経営・労務・法務

診療科別の経営動向とその対策(9) [眼科診療所] ニーズの高まりで医業収益が回復傾向に

綿密な計画でバランスのとれた設備投資が重要

医業経営コンサルタント 税理士 谷野 勝之

1.眼科診療所を取り巻く経営環境

 眼科は、眼球やまぶたなどに発生した疾患の治療を専門とする診療科です。主な疾患として、結膜炎などの感染症、白内障、緑内障の手術などがあります。昨今では、コンタクトレンズ( CL )利用者の定期健診や、スギ花粉などによるアレルギー性結膜炎(花粉症)、パソコンやテレビゲームなどの普及による眼精疲労、ドライアイ(結膜乾燥症)の患者が増加傾向にあります。また、保険は適用されませんが、レーシックと呼ばれるレーザーを角膜に照射し、屈折を矯正することで視力を回復させる手術を受ける患者数も増えています。

  眼科は「単独専門標榜科」といわれ、他の診療科を併科標榜することが少なく、その診療所数は年々、増加しています。眼科診療所の施設数と医療費の推移を見ると、施設数は平成12年から平成15年の間に約7.7%増加し、1医療機関当たりの平均の医療費は約6.5%引き上げられています。人口10万人当りの施設数を見ると、全国平均は6.9施設(厚生労働省「医療施設調査」2005年10月1日時点)で、東京都(11.7)、大阪府(8.9)、神奈川県(8.0)、千葉県(8.0)が平均を上回っていることから、比較的、都市部に施設が多い傾向となっています。

img_b0418_01.gif

2.眼科診療所の診療報酬の状況

 眼科の診療報酬は、厚労省の報告によると平成18年6月の審査における外来患者1人1日当たりの点数は585.9点となっています。しかし、平成19年6月の審査においては、外来一般診療が534.6点、老人医療が607.8点となっており、患者1人当たりの単価は減少しています。白内障手術の診療報酬を見ると、眼内レンズが保険収載された平成4年には、白内障+眼内レンズ挿入術は16,100点でしたが、その後の報酬改定により増減があり、平成20年で12,100点となっています。

  また、平成18年度診療報酬改定においては、いわゆるCL診療所の診療報酬の過剰な保険請求が問題視されたことから、CL診療の検査料が大きく見直され、CL診療を中心としていた診療所は、大幅な報酬減となっています。

3.主な指標の5年間の推移と分析

「TKC医業経営指標(M-BAST)」の要約変動損益計算書の平成16年の数値を基準値(100%)として、その主要項目の5年間の推移を見ると図表のとおりです。

  平成17年のデータを見ると、平成16年度診療報酬のマイナス改定の影響を大きく受けて、すべての主要項目が基準年度を下回っています。しかし、「医業収益」を見ると、平成19年を境に基準年度を上回り、少しずつ回復傾向にあります。これは、ニーズの高まりによる患者数の増加の表れと思われます。しかし、その反面、「材料・委託費」の増加で「限界利益」は、「医業収益」の増加に比べて低くなっています。

  「給与費」について見ると、平成19年から増加しています。これは、患者数が増えたことによって人員の補充が進んだためです。人員増加などの影響により「労働分配率」は、平成20年で104.0%と高い数値を示しています。「1人当り医業収益高」については、1年置きに下降しています。

  この給与費の増加を補うため、「経費」は基準年度を下回っていることから、コスト削減の経営努力の跡がうかがえます。しかし、「経常利益」「医業収益高経常利益率」は、「医業収益」の低下により、「材料・委託費」「給与費」の増加分を吸収することができなかったようです。その結果「損益分岐点医業収益高」も上昇傾向にあります。適材適所による人員確保が理想的なあり方ですが、そのバランスをしっかり見極め、過剰人員などにならないように注意が必要です。

  眼科診療所の財産・損益構造(参考)を見ると、貸借対照表の「資産の部」における「流動資産」と「固定資産他」の構成比率は約50%(流動資産49%、固定資産51%)となっています。「固定資産他」の内訳を見ると、土地・建物が7割程度を占めており、医療機器等はリースで設備されているようです。

  都市部での開業の場合、土地建物の購入は相当な資金を要すため、そのほとんどは、ビル診での開業になると考えられます。ビル診の場合でも内装設備、検査や手術に必要な医療機器の購入資金に4,000万円〜5,000万円程度の設備投資が必要になります。経常利益の伸び率は低下傾向にあり、新しい設備(医療機器)を導入するためには、綿密な設備計画や資金計画を立て、過剰な設備投資にならないように抑制することが必要となります。

4.これからの経営対応策

診療所経営の根幹は、一定以上の患者数をいかに確保するかです。診療所の外装・内装などを整備し、見た目を清潔感のあるものにすることは、すべての診療科において重要なことですが、眼科診療所においては、その他、立地条件によって患者数・患者層が大きく異なる傾向にあります。

  自院の診療圏分析を適切に行い、患者動向・特性を見極め、より専門性を重視した診療行為に特化するなど、その地域ニーズに合致したサービスを提供することが重要になります。それが、競合する診療所と差別化を図ることにつながります。

  また、患者の待ち時間を緩和させる予約診療システムの導入、現在、絶対数はまだまだ不足していますが、医師の指示のもとに視能矯正や眼科検査ができるORT(視能訓練士)の配置、白内障などの日帰り手術への対応、近視予防のため定期健診などに積極的に取り組んでいくことも、これからの経営安定化につながると考えられます。

  眼科診療所は、眼科単科の診療所が大半を占めるため、内科や小児科などを標榜する他の医療機関と密に連携し、1人の患者を総合的に診ることも増収策として有用と思われます。今後の医業経営は他科の病院や診療所との連携が必至であり、患者を中心としたネットワークの構築が求められます。

img_b0418_02.gif

(「TKC医業経営情報」2009年5月号より)

クリニック経営改善オンデマンドミニセミナー

クリニック新規開業オンデマンドミニセミナー

運営組織のご紹介

TKC全国会医業・会計システム研究会 (略称:TKC医会研) は、TKC全国会の中でも特に医業・会計に精通した約1,600名の会員により構成されており、約23,000件の病院・診療所の健全経営をご支援させていただいております。