経営・労務・法務

21世紀型パラダイムへの転換が必要 -地域包括ケア構築に向けて-

団塊の世代が75歳以上となる2025年--。そこでの介護や医療、住居のあるべき方向性を検討した「地域包括ケア研究会」報告書が公表された。報告書では、地域包括ケアにおいては、個々のニーズに応じて、医療・介護等のさまざまなサービスが、おおむね30分以内に駆けつけられる地域づくりを提唱する。さまざまなサービスが生活の場に入り込む、個々の日常生活を主体とした構想だ。
  同研究会のメンバーとして参画した立教大学教授の高橋紘士氏に、2025年における地域包括ケアの考え方をうかがった。

img_b0430_01.jpg立教大学大学院
21世紀社会デザイン研究科
コミュニティ福祉学部 教授

高橋 紘士

聞き手 本誌編集委員 田島 隆雄
(医業経営コンサルタント)

高橋 紘士(たかはし ひろし)

1944年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒、法政大学社会学部教授などを経て、立教大学コミュニティ福祉学部教授、同大学院コミュニティ福祉学研究科教授。 現在、東京都社会福祉審議会副会長、(社)日本社会福祉士会理事、日本福祉介護情報学会代表理事、政策評価に関する有識者会議座長(厚生労働省)も務める。 主な著作に『地域包括支援センター実務必携』(編著オーム社)、『コミュニティ福祉学入門』(編著有斐閣)、『地域介護力データブック』(監修中央法規)、『介護保険のマネジメントシステム』(共著 医学書院)などがある。

2025年に備えるには早急な対応がいまから必要

──2025年のあるべき地域包括ケアを見据えた「地域包括ケア研究会」の報告書が出されました。まず2025年の姿とはどのような状況なのかということからお聞きします。

高橋
 05年の介護改革においては「2015年の高齢者介護」というレポートがだされましたが、2015年は団塊の世代が65歳に到達する年です。25年はその世代が75歳になる。つまり、高度経済成長の中でサラリーマンが大都市に集中したわけですが、その人たちがいよいよ本格的に介護サービスを使い出すという時期なのです。
  2000年に1,000万人前後だった75歳以上の高齢者は25年には約2,200万人へと、ほぼ2倍になります。絶対数が2倍になり、そしてこの人たちは大都市で高齢化する。具体的にいえば、東京や千葉、埼玉、愛知、大阪では60万〜100万人の高齢者が増えると推計されています。それがあと15年で、そうなるわけです。
  15年というと超長期のことのようですが、考えてみると介護保険がスタートできたのは、1990年の「高齢者保健福祉推進10カ年戦略(ゴールドプラン)」でサービス整備をしてきたからです。経済学でいう懐妊期間が、介護や医療等のサービスではものすごく長いのです。政策や制度の改変が効果を出すのは、10年から15年先に具体的なサービスとして現実化するのです。逆にいうと、2025年に備えるためには、いまからその準備を始めなければならないわけです。


img_b0430_02.jpg──15年先のことを予測しながら、早急な整備をいまから行わなければ間に合わないわけですね。 高橋 私どもの大学院でも教鞭をとっておられる著名なジャーナリストの立花隆さんが、「20世紀型システムが壊れ始めていて、21世紀型のシステムに変えなければいけない」と言っています。
  実は医療・介護の巨大病院や巨大施設というのは20世紀型システムなのです。大規模な施設を郊外につくって集中管理する。そういうやり方は通用しなくなっているのです。それを象徴した出来事が、低所得高齢者層に表れた「たまゆら問題」です。
  それと、これからの医療・介護のあり方においては負担の問題を避けて通れません。対象者が2倍になるということは、現在の給付費用を維持するとなれば給付水準を半分にすることになります。給付水準を維持するとすれば費用は2倍になります。また、社会保険の仕組みということは、給付はおのずから標準的給付です。つまり、ニーズをすべて介護保険で負えるものではありません。

 しかし国民の合意で社会で支えるべき根幹的な水準を維持するというのが介護保険ですから、逆にいうと、混合給付が認められている。根幹部分はシステム化された共助としての介護保険でやり、足らざる部分は自分で補う。もし自助が不可能な場合は公助で補う。そして、介護保険の負担を国民が負っている一方で、団塊の世代の高齢者はそれなりの資産を持っているわけですから、それをきちんと使ってもらわなければ困る。社会で活躍されてきた高齢者に適正な負担をしてもらって、いいサービスを利用していただく。社会の不均衡を是正しながら、国民全体に適切な介護や医療をどのようにつくるのか、長期ケア(longtermcare)が必要な時代にどう備えるか。これからその準備を相当急いでやらなければいけません。

