対談・講演
理念の共有を礎に、関与先完全防衛に全力を尽くそう
藤田広行 大同生命保険社長 × 坂本孝司 TKC全国会会長
本年は、TKC企業防衛制度の誕生と、企業防衛制度推進委員会の発足から50周年という節目にあたる。今年4月に社長に就任した大同生命保険株式会社の藤田広行社長と、TKC全国会の坂本孝司会長が対談し、これまでの提携の歩みを踏まえ、経営助言業務としての企業防衛制度推進の今日的意義や、AI活用を見据えた近未来の展望を語り合った。
進行 本誌編集長 加藤恵一郎
とき:令和8年6月15日(月) ところ:TKC東京本社
OB訪問と地元中小企業への思いがきっかけとなり、大同生命に入社
──今回は、本年4月に大同生命の社長に就任された藤田社長をお迎えして、坂本会長と対談をしていただきます。
坂本 藤田社長、あらためまして社長へのご就任おめでとうございます。
藤田 ありがとうございます。
──はじめに、入社されてから、これまでのご経歴をお聞かせください。
藤田広行大同生命保険社長
藤田 私は1988年に大同生命に入社しました。当時は「ザ・セイホ」と呼ばれるなど生命保険業界が注目されていた時期で、私自身、機関投資家としての役割にも魅力を感じて志望しました。また出身が神戸ということもあって、関西に本社がある生保会社を探しておりました。
そんな中、就職活動のOB訪問でお会いした先輩方の素晴らしい人柄に触れ、「この会社はきっと、良い会社に違いない。何より自分がやりたいことを実現できそうだ(笑)」と感じたことが大同生命を選んだ一番の決め手です。また、神戸で育ち、工務店や町工場で働く方々の活気に触れる中で、次第に事業所が減っていく様子に寂しさを覚え、中小企業をお守りする仕事に携わりたいという思いを抱くようになったことも理由の一つでした。
入社以後のキャリアを振り返りますと38年経ちますが、ほとんどの期間は本社で営業企画部門や営業推進部門の業務に携わってきており、営業の現場での経験は4年ほどです。初めてTKC会員の先生方と直接的に仕事をさせていただいたのは2018年から、近畿地区で営業本部長を2年間ほど務めていた時期です。その後、事業本部長を務めた4年間で、さらに深くお付き合いさせていただくようになりました。それ以外にも営業企画の立場で中小企業支援に携わるなど、多くの経営者や税理士の先生方と、さまざまな形で関わらせていただきました。
坂本 藤田社長のことは昔から存じ上げていますが、ずっと営業現場を歩んでこられたイメージを持っていました。
就職活動で大同生命をあえて選ばれたわけですが、私も公認会計士試験を受験する仲間が多い中で、あえて税理士の道を選びましたから、キャリアのはじめの選択は本当に重要だと思います。入社前のイメージと入社後のギャップはありましたか。
藤田 正直に申し上げますと入社当初は業務量が非常に多い部署に配属され、忙しい日々でしたので、少しギャップはありました(笑)。しかし、年を追うごとに、残業時間削減も進み、今では働きやすい会社へと成長してきたと実感しています。
それには、さまざまな要因がありますが、TKC会員の先生方と長年一緒に仕事をさせていただく中で、「会員先生方から大同生命に対して寄せられる期待や、大同生命社員はこうあるべきだという思いを絶対に裏切ってはいけない」という意識が社内全体に深く醸成されてきたことが非常に大きいと考えています。それが、会社をより良くしてきた原動力になってきたと思います。
飯塚毅初代会長は、50年以上も前から保険指導が会計事務所の正当業務と断言
──本年はTKC企業防衛制度が誕生し、企業防衛制度推進委員会が発足して50周年という大きな節目を迎えます。また、飯塚毅TKC全国会初代会長の要請でTKC専担組織が誕生してからも50年となります。あらためて、これまでの関与先企業の完全防衛に向けた歴史について、坂本会長から振り返っていただけますか。
坂本孝司TKC全国会会長
