2026年7月号Vol.143
【特集1】システム標準化を終えて──移行完了団体による振り返りと次なる挑戦
〈全国1,741団体の基幹業務システムを標準仕様へ移行する〉というかつてない取り組みが、今春、一つの区切りを迎えた。今後、自治体DXは基盤整備から活用へとフェーズを移す。そこで移行を完了した3市に協力いただき、これまでの振り返りとこれからのDXを展望する。


*上から団体名50音順
2026年3月末、自治体システム標準化は移行期限を迎えた。
しかし、今年2月に公表された『特定移行支援システムの該当見込み概要』(デジタル庁)によれば、25年12月末時点でまだ半数以上の団体が「特定移行支援システム」を有する状況だ。この状況を踏まえ、国も5年間の移行支援延長を打ち出したが、システム開発事業者のリソース不足や運用コストの負担増などを背景に、自治体では依然として厳しい状況が続く。
TKCでは、全てのお客さまにおいて、標準仕様対応システムへの切り替え/ガバメントクラウドへの移行を期限内に完了できた。そこで、標準化対応を振り返るとともに、〈標準化後初となる当初課税業務はどう変わったのか〉、〈今後の行政サービス・業務改革をどう展望しているか〉──について確認する。
これに伴い、茨城県笠間市、栃木県鹿沼市、埼玉県ふじみ野市の税務担当の皆さんにインタビューを行った。多忙な当初課税業務期間の真っただ中、ご協力いただいた3市には改めて感謝申し上げる。
標準化対応を振り返る
標準仕様対応システムへの切り替え/ガバメントクラウド移行の作業を振り返り、共通して語られたのが「通常業務との並行作業で、一時的に業務量が増加した」ということである。
大変だった作業の一つが〈帳票等の確認〉だ。システム標準化に伴い、これまで自治体が独自に定めていた通知や様式など帳票のレイアウトも標準仕様で規定されるものに統一された。
3市の担当者たちは「納税者に直接影響を及ぼすため、慎重に確認した」と語る。また、市民からの問い合わせ増加も想定されたため、早い時期から広報誌やホームページで告知するとともに、変更点を説明するチラシを配布するなど納税者の不安・混乱の軽減に努めたという。その結果、いずれの団体でも「帳票の様式変更に関する問い合わせはほとんどない」そうだ。
標準化を機に、証明書の交付方式を見直したところもある。
鹿沼市では、住民税に関する4種類の証明書(課税証明書、所得証明書、非課税証明書、住民税決定証明書)を統合した。そのため、「全庁で影響度調査を実施したほか、栃木県の福祉センターなど関係機関にも説明するなど、調整作業が大変だった」と話す。
ふじみ野市では、個々に交付していた土地と家屋の証明書を1枚とし、手数料条例も改正した。交付方法や手数料の考え方を整理・検討するにあたり、「公平性を期するため県内の全市町村に照会をかけた」という。
こうした標準化に付随した作業は他にもあったと思われるが、いずれのケースからも「困難を成長(住民の利便性向上や業務効率化)に変える」との意思が感じられた。
もう一つ大変だったのが〈システムの検証〉だ。当社が提供したチェックリストに沿って、膨大な量の項目を一つずつ確認する集中を要する作業が長時間続いた。笠間市では、「確認不足は課税誤りにつながる。チェックリストに加えて、2人体制で確認して見落としのリスクを軽減した」そうだ。
また、システムに関しては「従来との差異の確認が大変だった」という意見も聞かれた。「差異分析結果をじっくり見て、現場の意見が少しでも反映されるよう努めた」(笠間市・鹿沼市)と、現場の高い意識がうかがえた。
一方、苦にならなかった点としては、〈プロジェクト管理ツール〉による作業の進捗管理が挙げられた。
今回、全てのお客さまに専用ツールを提供し、作業計画や進行状況を一元管理して双方の作業漏れや遅延防止に努めた。これについては、それぞれから「進捗状況や、次にやるべき作業が可視化されて助かった」、「優先順位を整理しながら対応できた」と評価の声をいただいた。この取り組みは、〈関係者間の認識のズレ防止〉や〈課題の早期発見・軌道修正ができる〉という点でも有用であろう。
新しい業務環境へスムーズに移行するための工夫としては、〈システム検証環境のフル活用〉が挙げられた。
システム検証とは、ガバメントクラウド上の検証環境を利用して、事前テストやデータ移行の確認などを行うものだ。本番運用に向けたデータ接続や他社製システムとの連携等を検証するほか、画面表示や操作方法の変更点などの確認を行った。
ここで、こだわったのは〈実務の現場とは完全に切り離す〉ことだった。検証用パソコンを設置するために会議室などを長期間占有することにはなったが、その分、業務システムを誤操作するリスクがない状態で、新システムの操作性や業務フローをじっくり確認していただけたようだ。また、これを活用して「全ての職員が操作で戸惑わないよう手順書を作成した」(ふじみ野市)ほか、データ表示の不具合の発見・対応に役立てたケースもあった。
なお、検証環境はシステム稼働後も利用可能で、「今後は、異動してきた職員の研修や、データにエラーがないか事前確認でも活用したい」(鹿沼市)との意見も聞かれた。
当初課税業務はどう変わった?
