目次
革新性の高いビジネスモデルや創業間もない企業に対する融資審査では、事業内容の把握や財務データの客観的な検証に時間を要することが少なくありません。本稿では、税理士の月次支援のもと「TKCファストリンク」を活用し、面談からわずか3営業日での迅速な資金調達を実現したeモータースポーツ運営会社の事例を紹介します。税理士による伴走支援と事業計画の裏付けが、いかに融資審査の円滑化と金融機関側のタイムリーな支援態勢をもたらすかを示唆します。
日本政策金融公庫の視点
- 信頼性の高い財務データが新興企業向け融資審査の円滑化と迅速な決裁を可能に
顧問税理士のお墨付きを得た信頼性の高い決算書や試算表に加え、事業計画書やプレゼン資料が速やかに提出されることで、金融機関は前例の少ない新しいビジネスモデルであっても、迅速に事業の内容を理解するとともに面談時の確認事項をスムーズに整理できます。これにより、審査における財務検証の手間が劇的に削減され、通常数ヶ月を要する融資判断を「面談から3営業日」というスピード感で実行できるメリットをもたらします。 - 業績の継続的なモニタリングと課題把握が平時の資金繰りから有事の先回り支援を実現
TKC会員税理士の関与を受けている企業は、会計情報から自社の課題を適時に読み取り、打ち手の検討・実行を進めています。金融機関にとって、巡回監査を経た正確な財務資料が「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」等を通じて適時に届く体制があることで、企業の経営状態をリアルタイムに把握でき、平時の資金繰り支援はもちろん、業況変化や景況悪化といった有事の際にも先回りした伴走支援を迅速に行うことが可能となります。 - 中小企業・税理士・金融機関の堅固な連携が新興企業の成長と地域活性化を後押し
金融機関が日頃から税理士と密に連携し、融資制度や支援制度に関する相互理解を深めておくことで、新興企業に対する情報共有や企業支援に関する提案が極めて円滑に行われます。経営者の事業にかける思いや具体的な成長計画(人材採用や教育事業の展開など)を3者で共有・モニタリングすることで、金融機関は確信を持って新興企業の挑戦を資金面から支援でき、結果として地域活性化や新たな雇用創出に貢献する好循環を生み出します。
eモータースポーツチームを運営する遠州ハママツモータース
eモータースポーツチームを運営する遠州ハママツモータースは今年、「TKCファストリンク」で資金を調達した。融資決定に要した期間はわずか3営業日。なぜこれほどまでに迅速に融資が決まったのか。山岸真智社長、小畑裕之顧問税理士に、日本政策金融公庫浜松支店(国民生活事業)の十川昭仁融資第二課上席課長代理、榊原正範融資第二課長、関口正樹事業統轄を交え、その舞台裏を語ってもらった。
──会社概要を教えてください。

山岸 静岡県浜松市を拠点に、eモータースポーツチーム「遠州ハママツモータース」を運営しています。eモータースポーツとは言わばモータースポーツの電子版で、レーシングシミュレーターを利用して世界中のプレイヤーと対戦できるeスポーツ競技のことです。当チームはJAF(日本自動車連盟)公認のeモータースポーツリーグ「UNIZONE(ユニゾーン)」に所属しており、3人のドライバーが優勝を目指して他チームと競い合っています。また、地域住民向けにレーシングシミュレーターの体験会や、当チームのドライバーが講師を務めるドライビングレッスンなどのイベントを定期的に開催するなど、地域に根差した取り組みにも力を注いでいます。
──創業の経緯は?
山岸 当時UNIZONEの設立にかかわっていた知人から、「eモータースポーツのプロリーグに参戦してみないか」と誘われたのが創業のきっかけです。話を聞くなかで「自動車産業が集積する浜松にeモータースポーツのチームを設けることで、地域の活性化につながるのではないか」と可能性を感じ、創業を決意しました。私自身、前職で女子バレーボールチーム「ブレス浜松」の運営にかかわっており、地元企業や行政等と積極的にコミュニケーションを交わしながらスポンサー企業の開拓に取り組んできました。そうした実績を評価いただき、チーム設立とリーグ参戦のお誘いをいただいたのだと思います。
──小畑裕之税理士とは創業前からのお付き合いと聞きました。

山岸 ブレス浜松時代に、スポンサー獲得のために小畑先生の事務所を飛び込みで訪問したのが最初の出会いです。突然の訪問にもかかわらず、先生は私の話に真剣に耳を傾けていただきました。「ブレス浜松を応援したい」とスポンサーになってくださった小畑先生には今でも感謝していますし、このご縁がきっかけで遠州ハママツモータースの税務顧問を依頼しました。創業時の事業計画策定、記帳指導、毎月の業績報告、地元の銀行や信用金庫とのバンクミーティングなど、小畑会計さんには日ごろからお世話になっています。
小畑 2017年9月のことでした。「スポンサーになってくれませんか」と営業に来られたのです。当時はスポンサーの数が少なく、「制約が多いなかで選手たちは必死の思いで活動しています」との説明を受けました。私自身、浜松という町に愛着がありますし、当時女性起業家を対象に経営支援セミナーを開催していたことから、「小畑先生は頑張る女性の気持ちがわかる方とお見受けしました」と山岸社長に背中を押され、スポンサーになることを決めたのです。その後、山岸社長が独立されるにあたり、税務顧問という立場などで遠州ハママツモータースさんを支援することとなりました。ちなみにスポンサー契約も結んでいるので、チームの活動も事務所一丸となって応援しています。
面談から3営業日後に融資が決定
──TKC全国会と日本政策金融公庫(日本公庫)の融資スキームである「TKCファストリンク」で3000万円を調達されました。目的と経緯を教えてください。