坂本 昨今では、企業防衛制度の推進は経営助言業務であり、「税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)」の一環であるという理解が浸透してきました。しかし、私が開業した45年前には税理士が保険指導を行うということに対して抵抗感を持つ会員も多く、私自身も月次巡回監査体制の構築や、初期指導等に注力するあまり、企業防衛制度の推進が後回しになるというジレンマを抱えていました。
しかし、飯塚毅初代会長は大同生命と提携する以前から「保険指導は会計事務所の正当業務である」と断言され、関与先完全防衛の体制を作る必要性を、我々TKC会員に論理的に示されました。というのも、飯塚初代会長はアメリカ公認会計士協会から1959年に発刊された『Guides to Successful Accounting Practice/成功する会計業務に関する手引書』を研究する中で、会計事務所の正当業務として保険指導が存在することを発見され、またそのロジックをご自身で確立されたんですよね。天才的なイノベーターだと心から尊敬しています。
私が開業した当時は巡回監査や書面添付等に力を入れる事務所と、保険指導で実績を上げる事務所とに分かれる傾向がありましたが、現在ではバランス良く全てを実践するTKC会員事務所が大部分を占めるようになりました。次の50年に向けては、「税理士の4大業務」を徹底して実践し、その中で書面添付、AI活用を前提とした自計化、そして企業防衛等にバランス良く取り組み、高付加価値を生む事務所をさらに増やしていくことが私の願いです。そのために大同生命には今後も全面的なご支援をお願いしたいと考えています。
──藤田社長、今の坂本会長の話を受けていかがですか。
藤田 大同生命にとっても、TKC会員の先生方を担当する「専担組織」ができて50年という節目の年です。当初は「渉外課」として既存の支社内に設置し、担当者が、ご同意をいただけた会員先生方とともに関与先へ保険提案を行う「点の活動」から始まりました。その後、委員会との連携も広がり、TKC全国会や各地域会の方針への理解を深めて、組織にTKCの名を冠し、会社全体で専担組織の充実を進めていく中で、「点の活動」から「線の活動」となり、そして「面の活動」へと進展していったように捉えています。現在では先生方にも標準業務として保険指導に取り組んでいただけるようになり、我々も坂本会長が重視される「顔の見える関係」を強化し、ご支援の「面」をさらに大きくしていくことが最も重要と考えています。生命保険業界全体が営業組織を縮小する傾向にある中で、大同生命のTKC組織では営業部の新設や人員の充実といった、ある意味では時代に逆行するような組織拡充を図っておりますが、これも50年の歴史の延長線上にある取り組みです。
坂本 現在の税理士業界はAIの脅威に振り回される過渡期にありますが、近未来はAIと人間のコラボレーションになると確信しています。
大同生命が「顔の見える関係」の構築に取り組む方針はその具体例であり、システム化を図りながらも、人との関係を重んじる経営は、我々が目指すところでもあります。
企業防衛制度の推進は、高付加価値経営、「税理士の4大業務」の核となる
司会/加藤恵一郎本誌編集長
──坂本会長は「税理士の4大業務」の中で、企業防衛制度の推進を経営助言業務と位置付けられています。会計事務所の経営革新や、今後本格化する高付加価値経営といった事務所経営の視点から、企業防衛の今日的な意義をお聞かせください。
坂本 保険指導は「税理士の4大業務」における経営助言の一番の核となります。経営助言に重なるのが税務・会計・保証業務です。関与先ごとに異なるリスクを金額で算定する際は借入金等会計上の数値が必要です。また保険料や受け取る保険金にも、税務上の判断が不可欠です。さらに、これらの基となる数値は正しくなくては判断を誤るため、書面添付の実践、すなわち保証業務も必要となります。これらを総合して経営助言に活かし(同時提供)、保険指導をするということです。このことをまずは確認しておきたいと思います。
この指導は税務・会計・保証の専門家である我々だからこそ行えるものであり、TKCシステムを活用した月次巡回監査から導き出す「標準保障額」であるからこそ、説得力があるのです。
