会計・税務
[TKC医業会計データベースMX2・MX3活用事例] 来院患者数1日150人成長を支えるのは適切な経営管理

■ 院長 池田 秀幸(いけだ ひでゆき)
開業から約1年半で1日150人もの患者さんが来院する「池田皮膚科クリニック」(福島県伊達市)。これまで「十分な説明」「待ち時間の短縮」などに努めるとともに、皮膚科に関する領域はすべて対応するという考えから、美容分野にも積極的に取り組む。「安定経営を実現するために、自院の経営状況を的確に把握し、適切な意思決定につなげられる『TKC医業会計データベース(MX2)』は欠かせないシステム」と語る院長の池田秀幸氏に、これまでの自院の取り組みや、MX2の活用法などについて話をうかがった。
DATA | 池田皮膚科クリニック |
![]() メディカルサロン「ダーマルラボ」が併設されている池田皮膚科クリニック |
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所在地 | 福島県伊達市保原町上保原字中ノ台 4-20 http://ikedaclinic.net/ |
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診療科目 | 皮膚科・美容皮膚科・小児皮膚科・アレルギー科 | |
診療時間 | 月・火・水・金・土; 9:00 〜12:30 3:00 〜 6:30 木; 9:00 〜12:30 ※ 木曜午後、日・祝日は休診 |
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スタッフ | 医師 1 人(非常勤医師 1 人) 看護師 3 人、看護補助 2 人 受付事務 3 人 |
疾患別の「補助資料」を用意して十分な説明をし、待ち時間短縮を実現
──平成20年6月の開業からまだ約1年半しか経過していませんが、多くの患者さんが来院されているとのことですね。
池田 季節によって変動しますが、1日平均で約150人です。事業計画では、初年度が30人、7年目で80人と設定しましたが、それを大きく上回っています。開業初日から約120人の患者さんに来院していただきました。医業経営が厳しいといわれているなか、予想以上のスタートを切れたことを大変、嬉しく感じているところです。
獨協医科大学病院で勤務していた頃から、故郷の福島県伊達市で地域医療に貢献したいという思いがあり、開業を決意したわけですが、この地域には皮膚科専門クリニックが1件しかありませんでした。開業してほしいという地域の方々の声も多く、市長から直接、お願いされるほどでした。こうしたニーズの高さが、現在の患者数に反映しているのだと考えています。
患者層は、高齢化率が27%弱と非常に高い地域でありながら、高齢者が35%、子どもが35%、20代から50代が30%と、幅広い層の方に来院していただいています。扱う疾患としては、湿疹や水虫、アトピーなどが多いです。ただ、最近、円形脱毛症の患者さんが増えてきました。これは、ストレス社会に大きく影響しているのだと思います。また、皮膚の腫瘍やできものなどの手術にも対応しており、開業からこれまで1,000件ほど行っています。
──多くの患者さんが来院されているのは、単にニーズが高いだけでなく、地域の人々の信頼を得る努力を行ってこられたからだと思いますが。
池田 治療を進めていく上では、患者さんに病気を正しく理解していただくことが重要なので、「わかりやすい十分な説明」を特に意識してきました。それぞれの疾患の特徴や治療の流れはもちろんのこと、生活習慣で気をつけなければならないことや、費用がどれぐらいかかるのか、薬の使い方などまでしっかり説明します。
たとえば、皮膚疾患のなかには、すぐに治るものと治らないものがあります。それを知らせずに何度も通院させると患者さんは不信感を抱きます。はじめに長くかかる病気であるということをしっかり説明することで、不安に思うこともなくなり、そういう病気だということも認識していただける。すると治療にも協力的になり、治りも早くなります。そうした説明が患者さんの信頼につながっているのだと思います。十分過ぎるぐらいの説明を行っているので、クレームなどの問題もほとんど起きていません。
──限られた時間のなかで、多くの患者さんに十分な説明を行うというのは、非常に難しいと思います。
池田 当院では、病気の特徴から日常生活の留意点などまでが、詳細に記載された疾患別の「補助資料」を用意して、短時間の説明を補完しています。
また、高齢者の方などは、目が悪くて補助資料が読みづらいこともありますので、診察や治療が終わった後、看護師も大事なことについて2〜3分程度、補足説明を行います。
「子ども待合室」を設置し、増加する子どもの患者に対応
──あらかじめ資料を用意しておくことで、限られた時間でもきちんと説明できるわけですね。
池田 待ち時間の短縮にも力を入れてきました。
当院の看護師は、診療中の会話の内容から、素早く軟膏やガーゼなどの必要なものを用意し、すぐに処置などができるように準備します。ほんの少しの時間のことですが、これだけでも時間短縮につながっています。受付事務スタッフも、1人が必ず待合室に出て、患者さんとお話をしたり、高齢者や車いすの方が来院したら手を貸してあげたりします。
また、最初は一般待合室で待っていただき、順番が近づいてきたら、診察室の前の待合室に移動していただくようにしています。1か所で待つと、非常に長く感じるものですが、場所を変えることで、それほど長く感じなくなるわけです。それと同時に診療もスムーズになります。
混んでいる割に待ち時間はそんなに長くない。実際の診療では十分過ぎるぐらいの説明がなされるということで、患者さんには満足いただいているようです。
美容や化粧品開発にも取り組み 皮膚科に関するすべての領域に対応
