経営・労務・法務

診療科別の経営動向とその対策(12) [病院編]経営環境の悪化が経常利益の減少に大きく影響

経営環境の悪化が経常利益の減少に大きく影響 〜地域での役割の明確化が生き残りのカギ〜

医業経営コンサルタント 税理士 石川 誠

1.病院を取り巻く経営環境

  全国の医療施設数を見ると、クリニック数は年々増加傾向にありますが、病院数(平成21年1月末現在で8,742施設)は減少傾向にあります。
  厚生労働省の病院経営実態調査によれば、回答のあった1,167病院のうち27.6%(322病院)が黒字で、72.4%(845病院)は赤字となっています。これをさらに開設者別に赤字の割合を見ると、自治体病院の92.6%、その他公的病院の56%、民間病院の47.6%が赤字となっています。病院の施設数が年々減少しているのは、病院の7割以上が赤字経営を強いられているという厳しい状況を反映しているものと思われます。

2.M−BASTデータの概要

  『TKC医業経営指標(M−BAST)』の調査対象は、全国の国公立病院を除く6,298の民間病院の11.5%にあたる722病院となっています。このデータは、TKC会員が関与する財務データに限られているため、経営統計としての信頼性は大きいものといえます。

  M−BASTに掲載されている医療機関数(法人)は、平成16年が464病院(平均148.2床)、平成17年が495病院(平均159.4床)、平成18年が566病院(平均152.8床)、平成19年が656病院(平均152.2床)、平成20年が685病院(平均147.4床)となっています。また、平成20年のデータの調査対象機関の内訳を見ると、総合病院が97件、内科系病院が189件、外科系病院が89件、精神科病院が116件、産婦人科病院が14件となっています。

M−BASTに掲載されている赤字病院の占める割合は約20%と非常に低く、全国の赤字病院の占める割合よりも健全性が高い結果となっています。

3.主な指標の5年間の推移と分析

  M−BASTの要約変動損益計算書の平成16年の数値を基準値(100%)として、その主要項目の5年間の推移を見ると図表のとおりです。
  医業収益は平成17年度にいったん落ち込んだものの、18年度からは上昇に転じ平成20年は107%となりました。平成16年の診療報酬改定では、DPC、小児医療・精神医療等が重点的に評価され、フリーアクセスを原則に本体部分が±0改定、薬価等が△1.0%という改定が行われた年でした。

  平成18年改定は本体部分が△1.36%、薬価等が△1.8
%と合計で3.16%のマイナスという厳しい改定がありましたが、医業収益の落ち込みという形での変化には結びついていません。経営努力により別の形で収益を伸ばしているということが見て取れます。

  次に材料・委託費を見ると、特に平成17年から平成18年の伸び率が7.2%と非常に高い伸び率を示しており、全体としても平成16年の基準値100から4年後には113.2%とその伸び率は医業収益の伸び率を上回っています。業務量を増加させることで材料・委託費が伸び、収益も何とか増加させていますが、限界利益は4年間で5.4%の伸びに止まっており医療費抑制の影響がうかがえます。

  給与費を見ると、その内訳のなかに役員報酬があります。役員報酬のみを取り出して見ると、平成16年を100として、平成17年が96.3%、平成18年が99.6%、平成19年が97%、平成20年が106.7%となっています。厳しい経営環境のなか、役員報酬も抑制傾向にあることがわかりますが、平成20年に急上昇しているのが特徴的といえます。

  給与費全体では、4年間で10.6%の伸びを示しています。平成17年にいったん97.9%まで減少している原因は、役員報酬が抑制されていることが大きく影響しているためと考えられます。

  経費については、平成20年で99.9%となっていることから、基準年の平成16年からあまり変化がみられないことがわかります。
  経常利益は最も変化が激しく、特に平成19年、平成20年は、基準年に比べて75%を下回る結果となっています。これは、病院の経営状況の厳しさを顕著に表している結果といえます。専門家による労働集約的な業務が中心となっているため、労働分配率が高いことはある程度想定されることですが、平成16年が68.4%だったのに対し、平成20年には71.8%と3.4%上昇しているのは経営上大きな課題といえます。

  医業収益に占める材料・委託費(変動費)は21%と低く抑えられているといえますが、給与費の56%は厚労省の統計と同等に迫っており、これ以上の給与費の上昇をいかに抑えるかがポイントといえます。
  資産の保有状況は、資本と固定負債で固定資産を賄っているので、資金的にはそれほど問題はないと思われます。

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4.これからの経営対応策

  病院の経営は地域によって、また取り扱う分野によって大きく異なるため、一概に数字だけを見て対応策を検討することはできません。
  ただ、2030年には後期高齢者が現在の2倍の2,260万人に増加すると見込まれており、それにともない医療と介護をどのようなバランスで業務に取り込んでゆくのか、地域の医療計画のなかで当該病院がどんな役割を担っていくべきかということをそれぞれの病院が真剣に考える必要があります。

  医療の世界にも一般企業の経営手法を用いることへの抵抗が薄くなっており、病院の経営管理手法としてBSC(バランススコアカード)などを取り入れる病院が多くなっています。何よりも院長が経営のセンスを磨く必要がありますが、そうでなければ優秀な事務長を起用し、役割分担をはっきりさせることも大切です。また、近年では病院の勤務医や看護師の厳しい労働環境が社会的にも問題となっており、人材の確保も病院にとっては死活問題となっています。今後とも労働環境の改善努力が求められます。

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(「TKC医業経営情報」2009年8月号より)

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