現在、TKC全国会の「高付加価値モデル構築プロジェクト」において、関与先企業の存続と成長を支援するための高付加価値事務所経営について検討しています。その核となるのが月次巡回監査であり、「税理士の4大業務」を全面展開することで、より強固な「顔の見える関係」を構築していくことです。関与先企業の永続的発展を目指す高付加価値経営、そして「税理士の4大業務」の同一企業への同時提供の核になるのが、リスク管理指導である企業防衛だと考えています。
藤田 今のお話に関連して申し上げますと、私は課長時代に、当時の社長から「藤田君、経営の要諦は、リスク管理だよ」と言われ、なぜかその言葉が深く心に刻まれたことを覚えています。会社がさまざまなステークホルダーからの期待に応え、役割を果たし続けるためには、存続し続けなければならない。そのためにもあらゆる可能性を考慮したリスク管理が不可欠だということです。
中小企業は大企業と異なり、経営資源に制約があり、社内にリスク専門の管理部門を設置することは困難です。そのような中で、TKC会員の先生方は、月次巡回監査や経営助言業務を通じて、経営者にリスクを認識してもらい、経営の方向性を示されています。まさに大企業のリスク管理部門のごとく、中小企業の社長を支える重要な役割を果たされているのです。
TKC会員の先生方の関与先企業では黒字割合が高く、金融機関の融資におけるデフォルト率が低いという実績は、やはりTKCシステムや月次巡回監査がリスク管理として卓越した機能を発揮している証左だと感じています。大同生命はその点をよく理解して、保険指導を含む高付加価値経営に取り組まれる会員事務所へのご支援のレベルを上げていくことが、求められる役割と認識しております。
──「TKC企業防衛制度」というビジネスモデルは、投資家からも高い評価を受けているそうですね。
藤田 生命保険事業というのは基本的にストックビジネスです。保有契約高が着実に積み重なり、右肩上がりに成長している状態が健全な収益構造といえます。TKC企業防衛制度の保有契約高が長期にわたって着実に伸びている事実は、投資家から見るとビジネスモデルの極めて高い安定性を示しており、他社と比較される中で非常に評価されるポイントです。
坂本 生命保険会社は一般的に企業評価のKPI(重要業績評価指標)の上位に収入保険料を用いますが、大同生命はそうではなく、リスクを担保する金額である保有契約高を用いています。この点は非常に重要で、「中小企業を守る」という使命を堅持されている、真面目な姿勢の表れです。本当に素晴らしいことだと思います。
営業拠点の拡充、人員増強等で未来に向けて「顔の見える関係」を強化
──本年50周年を迎えたTKC企業防衛制度ですが、次なる60周年に向けた「近未来の展望」をお聞かせください。
藤田 TKC企業防衛制度をより使いやすく、会員先生方が関与先企業のリスク管理面においてしっかりとした経営指導・助言をしていただけるよう、さらに発展させる必要があると考えています。
例えば商品・サービス面においては、「大同生命だからこそ作れる商品」を、今後10年、20年の中で実現してまいりたいと思います。当社の長い歴史の中で、法人向け保険のスペシャリストとして蓄積されたノウハウやデータがありますので、それらを活用して、次の未来に向けた商品開発を進めます。
ただし、商品やシステムが完成すれば自然に保険契約高が増大するわけではなく、やはり「人の力」が不可欠です。この場をお借りして感謝申し上げますが、「企業防衛データベース」の開発と普及に、株式会社TKCさまにも膨大な労力をかけていただきました。また、会員事務所のご支援においても、SCGの方々との連携やご協力無くして今日は無かったと考えています。
AIを中心としたデジタル化の波を積極的に取り入れつつも、引き続き「人の力」を重視し、TKC会員の先生方のご支援に取り組んでまいります。そして、次の未来に向け、「顔の見える関係」を強化できる組織の拡充と人材教育、そして人員の増強をしっかりと継続することをお約束いたします。