山岸 事業拡大に向けた資金を確保するためです。というのも、今年9月23日~10月2日にアジア最大級のeスポーツ競技大会が愛知県で開催されます。また、静岡県内の企業や学校でeスポーツ部や同好会の設立が進むなど、eスポーツの普及、発展の機運が高まってきています。この流れを事業成長につなげるべく、新規の資金調達を検討していたところ、小畑先生から「TKCファストリンク」の紹介を受けました。
特に驚いたのは「申し込みから5営業日以内に審査の結果がわかる」という点です。eスポーツという新しいビジネスモデルである以上、審査には一定の時間がかかると思っていました。これまでの経験上、相談から融資実行まで3~4カ月程度を要する印象を持っていたので、申し込みから3営業日後に「融資が決定しました」との連絡があったときは、あまりの速さに衝撃を受けるとともに、無事審査が通って安心したことを覚えています。一方で、この資金を生かして地域の活性化につなげていかなければならないという責任も改めて感じました。
小畑 山岸社長に「TKCファストリンク」を紹介したのが6月22日で、その翌日に決算書、月次試算表、事業計画書のほか、スポンサー向けの事業紹介資料、新聞等の取材記事を「日本公庫ダイレクト」を通じて提出しました。その後、7月2日に社長と日本公庫の十川さんが面談され、「TKCファストリンク」を正式に申し込まれたと聞いています。融資決定の連絡があったのが週末をはさんで3営業日後の7月7日、実際に融資が実行されたのが7月22日ですので、紹介からわずか1カ月で資金調達を実現されたことになります。山岸社長がお話しされたように、融資決定までのスピードはとても速いと感じています。
──迅速に融資を決定できた要因は何でしょうか。
十川 小畑先生から審査に必要な資料を速やかに提出いただいたこと、山岸社長との面談を通じて事業計画の裏づけや、事業に懸ける思いを直接伺うことができた結果です。これまでに数多くの中小企業の融資にかかわってきましたが、eスポーツを手がける会社を審査したのは実は今回が初めてでした。小畑先生から連絡があった直後は、率直に「審査に時間を要するかもしれない」と感じましたが、小畑先生のチェックを経た決算書や社長の思いが詰まった事業計画書、プレゼン資料などを速やかに提出いただいたことで、ビジネスモデルへの理解を深めるとともに、面談時の確認事項などをスムーズに整理することができました。
榊原 事業計画や直近の業績、プレゼン資料などを拝見するなかで、将来性が高く、浜松を盛り上げたいという強い思いを持った会社だと感じました。今回、「TKCファストリンク」を機に遠州ハママツモータースさんとのご縁ができたように、小畑先生には融資先を巡回監査を経た信頼性の高い財務資料を迅速に提出いただくことが多いので、私たち金融機関としても企業の経営状態を適時に把握することはもちろん、融資審査の円滑化、業況が悪化した際の迅速な支援につながっています。定期的に紹介いただくなど、日ごろから密に連携しています。先生は日本公庫の融資制度や取り組みを深く理解しておられるので、中小企業を支援するにあたりいつも頼りにさせていただいています。
関口 創業後間もない企業の融資審査は時間がかかる傾向にあります。その点、TKC会員税理士の関与を受けている企業は、月次決算を通じて課題の把握や打ち手の検討、実行を進められています。
eスポーツで地域を元気に
──調達した資金の使い道は?
山岸 事業成長を加速させるため、人材を中心とした成長投資を進めていきます。具体的には運営体制の強化に加え、ラジコンを軸とした教育事業の展開や、中高生のeスポーツ部・同好会の活動支援など、新たな事業と取り組みに充てていく予定です。
十川 遠州ハママツモータースさんのような新しい事業者を支援するところに私たち日本公庫の使命があると、今回の事例を通じて改めて実感しました。今後も平時の資金繰りから有事の際の迅速な融資まで、小畑先生と密に連携しながら支援していきます。
──今後の目標をお聞かせください。
山岸 eモータースポーツを通して、地域の人々に元気と勇気を与えていきたいと考えています。私たちが目指しているのは、単に強いチームをつくることでも、eスポーツを普及させることだけでもありません。eモータースポーツを起点に、子どもたちが夢を持ち、誰もが活躍できるユニバーサルな地域社会をつくり、そこから新たな産業や雇用を生み出していく。それが私たちの目標です。ゆくゆくは浜松を“eモータースポーツの聖地”と呼ばれる地域へ育てていきたいですね。
(取材協力・小畑裕之税理士事務所/本誌・中井修平)
日本政策金融公庫から一言

国民生活事業本部 営業推進部連携推進グループ 宇野一輝 上席グループリーダー代理
TKCファストリンクは2025年9月にスタートしたTKC全国会と日本政策金融公庫(国民生活事業)の連携スキームです。
TKC会員関与先専用のスキームで、3000万円までであれば5営業日以内(創業融資の場合は7営業日以内)に融資判断を行います。
運転資金、設備資金の両方に対応していますが、通常の申込書類に加えて継続MASで作成した経営計画書の提出が必要となるほか、融資後はTKCモニタリング情報サービス(MIS)で継続して決算書をご提出いただきます。スキーム名の「ファスト」はスピード感、「リンク」はTKC全国会─日本公庫─事業者をつなぐ連携を表しています。
今回、山岸社長から迅速な融資決定が資金繰り不安の解消につながったとの話を聞き、当スキームの立ち上げに携わった立場としてたいへんうれしく思っています。
これまで多くの中小企業経営者と接するなかで、「審査結果が分かるまで、資金繰りへの不安から業務に集中できない」といった声を多く耳にしてきました。TKCファストリンクはそんな経営者の不安を軽減し、迅速な意思決定を後押しするためのスキームです。ぜひ活用をご検討いただければと思います。








