「リーチアウト」が地域包括ケアのコアの思想

──2025年には医療の姿も変わっているわけですね。

高橋
 医療の世界で、いま何が起こり始めているかというと、病院へ来られない人がものすごく増えているのです。これまで2時間待たされようが病院に来られたのは付き添い等のインフォーマルケアがあったからできたことなのですが、その付き添いが見つからない。つまり、病院や診療所、施設に患者を集中させるのではなく、医療をデリバリーさせなければいけないのです。「reachout(リーチアウト)」という言葉がありますが、そういう仕組みをどのようにつくるのかが問われているのです。
  1つの病院に閉じこもって医療を完結させた時代は、もう終わりました。急性期医療はもっと高度化しなければいけないのですが、日本は医者の数に比べ病床数が多すぎる。パラメディカルも少ない。そういうことを含め、長期にわたる療養を前提とした病気になる以上は、生活の場に医療を入れる。そうすると当然のことながら、そこに介護が入る、生活支援が入る、そういう仕組みです。欧州では「careinplace(ケアインプレース)」ということで実践しています。

img_b0430_03.gifとりわけ認知症モデルの場合は、従来的な集団ケアというのはほとんど不適切です。個別的なケアと残存能力の維持回復が必要なのです。また、リロケーションショックがあるので、移動させるとダメージがものすごく大きい。生活の中で支援する仕組みに変える必要があります。ということは、施設機能や病院機能を地域に展開することをやらざるを得ないのです。
  そういう状況を考えれば、06年の医療改革でつくった「在宅療養支援診療所」は戦略的に大きな意義がありました。もう1つは、大規模型が通用しなくなるということですから、施設投資を必要としなくなります。療養病床は借金返済が終わったら解体し、地域に出て行くことを考えるべきです。病院経営も介護経営も含めた21世紀型ケアシステムに合わせたビジネスモデルを、これから早急に考えなければいけない。それを介護報酬や診療報酬が後押しする。
 

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(本誌編集委員 田島 隆雄

  一般企業においても高度経済成長時代の大規模集約型の工場は成り立たなくなってきている。新しい思想が必要になっています。医療・介護も同じことが起こっているのです。思想の転換と手法の転換とビジネスモデルの構築が求められているのです。その考え方は、地域に出ていって地域で生活している人たちにリーチアウトするような仕組みをどうつくるかということであり、それが「地域包括ケアシステム」のコアの思想です。

──住み慣れたところで生活しながら、何かあった時には30分以内に駆け付けられる、と報告書には書かれてありますね。

高橋
 それは必然的に事業体の部分最適モデルではないのです。要するに公的な仕組みと共助の仕組みと事業者のイニシアチブと住民参加によって、「自助、互助、共助、公助」をハイブリッドにして、地域包括ケアシステムを構築しなければならないわけです。
  そこにはグッドプラクティスといわれる、たとえば尾道市医師会の連携システムなどさまざまありますが、尾道の特別モデルということではなく、それを普遍化しなければなりませんし、大都市でやらなければいけないのです。それには新しいマネジメントモデルを考えなければなりません。ですからその経営という概念も、外部とのインタラクティブな経営モデルを考える時代なのです。

小規模な混合共生型施設が求められている

──報告書を読むと、医療・介護等の事業者に対してというより「まちづくり」という印象を強く受けました。

高橋
 まさに地域づくりです。たとえば、施設というのは住居機能とサービス機能があるのですが、住居機能はもう住宅に任せる。これまで住宅行政のほうにそういう思想がなかったのですが、ご承知のように高齢者居住安定確保法は国交省と厚労省の共管になりましたでしょう、それが非常に象徴的です。
  いろいろな評判もありますが高齢者専用賃貸住宅というのも面白い。普通、全戸高齢者用の住宅だと思っているのですが、1戸1戸の指定でいいのです。だから若い人を入れていい。たとえば10戸は若夫婦向け、5戸は独身若者向け、10戸が高齢者向けでも、その10戸分だけを高齢者優良賃貸指定登録すればいいわけです。というのは、いろいろな人を混ぜなければ地域社会にならない。そういう状況であれば、若い人の声かけもあるし、一人暮らしの高齢者を孫の世代がサポートしてくれる、そういうことを考えている。ところが20世紀的思想で、高齢者は高齢者、若者は若者というのは、大量生産・大量販売の工業文明の思想です。いま急速にシングル向けのマンションがだめになっているでしょう。それは20世紀型思想にとらわれているからです。マーケットの考え方を間違えているのです。

img_b0430_05.jpg     超高齢社会の中でも、若い人というのは相変わらずいるわけで、いなくなるわけではありません。それらいろいろな価値観を持った人が多様に共存する中でケアをどうするかということを考えるのであり、それをやるためには比較的小規模の共生型がいい。従来型のメジャーでいうと、ものすごく効率が悪いように思えますが、従来型こそ効率が悪いのです。

──高齢者問題においては、住居の問題は重要な要素であるわけですが……。

高橋
 団塊の世代がどういう老後生活を望むかによって住宅のあり方も変わってくるのですが、新規に建てる時代は終わったのではないでしょうか。コンバージョンだと思います。従来型のストックの活用をどうするか。ところが、日本の社会はコンバージョン型にできていないのです。日本の建築業は安いものを建て替えるというやり方でずっときました。私は「縮小と調整のソーシャルテクノロジー」と呼んでいますが、拡大と建設の技術はたくさんあるが、高齢社会型に縮小して再配置する技術は持っていないのです。そういうことを含めて、社会のあり方そのものを問うているのではないかと思います。