坂本 心強いお言葉をありがとうございます。今後について考えるとき、よく不易流行といわれますが、変えてはいけないものは「関与先企業の完全防衛」です。これを基軸としつつ、大同生命にお願いしたいのは「時代に即応した保険商品開発」です。これまでも企業防衛制度推進委員会などの要望を真摯に受け止め、根幹を変えることなく多様な商品を開発していただいた歴史があります。
ぜひ今後も時代の変化に対応し、現場の声を汲み取って、中小企業の永続的発展に資する商品をご提供いただければと思います。
また、大同生命の現場の皆さんの持つ熱量と知識量には本当に感謝しています。企業防衛の大切さを真摯に説明される担当者の熱心さに心を打たれて、一歩目を踏み出すTKC会員は少なくありません。そうして契約が成立し、お客さまが満足されている姿を見てより理解が深まり、「よし、今後も取り組んでいこう」という好循環が生まれています。
藤田 それは、とてもありがたいお話です。
坂本 その意味において、時代の流れに逆行して現場の営業拠点を拡充し、スタッフを増員してマンパワーを強化されるという今回の経営方針を頼もしく思います。
また、保険指導は会計事務所にとって関与先企業からの信頼感の裏返しでもあります。TKC会員事務所における企業防衛の伸びしろはまだまだありますし、日本の中小企業数から見ても今のシェア率で満足してはならないと思っています。
──本年、TKC企業防衛制度誕生50周年を記念して制作された『保険指導の標準業務化テキスト』を、大同生命の社内でも活用されていると伺いました。
藤田 企業防衛制度推進委員会の「テキスト制作プロジェクト」の先生方が、心血を注いで作り上げられた素晴らしいテキストを、現場担当者は深く読み込んでおります。経営助言としての保険指導が、さらにTKC会員の先生方の事務所に標準業務として浸透するよう、我々も内容の理解を深めご支援してまいります。
関与先を守る「TKCブランド」をさらに輝かせていこう
──最後に、TKC会員へのメッセージをお願いします。
藤田 当社の担当者は、日頃から先生方と接する中で、仕事の本質や相手の価値観との向き合い方など、人格形成の根幹となる部分についても、本当に多くのご薫陶をいただいております。日々の貴重な学びは「人の力」の成長を促します。私どもはそのことに深く感謝し、提案力や支援力の向上という形で先生方のお役に立てるよう、さらに努力してまいります。現在、TKCブランドの社会的評価はより一層高まっていると感じます。これは先生方一人一人の努力の積み重ねが広く社会に浸透し、まさに「社会の納得」を得ている証しだと思います。
我々は「TKC企業防衛制度」に代表されるように、TKCブランドの中で活躍のフィールドをいただいております。このTKCブランドがさらに輝くよう、大同生命としての役割を発揮し、月次巡回監査を基本としたTKC会員の先生方の取り組みへのご支援を通じて、ともに未来を歩んでいきたいと願っております。
引き続き、理念の共有を礎に、中小企業の存続と発展のご支援に全力で邁進してまいります。
坂本 TKC全国会の基本理念である「自利利他(自利トハ利他ヲイフ)」は、平たく言えば、「あなたの幸せを実現することが、そのまま私の幸せである」ということです。この哲理は、会計事務所にとってお客さまである関与先企業だけに留まりません。
日頃から、TKC会員とともに熱心に取り組んでくださっている大同生命の皆さんの気持ちにしっかりとお応えするためにも、大切な関与先を守るための保険指導、リスク管理指導に取り組んでいくことは我々の本来業務と言えます。今後ともよろしくお願いいたします。
──本日はありがとうございました。
(構成/TKC出版 清水公一朗・米倉寛之)
藤田広行(ふじた・ひろゆき)氏
1964年9月生まれ。兵庫県出身。1988年3月に同志社大学商学部卒業後、同年4月に大同生命保険相互会社(現・株式会社)入社。営業企画部長、神戸支社長、代表取締役副社長などを経て、2026年4月より代表取締役社長就任。
(会報『TKC』令和8年7月号より転載)








