経営・労務・法務

診療科別の経営動向とその対策(11) [歯科診療所] 過当競争による医業収益の減少が進む

医業経営コンサルタント 税理士 丹羽 篤

1.歯科診療所を取り巻く経営環境

  平成21年2月末での歯科診療所数は、前年より約400件増えて68,027件となり、よく比較される、全国のコンビニエンスストア数の約1.5倍となっています。また、歯科医師数は毎年2,700人ずつ増加し、現在、10万人に達しています。歯科医師の人口10万人当たりの適数は50人とされていますが、全国平均で76人、都市部では100人と、その数を大きく超えています。

  厚生労働省の医療経済実態調査(平成19年6月)によると、個人診療所(平均歯科医師数1.2人)の1か月当たり収支差額は123万円で、開業資金等の返済などを考慮すると採算は厳しく、最近の開業医の平均年収は700万円台といわれています。

  その原因として、過当競争や近年の診療報酬のマイナス改定、少子化や予防の進展による患者数の減少、保険医療費の自己負担の増加や不況・所得格差拡大により、優先度が低い歯科への受診抑制等が考えられます。そういう意味では、従来の保険診療依存の限界が見えてきました。厳しい状況のなか、自由診療へのシフトを中心に予防や歯科の介護を含めた積極的な取り組みが求められています。 

2.主な指標の5年間の推移と分析

  「TKC医業経営指標(M-BAST)」の要約損益計算書の平成16年の数値を規準(100)とした平成20年までの5年間の主要項目の推移は図表(1)のとおりです。

img_b0426_01.jpg 「医業収益」は低下傾向となっており、改善の兆しは見えない状況にあります。先に述べたように収益の拡大が困難ななか、図表(2)が示すように、診療単価の増大に向け各診療所では自費診療の拡大に注力し、厳しい経営環境に対処してきていることがうかがえます。特に都市部の診療所や、黒字を計上している法人診療所などでの自費診療割合の増加が顕著であり、収益の低落傾向へ一定の歯止め効果が見られます。今後は、この取り組みの如何により業績の二極分化もさらに進むものと思われます。

img_b0426_02.jpg  「材料・委託費」は増加傾向にあり、その結果、「限界利益」については低下が続いています。「給与費」は総額では抑制されていますが、平成18年以降は、それまでの平均従事員5.6人から5.2人に減少した数字です。人員合理化の努力の結果として、「1人当たり医業収益高」は改善されましたが、限界利益の低下までは補いきれず、「労働分配率」は高止まりしている状況にあります。

  「損益分岐点医業収益高」は、「経費」の抑制努力もあり、何とか上昇を抑えていますが、「経常利益」の低落傾向に歯止めを掛けるのはなかなか難しいようです。

  図表(3)5年間平均値の損益計算書を見ると、年間医業収益は4,532万円、1ユニット当たりの収益は1,373万円となっています。貸借対照表から固定資産は元入金と固定負債でまかなわれており、財務構造はとりあえず健全と言えます。しかし、キャッシュベースで考えると、院長所得(経常利益)は1,255万円で、それに対する固定負債額の2,376万円の返済負担を考慮するとやや厳しい数字とも言えます。

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3.これからの経営対応策

  1999年の「健康日本21」構想の定期的歯科健診受診率は、5年目で既に40〜50歳代の35%を達成し、「8020(80歳で自歯20本以上)運動」は、目標20%に対し、すでに80歳高齢者で25%の達成率となり、高齢者の受療率の増加が望めます。ここから見えてくる歯科の経営課題は、(1)検診・予防と初期治療、(2)高齢者医療分野における歯科役割の積極的な対応、(3)医業収益確保のための自費診療での差異化・ブランディングの強化です。それぞれのポイントを以下に解説します。

(1)検診・予防と初期治療
  虫歯、歯周病の治療から生活習慣病対策を視野に入れた口腔ケア、健康提案型ヘルスプロモーションの展開と検診充実による受診(来院)機会の増加、早期治療の実現、予防の専門家として歯科衛生士のカウンセリング能力の強化とユニットの有効回転の確保、歯科領域の革新技術の習得と提供など、医師と職員が一体となった医療の提供が求められます。

(2)高齢者医療分野における対応
  残存歯の増加により従来は総入れ歯等で受診機会の少なかった高齢者層が、歯周病治療や残存歯保存治療のための受療率の拡大要因に、またインプラントに対応しきれない層への品質のよい義歯需要等への掘り起こしなども考えられます。特に在宅や介護施設の高齢者に対するQOLの確保やリハビリ、経口栄養の確保による症状改善などの観点からの口腔機能維持の役割が(診療報酬の面からも)重視されてきています。そのためには、地域医療連携や介護保険への積極的な取り組みが必要となります。

(3)自費診療の差異化・自院のブランディングの実現
  歯科経営の安定にとって、自費診療の拡大は不可避となっています。しかし、そのためには、高い専門性と十分な説明による患者満足度の実現が前提です。差異化・高収益化の源泉は、常に対価を超える価値のある品質の提供で、自院のブランド力を確立するところにあり、それが近い将来予想される価格(値引)競争からの離脱を可能にすると考えます。

(「TKC医業経営情報」2009年7月号より)

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