経営・労務・法務

高い技術力とスタッフ教育を重視する専門病院 -「財務の視点」が支える病院経営の永続性-

 大腸・肛門領域に特化する「チクバ外科・胃腸科・肛門科病院」。1972年の開業以来、多くの手術と検査を行ってきた。それを裏付けてきたのは、パイオニアとしての高い技術力である。中・四国地域における下部消化器の専門病院として確固たる地位を築いている。

  副理事長の竹馬彰氏は、「次世代へ病院を残していくためにも積極的なスタッフ教育などの職場環境の整備が必要であり、それには財務の視点が不可欠」だという。 “ 赤字であれば、いい医療は提供できない ” という経営スタンスが浸透する。37年間、一貫して専門特化の道を歩んできた理事長の竹馬浩氏と副理事長の竹馬彰氏に、病院経営のポイントをうかがった。

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医療法人天馬会
チクバ外科・胃腸科・肛門科病院
理事長 竹馬 浩

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医療法人天馬会
チクバ外科・胃腸科・肛門科病院
副理事長 竹馬 彰


医療法人天馬会 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院

〒710-0142 岡山県倉敷市林2217  電話:086-485-1755 http://www.chikubageka.jp/
 開設: 1972年8月  医療設備:手術室2室、内視鏡室3室、CT室1室、 X 線透視室1室
 病床数:60床  スタッフ数:医師7名、看護師45名、栄養士2名、その他42名

世界レベルを目指し研鑽40年 専門病院として不動の地位築く

 「チクバ外科・胃腸科・肛門科病院」は、その名が示すように下部消化器に専門特化した病院である。1972年の開業以来、肛門と大腸疾患の検査・手術を中心に数多くの症例をこなしてきた。大腸内視鏡検査は年々増え続け、いまでは年間で6,500例に及ぶ。また、肛門手術は病院開設7年目で年間1,000例を超し、30年目で累計33,000例となった。いまも岡山大学病院や川崎医科大学附属病院などの高度医療を行う病院からも肛門疾患の難しい症例が送られてくる。中・四国地域における下部消化器疾患の専門病院として確固たる地位を築く。

  理事長の竹馬浩氏は、「はじめはこんなに大腸内視鏡検査が普及するとは思っていませんでした。その需要は年々高まっています。機器そのものがよくなったり、技術が向上した影響もありますが、当院の場合はベースに肛門手術の高い技術力があったから大腸の検査が増えてきたのだと思います。

  肛門手術に関しては、開院当初の状況は全国的にみても非常に遅れていた分野でした。入院期間は長いし、手術をしても痛い。そういう中で新しい開放術式手術を取り入れ、痛みが少なく、入院期間も当時で2週間という期間にしていったのです。これは諸外国のデータを参考に集約した結果です。このように確かな技術で基盤をしっかり固めたことで、広い範囲から患者さんがたくさん来るようになったのです。常に全国レベル、世界レベルを目指して、自分たちが行っている症例を学会発表などして、研鑽を積んできました。その姿勢がいまの状況に現れているのだと思います」と語る。

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竹馬 彰副理事長)

しかし、診療報酬のマイナス改定や病院勤務医の不足など、医療を取り巻く環境は年々その厳しさを増している。その影響は専門特化する病院にどう及んでいるのだろうか。

  副理事長の竹馬彰氏は、経営環境の厳しさを認めながらも、総合的な病院より比較的影響は小さいという。  「診療報酬が引き下げられても純減にはなっていませんが、利益率ということからすると下がってきています。ただ、専門領域の患者さんがなくなることはありません。高齢化が進むことは、大腸がんの発生数も自然に増えていくことを意味します。みなさん検査や手術を要する人ばかりとは限りませんが、そこには専門病院だからこその役割があるわけです。患者さんに信頼されるように、常に技術水準を引き上げながら丁寧に診察する。そういう患者本位の考え方が大事なことだと思います。実際、若干ながらも患者さんの数は増えています」

赤字では「いい医療」できない 毎月の業績検討会でチェック

 そういう中で、常に財務の視点を重視して経営に取り組んできたという。そこには「赤字であれば、いい医療は提供できない」という考えが浸透する。

  副理事長は、「看護のスタッフも充足していかなければなりませんし、コメディカルにしても同様です。人件費比率も高止まりしやすい。材料費もどんどん上がってくる。そのコストを全部転嫁することはできません。そういう意味では財務面をしっかり把握して経営しなければならないのです。この点は今後もますます重要になっていくと思います」と、その重要性を語る。

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竹馬 浩理事長)