26年度の当初課税業務は、標準化後のシステム運用における〝最大の山場〟といえる。3市によれば、当初課税に関わる業務の流れには大きな変更点は見られなかった。
なお、3市はともに納税通知書等の大量印刷を当社に委託している。標準化対応に伴い、帳票の出力要件や後加工要件の標準化・共通化を実施したが、〈発送業務〉への影響という点では意見が分かれた。業務が効率化されたというのは、ふじみ野市と鹿沼市だ。
「固定資産税の納税通知書が課税明細書の枚数ごとに納品されたことで、送付物の重さを計量する件数が激減した」(鹿沼市)、「DV被害等支援措置の対象者分は別納品とされたことで、注意喚起の効果もあり、3人体制でしっかり確認できた」(ふじみ野市)。
一方、笠間市では「郵便区内特別の差出郵便局が合併前の3市町の地域に分かれるため、枚数別に課税明細書が納品されるようになったことでこの仕分け作業に手間がかかった」と、ミス防止・作業負担軽減の両面から業務プロセスの見直しを進めると語っている。
当初課税業務では、確認作業や通知書等の差し替え・引き抜きに多くの人手がかかることが長年の課題となっている。職員をコア業務に集中させるためにも、今後はこうした発送業務でも外部委託の活用が一段と進むものとみられる。
なお、取材の中では標準仕様の課題についても言及された。以下に主な現場の意見を紹介する。
●固定資産税の納税通知書には送付先の宛名はあるが、納税義務者が記載されなくなったため、市民から問い合わせがあった
●納税通知書と課税明細書の文字が小さく、高齢者などには見づらい
●共有物件課税確定通知書の名称が納税通知書に変更となり、「納税通知書が届いた」「納付書が入っていない」などの問い合わせが多数あった。職員も名称だけでは判別がつかず、電話応対に手間取った
今後の展望
標準化対応は、そもそも「自治体戦略2040構想研究会」が指摘した〈従来の半分の職員でも機能するスマート自治体〉の〝基盤〟として整備されてきたものだ。そのため、今後の焦点は〝システムの切り替え〟から〝DX推進〟へと移り変わる。
業務の効率化の面では、3市ともに〈データの自動連携〉に着目する。
「固定資産税システムでは登記済通知書のデータ取り込みが必須要件となる。職員の負担軽減につなげたい」(鹿沼市)と歓迎するほか、「RPAを活用して、GISで計測した結果を固定資産税システムに自動入力することで、土地評価業務が年間70時間削減された」(ふじみ野市)という声も。
なお、業務変革では一般にデータ連携とともにデータ活用が注目されるが、この点、地方税法上の守秘義務が厳格に適用されることもあり行政保有データの活用には慎重な姿勢を見せる。
納税者の利便性向上では、「来庁や郵送の手間を軽減するため、オンライン申請の活用を検討中。家屋評価に必要な図面提出からスタートし、段階的に対象を拡大する」(ふじみ野市)など、デジタル化に期待する声が高い。
さらに、地方税のデジタル化はこれまでも国主導で進められてきたことから、「情報を収集しながら、国の動きに即して遺漏なく後手に回らないように対応していく」(笠間市)という意見も聞かれた。
スマート自治体へ〝待ったなし〟
取材では、当社の移行支援や標準仕様対応システムについては評価をいただいた一方で、当初課税業務ではシステム切り替えに伴う設定誤りなどが発生したことも事実である。これについては現在、関係するグループ各社が連携して追加検証にあたっている。
また、運用コストが従来よりも増えたのに加えて、当社データセンターからガバメントクラウド環境に変わったことによる速度遅延・接続障害といった予期せぬトラブルも発生している。
運用コストの縮減やシステムの安定運用・定着に向けては、インフラの増強を図った上で、①コスト最適化に向けて利用状況を把握する、②稼働時間やシステム構成の見直しと処理状況を把握する──ことに取り組む。並行して、公共SaaSの活用も検討中だ。
さらに、職員をコア業務に集中させるということでは、帳票印刷に加えて、課税準備や計算処理、納税通知書等の発送、発送後の問い合わせ対応など、当初課税業務を包括委託する形態(BPaaS*)の研究も進めている。
