経営・労務・法務

[特別座談会] 「自計化」でタイムリーな業績把握と問題点の早期改善をはかる

昨今の経済環境の変化にともない、黒字病医院と赤字病医院の二極化が一層、顕著となっている。病医院が健全経営を実現するためには、自院の業績をタイムリーに把握し、問題点に素早く対応することが求められている。「 TKC 医業会計データベース( MX2 )」の有効な活用法について、医業・会計システム研究会会員に語り合っていただいた。

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丸山  定夫(司会)
   医会研システム開発委員会委員長
   MCS 税理士法人
   代表社員 医業経営コンサルタント     

板谷  一郎
板谷一郎税理士事務所
所長 医業経営コンサルタント


石川  博行
尾澤・石川会計事務所
所長 医業経営コンサルタント     

三浦 修
税理士法人新日本筒木
副理事長 医業経営コンサルタント

座談会出席者(敬称略・順不同)

病医院経営の二極化傾向が顕著になってきた

丸山(以下──)医療制度改革や診療報酬のマイナス改定など、病医院を取り巻く環境は、この数年で大きく変わりました。医業経営の現状は非常に厳しくなっていると言われていますが、皆さんは、実際の病医院の経営状況をどのように見ておられますか。

板谷 200床未満の中小病院については、非常に厳しい状況にあります。そのなかで、“勝ち組”の病院に共通しているのは、経営理念や経営目標、それらを実現するための行動計画などをしっかり策定し、運営していることです。
  一般企業にとっては、当たり前のことですが、その当たり前のことが病院では、これまでなされてこなかった。しかし、大変革の時代に突入した今、それでは経営を維持できなくなってきたわけです。
  一方、無床クリニックを見ると、それほど経営が厳しいという印象はありません。開業間もない院長先生はやる気も高く、業績はほとんどが右肩上がりで推移しています。しかし、開業から十数年が経過したベテランの院長先生のなかには、「患者数が減った」「収益が落ちた」と言いながらも、自分では何のアクションも起こされない方がおられます。

石川 昨今の医療費の増加や不景気による国民所得の減少などから、全体が“受診抑制”という流れにあります。そうしたなか、クリニックの収益は、減少すると見込んでいましたが、想像していたほどではないように感じています。
  ただ、影響がないわけではありません。これまで赤字だったクリニックは、さらにその厳しさが増しています。
  歯科クリニックも同様です。患者さんの負担が大きい自由診療でも、ニーズに合致した質の高いサービスを提供しているところは、その割合を大きく伸ばしています。その一方、自費の割合が激減し、経営自体が成り立たなくなっているところも増えています。

三浦 単に質の高い医療サービスを提供するだけでは、経営が維持できなくなっています。そうしたなか、質の高い医療サービスを提供し、右肩上がりで成績を伸ばしているクリニックには、質以外に大きく3つの特徴があると思います。
  1つは「立地条件がいいこと」。2つ目は「院長先生の年齢が若いこと」。そして、3つ目は「院長先生が自院の経営成績に興味を持っていること」です。
  そうした院長先生は、たとえば、毎月の患者数などをしっかり把握している。先月より減っていることがわかればすぐに対応策などを考えるわけです。

──病医院経営の二極化が顕著に現れはじめているわけですね。そのなかで、業績が伸びている病医院に共通することとして、院長先生の“経営”に対する意識の高さがあげられます。

三浦 ただ、院長先生にやる気があっても、現在の環境のなかでは、なかなか伸ばすことが難しいということもあります。
  たとえば、一般的なクリニックの場合、医師1人とスタッフ2〜3人という体制がほとんどです。業績を伸ばそうとする院長先生は、ここからスタッフを増員しようと考えるのですが、募集をかけても人材が集まらない。スタッフが増えなければ、診ることができる1日の患者数のキャパも増えないわけですから、当然、収益は伸ばしきれないということです。

石川 確かに、業績を伸ばしているクリニックの特徴として、スタッフを安定して雇用し、また定着しているということがいえます。頻繁にスタッフが入れ替わるところは伸び悩んでいます。
  また、募集をかけて集まったとしても、優秀な人材が来ないという問題もあります。

板谷 スタッフの問題というのは、経営に大きく影響します。患者対応の悪いスタッフが1人でもいるだけで、患者数は目に見えて減ってしまう。特に受付スタッフです。受付スタッフの対応のよし悪しで、その病医院の評判が大きく左右されることもあります。

