経営・労務・法務

診療科別の経営動向とその対策(8)[泌尿器科診療所] マイナス改定の影響が「収益減少」に色濃く反映

他院との差別化による透析患者の確保が不可欠

医業経営コンサルタント 税理士 岩田 修一

1.診療科としての特徴と経営の動向

  泌尿器科は、尿の生成を行う腎臓や尿を排泄する尿道などの泌尿器系疾患や、その周辺臓器である副腎、生殖器の疾患などを治療する診療科です。主な診療行為としては、人工透析や尿路結石症、前立腺や膀胱等の悪性腫瘍、性行為感染症などがあげられます。

  このうち、特に人工透析を受ける患者数は増加傾向にあります。毎月約1,000人のペースで増加し、約25万人もの患者がいるともいわれています。この人工透析治療による国民医療費は約1兆円に上っているのが現状です。人工透析治療は、週2〜4回の受診が必要で、1回当たり4〜5時間を要します。人工腎臓(処置)、ダイアライザー(材料)、増血剤(投薬)などを合わせると1か月当たり約40万円の治療費となります。

  人工透析の患者数は、糖尿病の増加に比例して今後もかなりの勢いで増加していくと予測されています。また、男性の加齢により発病率が高まる前立腺肥大や前立腺の腫瘍治療なども、泌尿器科診療所が行う診療行為のなかで、今後、そのウエイトを高めていくと思われます。さらに、性行為感染症は、性行為の低年齢化の影響もあり、急激に増加しています。

2.診療科の推移と患者動向

  厚生労働省の医療施設調査によると、泌尿器科診療所の件数は4,152件(平成17年)で、平成14年と比べて132件増加しています。一方、性病科は597件で32件減少しています。これは、患者数や受診率が減ったのではなく、性病科を標榜することにより、患者が来院しにくくなるという影響を考えてのことだと推測できます。尿路性器系疾患の受診率を見ると、45歳ぐらいから増え始め、65歳を過ぎると急増傾向にあります。高齢社会が進む現在、泌尿器科診療所は、今後ますます重要な役割を果たしていく診療科です。 

3.泌尿器科の経営の実態

  厚労省の医療経済実態調査を見ると泌尿器科は、「放射線科」「麻酔科」などとともに「その他」の項に集約されており、泌尿器科の経営実態だけを切り離せません。この前提を踏まえ、「その他」の項を概観すると年度によってバラツキがあることがわかります。平成17年の薬品材料比率は、平成9年比で0.8ポイント減の25.7%で、診療所全体の平均21.4%を上回っていますが、これは院内での材料費・薬品の使用が多いためです。院外処方への変更でこの比率を低下させる効果は期待できないと思われます。

4.主な指標の5年間の推移と分析

  「TKC医業経営指標(M―BAST)」の平成16年を100とした、平成20年までの要約変動損益計算書に基づく5年間の主要項目の推移は図表(1)のとおりです。

  これを見ると、昨今の診療報酬のマイナス改定の影響を受け、「医業収益」は平成20年で88.1%と減少しています。「材料・委託費」は、医業収益の低下以上に圧縮されており、各診療所の経営努力がうかがえます。しかし、固定費である「給与費」は、材料・委託費の圧縮ほどは進んでいないことから(労働分配率は逆に上昇)、結果として「経常利益」は趨勢的に低下傾向にあることが見てとれます。

  平成19年の数値が軒並み上昇していますが、実務的には、この時期に母集団データの入れ替えがなされていることが確認できますので、「トレンド基調」のなかの「特異値」と考えるべきです。したがって、「M-BAST」の経営指標としての有効性を阻害するものではないと考えます。

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5.これからの課題と対応策

(1)診療報酬の動向への対応
  泌尿器科に限らず全診療所が、近年の診療報酬改定において、これまでの出来高算定から包括化への移行がなされているため、総じて診療報酬減少となっています。診療報酬の引き下げがどこまで続くかはわかりませんが、患者数を確保できれば採算がとれていた経営の収支構造が劣化していくことも予想されるため、安定した収入の確保が強く求められます。

(2)顧客ニーズへの対応
  透析治療は1週間に約2〜4回慢性的に通院が必要で、供給施設が少ない地域では遠方でも通院せざるを得ないため、対患者関係は、診療所がやや優位になりがちです。しかし、治療時間は1回約4時間を要するので、治療中の患者に対し、治療室内の雰囲気の向上、透析ベッドに個別のTVの配置などの配慮が必要です。

(3)病院との連携
  透析治療においては、「シャント手術(人工血管形成)」が特定機能病院や地域中核病院で行われており、その後に患者が診療所に紹介され、そこで継続的な治療が行われることになります。病院との相互の連携体制の構築や勤務医、ソーシャルワーカーなどとの人間関係を密にしておくことが何よりも重要となります。

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(「TKC医業経営情報」2009年4月号より)

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