TKCではシステムの標準仕様への対応は完了したが、一部の機能については経過措置として段階的に適応していく。加えて、法制度改正などによる仕様変更への継続的な対応も必要だ。これについて、3市からは「システム開発では、これからも実務担当者の意見や提案を積極的に採り入れてほしい」との要望が寄せられた。
標準化が完了し、いよいよガバメントクラウドの活用と業務変革が本格化する中で、多くの期待もいただいた。
「標準化で業務仕様の差異が縮小されたことで、好事例に学びやすくなった。先進事例の提供を」(ふじみ野市)
「市とTKCの担当者間での連絡体制を強化したことが、標準仕様への移行で非常に役立った。今後も継続し業務改善につなげたい」(鹿沼市)
「情報提供をはじめ、これからも業務効率化と市民サービスの向上へ二人三脚で取り組んでほしい」(笠間市)
持続可能な行政サービスの提供と住民満足度の一層の向上のために、スマート自治体への転換は〝待ったなし〟の状態だ。
当社ではかねてより「スマート行政DX」を掲げ、住民との接点から、職員の業務に至る業務プロセス全体を、デジタル技術で変革することに努めてきた。いまこそ、その積み重ねを成果につなげていかなければならない。
* BPaaS(Business Process as a Service:外部事業者に、業務プロセス全体を丸ごと委託する手法のこと。ITツールと業務の専門知識・人材を組み合わせたサービスをクラウド経由で利用できる
当初賦課(課税)業務を取り巻く環境変化と今後の展望
株式会社TKC 自治体DX推進本部 武長浩史
TKCでは、標準化対応のゴールを2026年度の当初賦課(課税)業務の完遂と位置付けて、社内プロジェクトを発足し取り組みを進めてきました。
特集記事でも触れたとおり、標準仕様への対応に伴い、納税通知書などの様式変更や封入・封かんの処理方法にも変更が生じています。
そこで、当社では例年以上に長いテスト期間を設け、お客さまの協力の下に各種確認作業を実施しました。その結果、一部でシステム不具合などが発生したものの、全体としてはおおむね順調に進捗しています。
この確認作業は、ガバメントクラウド上に構築した検証環境を活用して行いました。お客さまに標準仕様対応システムを事前確認していただくため準備したものですが、今後は品質向上に向けたシステム検証の場とするなど活用範囲の拡大も検討しています。
法制度改正も目白押し
当初賦課(課税)業務では、今後もさまざまな法制度改正が予定されています。
特に、27年度は地方税以外の公金における「地方税統一QRコード(eL-QR)」対応後、初めての当初賦課となります。これに伴い、多くの自治体において国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料にかかるシステム変更や帳票の見直しが必要となります。
さらに、固定資産税、自動車税・軽自動車税では「納税通知書等の電子化」がスタートし、27年度からは法人分、28年度からは個人分で納税通知書等の電子的送付が予定されています。
対応にあたっては、「納税通知書電子送付申出用QRの印字」などで、システムと様式の変更が必要です。また、納税者が電子的通知を希望した翌年度からは納付書の送付が不要となるほか、電子的に送付される通知は「副本」として取り扱われるため、紙と電子の併用を前提とした運用への見直しも必要です。これらの対応も、標準化対応と同様に、システム・運用の両面から着実な準備が重要です。
こうした制度改正に加え、職員数の減少を背景に国は「共同BPO」の検討も進めています。
TKCでも、「BPaaS」の研究を開始しました。
当初賦課(課税)業務における確認・修正、納税通知書等の発送や問い合わせ対応など、業務プロセス全体を支援することで、職員の業務負担軽減と時間の創出を図り、さらなる行政サービスの向上に貢献したいと考えています。
掲載:『新風』2026年7月号