──貴院の特徴として、一般皮膚科や手術だけでなく、美容にも取り組んでいることがあげられます。
池田 開業する時、皮膚科に関する領域については、すべて対応するクリニックにしたいと考え、シワやシミ取り、抗加齢、美白、ニキビの改善などを行うメディカルサロン「ダーマルラボ」を併設しました。
皮膚科医のなかには、美容は皮膚科の領域ではないと考える方もいらっしゃいますが、一般外来の患者さんでも美容のニーズは非常に高いのです。たとえば、ニキビを治療するだけでなく、その痕のケアもしてほしいなどです。患者さんにとっては、その後のケアも治療の延長線上にあるということです。そこまで、適切に対応することで、はじめて患者さんは満足すると考えています。また、医療機関に併設されていれば、安心して通うこともできます。
ダーマルラボの料金は1回3,000円で、1日の利用者は約30人です。約90%が女性の方ですが、男性の利用者も数%います。男性がいると女性が利用しにくいということで、昨年、男性用のベッドを別の場所につくりました。
──一般外来の患者さんでも、美容のニーズは高いわけですね。
池田 皮膚疾患の患者さんが市販の化粧品を使うと、痛んだり、炎症を起こしたりすることがあります。そこで製薬会社と連携して株式会社を設立し、「Dr.H&H」という化粧品の開発・販売も行っています。防腐剤が入っていない低刺激なもので、利用者からは好評をいただいております。
──たくさんの患者さんが来院されるなか、サービスの質を担保するためには、スタッフの役割も重要になりますが。
池田 予想を上回る患者さんに来院していただき、患者数は今も伸び続けています。2年後には近隣に1,000人規模の小学校が開校される予定で、さらに増加することが見込まれます。こうしたなか、サービスの質を担保していくためには、スタッフの役割が非常に重要となります。日々の忙しい業務でスタッフが疲弊してしまうという環境では、いずれ院内から崩壊していきます。
当院では、どんなに忙しくても、スタッフがいきいきと働けるように、患者数(500人単位)に応じて毎月、業績給を支給しています。患者数が伸びているのは、私だけでなくスタッフのおかげでもあります。その労務に報いるような賃金体系にしなければ、スタッフも不満に感じます。
また、給与面だけでなく休暇も重要です。そこで、月6回の半休制度を取り入れています。木曜午後は休診なので、午前に休暇を入れれば、1日休むことができますし、ちょっとした用事がある場合でも半休なら取りやすい。シフト決めは、スタッフだけで自由に決めてもらい、私は口をはさまないようにしています。ただ、同時に複数のスタッフが休むようなシフトの組み方だけはしないようにしてもらっています。いつでも気軽に休めるような雰囲気がつくられることで、スタッフは精神的にも余裕が出てきます。
適切な意思決定ができることがMX2の最大のメリット
──経営面では、どのようなことに注意しておられますか。
池田 地域の方々に質の高いサービスを提供し続けるためには、適切な業績管理が不可欠だと考えています。「TKC医業会計データベース(MX2)」は、毎月の患者数やコスト、医業収益などの業績をタイムリーに把握することができ、安定経営を実現するためには欠かせないシステムだと感じています。当初、田島隆雄税理士から「日々のデータを自分で入力してください」と言われたときには、正直、不安もありましたが、親切にサポートしていただいたこともあり、思ったよりも簡単で驚いています。
──特に意識している数値は何ですか。
池田 最も注意しているのは患者数です。たとえば、美容分野の利用者数の伸びが大きいことがわかれば、「もう少し在庫を補充しなければならない」など、適切な管理ができます。昨年は、子どもの患者さんが多いことがわかりましたので、新たに「子ども待合室」を増設しましたし、レーザー治療のニーズも高かったので、レーザー機器を増やしました。このように効果的な投資ができるということが大きいです。
昨日、患者数を前年と比較したところ、全体で約1,000人増えていました。実際にも忙しく、常勤医師の採用を内心、考えていたのですが、医業収益は前年同期比で減少していたのです。その理由は、初診と再診の患者さんの割合にありました。初診の患者さんが減っていたのです。データを確認せずに「患者さんが増えているから」ということだけで、新たな常勤医師を確保していれば、大幅な減収にもつながりかねなかったわけです。
このようなことも含めて、正確なデータをもとに、適切に経営の意思決定ができることがMX2の最大のメリットだと思います。
写真左は顧問の田島隆雄税理士、右は池田秀幸院長
──これからの抱負などをお聞かせください。
池田 これまで同様、皮膚科に関する領域には、すべて対応していくというのが当院の目指すところです。そのために、一般皮膚科のサービスの質を高めることはもちろんのこと、往診や美容分野にもさらに積極的に取り組んでいきたいと考えています。そして、地域の方々が皮膚に関する問題が起きた時に、「とりあえず池田皮膚科クリニックに行ってみよう」と思ってもらえるような存在になりたいですね。
医業経営コンサルタントからの一言
院長先生の想いを実現するため全力でサポートします
田島会計事務所
所長 田島 隆雄
池田秀幸院長とは、開業準備からのお付き合いをさせていただいております。初日から多くの患者さんに来院していただき、その後も順調に経営されているのは、院長の人柄はもちろんのこと、十分な説明や待ち時間の短縮、院内連携の強化などに取り組み、患者さんの信頼を着実に積み上げてこられたからだと思います。
さらなる地域医療に貢献できるように、これからも会計・税務、そして経営面からサポートしていきます。
(平成22年1月28日/「TKC医業経営情報」2010年3月号より」)