現況をタイムリーに把握し早期の原因究明が重要

──そうした環境のなか、順調に経営していくためには、院長先生が自院の経営状況をしっかり把握し、問題点を見つけたら、すぐに改善策を打ち出すということが大切になりますね。TKC会員事務所では、院長先生の適切な経営管理をサポートするツールとして、自計化システム『TKC医業会計データベース(MX2)』を提供していますが、MX2のメリットをどのようにお考えですか。

三浦 日々のデータを院長先生が自ら入力し、医業収益や外来患者延数などの自院の業績をタイムリーに把握できることが、MX2の大きなメリットだと考えます。ポイントは“タイムリー”です。
  ある院長先生は、自分でデータを入力するなかで、医業収益が落ちていることに気がつきました。患者数が減っているわけでもない。そこで、本格的に調べたところ、レセプトの請求漏れが起きていたことがわかったのです。そのクリニックは電子カルテに移行したばかりだったのですが、入力が面倒でスタッフが正確に入れていなかったのです。その後、院長先生は請求漏れがないかの確認作業を強化することにしました。
  このように、自院の経営状況をタイムリーに把握することで、問題が深刻化する前に素早く対応できるわけです。

石川 問題点を発見した場合、ドリルダウン機能で、その原因をすぐに究明できることがMX2の大きな強みです。
  たとえば、外来患者延数が減少していれば、その増減要因となる「外来患者実数」が減っているのか、「平均通院回数」が下がっているのかをしっかり確認できる。原因がわかれば、適切な対応策を講じることができます。
  また、毎月の主要項目の推移をグラフで一目で確認できることもメリットです。“推移”がわかるということは、その“動向”をつかめるということです。
  たとえば、初診患者数が減少傾向にあれば、近い将来の外来患者延数に大きく影響が出てくることが予測できるわけです。影響が出る前に改善策を打ち出すことができるのです。

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(板谷 一郎税理士)

板谷 院長先生には、「外来患者1人1日当り収益」「外来患者実数」「平均通院回数」の3つのデータを必ず確認してもらうようにしています。そして、前年同月と比較し、収益が「上がった」「下がった」だけでなく、何が原因なのかをしっかり考えていただきます。
  初来院患者数が増加するクリニックがあったのですが、ある日、院長先生は、初来院患者数の増加に対して収益の伸びが悪いことに気がつきました。検証したところ、平均通院回数が減少していたのです。初診患者数が増えていたことで、1人当たりの診療に時間がとられ、待ち時間が長くなっていた。患者さんは「あのクリニックは長く待たされるから違うところに行こう」となっていたのです。

確かに初来院患者数は大事な要素ですが、長い待ち時間に対する不満をどう解消するかが問題になっていたわけです。院長先生はすぐに、その改善に取り組み、収益は回復しました。
  このようにMX2は、細かいところまで経営分析を行うことができるツールだと考えています。
 

三浦 改善事例としては、先日、院内処方のクリニックの医薬品費が非常に増えてきたということがありました。そこで、何が原因なのかを院長先生に考えていただいたところ、安価だったために、とりあえず大量に購入したというのです。結局、在庫として使わずにたまってしまっていた。結局、普通に買ったほうが安かったということです。それからは、医薬品の仕入れは毎月、予算と比較していただき、在庫も毎月、チェックしてもらうようにしました。

──MX2が、病医院の収益改善に役立っているということですね。

三浦 診療科(部門)ごとの業績を簡単に把握・比較できることもメリットです。経営資源の選択と集中に向けた意思決定に役立ちます。
  加えて、『TKC医業経営指標(M−BAST)』で、自院の収益性や生産性、安全性、成長性などを他の病医院と比較できることも強みです。
  自院の前年同月と比べるだけでは、本当に適切な経営を行っているのかどうかはわかりません。同科、同規模の他院と比べることで、健全経営ができているのかどうかがわかるのです。
  M−BASTは、TKCならではのデータです。これをうまく活用することで、さらなる発展につながると思います。

経営計画の策定が経営に興味を持つきっかけに

──先ほど、経営に対して関心がないクリニックは、業績が伸び悩んでいるとのお話もありました。MX2は、そういったクリニックの院長先生に、経営を改めて考えてもらうためのきっかけにもなり得るシステムだと思いますが、いかがでしょうか。

