所であればすべて網羅していることがわかります。
 つまり、①については、初期指導や月次巡回監査、書面添付のほか、中小会計要領への準拠によって確認できます。②については、継続MAS等を用いた関与先支援があり、③については、TKCモニタリング情報サービスの活用が有効となるでしょう。その意味では、TKC方式によるさまざまな取り組みをもって、金融機関とともに、地域企業の応援団としてこれまで以上に貢献できる機会が増えると思っています。

 飯塚 税理士の先生方が個人として高い志をもってお仕事をされていくことがこれからも重要なのは間違いないと思います。一方で、金融機関にとっては、取引先企業にどのような税理士が顧問しているのか、また、その顧問税理士はどういうシステムを使って自計化しているのかについても、これまで以上に重視してくるのではないかと予想しています。そうした金融機関の変化にしっかりと対応して個別具体的な協力関係を築くことができるようになれば、会員先生方のお立場は、さらに優位なものになるだろうと思います。この1~2年が勝負どきになるでしょうから、ぜひとも頑張っていただきたいですね。

 坂本 ありがとうございます。会員への力強いメッセージになると思います。

対談風景

厳しいときこそ問われる税理士の真価 TKC全国会運動方針に邁進しよう

司会:本誌編集長 石岡正行

司会:本誌編集長 石岡正行

 ──最後に、2023年を迎えるにあたって、税理士業界の展望を踏まえたお二方の抱負をお聞かせください。

 飯塚 2023年が一体どうなるのか、IMF(国際通貨基金)が世界経済の中期的な予測を2022年10月に公表しています。それによると、世界経済の最悪期はこれからで、2023年は、多くの人々にとって景気後退期のように感じるだろうと述べています。世界経済の成長率は、2021年の6.0%から2022年には3.2%へ、2023年は2.7%に鈍化すると見込んでいます。日本経済はさらに悪く、2021年と2022年が1.7%、2023年は1.6%という予想をしています。また、世界経済悪化の要因として、ロシアによるウクライナ侵攻とインフレの長期化による生活費の高騰、中国経済の減速の3点を挙げていますが、日本経済においては、ゼロゼロ融資の元本返済も本格化します。つまり、2023年は、税理士業界にとっても容易ならぬ時代が幕を開けることになります。
 その中で、会員先生方がいかに正しく関与先を導くべきか、腹を括るときが来たといえます。したがって、初心を忘れずに、TKC全国会創設の理念に沿って、ご自身を鍛えていただきたいと思います。TKCも会員事務所のさらなる発展のためにシステム開発と導入支援に全力を注いでまいります。

 坂本 われわれ税理士にとって厳しい状況であればあるほど、本物かどうかの真価が問われていると思います。冒頭に申し上げた通り、われわれはコロナ禍という厳しい状況を乗り越えてきました。そうして迎えた2022年1月の政策発表会にはじまって、6月には400名の大集団でハワイ表彰旅行を実施し、7月には全国役員大会を神戸に1,000名を集めて3年ぶりに盛大に開催するなど、アグレッシブな運動をあえて展開してきました。
 そして、8月から9月にかけては、「年度重要テーマ研修」を全国各地で開催し、4,000を超える事務所から約7,000名に参加いただくことができました。基調講演では、10名の選抜会員が、統一テーマ「わが事務所の未来への挑戦」に沿って、収益構造の変化やDX対応を含めた事務所経営の舵取りと今後のビジョンを熱く語ってくれました。このように、新しいリーダーも育っており、TKC全国会は、老壮青のバランスの取れた組織になってきています。こうした組織力を存分に生かして、これからもTKC全国会の運動方針に邁進したいと思います。
 会員の皆さまにおかれても、今年からはじまるインボイス制度や電子帳簿保存法における電子取引等へのDX対応について、TKCからの万全な支援を受けながら、引き続き一件一件の関与先に対して、よい意味で叱咤激励のうえ指導してほしいと思います。そうして、TKC会計人が実践する業務が正しく社会に認知されるように、運動方針の実現に結びつく事務所経営をより強力に展開されることを期待しています。

(構成/TKC出版 古市 学)

(会報『TKC』令和5年1月号より転載)