  運営会議では、理事長をはじめ、副理事長、院長、副院長、師長、経理担当理事とで業績検討を毎月行う。副理事長は「とくに月次の決算データの収益部分を中心に、入院と外来の収益はどれくらいか、あるいは病床利用率や平均在院日数がどうなっているかを確認しています。たとえば、単月だけが落ち込んでいたとしても方針変更や打ち手を考えることはしませんが、そういう基調が2〜3か月続くようだと早急な対策が必要になります。毎月毎月の数字をチェックすることは不可欠です」と、月次の業績検討で、幹部層の経営意識を高めている。

  さらに、コストに関しては人件費を中心に管理する。「昔から理事長は、人件費が50%を超えるようなら赤信号に近いぞといいます。ですから、その比率にはとくに注意をしています。材料費は伸びてきていますが、それを使うことで得られる収益もある程度見えています。逆ざやにならない程度に気をつけ、あまり厳密な管理はしていません」という。

そういいながらも薬品の不良在庫や期限切れのチェックなどキメの細かい取り組みを着実に行っている。

  その一方で、全国の下部消化器病院として活躍している6つの病院と年に1度、経営検討会を行ってきた。「各病院が財務のデータから医事データまですべてをオープンにして、経営の検討をしているのです。病床規模もみなさん100床前後で同じような中小病院ですから、とてもいいベンチマークとなっています」。お互い生の経営データを出し合うこの会は非常によい刺激となっているという。

経営状況を全職員に公開 病院目標はシンプルに

 同院ではスタッフ全員に対して決算報告会を行い、経営状況をオープンにしてきた。
  当初は主任クラス以上を集め、決算書を全部コピーして詳しい説明をしていたのだが、あまり詳しくてもピンと来ない人がいる。そこで、大まかな数値とする一方で、対象を全従業員にしたという。

  この決算報告会は経営の透明性を高めることがそのねらいである。100床未満の同族病院で、すべての経営データを公開しているところは少ないようだ。そういう中で、竹馬理事長は開設当初からすべてをオープンにしてきた。

img_b0427_05.gif 「この病院には垣根がないのです。建物にも垣根はありませんし、手術の方法も開放術式です。職員に対しても一切隠すことは何もありません。全員が集まるミーティングを週1回やるのですが、その席で財務数値の公開もわかりやすく行っているのです。もっと詳細な数値を求められれば、すべてを公開します。小さな病院ですから、すべてをオープンにすることで、みんなで頑張ろうという雰囲気になれるのです」

  業績の公開とともに経営計画の公表も行ってきた。発表会という形式はとっていないが、ミーティングで病院の年間目標をつくり、それに対する部署の目標、個人の目標へと落とし込んでいく。その際、病院全体の目標設定は「1日何人」というシンプルなかたちにしているという。副理事長は、「TKC医業会計データベース(MX2)では、1人1日あたり単価、材料比率などの詳細もわかりますが、そういうデータを加味した上で、全員がわかりやすい目標にすることによって、その効果も高まります」と話す。

  人事面では、モチベーションを高めるため、人事考課制度を導入して業績を反映させた給与システムとしている。基本となる給与・賞与はあまり変えず、賞与の一部を業績と連動させたものとしているのだ。その経緯を竹馬副理事長は次のように語る。

  「このままだと人件費が年功序列でずっと上がり続けることになります。その仕組みを変え、職員のやる気を喚起させることにつなげられないかということから、新たに人事考課制度を導入し、それと連動した決算賞与を出すことにしたのです。とにかく病院の収益に対して各人がどれだけ貢献したか、それに報いる制度にしたいと考えました。このような方針をみんなに理解してもらいたかったのです」

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何度もシミュレーションし、長期計画で新築に取り組む

 今年、チクバ外科・胃腸科・肛門病院では病院を隣地に新しく建て直した。それまでも定期的に大きなリニューアルを7年に1度の割合で行ってきていた。しかし、トイレのアメニティをこれ以上向上させるのは困難ということになり、2004年に本格的に病院新築計画に乗り出したのだ。隣地が農地だったこともあり、一足飛びに話は進まなかったが、土地を買うことができるタイミングを待ちながら慎重に進めきた。
  副理事長もずっと以前から「いずれは新築しなければならない」と考えていたという。

  「私が病院に戻ってきたのが1992年です。すでに開業以来20年が経っていましたから、いずれは建物の更新時期が来ると思って、1999年に従来の建物の減価償却が済み、無借金経営になったところで、将来の建て直しのための内部留保を多くするようにしてきたのです。おかげさまで、建築費用の半分ぐらいは内部留保で賄うことができました」