システム構築には地域の力量が試される

──そこでのサービスということでは、いまでも医療と介護の間には垣根があるわけですが。

高橋
 そういうことを全部外付けにしようと考えているのです。「住宅」ということはそういうことです。老健施設へ行くと医療行為はここまで、仕方がないから病院に入院する、そういうやり方は人を動かすわけです。90歳の人をどこかに動かすというのは、大変なことですよ。
  そういうことを含めて、モジュールにして組み立て直す。そうすれば重複が防げるし、効率的に行える。また、自己負担がもっと必要になったとしても、納得して負担してもらえるようになるはずなのです。要するに、制度が何から何まで全部完結させようとしすぎる。そういう構造自体がおかしいのです。

──そこではサービス提供をコントロールする役割が非常に大事になると思いますが。

高橋
 それは、それぞれの地域の力量です。専門職とさまざまな機関と地方自治体の連携システムをつくらせる。地域包括ケア構想というのは、そういうシステムなのです。マネジメントシステムをつくり直さないとどうしようもないのですが、地域のアイデンティティというのは、そういうところで試される。だから地域づくりなのです。

──地域づくりとなると、時間のかかる難しい話となりますね。

高橋
 実は地域をずっと支えてきた人たちがいるわけです。その人たちがそういうことに参加するようになれば、そこでビジネスができる。たとえば、家作を持って余生というのが自営業者の生活設計モデルだったのが、アパートに若い人が入らなくなり高齢者向けにすると、需要が発生する。地域で買い物をする人も増える。医療費や介護の費用などすべて含め、地域包括ケアを行うようになると地域経済が潤うのです。それからホームヘルパーや、雇用をつくり出すのです。
  3割、4割が高齢者という状況では、社会制度もまちづくりも変わります。これまで福祉などは別の世界だと考えているわけです。だから社会保障は重荷だと考える。つまり、豊かさを配分するから重荷と考える。ところが2000年の介護保険の総費用は3.6兆円で、2008年は7.4兆円と2倍になったのです。2000年から2010年は縮みの時代でしたが、唯一伸びたのは介護産業ぐらいです。そのことによって実は、地域衰退をある程度抑えたのです。介護サービスや医療サービスの経済効果は、すでに社会保障国民会議やいろいろなところで実証をされていますが、公共事業よりも波及効果が高いのです。公共事業は原材料費があるために、地元には半分ぐらいしか落ちないという試算がありますが、介護サービスは人件費の塊ですから地域に全部お金が落ちるのです。地域の中に落とすと地域が回る。すると、そこそこみんなで生活が成り立つ、低経済成長とはそういう社会です。

──地域包括ケアの体制をつくれなければ、将来の安心できる生活はないということですね。

高橋
 地域包括ケア研究会は今年も継続して検討を行います。政権がどうなるかわかりませんが、消費税増税をふくめ国民負担を増やさざるを得ないのは、政治的配慮を超えた現実だと思います。そこで消費税が社会保障費に回るか、財政再建に充当されるかわかりませんが、社会保障国民会議のシミュレーションは消費税増税分を社会保障費に使うことでつくったものです。今回の補正予算の大盤振る舞いで計画は相当狂ったと思います。
  私は社会保険主義者で、社会保険の制度は崩すべきではないと思います。税金はもっと使うべきところがたくさんあります。むしろ負担能力のある高齢者が増えるわけですから、その人たちからはきちんと取る。
  社会保険というのはすごく強固な仕組みです。厚生年金もいろんなことを言っても戦前から引き継げたわけです。健康保険もそうです。もちろんインフレでほとんど戦時中は意味がなかったといえばそれまでですが、制度の骨格は連綿と引き継いでいる。この強固な仕組みは、日本の社会に合っていると思うのです。
  いずれにせよ、政権がどうなろうとも介護のニーズはますます増大するのです。団塊の世代は着実に年をとるわけですから、地域包括ケアの仕組みを早急に構築しなければなりません。

○地域包括ケアシステムの定義

・地域包括ケアシステムは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義してはどうか。
・その際、地域包括ケア圏域については、「おおむね30分以内に駆けつけられる圏域」を理想的な圏域として定義し、具体的には、中学校区を基本とすることとしてはどうか。
(参考)社会保障国民会議報告における記述

(略)医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で用意されていることが必要であり、同時に、サービスがバラバラに提供されるのではなく、包括的・継続的に提供できるような地域での体制(地域包括ケア)づくりが必要である。《社会保障国民会議第二分科会(サービス保障(医療・介護・福祉))中間とりまとめ》
 

(平成21年7月9日/「TKC医業経営情報」2009年9月号)

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