石川
 MX2を導入しているのに、財務に関心が持てなければ、毎月のデータを“見るだけ”で終わってしまいます。その後のアクションがないわけです。
  MX2は、こうした経営に関心がなかった院長先生に、興味をもってもらうための有効なツールになり得ると思います。
  そこは、会計事務所がどのようにアプローチしていくかが重要になるのではないでしょうか。

img_b0428_03.jpg三浦 ベテランの院長先生は、借入金もほとんど返済してしまって、経営的にはこのままいければよいと考えている場合が多いわけです。そこで、「患者数が減っています」「経費が増えています」といっても意味がありません。
  ただ、そういったクリニックの特徴として、減価償却費が明らかに少ない。すると、当然、納める税額は増えてくるわけです。経営に興味がない院長先生も、税金を多く納めることに不満を持つ方は多いのです。
  そこで、「患者さんに喜んでもらえるような新たな設備投資をしましょう。節税にもなります」と提案する。設備投資をすれば、借入をするわけですから、その分、経営管理も必要になる。そうしたところからのアプローチも1つの方法だと思います。

──最新の医療機器を導入する。あるいは本格的な患者満足度調査を実施し、現状の課題を把握する。スタッフを増員する。経営的に考えても、このように、定期的に自院を変えていくような取り組みがこれからは必要ですね。

板谷
 確かに患者さんは新しい施設のところに流れていく傾向があります。設備投資ができるかどうか、増員が可能かどうかはMX2で収益とのバランスをしっかり確認できます。設備投資をするとなれば、大きな借入をするわけですから、適切な経営管理が必要になります。院長先生の意識も経営もよい方向に進むと思います。

──院長先生に自院の経営に関心を持ってもらうという意味では、次期経営計画を策定する『継続MASシステム(継続MAS)』も有効なツールだと思います。

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石川 博行税理士)

石川 先ほど三浦先生が言われたように、院長先生は、経営に興味がなくても、どれぐらい税金を納めないといけないのかということには、高い関心を持っています。
  継続MASでは、納税予測のシミュレーションができますので、そういう意味で院長先生の興味をひくことができます。「このままでは、これぐらい税金を納めることになります」となれば、「どうにか節減できないか」となる。そこで、「今からこのような対策をとってください」となれば、院長先生も進んで経営面を意識するようになります。

 板谷 医療法人は、必ず予算をつくらなければならない。これは、定款にも記載されていることです。経営計画を策定する継続MASがあることは、院長先生にとっても、会計事務所にとっても非常に大きいことだと思います。
  そのなかで、経営計画を会計事務所が単独で策定するのでは意味がありません。「経営者への5つの質問」で、院長先生に「来年度の収益の目標はどうするのか」などをお聞きしながら一緒に策定することが大切です。そこから、成り行き任せの経営から、目標と計画に基づいた経営に転換していただくわけです。

三浦 経営に興味を持ってもらうという意味で、その効果は十分にあります。
  たとえば、院長先生と経営計画をつくった時の話ですが、「クリニックに借入金があることをスタッフに知られたくないから、早期に返済できる計画を立ててほしい」となったのです。要望に応える計画を策定したところ、「これでは社員旅行に連れていけない。社員旅行に行けるようにするためにはどうすればいいのか」と、少しずつ経営に興味を持ってきたのです。
  そういう意味では、継続MASは院長先生の要望を実現するためという切り口で関わることができます。自院の経営に関心を持つ、いいきっかけになるシステムだと思います。

──経営計画は、院長先生のライフプランまでを考えた上で、策定していくことが重要ですね。

石川 50代までは教育費も住宅ローンもありますので、そういった生活費までを含めて、必要利益はどれぐらいかを院長先生に伺えば、興味を示します。
  「来年、息子が大学に入学する」となれば入学金がかかります。すると、「来年の生活費は今年よりも300万円は上がりますね。そのためには、収益をこれぐらい上げなければなりません」とアドバイスができるわけです。
  院長先生とのコミュニケーションを密にして、個人の生活のところまで、いかに踏み込んでいけるかが重要だと思います。

「自計化」することで院長は問題点の改善を検討できる

──院長先生自らで日々のデータをMX2に入力し、しっかり経営管理をしていくことが、これからの経営改善の大きなカギとなります。しかし、このような「自計化」が進んでいないという問題もあるようです。

板谷
 一般企業と比べるとクリニックの入力はシンプルです。手形もありませんし、仕入先もほとんど同じ。院外処方なら薬もほとんどありません。
  そのなかで、会計事務所としては、簡単に入力できるように仕訳辞書をつくってあげるわけです。院長先生にとっては、専門外のことですし、非常に難しく考えてしまうのですが、実際にやってみると、ほとんどの院長先生は簡単だとおっしゃいます。