  新築のための詳細な資金計画シミュレーションも欠かせない。

  「借入金を15年で返済する目標を立て、どこまで借り入れができるかを試算したのです。いまの経営環境からいって収入が伸びると考えるのは危険が伴います。しかし、人件費は低成長時代だけれども毎年1%上がると考えました。銀行金利を2.2%と、実際よりも少し高めに設定して、全体的に厳しめにして何度もシミュレーションをしたのです。ところが、着工した途端にサブプライムの問題が起きました。全く予想外のことでしたが、幸い計画は確実にできる範囲にしていましたから、工事は予定どおり進めました。本当に先のことはわからないものですね」

  病院新築によって床面積は1.5倍になり、恒常的な経費は上がってくる。しかし、総収益を上げる現実的な手立ては限られているなか、病室は全室個室にした。その理由を副理事長は次のように話す。

  「従来の大部屋にして、それぞれの仕切りをきちんとつくるという手もあったわけですが、それだと女性部屋と男性部屋を分けなければなりませんし、回転効率も悪くなります。全室無料の個室化ということも考えましたが、そこまでは踏み切れませんでした。ただ、入退院が激しいので(平均在院日数6.6日)、空きベッドを確保しておきたい。その一方で退院した直後に新しい患者さんを入院させたくないということもある。そういうスタッフの苦労を解消したいということで、60床のベッドの半分は無料の個室にしたのです。

  また、平均在院日数が短くなるにしたがって、病床利用率は下がってきています。その効果的な活用という面からも全室個室のほうが利用しやすいのです」

次世代への承継が使命 スタッフ教育を重視する

 病院を新築したばかりだが、副理事長はすでに次世代への引き継ぎを最も重要なテーマと考えている。そして、そのカギを握るのは組織づくりだという。その一環として取り組んできたのがISO取得や病院機能評価である。

  「もともとは医療機能評価を取ろうと考えたのです。ただ、当時は機能評価自体が400床以上の病院をターゲットにしていましたし、内容も曖昧な部分がありました。また継続していくのが難しいという評価も聞いていましたので、まずはISO9001を取得することにしたのです。ISOは2年ごとの更新で、その間に外部から監査も入る。また身の丈にあったやり方でできるということもありました。その結果、ISO認証取得に向けた活動で業務のルールづくりを行い、それを活用して医療機能評価にも取り組むことができたのです。来年、医療機能評価の更新がありますが、そのときにはISOを返上しようと思っています。いまとなっては両方は必要ありませんから」
  その効果を理事長は次のように語る。

  「目標に向かって組織が一つとなりチームワークを強化するという目的があったわけですが、それが達成され、職員も組織の中での動きができるようになってきました。それとともに、実際の現場にもさまざまな効果が現れています。たとえば、リスクマネジメント委員会の活動は、医療事故防止につながっています。ヒヤリハットの報告によって、みんながリスクを意識した行動をするようになりました」

  開業以来、大腸・肛門領域の専門病院という基本路線は一貫し、ぶれることはなかった。同院の歴史は竹馬理事長の大学の研究室在籍時にまでさかのぼる。すでにその時点で直腸がんの早期発見のためには肛門を診ることが必要だということに気づいたのだという。それ以来、数多くの症例を扱ってきた。まさに「まっすぐのレールをひたすら走ってきた」と述懐する。そして「まだまだそのレールはずっと続いている」という。「そのためにも、この病院を残していかなければならない。それには組織が重要であり、組織がしっかりするには『人は石垣』という言葉があるように、やはり人が最も重要なのです」と語る。

  副理事長もスタッフ教育に尽きるという点で一致している。「専門病院として自分たちが認められているというプライドを満たしてあげるように、ますます教育の機会を増やしていかなければなりません。また、大腸・肛門領域なので、人工肛門などのデリケートなケアを必要としている人もいますし、がんの患者さんも増えている。そういうケアができる専門看護師も必要ですので、その育成をバックアップすることも大事です。大病院に負けない職場環境を提供し、魅力ある病院にしていかなけれならないのです」と語る。

  下部消化器の専門病院を必要とする患者がいる限り、その患者を最新の高度な技術で永続的に支える。そのためには「財務の視点が不可欠」だと強調する。

img_b0427_07.jpg前列左から松本 清税理士、竹馬 浩理事長、竹馬 彰副理事長、後列左から真野 陽一医業経営コンサルタント(税理士法人岡山税務会計総合研究所)、竹馬 紫織運営企画室長


(平成21年6月18日/取材協力:税理士法人岡山税務会計総合研究所/「TKC医業経営情報」2009年8月号より)

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