石川 MX2の導入でよく問題になるのは「入力担当者を確保できるか」ということです。院長先生が忙しいなら、奥様にやってもらう。奥様ができないならスタッフにやってもらうという話になるわけです。
  スタッフが入力する場合、他のスタッフの給与データなどは見られないようにパスワード管理をするとなると、その部分は会計事務所が入力するということになってしまうわけです。

板谷 会計事務所としては、初めに「経理は誰が担当するのか」をしっかり確認することが重要です。そして、状況に合わせてパスワード管理も活用し、安心してシステムを利用していただけるように設定します。

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三浦 修税理士)

三浦 そういった形も“自計化”だとは思いますが、重要なのは、経営者である院長先生が、最初は自分で入力して、自院の業績をしっかり把握できる仕組みをつくることにあります。
  まず、院長先生が自院の何に興味を持っているのかを把握し、その興味のあるデータがMX2のどこを開けば確認できるのかということを、しっかり理解してもらうことが、院長先生の自計化につながると思います。
  「窓口収入」と「小口現金」を院長先生が自ら入力していただければ、後は巡回監査担当者が1時間もあれば十分フォローできます。そういう意味では、段階的に自計化を進めることも重要なのかもしれません。

 ──使用しない機能を初めに決めて、必要最低限の管理から始めてもらうこともポイントなのかもしれませんね。そういう意味で、MX2を有効活用していただくためには、院長先生だけでなく、会計事務所側のサポートも非常に重要になると思います。

三浦 監査担当者がどれだけMX2を理解しているかという問題があります。
  当事務所では、これまで私が所属する課でしか、病医院を担当していませんでしたが、昨年ぐらいからは、各課が担当することになりました。しかし、他の課はMX2について、理解が不十分であり、勉強をする機会もなかなかないわけです。すると、私に「戦略財務情報システム(FX2)と比べてどうなのか」「FX2ではこういうデータが出るけど、MX2ではどう見ればいいのか」などと聞いてきます。
  この段階では、クリニックの院長先生にMX2の有効活用をお願いしても、応えていただけません。また十分なサポートを行うこともできません。MX2のノウハウを事務所内で共有化することが大切です。

石川 会計事務所のサポートとしては、MX2の立ち上がりの時期の関わり方が重要になると考えています。短時間で準備をすることはもちろんのこと、会計事務所側と院長先生の役割をしっかり明確化し、それを書面で提示する。「ここまでは院長先生が行ってください」「ここからは我々会計事務所の業務です」とすみ分けを行う。そして、それが機能するまで、最初は何度でも通うわけです。気がついたら、院長先生が自分で入力していたという自然な流れに持っていければベストですね。
 

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丸山 定夫税理士) 

──病医院の自計化が進むことは、会計事務所にとっても大きなメリットがあると思いますが、それについてどのようにお考えですか。

石川
 自計化されるということは、巡回監査の時に担当者が代わりに入力するということがなくなるわけです。
  その分、月次の結果を前年同月やM−BASTなどと比較し、その対応策を院長先生と一緒に検討することができます。つまり、よりコンサルタント的なサービスを提供することができるわけです。これは、会計事務所の提供する業務の付加価値が高まることを意味しますし、クリニック側にとっても最も重要なことです。

板谷 たとえば、医業収益が減少したクリニックがあるとします。自計化がしっかりなされていれば、「初来院患者数が下がったからだ」という要因だけでなく、「どうして初来院患者数が下がったのか」という分析まで進むことができるわけです。
  そして、毎月、院長先生と一緒にそのようなお話をすることになりますので、自然と巡回監査担当者の業務レベルは高まっていくことになるのです。

三浦 巡回監査担当者のレベルが高まり、提供するサービスの付加価値が向上すると、院長先生の会計事務所に対する信頼も高まることになります。そうした積み重ねが、結果的には会計事務所の発展にもつながるわけです。
  自計化によって、財務データ・医事データを適切に管理することができ、しっかりと経営計画が立てられる。電子申告や書面添付にも対応している。院長先生とのコミュニケーションツールとしても役立ち、監査担当者の業務レベルも向上する。改めて自計化の重要性を感じます。

──今後、MX2を活用した改善事例の発表会などを開催していきたいですね。そうした発表会を通じて、より多くの院長先生たちに、MX2のメリットを知っていただければ、それがさらなる普及につながると考えています。本日は皆さま、貴重なお話をありがとうございました。
 

(平成21年6月30日/「TKC医業経営情報」2009年8月号より)

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